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第十一話 中

続きです。

こちらは中です。お気をつけ下さいませ。


よろしくお願いします

 


 体が重いと言うあまちゃんの背を押したり手を引っ張ったりして有料席に戻ると明日香たちは戻っていた。それぞれデッキチェアに横になっていたり座っていたり、やっぱあの長いやつが一番面白かったなー、なんて身振り手振りを交えて楽しそうに話をしていた。


「おつ。みんな」


「「「おつ」」」


 デッキチェアの残りひとつはスポンサーのあまちゃんが使うのが当然だから、私はテーブルに置いておいたスポドリを取って敷いたシートの上にどさっと腰を下ろし、キャップを開けてごくごくと飲んで息を吐いた。体が少し怠く感じるのは長いこと水に浸かっていたせい。


「みんなどうだった?」


「「「最高」」」


「じゃあまた行くんだ」


「…あ、いや、もう満足した」

「…だ。だな」

「…三回出来たしね」


「そっか。三人ともへたれたんだ。けどわかる。わかるよ。スライダー、凄く混んでるもんね」


 腕を組んでうんうんと大袈裟に頷いてみせる。へたれだと言われて悔しそうな顔になる明日香と理香と亜衣。意地でもやっぱり行くって言うかと思ったけど混んでいるのがよっぽど嫌だったみたい。


「「「くっ。むかつくけど言い返せない」」」


「くくく。へたれ。くくく」


 興味が無いようでもちゃんと聞いているあまちゃんは静かに笑っていた。



 この休憩タイムを挟んだ後は、スライダーを早々に諦めた明日香たちと五人、流れるプールで流れたり、波のプールで揺られたり波を被ったり、波打ち際で寝転んでいたりして遊んでからのお昼時、再び有料席に戻った私たちはお昼ご飯を食べる。


 私のバッグにはサンドイッチが入った大きめのタッパーが二つ。それを一つずつ取り出しては蓋を開けてテーブルに置いた。そして同じように明日香はお母さんに用意してもらったおかずの入ったタッパー三つとお箸を、おやつ担当の理香と亜衣も袋を逆さにしてどさどさとテーブルにぶち撒けた。

 ちなみにあまちゃんはそれを見ているだけ。そういう約束だから問題無し。


「どれも美味しそう」


「そうでしょう? こっちは私でこっちは宇宙だよ」


 朝、早くからサンドイッチを作っていたら兄がキッチンに顔を出して、何やってんだ美月って訊いてくるから、今日プールに行くからサンドイッチ作ってるのって返したら、凄く複雑そうな顔しながら、俺も今から作るからついでに作ってやるって言ってくれたボリュームがあって美味しいそうなBLT。


「食べたい。食べていい?」


 私のタッパーを覗いたあまちゃんが珍しく興味を示している。取り敢えず、私がサンドした方をタッパーごと差し出した。


「はいどうぞ」


「ありがとう」


 右手で摘んで口元に左手を添えて一口齧った。いつも思うけどあまちゃんは食べ方がとても綺麗。


「美味しい」


「そう? よかった。よかったらこっちも食べてね」


 次に兄の方を差し出したけどあまちゃんは手に取らない。それはそう。だってあまちゃんは今ふた口目に取りかかったばかりだから。その横から私ももらうぞーと手を出して、私と兄の両方から一つずつ取って食べ始めた欲張りさんとは違うから。と言っても明日香の食べっぷりは見ていてとても気持ちがいい。たくさん食べてと言いたくなる。


「うめー。やっぱりお兄さん料理得意だな」


「まぁね。それは私が作ったサンドイッチだけどね」


「細かいことはいいんだよ」


 それぞれがサンドイッチをパクついたところで明日香の出したタッパーの中身に興味を示す理香。当然私たちもそう。


「明日香のやつは、唐揚げに卵焼きに、おっ焼き肉っ。お母さんのだろ? 美味いよなー」


 明日香はお母さんの料理を褒められてご満悦。口に入れていたサンドイッチを素早く飲み込んでからみんなに勧めた。口に入れたまま話さない。こういうところはちゃんとしていると思う。


「当たり前だろ。みんなじゃんじゃん食えー」


「「「おー」」」

「…ぉー」


 遅れた小さい声はあまちゃん。拳を握って小さく手も上げていた。本来騒がしいノリは好きじゃないしい嫌ならしないから、あまちゃんは単に乗り遅れてしまっただけで、今までこういうノリに無関心だったあまちゃんにしては頑張った方だと思う。

 たぶん、前に明日香に言われた友だちという言葉が、あまちゃんを変えようとしているのだろう。


「水野ー。一人だけ遅れてんぞー。ちゃんと揃えろー」

「声小さいぞー」


「うるさい」


 明日香と理香がペシペシと叩かれた。これもこれまで無かったこと。


「なんだよいてぇぞ」

「痛えなぁ」


 叩かれた所を摩りながら文句を言っていても明日香も理香もちょっと楽しそう。


「当然の報いよ。あと椎名。その顔気持ち悪い」


 この一連のやり取りを微笑ましく思っていたらあまちゃんに顔が気持ち悪いと言われてしまった。気持ちが顔に出ていたみたい。


「あまちゃん。せめて気持ち悪い顔って言ってよ」


「同じでしょ」

「だな」

「言えてる」

「だよね」


「え。いやいや…あ、本当だね」





「ちょっと足りない。何か買ってくるわ」


 用意していたご飯をみんなで食べ尽くしておやつを食べていたら、明日香がお腹を押さえてそんなことを言った。


「まだおやつあるぞ」


 仕方ねえなぁ、ほら明日香これを食えと、理香が目に見えて溶けてしまって悲惨な状態のチョコの棒を袋ごと差し出した。悲惨なチョコを自分で食べる気にならないらしく言葉とは裏腹に誰でもいいから食べて欲しそう。

 真夏のおやつにそのチョイスがなんとも理香らしい。食べたいから買った。そしたらこうなった。じゃあしゃあないな。私は要らないから誰か食べて。そんな感じ。


「それは駄目なやつだろ。それに今食べたいのは腹に溜まるやつ」


 そう言って小さな財布を持って立ち上がり、出口に向かって歩く明日香に私は声をかけた。


「あ。じゃあ私も行く。かき氷食べたい」


「じゃあ一緒に」


「うん、っとお金」


 席を立った明日香について行こうとして、お金を持っていかないとと、慌ててバッグの中を覗いてで小銭入れを探す。


「あった」


 それを掴んで立ち上がりながらチラリとあまちゃんを見る。あまちゃんは日光に当てられたかも少し休むと言って、食べ終わってすぐに体にパレオを掛けて顔に帽子を乗せてデッキチェアに横になった。今は胸が規則正しく上下に動いているから眠っているのかも。


「二人は? 何かいる?」


「いや大丈夫」

「私も」


「そう? じゃあまちゃんをよろしくね」


「おう」

「いってら」


 軽く手を上げた理香と亜衣に見送られ、有料席を出た所で私を待っている明日香の元まで早足で近づいて行く。すぐそこだけどけど気持ちは体に出てしまうもの。


 そう。私は少しの時間でも明日香と二人で居たいと思ったの。高二の夏の今日という日はもう来ない。いつまでも続いていくわけじゃない。私たちは変わっていく。今日も明日も明後日もその先も少しずつ。ゆっくりと。考え方や感じ方、好きなものや嫌いなもの、大事なものとそうじゃないもの、想うもの、想うものを諦めること、それすらも忘れてしまうこともそう。

 こういう機会はこれからも数多くあるかもだけど、今の私、今の明日香は今日という日と同じように居なくなると私は思うから。




「あちー」


「ね」


 売店に並んで十分経っているのは長い行列が出来ていたところに並んだから。


「まだかよー」


「ね」


 私は時間がかかることを全く気にしていないけど、私の気持ちを露ほどにも知らない明日香は凄くうるさい。明日香には気持ちが無いから早く買って帰りたいのは当たり前だけどイライラする。


「あちーよー」


「ね」


「まだかよー」


「明日香うるさい。私が並んでおくから、暑いならプールに入ってきて。ざぶんって」


「あ。その手があったか。やっぱ椎名は頭いいなー」


 じゃあちょっと行ってくる。これよろしくと押し付けるように私に財布を預けてとっととプールに向かって行く明日香の背に私は恨みがましい視線を遣った。けど、走らないで早歩きなのは偉いなとちょっと思った。



「あーあ」


 私と居るのに暑いだなんだとぐずぐずうるさいことにイラついて、嫌ならどっか行けばいいじゃんって思って追い払うようにプールに行って来いと言ってしまった。私と明日香は恋人でも何でもなく、明日香は私が恋をしていることすら知りもしないのに。

 そのうえ明日香が一顧だにせず私を置いて行ってしまったことで、私と明日香が仲がいい分だけ、お互いが見ているもの、抱く想いの違いを思い知らされて私は虚しくなった。


 明日香は前に、明日香にとって私は特別な友だち、そう言ってくれたことがあった。今のことは明日香からすれば友だちとしての甘えと信頼。特に椎名なら、と、そういうこと。


 けど、特にとか特別なと付いたところで友だちは友だち。私のような人種を除けば、一般的には同性の友だちはどこまで行っても友だちのままだから、私と明日香の間ではそれ以下になることはあってもそれ以上になることは絶対にない。


 世の中に絶対なんて無いんだよと、どこかの誰かがそんなことを言っていたみたいだけど世の中に絶対はある。それがこれ。ほらここにあるじゃん、よく見てみなよと言いたくなる。

 その人はたぶん私とは違うから、私が思うようなことを想像すら出来ないんだと思う。物事を多面的に見ようとしていない。だからそんなことを簡単に、かどうか知らないけど言えるんだと思う。私とは指向が違うから仕方ないにしても、そんな人がたくさんいるこの社会。そんな社会は私には酷だと思う。


「はぁ」


 こうして社会のことや明日香のこと、私のモノのことを考えてしまうとごちゃ混ぜになってよくわからなくなる。なんだかなぁって思うけど、世界も明日香もモノも絶対に変わらないことは私はもう知っている。

 だから、一緒に居ようとついて来たら置いて行かれたことに勝手にイライラしているだけで何も知らない明日香は悪くない。私が勝手に好きになって、すぐに自分で気持ちに線を引いて、それでもこうして葛藤して、心の片隅ではハッピーエンドを期待しているだけ。


「あああっ。もうっ」


 こうして愚痴愚痴考えたところで何の意味があるのか。

 これが今の私のスタンスで今出来る、それしか出来ない恋をしているだけだと思うしかないような…


「はぁ」


「あの。進んでますよ」


「え?」


「前」


「あ。すいません」


 周囲の喧騒が戻り、私の前には空間ができていた。私は声をかけてくれた女性に頭を下げてそそくさと前に詰めた。

 あああっ、とか聞かれていただろうなと思うと恥ずかしい。




「はー、気持ちよかったー。お、結構進んでんな」


 考えごとや恥ずかしさからどうにか気を取り直して大人しく列に並んでいると、不意に体に影が差したと思ったらそんな軽い声がすぐ横から聞こえてきた。

 割と早めに戻ってくれたから私の一人の時間は終わってみればたかが五分か六分くらいだけどそんなこと今の私には関係ない。体感的には永遠かと思えたから。


「はー、気持ちよかったー。だとぉ」


「なんだよ」


「お、結構進んでんな。だとぉ」


「お、おい椎名?」


 私を一人にしやがってこの女と、私がお前のことで悩んでいたと言うのにこの女はと、終いには上げてしまった声を後ろの人たちに聞かれて恥ずかしい思いまでしたのにこの女めと、明日香がまた傍にいてくるれことにホッとしてるな私は、と思ったら、消えた筈の怒りと言うか悲しさと言うか寂しさと言うか嫉妬心と言うか、たぶんそれを全部引っくるめて恋心って言うんだろうなって思う綯い交ぜの気持ちが急に抑えられなくなって、明日香は全然悪くないけどその呑気さが鼻について私は明日香の腕にグーぱんをお見舞いする。


「遅いっ」


「いたた。悪い悪い。流れが速くて反対側まで流されてたんだって。まじ溺れるかと思った」


「楽しくなっちゃっただけのくせに。吐くならもっとマシな嘘を吐け」


 私は明日香を睨んだ。抑えられない気持ちが私に取らせた怒っているポーズ。

 明日香からすれば私が腰に手を当てて頬を膨らませている時点でチワワが吠えているくらいにしか思われていないだろうけど。


「まぁそう言うなって。それより椎名、立ちっぱなしで暑いだろ? 冷やしてやるよ。うりゃ」


「んなっ」


 いきなり明日香がずぶ濡れの体で私を包んだから、私の口からまた変な声が出ていった。


「どうよ?」


「あんまり冷たくないけど気持ちいい」


「だろ?」


「うん」


 抱かれたからと言って私は明日香に手を添えない。そこまでは出来ない。だからしない。それでもこの顔がニヤけてしまうのは仕方のないこと。



「で、明日香はフランクフルト?」


 色々と気にすることが多くても明日香が戻って来たならそれでいい。なんか凄いこともしてくれたし気にするのはいずれまた私のスイッチが入った時。


「フランクフルトにしようと思ったけど焼きそばも食べたくなってきた」


「じゃあ両方買えば?」


「椎名。まじ天才だな」


 それにこんな会話をしながらも、いま私が一番に気にしているのは私たちが並ぶ行列の少し先に、私が知っている姿とは雰囲気がかなり変わっているけどたぶん知り合いっぽい、半身になる度に綺麗だとわかる肩にかかるストレートの黒髪の女性がもう一人の、こちらも半身になる度に綺麗だとわかる見知らぬ背が高い金髪ベリーショートの女性と並んでいることに少し前から気づいていた。黒髪の女性は明日香も知っている筈。明日香がいなかったから確認できなかっただけ。


「ねぇ明日香」


 前を向いて鼻をくんくん鳴らして焼きそばとたこ焼きの匂いを嗅ぎ分けていそうな明日香に指でちょんちょんして、私は小さく前を指を差しながら訊いてみた。


「ん?」


「あそこにいる女の人ってなーさんぽくない?」


「え? どれ?」


 わかり易いようにわざわざ指した方を見もしないでキョロキョロやり始める明日香は私の指差しを何だと思っているのか。もしかしてわざとなの? とも思うけど。


「居ないじゃん。どこだよ?」


 わざとじゃなかった。この女は本気だった。地頭(じかしら)がいいは私の勘違いでやっぱり地頭(じとう)なのかと思って私は一瞬無言になってしまった。


「椎名。どこよ?」


「…ほらあそこの二人組。今お金払ってる金髪の女の人の隣。フード付きの白いラッシュの人」


「あーあれか。あ、あれなーさんだわ、って金払ってんのゴリさんじゃん」


「えっ。ゴリさんてあのゴリさん?」


「そのゴリさん」


「へー。あの人がそうなんだね。イメージと全然違うって、明日香、こっち来たよっ」


 袋を二つ持ったなーさんとゴリさんがレジからくるりと向きを変えて列に沿うようにこっちの方に歩いてくる。なんだろう? なーさんはともかくゴリさんには危機感的な意味でちょっとドキドキする。


「なに買ったんだろうな?」


「気にするのそこなんだ」


「他にないだろ」


「そだね。じゃあ近くに来たら訊いてみなよ」


「おう」


 そしてすれ違うよりも早く、七歩くらい手前でなーさんが私たちに向けてさっと袋ごと手を上げてから、ペースを変えずにゆっくり近づいて来た。


「なーさん。久しぶりですね」

「なーさんこんちは。ゴリさんもお久しぶりっす」


 先に挨拶するのは先輩だから当たり前。なーさんは静かにひとつ頷いて、ゴリさんはにこにこしながら手を振っている。その口の形からしておー、って声を出していると思う。


「本当に居た。美月。明日香。久しぶりだね」

「へー。こっちの娘がって、そうだ。くろー。お前今ゴリっつったかー?」


 そうして私たちの目の前に立ったお二人。

 なーさんは変わっていた。明るい茶髪だった髪はすっかり黒くなっていた。白いラッシュから透けて見える胸に押された色とりどりの花柄模様の水着の派手さはあるものの、その落ち着いた物腰や静静と歩く姿を目にすると、元から落ち着いていた雰囲気が更に落ち着いたものになって、今まで無かった色っぽさまで加味されていた。私の二こ上なだけなの専門学生なのにすっかり大人の女性のよう。見た感じ、気怠げな場末感は皆無だからタイプは全然違うけどあまちゃんと同じ大人女子系になっていた。突貫する人はもう居ない。女子も三日会わなければ刮目しないといけないみたい。


 そしてゴリさんこと…えーと、は、明日香よりも少し高い背丈に明日香並みに長い手足と細い体。その上に乗っている金色の頭と顔は異常に小さい七点五頭身。いやもっとかも。指を使って測ってみたいけどぶっ飛ばされそうだから絶対やらない。

 小さな顔にある大きな目と口、大きくも小さくもない筋が通った鼻がバランスよく配置されていて、たとえ左の眉から左目の横まで斜めにに入った傷があったとしてもなお整ったお顔立ち。

 そしてそのお姿は、金色の髪から始まって、下に引っ張られるように手が突っ込まれたジッパーが開いたピンクのラッシュ。そこからこぼれ落ちている胸と下を覆う濃紺のデニムぽい生地にオレンジ色で描かれた大小さまざまなハイビスカスの柄の水着とこれまたハイビスカスの花を遇らえたピンクのビーサン。上から下まで全てが可愛らしく統一されている。

 今見せている左足に体重をかけて斜めに傾く立ち姿を差し引いても、明日香の話すヤンキー列伝に登場しまくるゴリと名の付く伝説の人物とはとても思えないくらい綺麗な女性。


 とは言えやっぱり伝説上の人物はその名の通り凄かった。その見た目の可愛らしさは瞬きする間に消え去って、気づいたら明日香の前に居て、ゴリって呼びやがったなくろ、おめーも一回貯水湖で泳いでみるか? って言いって、ああんおおんと下から煽るように明日香を睨んでいた。


「えぇぇ」


 私の知らない世界がここにあった。それがいきなり展開されてちょっとびっくりした。

 そして私は驚きながらも、ゴリさんが禁句なら禁句だって教えておいてよ、私が口走っちゃったらどうするのよもぉ、駄目じゃん明日香さんの馬鹿、って頭のどこかで思いつつその光景を呆然と見ていると、なーさんが大丈夫、こんなのウチらの挨拶みたいなものだからねと教えてくれた。私を守るかのようにもう一歩近づいてすぐ側に立って。


 私はそんななーさんがそれはそれは優しい大人のお姉さんのように思えたけど、引退したとは言えこの人も元はそちら側の人、突貫する人だからいまいち信用し切れない。こうしてる間にも、おいお前らいい加減にしろやーって、あの二人に突っ込んでいくかもってどうしても思っちゃう。


 けど渦中の明日香はやっぱり地頭が良かったらしく難なく危機を回避してみせた。ただし馬鹿な子だから私を使って。


「そんなこと言ってないですよ。な? 椎名」


「え、あ。うん。はい」


「そうか? 妹ちゃんがそう言うならいいや。悪かったなくろ」


「え?」

「いえ。大丈夫ですよ」


「宇宙くんの妹ちゃんも」


「あ、はい。ん? え? 宇宙? え?」


「ははは。そりゃそうなるか。な?」


「そうだよね。ふふふ」


 私を使った明日香のことは後で懲らしめるとして、今は、はははふふふと笑っている伝説のお二人から放たれた気になるワードをひとつふたつと解決していこうと思う。


 先ずはなーさん。なーさんは突貫する人とは言え元だから、ゴ…さんよりも遥かに安心して口を開けるから。

 私はなーさんに顔を向けた。


「えっとですね」


 そうしながらも私は頭の片隅で、誰でもいいから早く伝説の人の名前を教えて欲しいと思っていた。誰かと言いつつやっぱり明日香以外に選択肢は無いから、隣に目線で合図を送ったけど当の明日香の姿はそこに無かった。一瞬わけがわからず華麗な二度見を見せてしまった。


「美月?」

「どした? 妹ちゃん」


 さては明日香の奴、逃げやがったなっ、と思う動揺を隠しつつ、仕方なくお二人に戻した目線の端に商品を受け取ってレジでお金を払っている明日香が映った。

 つまり、私たちの事情を顧慮することなく確かに列は進んでいたからこの状況を一切顧慮することなく明日香も進んだ。で、買っている。ということ。なるほどね、いつまでも並んでられないもんね、うん、わかるよ、わかるけどって思いながら私は頑張った。


「確かなーさん、さっき本当に居たって言ってましたけど、それってどういうことなのかなぁと」


「宇宙くんが言っていたの。美月たちもここに来てるって」


「宇宙が? あー。なーさん宇宙と会ったんですね。ん? どこで? あれ? なーさん宇宙と会ったことありましたっけ?」


「そのことなんだけどね美月。実は私と」

「妹ちゃん。()()と宇宙くんは付き合ってるんだよ」



よろしければ後へどうぞ。


読んでくれてありがとうございます。

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