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13/50

黒田 明日香 後

こちらは後ですのでお気をつけ下さい。

では続きです。

よろしくお願いします。

 


 あの夜以来仲良くなった椎名と私、そこに理香と亜衣も加わって、わいわい賑やかに過ごしながら迎えた中三の夏休み前の放課後、椎名がこんなことを言った。


「ねぇ。みんなはどこの高校受けるか決めたの?」


「私は椎名と同じとこ」

「それ言うなよなー」

「ウチら馬鹿だからなぁ…」


 私は幸運にも頭は悪くなかった。勉強が遅れていた箇所は椎名が教えてくれたからからまぁ大丈夫。その流れで今も椎名は私の勉強を見てくれている。椎名が思っていた以上の私の出来の良さに、明日香は地頭がいいんだねと言ってくれた。


「地頭? あ、わかった。つまり守護だろ守護。な?」


「残念。明日香、これはじがしらだよ。じ が し ら」


「ん?」


 変わって理香と亜衣は夜な夜な遊んでいたし、筋金入りの勉強嫌いだからかなりヤバめ。親からも担任からも匙を投げられる寸前だった。


「じゃあ一緒に勉強する? もともと夏休みは明日香とするつもりでいたし」


「「まじかっ。お願いしますっ」」


「そんな畏まらないでよ。うん。やろう。明日香も、いいよね」


「全然いいぞ」


 それで椎名主催の夏の間の勉強会開催、と言うことになった。場所は椎名の家と私の家でその都度家の都合に合わせて適当に。椎名の家ではお兄さんが歌だか呪文だかを唱えながら、ウチでは母さんが凄く嬉しそうにご飯を出してくれたっけ。ははは。


「だー。もうだめ。パンクする。ちょい休憩しよう」


「そうだねぇ。じゃあもう一問同じような問題をやったらにしよう」


「えー。椎名ってまじ鬼だよな」


「うんまじ鬼」


「いいから早くやれ。はいこの問題」


「「鬼」」


「お前らうるさいぞー」



 理香と亜衣がそのうち飽きて来なくなるかもと思っていたけどそれはなかった。二人なりに危機感を持っていたらしく毎回時間通りにやって来ていた。こうして夏の間、誰ひとり欠けることなく四人揃ってちゃんと勉強もしたし、くだらない馬鹿な話もたくさんした。


「え、なに? チーム? 作んの? 理香が? 亜衣と?」


「そう。同い年で作りたいんだよ。取り敢えずわたしと亜衣と、あと三中の奴ら三人は確定だから今んとこ五人。で、明日香は…」


「パス。かな」


「だよなぁ。残りはやっぱ高校で探すかなぁ」


「人もそうだけどチーム名とかどうすんだよ。何か考えてんの?」


「それな、髑髏で何かないかと思ってんだけどさ。なぁ椎名。お前頭いいんだからさ、何かないの?」


 理香が椎名に話を振るも、その話、私は関係ありませんみたいな顔をして、さっきから私と理香の話に混ざりたそうに目線をちらちらこっちに向けていた亜衣を逃さずに、亜衣はこの問題はどう解く? やってみて。そう、いいね、そうそうその調子、それからどうするの? それ? うーんほんとにそれかなぁ? え、合ってるって? そうかなぁ、合ってるかなぁ? え、絶対合ってるって? はぁ、もぉ亜衣、違うでしょう? そこではそっちじゃなくてこっちの公式でしょう? あ、そうか、じゃないでしょう? これでこのミス、亜衣は何度目ですか? 二度? いいえ、三度目ですよ三度目。いいですか亜衣、わかっていないようだから言っておきますけど二の次は三です。三。二が二回続く訳でも、四の次や六の次に来る訳でもないんですよ? 二の次は三。亜衣。これは数を数える上での基礎中の基礎ですから、せめてそれくらいは覚えておきましょうね? 大体、一、二、二、四、五、六、七、八っておかしくないですか? そうでしょう? おかしいでしょう? いいですか亜衣、そういうケアレスミスが命取りですよ? わかりましたか? わかったんですね? じゃあいいです。けど亜衣、もし次また同じ間違いをしたらおやつ抜きますよ? そしたら亜衣、あなた痩せちゃいますよ? 痩せちゃうんですよ? 亜衣は痩せたいんですか? 痩せたくないでしょう? え、なに? 痩せたい? ちょっと亜衣。亜衣はなんでそんなこと言うんですか? 違うでしょう? おかしいでしょう? 痩せたくないでしょう? おやつ食べたいでしょう? と、途中から明らかにおかしくなった椎名がそう言えば髑髏が何だって? と理香に顔を向けたと同時に耐えに耐えていた亜衣がうがーって喚いてテーブルに倒れ込むように突っ伏した。可哀想に。笑うけど。


「え。それ素人の私に振るの? みんなの方が詳しいでしょ。て言うか何かってなに?」


「ほら、よく分かんない当て字とかあんじゃん。例えば、夜露死苦、みたいな」


「髑髏でそれやるの? 本気なの? むしろそのままの方がいいんじゃないの?」


 半ば呆れて半ば驚く椎名。どうやら理香の正気を疑ってるご様子。けど椎名、お前もたった今、正気を失っていただろと思うし、なに言ってんだ理香とも思うけど、面白しろいことになりそうだから黙って見ていることにした。


「いいからさ。頼むよまじで」


「わかったよ。けど文句言ったらおやつ抜くよ? 痩せるよ?」


「そこから離れろよ椎名。どんだけおやつにこだわるんだよ」

「椎名やべぇな」

「椎名はやばいんだよー」


「うるさいうるさい。考えるからちょっと黙ってて。えーと、髑髏ね髑髏…髑髏かぁ。うーん、髑髏…髑髏ねぇ……あ」


「「「おお」」」


 視線をどこかに彷徨わせながらペンをトントンすること十五秒。何か思いついたらしい椎名はペンをノートにサササと走らせて、自慢げな顔を理香に向けた。


 土黒


「どう?」


「ヤベェな」

「ヤバいね」

「あっはっはっ。黒い土ってなんだよ」


「ダメか」

「「「いやダメだろ」」」

「ちっ」


 再びの沈黙。椎名の考え込む姿を固唾を呑んで見守る理香と亜衣。その三人を見てコイツら馬鹿だよなぁと小さく笑っている私。その約一分後。自信たっぷりの椎名が私たちに顔を向けた。


「ほら」


 怒黒


「まじヤベぇ。明日香が怒ってるみてえ」

「明日香いないけどね」

「あはははは。椎名、お前ちょっと黒からも離れろよ」


「ちっ。じゃあこっちは?」


 独老


「これはヤベぇよ。なんか怖ぇもん。チーム名なのにすげー孤独を感じる」

「ヤバい老後的な」

「あっはっはっはっはっは。あーお腹痛てぇ。笑わせんなよ椎名ー」


「みんなで馬鹿にして。もーあったまきたっ」


 御苦労


「やべぇ。なんかすげえ疲れた気がしてきた」

「集りのあと。お前らお疲れ、じゃ解散、的な」

「あはははは、あははははははは。髑髏どこ行ったんだよ」


「ちゃんとあるじゃん。いい? ごくろう、どくろぅ。ほら」


「ほらじゃねえよ。やべぇまじウケる。あはははは」

「椎名やべぇ」

「ね。実は椎名、まじやばいんだって」


「だーっ。もうやめやめ。ほら勉強するよ。てか笑ってないでさっさとやれっ。あと今日はおやつ抜きだからっ」


 おやつ。私は爆笑した。




 そしてまたみんなで勉強を頑張って、またみんなで息抜き。夏祭りにも花火大会にも行った。

 四人で並んで川縁の土手に座ってみんなはラムネ、私だけ出店で買ったたこ焼き食べながら花火を見上げてこんな話もした。


「みんなは将来のこととか考えたことある?」


「ある。私は店を一緒にやっていくつもり。母さんに心配かけたぶん親孝行もしたいしな」


「わたしは特にやりたいこともないから高校出たら普通に就職かな。だりいよなー」


「私はまだよくわかんないかな」


「そうなんだ。でも…」


「「「でも?」」」


「理香ちと亜衣はまず高校に受からないと」


「「鬼か」」

「あははは、ウケる」


「冗談だよ。ふふふ」


 花火が咲いて一拍置いてドーンと響いて、散った彩りどりの花びらが光の線を描いて落ちて消えていく。そして訪れる静寂。その瞬間少し寂しさを感じる。華やかなだけに儚くて切なくなる。人生は長いようでもほんの一瞬。ふとそんなことを思うなんとも言えない不思議な感覚。


 みんなはどうか。私みたいに何か感じているのか。横にいるみんなの顔を窺い見ても何を思っているのかわからない。隣で空を見上げいる椎名は花火に何を思うのか。理香は? 亜衣は?


「そう言う椎名は?」


「法律関係かな」


「へぇ」

「なんだよー。結局椎名の頭いいアピールじゃんか」

「すごいね。私じゃ考えられない」


「そうかな? 目指すことは誰でも出来るでしょう? やり方だってきっと色々あると思う。もしダメだったとしても、そのためにしたことが無駄だったなんて私は思わないけど」


 途端に理香と亜衣が静かになった。それは私も同じくだ。


 馬鹿だからなんて言わないで。無理だなんて言わないで。今から何かを諦める必要はないでしょう? 私たちはまだ子供。失敗したってやり直せる。何度でも何にでも挑戦出来るでしょう? けどそれができるのは今のうち、子供でいることを許されている今だけなんだよ。その時間はいま見上げている花火みたいにあっという間に終わっちゃうの。


 そんな言葉はひとつもなかったけど、私は椎名がそう伝えているような気がした。


 椎名は空を見上げている。咲いた花火が照らす横顔をじっと見つめても、すごーい、きれーと呟くだけでいま何を思うのか、その胸の内は窺い知れない。

 だから視線を切って空を見上げる。理香も亜衣も、私に遅れて空を見上げた。

 そしてまた大きな花火がひとつ咲いて、音が震えて消えていった。


 自分を卑下して諦めるなと椎名が言った。何にでも何度でもと椎名が言った。子供でいられる時間は短いんだよと椎名が言った。言ってないけどそう聞いた。なら、それを聞いた私は一体どうする?


「よし」


 今の私では確な答えは出ない。けど、私の中の何が確かに変わった十五歳の夏の夜。

 椎名は変わらず夜空を見上げている。



「にしてもあちぃ」

「蚊がいっぱい」


「「それな」」







「明日香?」

「どうかした?」


「ん? ああ。ちょっと思い出してた」


「ふーん」

「なにを?」


「ちょっと中三の時をな」


 このまま帰ろうと思ったけど、思い出の中のひとつのことが気になって、私は理香と亜衣に訊いてみることにした。


「なぁ。ちょっと訊いていい?」


「ん?」

「なに」


「お前ら将来どうすんの? 今目標とかあんの?」


「保育士。難しいかもだけどさ、実は子供好きなんだよなわたし」


「私は看護師。難しいけど諦めないよ」


「おお。そっか」


「おうよ」

「うん。明日香は調理師?」


「ああ。いずれ母さんと一緒にやるつもりだから。どうせならな」


 私たちはニヤリと笑った。理香も亜衣もちゃんと考えていた。私はそれが嬉しくて、二人はたぶん、馬鹿にすんなよウチらだってちゃんと考えてんだぞ、とそんな感じなんだろう。


 椎名の言葉がきっかけになったのか、それとも単に成長したからか。それはわからないけど、普段から椎名に一目置いているような言動をする理香と亜衣だから、あの印象深い夏の夜のことは、ゆっくり変わろうとしているこの二人の中にも確かに残っているのだろう。

 それがわかればもう十分だった。



「お。黒田みっけ」


 そんじゃ今度こそ解散、またな。そう言おうとして手を挙げようとしたら後ろから私を呼ぶ声がして、私は声がした方を振り返った。居たのは三人の女。見た感じ、理香と亜衣の同類っぽい。言っておくけど私は違う。私はもうやんちゃなことはしないから同類じゃない。


「えーと………誰?」


「渡辺だよっ。忘れてんじゃねーよ」


「渡辺? えっと、誰?」


 私は理香と亜衣に向き直り、なぁコイツ誰なの教えてくれと頼む。その間もその女が何か言っているけど気にしない。


「えーと、渡辺渡辺渡辺渡辺。あ、わたしわかった。昔、明日香がボコったやつだ」

「あっ。そうだ。それだ。何度も絡んで来て、その度にやられてた渡辺だ」


「そうなの? あっ、そう言え…いや、覚えてないなそんなこと。と言うことで、きっと人違いだな。うん」


 私は再びその女に振り返り、どうぞお引き取りをとその三人が来た方向に手を向けた。


「ふざけんなっ。今気づいたって顔したろっ。今日こそはお前をボコるっ」


 相手はやる気満々。けど私にはない。これっぽっちもない。絡まれちゃったよ面倒くせーと思うだけ。なんなら殴られて終わりにしても構わない。


「つってもなぁ。私もうそういうのやらないんだよなぁ。だいぶ前からケンカもしてないし集まりにも行ってないしなぁ」


「あ? 嘘つくな。お前がそんなタマかよ。お前この前この先のカラオケの店の前でウチの後輩ボコったろうがっ」


「あ、それ私じゃないな。たぶんこっち」


 私が理香と亜衣を指差すと二人はうんうんと頷いた。


「あー。たぶんウチらだなそれ」

「そうそう」


「はあ? じゃあ、そのあとゴリ先輩に貯水湖に落とされたってのは?」


「お。お前その話、知ってんの? ウケるよなーそれ。あ、思い出したらやっぱおもしれーな、あっはっはっ」

「それもウチらだな」

「そうそう」


 この話しで理香と亜衣が若干胸を張っているように見えるのは、それをやった相手がゴリさんだったから。お前らアレに挑んだのかよすげーな的なやつ。ほんとはただのお仕置きだけど、お互いケリが付けば真相なんてどうでもいいから。


「あれは辛かったなー」

「そうそう。なーさんが車で待っててくれて超助かったよね」


「じゃ、じゃあ、一ヶ月くらい前、横町の公園でどっかの高校の奴らをやったってのは…」


「違うぞー」

「それは知らねー」

「そうそう」


「ちょっ、ま、待って。あ、ああれだあれ。おとといニュースで観たコンビニを襲った覆面の…」


「強盗じゃねえかそれ。誰がやるかんなもん」

「ニュースで観たってなんだよ。真面目か」

「ねぇふたりとも。コイツ今ちょっと混乱してるんじゃないかなあ」


「あああああああああ」



 少しして落ち着いた渡辺。手を膝に付いてマラソンでもしてきたのかと思うくらいはぁはぁ荒い息遣い。少し可哀想になってきた。理香と亜衣はもの凄い微妙な顔になっているし、たぶん私も同じような顔つきになっていると思う。


「おーい。なべー。終わったかー」


「はぁはぁ、ふー」


 渡辺の奇行をウチらの周りの人たちが何事かと見ていたし通報でもされたら面倒だからそろそろ帰りたい。と言うことで私は話を締める。


「まぁ、そんなわけで私はもう普通の女の子なわけ。普通の。だからさ、もういいだろ?」


 普通の女の子には手を出すな。これはここら辺のレディースのトップ、ゴリさんのお達し。これを破ると貯水湖どこの話じゃなくなるんだなこれが。つまり渡辺のパニックの原因はこれ。


「えっと…うん」


「おし。じゃあ今度こそ帰るわ」


 三度目の正直。私の原付あっちだからと指を差し、普通ってなんだだの、女の子って誰のこととひそひそしている理香と亜衣にじゃあまたなーと声をかけた。


「うーい」

「またねー明日香」


「おー」


 そのまま歩いて行こうとしたけど、やけに萎れて立ちすくんでいる渡辺と、その渡辺にどう声をかけていいのかわからない感満載の渡辺の連れにも声をかけることにした。今の私はとても優しい気持ちでいる。だってコイツら哀れだから。



 その時した会話がこれ。


「なぁなべ。今の話って噂かなんかで聞いたのか?」


「いや。ケンカの話を聞いて黒田かなって勝手に、えっと、わたし思い込み激しいって言うかなんて言うか、その、わたし黒田が引退してるなんて知らなくて…」


「引退って言っても私はちょっと齧っていただけだからなぁ。そんな大袈裟なもんじゃないよ。ただ、私はもうそういうのは一切しない」


「…わかった。な、なぁ黒田。その、悪かったよ」


「いいって。生きてりゃ色々あんだからさ。勘違いくらい誰でもするだろ。なべもそんな気を落とすなよ」


「うん」


「お互い今日は何も無かったってことで」


「うん。助かるよ。くろっち」


「おう。あ、そうだなべ。こうして話も出来たことだしさ、今度一緒に遊ぶか。この面子でカラオケとか行こうカラオケ。あとワンラウンドとか。めっちゃ卓球しよう卓球。あとボーリング。な?」


「いいね。今度行こう」


「横の二人も。な?」


「「え。あ、うん」」


「そうと決まったらなべ、連絡先交換しようぜー」


「わかった。じゃあくろっち、これわたしのメアド」


「おー。ほんじゃこれ私のやつな」


 ガラケーを見せ合いメアドを交換する。赤外線超便利。だって私はまだスマホじゃないんだなこれが。てか、私の周りじゃスマホ持ちは椎名くらいなもんだからな。




「見ろよ。なべにくろっちだとさ。アイツら友だちっぽくなっちゃったよ。笑うわー」

「明日香変わってないね。あの感じ久しぶりに見た。敵が友だちになるやつ」


「お前ら聞こえてるぞー。言っとくけどお前らもだぞー。一緒に遊ぶぞー」


「「おー」」



お疲れ様でございました。


ボツ案。

髑髏=しゃれこうべ=洒落神戸 殺礼頭


…読んでくれてありがとうございます。

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