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虹の死神  作者: 九JACK
死神の因縁
40/150

緑ではなく赤

 それぞれに調査を終えて集まった、死神界のリビング。

 ユウヒは任務でいない。

 故にユウヒとリクヤの睨み合いが発生することがなくて助かる。

 まずはおれの報告からだ。


 おれはアーゼンクロイツ家への接触に成功した。必要だと思われる情報も引き出してきた。


 フィウナ嬢が忌み嫌うほどの万能細胞実験。しかもその万能細胞の強さ故に求める者もいるため、譬禁止されていても、極秘裏に実験が行われている可能性がある。


「竜鱗細胞実験というものだ。竜鱗細胞というのは、古代にいたとされる竜、または神を表した竜のごとき強さを備えていることからその名がついた。これまでの実験結果では、竜鱗は鉄の融ける温度でも変化はなく、液体窒素に入れても変化はなく、ハンマーで叩いたくらいじゃ壊れない上にどれだけ鋭い刃でも貫くことも切り刻むこともできないというありとあらゆる面において『頑丈』の一言に尽きる代物らしい」

「おいおい、なんか空想物語みたいじゃねぇか」

 まさしく、リクヤの言う通りだった。

「だが、実在するのは確かだ。実験データがある」

 資料の冊子をわさっと広げる。実験という言葉にキミカは驚いたようだった。

「実験、したんですか。動物実験人体実験共に大失敗でろくにデータが採れなかったのでは?」

「竜鱗細胞単体に対する実験をした結果がこれだ」

 つまり最初は何にも植え付けず、細胞単体に対して様々な実験を行ったということだ。

「なんでも、竜鱗細胞は開発されたものではなく、科学部の発掘隊が偶然見つけた細胞らしい。形はそれこそ神話などで語られる竜の鱗のようだったそうだぞ。小さいものは魚の鱗にも見えるが」

「発掘……太古の遺産か何かでしょうか」

「そこまで詳しいことはアーゼンクロイツでは調べていない」

 アーゼンクロイツ家は医療に特化しているだけであって、地学分野になるとまた話は別だ。

 それに。

「アーゼンクロイツでも、動物実験を全くしなかったというわけではないらしい。ただ、その実験結果が悲惨だったことから、実験を中止、竜鱗細胞自体を歴史の闇に葬り、なかったことにしようとしたらしい」

 実験例として定番のモルモットなんかは竜鱗細胞を移植した結果、身体中が鱗に覆われるのはまだよかったが、内臓まで頑丈な鱗に変わってしまい、機能しなくなって死んだとか、竜鱗細胞を拒絶して鱗を吐き出して死んだとか、常軌を逸したものばかりだ。

 だが、成功個体がなかったわけではない。その個体はモルモットであるにも拘らず、巧妙な手口で脱走、捕らえようとした研究員に噛みついて重傷を負わせたという。

 たかがモルモットが噛みついたくらいで、と思ったのだが、肉を引き千切らんが勢いで噛みつき、その研究員の傷口からは白い骨が見えるほどになったというから恐ろしい。モルモットの基礎能力そのものが竜鱗細胞によって底上げされたと見たアーゼンクロイツは、竜鱗細胞を危険視し、実験、研究をやめたのだという。

 ただ、気がかりなのはその竜鱗細胞の威力を知ってしまったものたち。モルモットでさえ人間の脅威に変えるほどのものだ。……例えば、人間に移植したなら、知能がある分より効果的に使い、生体兵器にできると考える輩がいてもおかしくない。

 それが今回のストリートチルドレン失踪と何が関係あるのかというと、まだ推測でしかないが、やはり竜鱗細胞の実験であるだろう。


「人体への移植実験も行われたそうだ。通常こういう実験は任意の被験者で大体成人しているものを使う。が、それでは上手くいかなかった、と出ている」

「……まさか」

 気づいたらしいキミカが顔を青ざめさせる。そう、そのまさかだ。

 同じく思い至ったらしいリクヤの顔色も芳しくない。彼はこの流れから立てたのであろう推測を口にする。

「大人じゃだめだってことで、子どもを……」




 どこかで聞いた話だ。

「確かパシェの浮浪者がこう言われたそうだな? 『大人はいらない』」

「つまり、大人では実験済みってことかよ……っ!」

 それだけではない。人間以外の被験体にも言えることだが、成功したのは成体よりも幼体の方が多かったという。いや、成体は全滅だったか。

 では人間で実験するならば?




「大人より子ども、となるだろうな」

 と、なれば、白ずくめたちが子どもばかりを集めた理由にも説明がつく。それらがストリートチルドレンばかりだったことも。

「禁止された実験を行っていることがバレたら、確実に止められるでしょうね。それほど危険な実験ならば、尚更」

「悟られないために、足のつきにくいストリートチルドレンに狙いを定めた、と考えられる」

 おれの報告は以上だ、と淡々と告げたが、やはり衝撃が強かったのだろう。二人はしばらく黙っていた。




 やがて、キミカが重たげな口を開く。

「こちらで調べたアナロワの企業についてですが、ドンピシャでした」


 曰く、予想通り社長死亡により、社内が混乱、相続争いの末、社長は前社長の弟に決まったものの、経営は上手くいっていないらしい。

 前社長は突然死だったらしく、引き継ぎも上手くいってなかったらしいから、アナロワへの援助が止まったことは仕方のないことなのだろう。

「それと、前社長には娘がいました。ちょっとした問題を犯したとされ、謹慎中と言われましたが、謹慎しているはずの部屋を伺おうとすると止められ、マザーに扉を繋いでもらった結果、中は裳抜けの空ということがわかりました」

 つまりプジェロで消えた少女はアナロワの企業の令嬢と見て間違いないだろう。そしてアナロワの企業社長に就任した前社長の弟にはおそらく疚しいことだらけなのだろう。

 人間の腐敗というのは何度聞いても胸糞が悪い。

「監視人は砂漠向こうの辺境に建てられた実験所まで追いましたが、内部に入るにはセキュリティが複雑になっていて許可されたものしか入れないとか。けれど場所はわかっています」

「上出来だ」

 乗り込む気満々で、指をぽきぽきと鳴らす。腕が鳴るとはまさにこのことだ。

 リクヤも行く気満々でよし、と声を上げた。




『お待ちなさい』




 そこで止めるように脳内に谺したのは、マザーの声だった。



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