表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/66

没落令嬢フランセットは、息抜きをする

 下町では凶暴アヒルとして名を馳せていたアレクサンドリーヌだったが、スプリヌ地方へやってきてからずいぶん穏やかになった。

 ニコがよく世話をしてくれるのもあるけれど、おそらく彼女は私を守っていたのだろう。

 ずっと、気を張っていたのかもしれない。

 それを思うと、愛おしくなる。

 散歩から戻ってきたアレクサンドリーヌを抱きしめると、優しい声でクワクワと鳴いていた。

 改めて、ありがとうと感謝する。

 そんなアレクサンドリーヌだったが、ガブリエルへの敵対心は相変わらずだった。

 今日も出会い頭に、跳び蹴りをかましていた。

 本当に止めてほしいが、相性の問題なのだろう。

 なるべくガブリエルとアレクサンドリーヌを会わせないようにと、ニコにお願いしておいた。


 セイレーン大公マグリット様から注文があったクッキーは、翌日焼いて送った。

 ワイバーン便ですぐに届けてほしいと希望していたので、依頼をしたのだが……。

 途中で割れないよう、これでもかと箱に緩衝材を詰めた。

 はたして大丈夫だったのか。

 と、気にしている間にマグリット様から手紙が届く。送ったその日に受け取り、おいしく完食してくれたそうだ。

 代金と共に、さらなる注文があった。前回は三箱注文していたが、次は十箱欲しいと言う。ニコとリコ、それからメイド達の手を借りて、クッキー作りに勤しむ。

 ニオイスミレの砂糖漬けクッキーは商品にしたらどうかと、ガブリエルが意見してくれた。さっそく、パッケージの絵をココに依頼する。

 クッキーが完成するのと同時に、ココは仕上げてくれた。アレクサンドリーヌの横顔とニオイスミレが描かれている。優雅な雰囲気で、誰もが手に取りたくなるようなパッケージが完成した。

 完成したクッキーは丁寧に梱包し、ワイバーン便に託した。


 バタバタ忙しくするうちに雨期は過ぎ、スプリヌ地方には初夏が訪れていた。

 普段よりも湿気が少なく、雨期に比べて過ごしやすくなったような気がする。

 忙しい日々は続いていたものの、ある日ガブリエルに、森にキノコを採りに行かないかと誘われた。

 クッキーや砂糖漬けの納品日が迫っていたものの、時には息抜きも必要だと言われる。それもそうだと思い、誘いに応じた。


 ガブリエルと共に馬に乗って、キノコの森を目指す。


「キノコ狩りは、毎年行っているの?」

「毎年行っていたのは、子どもの時の話ですね」

「だったら、久しぶりのキノコ狩りなの?」

「ええ、そうなんです」


 私があまりにも働くので、心配になって連れ出してくれたようだ。


「私も、けっこう根を詰めて作業するタイプなのですが、フランは私を遥かにしのいでたので、驚きました」

「ごめんなさい。たくさん注文が入るものだから、嬉々として作っていたわ」

「いくら楽しくても、体は休息が必要なんです。まあ、こうして連れ出した場合、心身が休まるかどうかわからないのですが」


 耳元でため息が聞こえ、胸がどきんと高鳴る。

 この乗馬の距離感には、まだ慣れない。けれども、嫌なドキドキ感ではなかった。


「ガブリエルも忙しいのに、こうして気遣ってくれて、とても嬉しいわ」

「あなたは、頑張り過ぎる性分みたいですからね。王都にいたときもずっと――」

「ずっと?」

「い、いいえ。なんでもありません」


 王都での私の頑張りとはいったいなんなのか? 疑問に思ったものの、言葉が途切れたので言い間違ったのだろう。


 そうこう話をしているうちに、キノコがたくさん採れるという〝苔の森〟に辿り着いた。

 苔の森とは、その言葉のとおり地面や木々にびっしりと苔した場所である。


 森の入り口に管理小屋があり、管理人に馬を預ける。


「森の中にはスライムがいるので、警戒を怠らないように」


 鞍に吊していたカゴを手に取る。プルルンが中に入っていて、私の肩へと跳び乗った。


『フラー、いっしょにいこう』

「もちろん」


 ガブリエルは負担になるというが、プルルンは拳大の大きさで重さはほとんどない。大丈夫だと言うと、ガブリエルはため息をついていた。


「肩に違和感を覚えたら、いつでも言ってくださいね」

「わかったわ」


 苔の森は普通の森とは大きく異なる。苔が生えた地面はふわふわで、毛足の長い絨毯とは異なる不思議な踏み心地だ。

 森の中には、色とりどりのキノコが生えていた。

 これまで見たことがない、童話的な光景が広がっている。妖精か何かが、木の陰からひょっこり顔を覗かせそうな雰囲気の森だ。


「赤、黄色、緑! 色とりどりのキノコが生えているわ!」

「フラン、はしゃぐのはけっこうなのですが、滑らないように注意してくださいね」

「ええ、だいじょう――きゃあ!」


 さっそく足を滑らせてしまったものの、ガブリエルが受け止めてくれた。

 腰に腕が回され、傾きかけていた体はぴたりと止まる。

 ガブリエルは一見して細身であるものの、私ひとりを難なく支えられるほどの筋肉が付いているようだ。着痩せするタイプなのかもしれない。


「あ、ありがとう」

「危ないので、私の腕に掴まりながら歩いてください」

「そ、そのほうが、いいかもしれないわね」


 そんなわけで、ガブリエルに身を寄せながら歩くこととなった。

 夜会以外で、こうしてエスコートされるのは酷く恥ずかしい。

 うっかりはしゃいで転びそうになったので、こうなってしまったのだ。


 ガブリエルはキノコ博士かと思うくらい、キノコに詳しかった。


「これはコショウ茸です。ただ焼くだけで、コショウを振って食べるような味がします」

「へえ、スープに入れたらおいしそう」

「ここでは、肉料理の付け合わせに使います」


 他にも、甘酸っぱい果物のような味わいの柑橘キノコ、口の中でパチパチ弾ける不思議な食感の破裂キノコ、お肉のようにジューシーなステーキ茸などなど、スプリヌ地方にはたくさんの食用キノコが自生しているようだ。


 進むにつれて、森は薄暗くなっていく。

 ガブリエルが魔物避けの魔法を展開させているため、スライムとは一匹も出くわさなかった。


「ねえ、ガブリエル。こんなに森の奥へ進んで、大丈夫なの?」

「ええ。フランに、見せたいものがあるんです」

「何かしら?」

「見てからのお楽しみです」


 そこから歩くこと十分。遠くに、淡く光る何かを発見した。


「あれは――?」

「光り茸です」


 薄暗い森の中、光るキノコがあった。

 鬱蒼とした森の中で光るキノコ。それはまるで、満天の星のような美しさである。


「きれいだわ」

「ええ」


 ガブリエルが幼少期に、森の中で迷子になったさいに発見したのだという。

 その後、スライムに場所を探させて、今日、久しぶりにやってきたらしい。


「ここにきてからずっと、フランに見せようと思っていたんです」

「そうだったのね。本当に、美しいわ」


 しばし、うっとりと見つめてしまう。


「フラン、この光り茸、実は食用なのです」

「え、食べられるの?」

「ええ。コリコリとした食感で味わい深く、非常においしいのですが。食べてしまうと――」

「どうなるの?」


 プルルンが私の肩から下り、何を思ったのか光り茸をぱくんと食べた。すると、プルルンの体が淡く光り始める。


「まあ! プルルンが光ったわ」

「そうなんです。この光り茸は口にすると、光り輝くのですよ」


 プルルンがぽんぽん跳ねると、流れ星のように光が尾を引いていた。

 心が洗われるような景色を前に、これこそ休息なのだろう。


「ガブリエル、ありがとう」

「いえいえ」


 今日のところはしっかり休んで、また明日から頑張ろうと思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ