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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
挿話

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スライム大公の恩返し 後編

 メルクール公爵の娘アデル嬢にいったい何があったのか。

 スライム達に調査させる。

 結果、わかったのは〝アデル嬢は何もしていない〟ということだけ。


 何かしていたのはマエル殿下のほうだった。

 ヴィクトリアという庶民の愛人に傾倒けいとうし、アデル嬢を押しのけてその女性を本妻にしようとしていたようだ。


 ヴィクトリアという女性についても調べる。

 彼女はファストゥ商会の商会長マクシム・マイヤールの娘。

 世界的に有名な商人であるが、黒い噂もいくつか耳にした覚えがある。

 しかも、ヴィクトリアの母親である、マクシム・マイヤールの前妻は違法薬を売りさばいていた罪人だったという。

 そんな素性が怪しい娘を王家に引き入れるなんて、どうかしている。

 私が国の重役であれば、マエル殿下を愛人と共に隔離させて、第二王子であるアクセル殿下を国王に据えるだろう。


 アクセル殿下――ドラゴン大公の名を継承した、国内一の剣術の使い手であり、騎士隊を任された御方でもある。


 前回の夜会で、同じ魔物大公だからと、声をかけてきた。

 見目麗しく、礼儀正しく、清らかな心を持ち、道義的にふさわしい言動ができる、なんとも完璧な男だ。

 私とは真逆で、劣等感をズキズキと刺激してくる。

 アクセル殿下は私にも敬意を払ってくれた。

 そして彼は、私ができなかったことを簡単にしてみせる。

 アデル嬢が婚約破棄される場で、メルクール公爵の娘達を無下むげに扱うなと、兄であるマエル殿下に意見したのだ。

 正直とてもかっこよかったし、女性だったら惚れてしまうだろう。


 魔物大公である私も、王族が間違った行いをすればあのように意見することは許されている。けれども、足が竦んで、声も枯れ果てていて、できなかったのだ。


 フランセット嬢――あの優しい女性は、深く傷ついているだろう。


 メルクール公爵は財産だけでなく、屋敷も没収され、下町で慎ましい暮らしをしているという。

 プルルンが探し当てた家を、覗き込む。

 すると、庭に放し飼いにされていたアヒルに、猛烈に鳴かれてしまった。

 あまりの迫力に、逃げ帰る。

 番犬ならぬ、番鴨なのだろう。恐ろしい。

 翌日――今度はアヒルに見つからないよう、生け垣の隙間からそっと覗き込んだ。

 フランセット嬢はいた。

 美しいドレスをまとい、幸せのすべてを手にしていたような娘だったのに、メイドが着ているようなエプロンドレスをまとって働いていた。

 なんて気の毒な娘なのか。

 支援したいと思い、持てる限りの金を持ってやってきた。

 けれども、彼女は受け取ってくれるだろうか。支援なんて気持ち悪い、余計なお世話だと、言われるかもしれない。

 なかなか、大きな一歩が踏み出せなかった。


 何度か行き来する中で、フランセット嬢が自分で作った菓子を菓子店に納品していることを知る。

 そうそう上手い具合に売れなかったようで、しょんぼりしながら帰宅していた。

 ここで、そうだと思いつく。彼女が作る菓子を買い続けたら、支援になるのではないかと。

 さっそく翌日から、菓子を購入する。

 甘い物を食べるのは、年に一度か二度。好んで口にすることはなかった。けれどもフランセット嬢がどんな菓子を作るのか気になり、食べてみる。

 とても、おいしかった。

 どうしてかわからないが、フランセット嬢の作る菓子だけは口に合う。

 その日から、毎日菓子を食べるようになった。


 そんなわけで、フランセット嬢の納品した菓子を買い占める日々が続く。


 アデル嬢の婚約破棄及び国外追放事件から二年が経った。

 領地の母や大叔父は相変わらずだし、結婚結婚とうるさい。

 変わらない日々は続いている。

 そんな中で、プルルンがとんでもないことを言いだした。

 フランセット嬢を、妻として迎えたらいいと。

 彼女のような優しくて、働き者で、美しく、聡明な女性が、意気地なしの私なんかとつり合うわけがない。

 ありえないと返すと、プルルンは契約時に見せたような怒りをぶつけてくる。

 そして久しぶりに、私とプルルンは殴り合いの喧嘩となった。

 結果、私は勝利したが、負けたプルルンは家出をしてしまう。

 どうせ、契約で繋がったままだ。どこにいるかは、すぐにわかる。

 数日放置していたものの、なかなか帰らないので現在地を調べた。

 なんと、プルルンはフランセット嬢の家にいたのだ。

 なぜ? どうして?

 混乱しつつ、プルルンを迎えに行く。すると、フランセット嬢の家に無頼漢の男達が押し寄せているではないか。

 生け垣から様子を覗き込み、戦々恐々とする。

 二年前、私は彼女を助けられなかった。二度と、あってはならないと思っていた。

 だから今回は、彼女を助けるために行動を起こす。

 アクセル殿下のようにかっこよくはなかったものの、なんとか助けられたのだ。


 フランセット嬢から感謝され、ホッと胸をなで下ろす。今回は間に合ってよかった。

 ただ、引っかかる点があった。

 無頼漢の男達を寄越したのは、ファストゥ商会の商会長マクシム・マイヤールだということ。

 彼はマエル殿下の婚約者ヴィクトリアの父親だ。

 何か、裏で暗躍しているのではないか。

 フランセット嬢の父親は、マクシム・マイヤールの二番目の妻と駆け落ちしたという。

 嫌な予感がする。彼女をここにひとり置いておくのは、よくないだろう。

 この先百年分の勇気をかき集め、私はフランセット嬢に妻にならないかと契約を持ちかけた。

 心臓が破裂するかと思ったが、なんとか受け入れてもらえた。

 これからは、直接彼女を守れる。安堵感に包まれた。


 ちなみに、彼女は二年前の私を覚えていなかった。

 よかったと言うべきか。

 もちろん「二年前に、嘔吐していたところを助けていただいた、惨めな男です」などと名乗るつもりはない。あまりにも、かっこ悪いから。


 ただ、問題があった。

 フランセット嬢の父親が行方不明なのである。

 貴族の女性は、父親の許可なしに結婚できない。

 ひとまず婚約者という形で、湖水地方スプリヌで暮らしてもらう。

 父親が見つかるまで、王都にひとり残すわけにはいかなかったから。


 そんなわけで、フランセット嬢との同居が始まる。

 彼女は契約したスライムを怖がらないどころか、可愛がってくれる稀有な女性であった。

 さらに、スライムの研究について耳を傾け、すごいことだと褒めてくれた。

 これまで、誰にも認められないことだったのに……。

 理解してもらった瞬間、涙が零れそうになったのは秘密だ。


 フランセット嬢と過ごす毎日は、想像以上の幸せをもたらしてくれる。

 彼女との暮らしを守るためだったら、命すら捧げても惜しくはない。

 誰もフランセット嬢を傷付けることなく、また苛ませるようなこともなく、穏やかな日々が続きますようにと祈るばかりだ。

 

次話より第3章がスタートします。

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