第十一話 明日はアカネと共に城下に出るぞ
「陛下、モチヅキ・イズモにございます」
「イズモか、入れ」
夕食後、執務室でユキたんとテーブルを挟んで、紅茶で一服していた時だった。ハルヒコは例によってサッちゃんが面倒を見てくれている。
「陛下、お人払いを」
「うむ。カスミ、タマエ、済まんが外してくれ」
「かしこまりました」
カスミとタマエは、共に執務室の扉脇に控えるメイドさんだ。二人が退室すると、この場に残るのは俺とユキたん、それにイズモの三人のみとなる。
「それで、エチゴ屋だったか。奴はどう動いた?」
「トキエダ男爵の許に赴きました」
「トキエダ男爵? あの古くからある豪族のことか?」
「御意」
「そこで、何を企んでいる?」
「陛下がシナノの王女殿下に頼まれた荷を狙っている由にございます」
「ニンジンか」
俺が謁見の後、義姉にした頼み事とは、シナノから荷馬車一台分のトウニンジンを、運び込んでもらうことだったのである。それを義姉は快諾し、すぐさま早馬を飛ばしてくれた。お陰で予定通りなら、祭りの前日に荷が到着するはずである。それを狙おうというのか。
「だとすると目的は我々の信用失墜だな」
「仰せの通りです」
「何と卑劣な!」
「ユキ、そういきり立つな」
「ですが……!」
「それでイズモ、トキエダの動きは?」
「はい。エチゴ屋から金を受け取っておりました。そこで勘付かれたので続きは聞けませんでしたが、他にも何か要求したのではないかと」
「しかし男爵にとっては割に合わんのではないか? 関与が露見した場合、トキエダ家は領地、家屋敷を含めて財産の悉くを没収の上、断絶。本人は死罪、一族も遠島では済まされんぞ」
「実は陛下、トキエダ卿は私をわざと見逃したのではないかと思われるのです」
「真か!」
「これは忍びとしての私の勘なのですが、男爵の傍に仕えていた男たちも手練れの忍びと思われます」
その彼らが、イズモの気配に気づいていながら気のせいとし、念のための探索も男爵が後回しにさせたと言うのだ。忍びの心得がある者としては、考えられない対応である。
「と言うことは……」
「陛下のお考え通りかと」
「トキエダ男爵か。会ったことはないが、なかなかに興味深い男ではあるな」
「あら、陛下。トキエダ男爵なら、過去に二度ほど、晩餐会には顔を出しておりますよ」
「ユキは知っているのか?」
「言葉は交わしておりませんが、顔は覚えております」
「どのような風貌だった?」
「一言で申しますと、育ちのよい紳士という感じでしょうか。ただ、目の奥には何かを秘めているようでもあり、決して一筋縄ではいかない人物に見えたように記憶しております」
「裏社会に通じている一面もあるようです」
この短期間でそこまで調べ上げるとは、イズモも相当な忍びと言えよう。
それにしても、二人の話を総合すると、侮ってかかれば大怪我をさせられるかも知れない。ここは冷静に考えて、荷馬車の護衛を増強した方がよさそうである。
「相分かった。イズモは引き続きトキエダを探れ」
「御意」
「ユキ、明日はアカネと共に城下に出るぞ」
「えっ!」
ユキたんと城下に出るのは久しぶりだ。彼女もそれを聞いて嬉しそうにしている。
「トモエも連れていってやろうと思う」
「シナノの、ですね?」
「うむ。少しくらい機嫌を取ってやってもよかろう」
「何やら陛下にご執心でしたものね」
「困ったものだがな」
「陛下はあのような女子が好みなのですか?」
「ち、違う! 断じて違うぞ!」
慌てて否定した俺を見て、ユキたんはクスクスと笑っている。全く、俺の好みを一番理解しているくせに。
「冗談です。それにトモエ殿は私にとってもアカネ殿にとっても義妹ですから、邪険には出来ません」
「そうだな。明日はよろしく頼む」
「はい」
ふと気づいたら、イズモはすでに執務室から姿を消していた。初めて会った時にはいつでもかかってこいと言ったが、誰にも護られていなければ、俺なんかは瞬殺されてしまうだろう。忍者ってすごいと思うよ。
それから、時間も時間だったので、俺はそのままユキたんと共に彼女の部屋に向かう。ハルヒコはサッちゃんに預けたまま、今夜は二人水入らずだ。愛する妻を腕の中に収め、存分に愛を確かめ合ってから、俺たちは心地よい眠りに落ちるのだった。
次回、第十二話
多分12/21(土)更新予定です。




