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第六話 お手並み拝見といこうではないか

 その日、シナノ王国から訪れたミノリ姫の姉妹たちが、本国の地に入ったとの知らせが届いた。壮大な行列はシナノ勢だけで百人を超えており、そこにこちらの護衛が加わってさらに人数は膨れ上がっている。そんな彼女たちの姿を一目見ようと、城下も大騒ぎとなっていた。


「何ですの、この群衆は?」

「王女殿下に申し上げます!」


 馬車の窓から外を覗いて驚いた表情を見せるシナノ王国第一王女、オガサワラ・シズカに、併走する護衛の騎馬兵が駆け寄る。


「許します」

「タケダの護衛によりますと、この者たちは殿下方を歓迎する領民たちが集まったものだと申しております」

「なるほど、義弟君(おとうとぎみ)の策略でしたか」


 そう言うとシズカは、馬車の窓を閉めて妹二人に向き直った。


「タケダの王はなかなかの切れ者と見受けられます。貴女たちも心しておかれますように」

「姉上、どういうことですか?」


 不思議そうな表情で尋ねたのは、三女のユイカである。


(わたくし)たちを、王国を挙げて歓迎するとの意思を示されているのです。つまり、モモカを責めるな、ということでしょう」

義兄(あに)上様が歓迎……」


 三人の中でただ一人、ピンクのクマのぬいぐるみを大事そうに抱えた、四女のトモエが嬉しそうにつぶやく。彼女だけは他の二人と違い、モモカの連れ戻しなどどうでもいいと思っていた。もう一度義兄に逢いたい、その一心のみがこの行列に加わった理由だったのである。


「トモエ、貴女が何を考えているのかは予想がつきますが、相手は一国の王。それも我がシナノ家より格が上なのです。傷つかないうちに諦めなさい」

「そうよトモエ、姉上の言われた通りです。それに、義兄上は一筋縄ではいかないお方。見た目に騙されてはいけません」

「そんなことない……」

「はい?」

「義兄上はそんな人じゃない……」

「ユイカ、どうやら今のトモエには何を言っても無駄かも知れません」

「姉上……」

「それよりこれは……一度姿を見せなくては収まらないでしょうね」


 行列が王城に近づくにつれ、民衆は沿道を埋め尽くすばかりか、街道にはみ出す者さえ出ていた。これでは馬車の進行もままならない。かと言ってシナノの姫たちからすればここは同盟国であり、彼らをぞんざいに扱うことも出来ないのだ。


「どこか開けた場所はありませんか?」


 再びシズカは窓を開け、併走している騎馬兵に声をかけた。


「この先の四つ辻が、中心に噴水がある広場となっているようでございます」

「ではそこに馬車を進めなさい。民たちにも、道を開けそちらに集まるようにと。私が出ます」

「し、しかしシズカ殿下、危険では……?」

「義弟君の護衛に託しましょう。それなりに、覚悟をもって任に当たっているはずです」

「ははっ! ではマツダイラ殿にはそのように」


 騎馬兵は一度敬礼すると、他の兵に持ち場を預けて、少し下がった位置にいたマツダイラの方に馬を寄せる。


(あい)分かった。殿下にはご安心()されよ、とお伝え下され」


 言うとマツダイラは無言のまま、馬上で右手を挙げ、指先で何やら合図を送る。するとそれまで各所に散らばって併走していた一群が、いつの間にか隊列を整えて王女たちの乗る馬車を囲む。


 時はこれより少し前に遡る――




「マツダイラ、シナノの姫たちは押しかけた民衆を収めるため、一度この場所で演説を行うはずだ」


 俺は地図上の一点、噴水のある四つ辻を指さした。


「なるほど。ですがここですと、噴水の向こう側が死角になりかねません」

「案ずるな。広場には義父(ちち)上、アザイの兵五百が控えている」

「な、なるほど……」


 アザイの幽霊兵と聞き、マツダイラ閣下の額にはうっすらと冷や汗のようなものが浮かんでいる。


「それに瓦版(かわらばん)のお陰でな、領民たちのシナノに対する印象もよい」

「あの記事とモモカ殿下のお姿ですね」

「うむ。モモカの姉は皆、モモカほどではないが美形揃いだぞ」


 俺にとってはそうじゃないんだけどね。


「しかもヨシツグ殿が王位を継げば、事実上シナノの実権は、王妃となるシズカ殿が握られることとなる」

「はあ……」

「彼女は考えているはずだ」

「何をです?」

()に負けてなるものか、とな」

「負ける? こう申し上げては無礼かも知れませんが、王族としての格はタケダが上。それに勝とうなどと……」

「上に立つ者には有りがちな考えだ。家の格など関係ない」


 今やタケダの領民たちの、俺に対する信望の篤さは他国に類を見ないと言っても過言ではない。その領民の支持を食う、つまり俺以上に人気を博せば自分の勝ち、と義姉(シズカ)は思っているはずだ。言わば前座の芸人が、主催の客を食うのと同じである。シナノの姫たちの人気が急上昇中の今、次代の王妃がそんな野心に駆られても致し方ないだろう。


「ま、お手並み拝見といこうではないか」


 俺は生粋(きっすい)の王家の血を引く姫の手腕を、心から見てみたいと思うのだった。


次回、第七話『祭りを催すというのはいかがでしょう?』

11/23(土)更新予定です。

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