第十八話 一度は家族として迎え入れているのだからな
「殿下、お手を煩わせてしまい、申し訳ごさいません」
「よいのです。それより亡くなった警備隊員の方にはお悔やみ申し上げます」
「残るはカズサ屋だな。マツダイラ、頼めるか?」
「御意」
「あの、こ、コム……じゃなかった。国王陛下……?」
マツダイラ閣下が馬で去り、手下共を近くの柱に縛り付けたところで、キュウゾウ親分がおずおずと俺の前にやってきた。
「キュウゾウか」
「あの、本当に旦那は国王陛下なんですか?」
「キュウゾウ、無礼を申すな!」
「構わん、スケサブロウ。親分、黙ってて悪かったな」
「そ、そんなとんでもねえ! それより俺も無礼討ちになるんでしょうか?」
「うん? 何故だ?」
「知らなかったこととは言え、陛下を犯人呼ばわりまでしちまいましたし……」
「キュウゾウ、お前!」
スケサブロウ君が親分に殴りかかろうとするのを俺は片手で制する。
「その者は貧乏貴族の次男坊と名乗らなかったか?」
「確かに。ですが……」
「俺と妻たちのことは決して他言してはならん。それが守れるなら不問にしてやる。どうだ?」
「も、もも、もちろんです! 絶対に誰にもしゃべりません!」
「よし。ではマツダイラの後を追ってカズサ屋取り締まりに加勢してこい」
「ははっ!」
それから俺は残った警備隊員に後始末を命じた。とは言え彼が人を集めて戻ってくるまで見張り役が必要なので、俺とユキたんにアカネさん、それからスケサブロウ君が残ることとなった。
「スケサブロウ、よい目明かしを雇ったな」
「いい加減、平民気分を捨てて城下の徘徊は止めた方がよろしいのでは? 国王陛下!」
「まあ、そう言うな。それよりどうだ、キュウゾウに騎士の称号を与えてやろうと思うのだが」
騎士は準貴族であり、帯刀が許されるのである。
「あの者が太刀を振るうとなると、恐れを成す貴族も増えるでしょうね」
「ほう?」
「元々正義感の強い男ですから。そのせいで疎ましく思っている輩も多いのですよ」
「なら三日後の朝四ツに謁見の間に呼んでおいてくれるか」
朝四ツとはだいたい午前十時のことである。
「分かりました」
「ああ、それとな、週に一度の登城を許してやれ。強制ではないぞ」
「はて、何故ですか?」
「剣術の指南をしてやれと言っているのだ」
「は?」
「お前の手下だろう。だが今のままの彼奴では太刀を振るうのは荷が重いかも知れん。喧嘩剣術では命がいくつあっても足りないと思わないか?」
「確かにその通りですが……」
スケサブロウ君は騎兵隊の剣術指南役の他に、今でも渋々女子二人の剣術を見ている。そこにさらに弟子が増えるなど、彼にとっては苦痛でしかないだろう。だが、それだけ彼の剣術は本物といえる。ユキたんやアカネさんには及ばないものの、当の二人の妻も実力を認めているのが彼なのだ。
「キュウゾウは少々粗暴ではあるが、ただの目明かしにしておくのは惜しい人材だ」
「分かりました。でも陛下には渡しませんよ」
「余は男になど興味はない」
「なっ! これはそういう意味では……!」
「間違っても、犯罪者相手に命を落とすことのない程度には鍛えてやれ」
「陛下のご命令とあらば!」
スケサブロウ君が半ばやけくそのように言い放った頃、ようやく警備隊員が仲間を連れて戻ってきた。彼らは手際よく遺体を片付け、柱に縛り付けられたトウジョウ子爵の手下共を引っ張っていく。その後を追うように俺と妻たち、それにスケサブロウ君も城に戻るのだった。
キュウゾウに騎士の称号を与えてから数日後、俺は執務室で家令のキミシマ・ダイゼンから事件の報告を受けていた。
「助けられた赤子は全部で十人か」
ヒョウドウ・ナミエと共に長屋にいたのが三人、カズサ屋を通じて貴族に買い取られていたのが七人の合わせて十人だ。そして、赤子の本当の両親たちは悉くが殺されてしまっていた。
「子供を買い取った貴族たちは、拐かしには関わっていなかったようです」
「せめてもの救いは赤ん坊が大切に育てられていたことだな」
「いかがでしょう。里親となっていた者たちにそのまま子供を引き取らせる、というのは」
キミシマの言う通り、それも悪くはないかも知れない。しかし金を出してまで跡取りが欲しかった貴族たちだ。心から子供が好きなのかと考えると疑問も残る。
「こういうのはどうだ?」
そこで俺は一つの考えをダイゼンに耳打ちした。普段あまり表情を変えない彼も、この案にはさすがに驚愕したようだ。
「それは……」
「本当に子供が欲しければ、それでもいいと言うはずだ。まして短い間とはいえ、一度は家族として迎え入れているのだからな」
「では陛下は……?」
「明日、子供を買った貴族たちを城に呼んでおいてくれ」
「御意」
本当の子供の幸せとは何だろう。無条件の愛情を注いでくれる両親ではなくとも、それと知らなければ子供は育ての親を親として育つだろう。裕福な貴族の家であれば、食うや食わずの苦しい生活を余儀なくされることもないはずだ。
だが、血は水よりも濃い。親の愛情とは、そういうものだと思っている。だからこそマツダイラ閣下もあれだけハルヒコを可愛がりながら、自分の子が欲しいと思ったのではないだろうか。
それから俺は、捕らえられたカズサ屋兄弟とトウジョウ子爵の手下共に裁決を下すため、執務室を後にするのだった。




