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18日目 観光と失礼③

これは、とある男の旅路の記録である。

 

「律、もう少しで着くよ」

「そうなんだな……って、ここ」



 サービスエリアで色々と済ませ、裕子さんから貰ったみかんを頬張りながらナビするクロノスに言われるがまま車を走らせ、高速道路から下道に降りてすぐの信号で青になるのを待っていると前方に大きな看板が立てられているのが目に映った。



「クロノス、お前が行きたい場所ってまさか、あの看板に書かれている場所か?」

「看板って?」

「ほら、お前から見て右斜め前にある大きな板のことだ」

「右斜め前……あぁ、あれね。そうだよ」



 咀嚼していたみかんを飲み込んだクロノスが当然のように肯定すると、小さく溜息をついた俺は青信号になったタイミングで車を走らせた。



「まさか、この世界の神社にお参りすることになるとはな」





「へぇ~、この世界の神社も趣深いな」



 大きな看板を通り過ぎて(しばら)くすると、前方に神社の近くに誘導員らしき白髪交じりの男性が立っているのが見えた。



「クロノス、あの男性に声をかけて良いか? 駐車場の場所を知ってそうだから」

「分かった」



 相変わらずみかんを食べているショタ神様を他所に、俺は男性の前にゆっくりと車を止めて窓を開けた。



「すみません、ここら辺に駐車場ってありますか? 俺たち、これから神社に参拝しようと思っていて」

「あぁ、参拝客でしたか。そしたら、こちらが駐車場になりますので、私の誘導に従って下さい」

「分かりました」



 妙にぶっきらぼうな誘導員に案内されて大型駐車場の一角に車を止めて誘導員さんにお礼を言うと、フロントガラス越しに赤色の鳥居が見えた。


 この世界の神社は、あの世界の神社や俺のいた世界にあった神社と同じようなものだろうか?

 少なくとも、『実は全部ホログラムで造られています』なんてことは無いと思うが。



 右手首に付けられているアナログ腕時計に視線を落として苦笑いを浮かべていると、運転席側の窓が軽くノックされた。

 視線を上げた先には、クロノスがつまらなさそうな顔で立っていた。


 お前、いつの間にか外に出てたんだよ。


 アナログ時計に視線を落とした隙に空席になっていた助手席をチラ見して軽く溜息をつくと、急いで外に出る準備を済ませ、運転席側のドアをゆっくりと開閉して外に出た。



「おい、どうし……」

「パパ~! 早く行こうよ~! 僕、この神社に行きたいって言ってたじゃん!」



 さっきの無関心な態度とは正反対の元気いっぱいのクロノス……もとい、時司からのクレームで俺はこの世界での立ち位置を思い出した。


 そうだった。この世界では一応、俺とクロノスは親子だったな。高速道路を使って来た場所だから昨日知り合った人はいなさそうだが。


 可愛らしく拗ねている時司の前にしゃがむと、小さな頭を優しく撫でた。



「ごめんな、時司。ちょっと、パパのお仕事先の人とお話していたんだ」

「え~! パパ、今日はお仕事お休みって言ってたじゃん!!」

「だから、ごめんって」



 子どもらしく不貞腐れる時司に困ったような笑みを浮かべていると、どこから強い視線を感じた。

 視線に気づいて、時司の頭を撫でながら盗み見るように周りを見回すと、参拝客らしい人達がこちらを観察するように見ていた。


 えっ、どうしてこっちを見ているんだ? 俺、特に変なことをやってないぞ。


 遠慮無しに送られる数多の視線に気付かない振りをして、撫でている手を離しながら立ち上がると鍵をかけた。

 すると、空いた手を握ってきた時司が軽く引っ張ってきた。



「ん、どうした? 時司」

「パパ、あのね……」



 軽く首を傾げながら時司の前に再びしゃがむと、いつの間に機嫌を直した時司が俺の耳元に囁いた。



「安心して、律。この世界の神社は、律のいた世界と同じだから」



 つまり、人間達の都合で姿形をいくらでも変えられるホログラムで造られてはいないんだな。



「そうか、分かった。ありがとう」



 耳元で囁いた時司(クロノス)に軽く(うなず)くと、立ち上がって時司の手を取った。



「それじゃあ、行こうか」

「うん、パパ!!」





「パパ~! あそこの写真、撮っても良い~?」

「うん、良いぞ~」



 相棒の一眼レフを首にかけてリュックを背負い、時司と仲良く手を繋ぎながら神社の鳥居を抜けると、左右に緑豊かな森林が生い茂る広い参道が続いていた。


 へぇ~、ここの神社もあっちの神社と一緒で緑が生い茂っていて気持ちいいなぁ。



「パパ! あれが【手水舎(ちょうずや)】って言って、あそこで手をお清めするんだよ!」

「へぇ~。時司、よく知っているな」

「フフン、パパがお仕事している間にお勉強したんだ!」



 俺から褒められて満更でもない偽息子の頭を一撫でした。


 まぁ、本当は俺が寝ている間に勉強したんだろうけど。


 意外と勉強熱心な時の神様に小さく笑みを零し、参道を吹き抜ける心地よい風に運ばれたマイナスイオンを肌に感じながら、隣で忙しなく辺りを見ながらも俺に神社のことを元気いっぱいに教えてくれる時司のペースに合わせてゆっくり参道を歩いていると、遠くに大きな拝殿が建っているのが見えた。



「パパ! あれが【拝殿】だよ! 拝殿! 僕、あそこでお参りしてくる!」

「こらこら、そう慌てなくても拝殿は逃げないぞ。それに、パパだって時司と一緒にお参りしたい」

「分かった!……あっ、パパ!」

「うん、何だい?」

「僕、あそこの手水舎の写真撮りたい!」

「それは別に良いが……くれぐれも、他の人に迷惑をかけちゃダメだぞ」

「うん! じゃあ、行ってくる!」

「あぁ、気を付けるんだぞ」

「は~い!!」



 俺から手を離してすぐにポケットから出したデジカメを両手に持ちながら手水舎の方に駆け寄る時司を笑顔で見送った瞬間、後ろから肩が叩かれた。


 うん、何だ?


 何の気なしに後ろを振り向くと、俺のことを上目遣いで睨み付けていた女性が立っていた。




 えっ? 俺、何かしたか?



「あの、何でしょうか?」



 振り返った瞬間に睨まれたことに困惑しながら肩を叩いてきた女性に恐る恐る聞くと、女性の目つきが更に鋭くなった。


 えっ!? 俺、何か睨まれるようなことしました!?



「あなた、渡邊 時司君の父親である渡邊 律さんですよね?」

「えっ!? はぁ、まぁ……」



 正確には、あいつの旅行仲間なのですが……って、どうして俺と時司の名前を!?



「あの……どうして私と息子の名前を知っているのですか?」



 この世界に来て今日で4日目になるが、こんなにスラっとしたクールビューティーと知り合った覚えがない。


 戸惑いを隠せないまま問いかけると、俺より一回り年上らしい目の前の女性は大きく溜息をついた後に至極当然といった感じで答えを明かしてくれた。



「それは、私が裕子さんと知り合いだからよ。裕子さんからも『あなた達親子がこの神社に参拝に来るからよろしくね』って頼まれたし」



 裕子さんって、時司にみかんをあげていたあのおばさんか。

 あの時、時司と俺のことをえらく気にかけてくれたが……だからといって他人の個人情報を知り合いだからという理由で別の誰かに容易(たやす)く言ってはダメだと思う気がする。

 というよりあいつ、俺が車に行ってる間に裕子さんに今日の行き先を言ったのか? 後で確かめないと。



「それよりも、さっきは何でそんな曖昧な返事したの?」

「えっ、それはあなたに突然名前を呼ばれて驚いたといいますか……」



 初対面にいきなり名前を呼ばれたら、誰でも驚いて曖昧になると思うが。



「言い訳しない! 本当にあの子の父親だったら、はっきりと返事するものでしょ!?」



 女性の強気で一方的な持論に言葉を失った。


 確かに、俺はあいつの本当の父親ではないが……何で俺、赤の他人にこんなことを言われないといけないんだろうか?



「そう、でしょうか? 私の場合、驚きのあまり曖昧な返事をしてしまったのですが」

「また言い訳!? はぁ……だから余所者は嫌いなのよ。話が通じなくてイライラする」



 奇遇ですね、俺もこの短時間であなたが話の通じない人だと分かってイライラしています。



「それにしてもあなた、本当に最近まで外国で暮らしていたのね。親子共々黒髪黒目だから、てっきり生まれも育ちも日本かと思ったわ」



 何だ、その決めつけは! 偏見にも程があるぞ!



「えぇ、確かに私も息子も黒髪黒目ですが、つい最近まで外国で暮らしていました。ですので、今の私たちは世間一般でいうところの観光客みたいなものです」



 というかこの人、俺たちがつい最近外国で暮らしていることも知ってたんだな。それも裕子さん情報なのか?



「そう、それは悪かったわね」

「いえ、こちらこそ失礼なことを言ってしまいすみませんでした」



 お互いに頭を下げて再び頭を上げた瞬間、『他にも言いたいことがある!』と言わんばかりに女性が詰め寄ってきた。



「それよりも、子どもの躾はちゃんとした方が良いわよ。あなたの息子さん、荘厳な神社にとても相応しくない大きな声だったから周りが迷惑していたわよ。それに、由緒ある神社を無遠慮に写真に収めたり、子どもを1人にしたりするなんて非常識だから」



 そうなんだ、ここではそういうのは禁止なんだな。



「それは、大変申し訳ありませんでした」

「はぁ、全く。こんな人が親なんて……世も末ねぇ。近頃の若者は、私のような親切心と空気を読む力が無くて本当困るわ。これは近々、()()を開かないといけないわね」



 『初対面に対して容赦無く毒を吐くあんたにだけは言われたくない!』って思ってしまった俺は、多分間違っていないはずだ。


 女性が俺に対して言いたいだけ言った立ち去ったタイミングで、俺はその場で強く拳を作った。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


またもや投稿し忘れてしまいました! 本当に申し訳ありませんでした!!


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