14日目 強欲と対価④
これは、とある男の旅路の記録である。
※≪≫部分は、クロノスの語り部の部分です。
「それってつまり……総理大臣になるってことか?」
「総理大臣? それが国のトップってものなの?」
「あぁ、そうだな……」
大物政治家や有力者とコネを作れると分かった時点で、そんな願望を抱いていたなんて……
「翔太は大学院で勉強して父親と共に研究を進めていた一方で、卒業後の進路の準備していたのさ」
「卒業後の進路?」
「そう。彼は卒業後、もちろん政治家になること。それも……【衆議院議員】って呼ばれるものにね」
「っ!?」
そうか、だから夢の中に出てきた翔太が付けていた議員バッジが衆議院のものだったのか!
「だとしても、衆議院議員になるには、それ相応の支持者がいないと、なれるものでも無いと思うぞ。ましてや、卒業して間もない若者だろ? いくら父親が国民からそれなりに人気があったとしても、それとこれとは話が……」
まぁ、仮に親父さんのお陰で衆議院議員になったとしても、翔太のような所謂【二世議員】って呼ばれる人間は、何かと騒がれて調子に乗ってそのまま……なんてことがあるからな。
そうなった場合、翔太の『総理大臣になる』って野望も、あっという間に水の泡だ。
「そうなんだね。でも、翔太はそのことも加味して動いていたんだよ」
≪翔太が【大学院生】という社会的立場だった人間の頃、家族や友人に思惑が悟られないよう細心の注意を払いつつ、政治に関してのあらゆる知識を身につけたAIに、自身の考える【公約】って呼ばれるものが現実になるか分析してもらったり、自身の口調や話し方、言葉の選び方があらゆる人間の心を掴めるか見てもらったり、数多の政治家の中から誰が自分にとって有利に働く人物か割り出してもらったりしていたんだ≫
「それはまぁ……随分と勉強熱心だな」
「律、それ本気で言っているの?」
おや、人間のことをよく分かっていない神様からこんな言葉が出てくるとは。出会った頃に比べてみれば、人間のことが大分よく分かってきたな。
「俺が呆れ顔で言っていることが、本気だと思うか?」
「いや。僕が知っている限り、律がそういう顔をしながら言っている時って、本気で言ってないよね?」
おっ、分かってきたじゃねぇか。
「まぁ、そうだな。オブラートに包まずに言うなら、政治家としては一応先輩の父親よりも、父親の研究対象であるAIのことを随分頼っているんだなと思ったんだよ」
「そういうことね」
≪翔太は、【大学院】って呼ばれる学校に主席で卒業するまで、父親との研究を利用して有力者達とコネを作りながらも、その傍らでAIと一緒に少しでも早く政治家としては大成する為の準備をしていた。彼にとって、当時の日本は【腐食まみれで手の施しようが無い国】としか思っていなかったからね。少しでも早く、良くしたかったみたいだよ≫
「まぁ、そうだろうな」
クロノスから聞いた限りにはなるが、この世界の住人ではない俺でも、この世界の日本ははっきり言って『終わっている』の一言に尽きる。
この世界の住人である翔太は、きっと俺以上に当時の日本に対して思うところがあっただろう。じゃないと、政治家として無能な父親に対して憎悪を抱きながらも、父親を利用して政治家としてのし上がろうとは思わないだろうしな。
≪そうして彼は、順調に大物政治家や有力者達とのコネ作りとAIの分析を基にした政治家基盤を作っていった結果……彼が大学院を卒業して1年後に、衆議院議員として【政界進出】ってものを果たしたのさ≫
「一年!? 本当かよ!?」
大学院を卒業した翌年に衆議院議員になるなんて、この時代の日本の政治、大丈夫か!?
いや、大丈夫だと言えないほどに政治腐敗が進んでいるのは、ここまでのクロノスの話で十二分に理解しているんだが……
「本当だよ。当時は『史上最年少の国会議員』って、もて囃されたみたいだけど」
「いや、そうかもしれないけどな……社会人としてまだまだの若者を、国の政治に関わらせるなんて、俺のいた世界では到底考えられなかったぞ」
会社に例えて言うなら、入社二年目の奴に管理職を任せるようなものだ。そんなの、普通に考えたら正気の沙汰じゃねぇ。
「まぁ、律が言うならそうなのかもしれないね。でも彼は、大学院卒業後に地道な広報活動をして有権者からの支持を集めていたし、彼の政界進出を知った有力者や大物政治家達は、挙って彼を後押ししたらしいよ。それに、彼が【選挙】って呼ばれるものに出た時、その当時の選挙は律のいた世界に比べれば明らかに【公平性】ってものがなかったようだし、彼が『自分にとって、都合が良い駒』だと思っていた人達が大勢いたみたいだから、【投票数の不正】ってやつをして彼を政界進出させたようだよ。もちろん、これは全てAIから導き出された最善の方法だったから、翔太から見れば当然の結果だったのかもしれないけどね」
「……何か、色々とクズだな」
全く、夢の中では『世の中のクズさを変えたい!』と立ち上がった人間が、まさか世の中のクズさを利用して政治家になるなんて……まぁ、翔太が『自分達にとって有利な駒になりそうだから』と、不正をしようが何しようが翔太を政治家として引き入れてた奴らも、それを見越して『これが政治家になる一番の近道だから』と確信して翔太に実行させたAIも大概なんだけどな。
≪そうして、晴れて衆議院議員になった翔太は、前以ってAIと一緒に練った公約と次々と法案化して可決させていったんだ≫
「へぇ~、国会議員になって一年目で次々と公約を実現させるなんて、保守的な奴らしかいなさそうな国会で、よくもまぁ成立させたな」
「まぁ、さっきも言ったけど、翔太が国会議員になる前、彼は政界進出の準備の一環で、自分に有利に働く人間達をAIに割り出してもらい、その人間達全員と選挙が始まるまでにコネを作っていたから、すんなり通ったんだと思うよ。彼を国会議員に仕立てたのも、その人間達のお陰だしね」
「なっ、なるほど……」
つまり、翔太が国会議員になった時点で彼が掲げていた公約の実現は、約束されていたようなものだったのか。
「ちなみに、翔太はどんな公約を掲げていたんだ?」
「う~ん、人間に疎い僕にはよく分からないんだけど……確か、『自分の肥やしを増やしたい人間にとっては聞こえが良いものなんだけど、実はそういう人間達の首を容赦なく絞めて、国民にとって非常に都合が良いもの』っていうのが、翔太の掲げた公約だったはずだよ」
「えっ、そうなのか!?」
己の財産を増やすには余念がない奴らが国を牛耳っている状況で、よくそんな公約を掲げて実現させたな!
「そうみたいだよ。まぁ、そういう人間達って、自分に【利益】ってものがもたらされれば、それ以外はどうでも良かったようだけど」
「……なぁ、そんな奴らがどうやって国を動かしていたんだ?」
「そんなの、人間のことに疎い僕に言っても意味無いよ」
そうだよなぁ。まぁ、これに関しては自業自得としてか言えないな。自分の都合良いことしか興味を抱かない人間の末路がろくでもないことぐらい、この世界の人間でない俺でも分かることだ。
「それにしても、翔太の公約ってかなり国民寄りだったんだな。てっきり、有力者や大物政治家に胡麻をすったものかと思った」
「まぁ、翔太に手を貸しているAIが『欲に溺れた奴らに対して、有益な公約を実行させても無駄』って判断したみたいだし、翔太自身も無駄なことはしたくなかったみたいだよ。それに、波風立たないような公約を実行させて、より多くの支持者を集めた方が、翔太の【総理大臣になる】という次なる野望が実現するって考えたんじゃないかな」
「なるほど。実に打算的ではあるが、そういう奴らしか集まっていなさそうな国会では、比較的まともなのかもしれないな」
≪こうして彼は、次々とマニフェストを可決させ、父親以上に国民から多大な支持を得て、多くの国会議員から絶大なる信頼を得た結果、彼が国会議員になって4年後……渡邊 翔太は、史上最年少の内閣総理大臣として国の舵を握る立場になった≫
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