14日目 強欲と対価③
これは、とある男の旅路の記録である。
※≪≫はクロノスの語り部の部分です。
「それはまた……研究者としてなら問題無いのかもしれないが、政治に関わっている人間としてどうなんだ?」
拓也の場合、成り行きで大臣という立場になっただけで、根っからの研究者気質は変わらない。だから、彼が政治に興味が無いのも、コネ作りに消極的なのは何となく理解した。
だが、彼は曲がりなりにも政治の一端を担っている人物だ。
それ故に、国民のことや自分の抱いている理想を実現する為にも、政治家として有力者や大物政治家とのコネとかが必要だと思うんだが……よくもまぁ、翔太が高校生になるまで大臣としての立場が維持出来たな。
「そうなんだよね。でも、拓也が政治に興味が無いと分かっていたとしても、彼の研究に対する真摯な姿が国民や最先端技術に精通している有力者に人気だったから、そんな彼を権力者達は無下に扱うことが出来ず、結果的に翔太が高校生になるまで立場が維持出来たんだ」
「なるほどな」
≪実の父親が、政治家としてあまりにも無能だということを人伝に知った翔太は絶望した。
何せ彼は、大臣という責任ある立場として部下達の話を真摯に聞いて的確な指示をしたり、有力者を親しく話したりしている父親の姿を間近に見て来たから『自分の父親は、政治家として優秀なんだ』と思い込んでいたからね≫
「まぁ、気持ちは分からんでもないがな」
「そうなの?」
「そうだな。幼い頃の父親の姿って、大抵はフィルターがかかっているからカッコイイって憧れを抱いても仕方ないんじゃないのか」
それでも、高校生まで父親がカッコイイと思っているなんて、ある意味純粋だなと羨ましいと思うけどな。
≪そんな父親の本当の姿に絶望した翔太は、ある願望を抱いたんだ≫
「願望?」
「そう」
≪『父親以上の立派な政治家になる』という願望をね≫
≪翔太は、幼少期から父親の影響で【英才教育】ってものを受けていて、彼が通っていた小学校・中学校・高校は、その国で【難関校】って呼ばれるところで、そこで常にトップを取っていたんだ。
翔太の性格も、誰に対しても品行方正で分け隔てなく親しく出来て、誰からも親しまれる人格の持ち主で、社交的だった母親の影響で人望はとても厚かったのさ≫
「へぇ~、良く出来た息子じゃねぇか。これは親としては鼻が高いんじゃねぇか」
「まぁ、そうだね。研究者気質の父親だったけど、息子の活躍には手放しで褒めていたらしいよ」
≪そんな翔太だったんだけど、政治家になる為に必要なものが無かったんだ≫
「必要なもの?」
「そう」
≪それは、有力者や大物政治家とのコネが無かったこと。まぁ、拓也は元々研究者だったし、大臣になってからも研究者でいた拓也は、最先端技術に関する人間としか積極的に関わっていなくて、政治家としての野心が無かったから、コネが無いのは仕方ないんだけどね。
そんな政治家として無能な父親に憎悪を募らせた翔太は、難関の大学に主席で入学したのと同時に、父親に頼んで見習い秘書としてバイトをすること決めたんだ≫
「父親の下でバイト? 政治家しての父親を憎んでいるのにどうして?」
「それはね……」
≪いくら父親が政治家として無能でも、それなりに人脈があった。だから彼は考えた、政治家として無能の父親や父親が作ったコネを踏み台にして、様々な政治家とのコネを自力で作ることをね。そうすることで、父親以上の優秀な政治家になれると確信したのさ≫
「何とまぁ……でも、父親の憎悪でそこまでは考えらえるんだったら、わざわざ父親を踏み台にしなくても、優秀な頭と人の良さを使って自力で立派な政治家になれると思うんだけどな」
「それでも、翔太にとっては【渡邊 拓也】という人間の存在は、とても大きかったらしいよ」
「そうなのか?」
≪早速翔太は、様々な政治家とコネを作る為に思案したんだけど……実は、翔太の存在は政治家の間では既に広がっていたんだ≫
「だろうな。何せ、国民に大人気の父親なんだからな。逆に目立たない方がおかしな話だ」
「そうなんだね。でも、彼にとってはそれが足枷だったみたいだよ」
「足枷……あぁ、そういうことか」
いくら国民からの人気が篤くても、政界では疎まれても仕方ない人物だっただろうからな。それが大物政治家や有力者とのコネ作りをしようと思案している息子に影響したってことか。
≪翔太は『いくら自分が人望の厚い性格で、大学で政治について熱心に学んでいても、【渡邊拓也の息子】という足枷のお陰で、有力者どころか実力のある政治家と話すことも難しい』と頭を悩ませていた。
そんな大きな足枷で『父親以上の立派な政治家になる』という夢が潰えそうになった時、彼は『天啓を得た』と言って父親にバイトを頼む時にこんなお願いをしたんだ≫
「『AIを使って、政治家になりたい』と」
「AIを使って政治家になる?」
それって、SF系のアニメや小説ではありそうな展開しれないが……こういうのって、翔太のような野心を持ったやつが行き着く考えなんだよな。
「そうだね」
つまり、AIを使って楽して政治家になるってことか?
だとしたら、やってることが保身しか考えていない政治家や有力者と何ら変わらないぞ。
≪翔太は、父親の政治家らしい野心を抱かない考え方に憤っていながらも、自分が政治家としては力量不足なのは自覚していた。だから、父親に『AIを使って、政治家になりたい』と言った後にこう続けたのさ。
『AIを使って政治のメカニズムを研究しようと思っているんだ。しかし、政治ばかり勉強している僕には、父さんのような豊富なAIの知識は無いし、立派な研究者にはなれない。だから、父さんの力を借りて研究を始めようと思うんだけど、どうかな?』と。
今までAIの実験に対して何の見向きしなかった息子が、ある日突然AI研究に携わりたいと言ってきたことに、拓也は、父親として息子の成長に喜び、一研究者として魅力的な研究であると感じたんだ。
まぁ、彼は人間でいうところの【研究バカ】であり、【親バカ】だったんだよ。
そんな父親の喜びように、翔太は表面上で微笑ましく笑顔を向けながらも、内心で『バカな奴』と嘲笑っていたんだけどね≫
「うわぁ~」
息子に利用されているなんて思い至らず純粋に喜んでいるとか……拓也が気の毒すぎる。
≪研究者としても父親としても翔太の提案した実験を協力することにした拓也は、早速翔太が勉強している政治学や当時の日本の政治をAIに勉強をさせたんだ。
それだけではなく、拓也は自分の名前を使って、政治学に精通している教授のところに血直接赴いて話を聞きに行ったり、有力者や大物政治家を翔太に会わせて、これからの日本の政治について話し合わせたりして、その内容をボイスレコーダーに収めてAIに分析させたんだ≫
「ボイスレコーダー? どうしてそんなことを?」
AIに勉強させるなら、政治学やテレビや新聞等で勉強させれていれば事足りるのではないだろうか?
「それは、翔太が『大物政治家や有力者に話を聞いて、その口ぶりや話し方でその人が政治に対してどれだけ関心を持っているのか分析させよう』と進言したからだよ。拓也は全然乗り気では無かったみたいだけど、翔太が大物政治家や有力者とコネを作る時に備えて培った【話術】で渋々納得したみたいだけどね。それに、翔太自身も父親経由ではあったけど、無事にコネを作ることが出来たしね」
「なるほどなぁ……ということは、翔太の目的だった『大物政治家や有力者とコネを作る』という目的は達成されたんだな。だとしたら、AIを頼らなくても研究の際に作ったコネや優秀な頭と厚い人望を使えば、ゆくゆくは『父親以上の立派な政治家になる』という願望も叶うんじゃねぇのか?」
「まぁ、律の言いたいことは何となく分かるよ。でもさ……」
不気味に口角を上げたショタ神様が、足音を立てることなく俺の目の前に来ると、ゆっくりと顔を近づけて下唇にそっと人差し指を当てた。
「もし、翔太が大物政治家や有力者とコネを作った時点で、既に違う願望を持っていたとしたら?」
「違う願望?」
首を傾げる俺に、クロノスは笑みを深めた。
「そう、彼は大物政治家や権力者達をコネが作れると分かって時点で、次の願望を抱いていたのさ……『AIに勉強させたことや分析させたことを使って数多の政治家を蹴落とし、国のトップに相応しい政治家になって、ゆくゆくは自分が理想としている【国の在り方】を実現させる』という欲深い願望をね」
「っ!?」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!




