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14日目 強欲と対価②

これは、とある男の旅路の記録である。


※≪≫はクロノスの語り手の部分になります。

「あの男?」

「うん、この人間なんだけど」

「ん?……っ!?」



 クロノスが両手でお椀を作ると手のひらの上に白い球体が現れ、白い球体の中に成人男性の顔が映し出された。その男の顔を見た瞬間に息が止まった。



「こっ、こいつは!?」

「律、この人間のことを知っているの?」

「いや、知っていると言えば知っているんだが……実は昨日、俺の夢の中にこの男が出てきたんだ」

「夢?……あぁ、人間が睡眠をしている時に見るものか。へぇ~、律はこの人間とその夢の中で出会ってたんだね」

「まぁ、出会ったというか見たってだけなんだけどな」

「そうなんだ。でも、律がこの人間と出会っても不思議じゃないと思うけどね」

「そうなのか?」



≪彼の名前は、【渡邊 翔太】。国を動かす者……【国会議員】と呼ばれる国民達に選ばれた人間の一人なんだ。

 彼は、27歳という年齢で国の法律や憲法を作る人間達の集合体である【衆議院】にいたんだ≫



「やっぱり、この男……【渡邊 翔太】は衆議院議員だったのか」

「やっぱりって、夢でこの人間が律にそんなことを言ったの?」

「いや、さっきも言ったがこの男と言葉を交わしていないが、この男が付けている【バッジ】って呼ばれるものが、衆議院議員しか付けられないバッジなんだ」

「へぇ~、人間達はそうやって【立ち位置】ってものを区別しているんだね」

「別に区別しているわけでは……それしても、27歳で衆議院議員になるとは、『渡邊 翔太』って人間は余程カリスマ性があったんだな」

「律の目から見ても、27歳で衆議院議員になるってスゴイことなの?」

「まぁ、そうだな。確か、25歳で衆議院議員になれる権利が貰えるんだが、20代で衆議院議員になるって、滅多にないことだったと思う」

「そうなんだね。まぁ、この世界の【世情】ってものが律のいた世界より酷いからね。衆議院議員なんて、年齢には拘るけど野心と【コネ】ってものが呼ばれるものがあれば、誰でもなれたらしいから」

「あっ、あぁ」



 この世界の日本は、俺のいた世界以上に野心とコネが必要なんだろうな。何せ、権力者達が我が物顔で国税を使っているんだからな。少しでも、自分にとって都合の良い人物なら、誰でもなれるんだろうな。

 と、いうことはこの男も……



「なぁ、こいつもそういう野心とかコネとかあったのか?」

「まぁ、そうだね。そうじゃないと議員なんてものにはなれないらしいからね」

「へぇ、野心はまだしもこの歳でコネがあるなんて、本当にカリスマ性があったんだな」

「う~ん、どっちかって言ったらこの人間がっていうより、この人間の父親のコネを利用したって言った方が正しいのかな」

「父親ってことは、こいつの父親も国会議員だったのか?」



 だとしたら、この男は俗に言う【二世議員】って呼ばれる人間なんだな。

 まぁ、そう呼ばれる人間って、大半がろくでもないことをしでかすが。



「いいや、彼の父親は国会議員では無かったよ」

「そうなのか?」



 じゃあ、コネはどこで作ったんだ?



≪彼の父親……【渡邊 拓也】って言うんだけど、彼は人工知能を使った最先端技術に精通していて、彼自身も【研究者】と呼ばれる立場で人工知能を使った最先端技術の更なる発展の為に研究にしていたんだ。その甲斐あったか、彼は【最先端技術担当大臣】って言われる国の中枢を担う人間の一人に選ばれたんだ。

彼は最初、『自分は、一研究者として国の為に尽力するだけだ』とその立場になることを拒否したみたいだけど、彼に声をかけた国会議員に『君がこの立場になれば、最先端技術の研究予算を上げられるかもしれないぞ。そうなれば、更なる最先端技術の発展に繋がるんじゃあないのか?』って(そそのか)されて大臣になったんだ≫





「本当、クズだな」



 『自分の利益向上と立ち位置の維持の為に声をかけた』という拓也を唆した議員のどす黒い思惑が見え見えなんだよ。

これがこの世界の日本では公然のように行われていたとか……クロノスを始めとする数多の神様達が、本気でこの世界を滅ぼしたいという気持ちが痛いほど分かった。



「まぁ、この世界では当たり前だったんだから仕方ないんじゃないかな。それに、彼が大臣になってから、彼に声をかけた国会議員の働きかけのお陰で研究予算が増えたみたいだから、彼自身も満足していたみたいだよ」

「そっ、そうなのか……」

「律、話を続けても大丈夫かな?」

「あっ、あぁ。良いぞ、続けてくれ」

「あと、人間って言うのが何だか面倒くさくなってきたから、ここからは律と同じように【拓也】、【翔太】って呼ぶことにするよ」

「おう、分かった」



≪翔太の父である拓也は、そういった経緯で大臣という権力者の一員になったんだけど、拓也自身は根っからの研究者気質だから、己の利益や立ち位置を守るってことにあまり関心が無くて……彼は純粋に最先端技術の発展の為だけに、大臣としての立場を遠慮なく使っていたんだ≫



「へぇ、この世界では結構まともな人だったんだな」

「まぁ、ねぇ」



≪拓也の大臣としての振る舞いは、彼と同じ最先端技術の研究者達や最先端技術の発展に携わる人間達にとっては尊敬に値するものだった。

 そして、拓也の最先端技術に対する真摯な姿勢は、当時の国民達に高く評価されて『次期総理大臣』と囁かれていたんだ。

 まぁ、当の本人は根っからの研究者だから、最先端技術の発展に尽くせれば他はどうでも良いと心の底から思っていたみたいだし、それを隠そうともせずに大臣の仕事をこなしていたらしいけど≫



「何だか、とても(いさぎよ)い人だったんだな」

「そうだね。律のいた世界でもこんな人はいなかったでしょ?」

「まぁ、そうかもしれないな」



 ここまで真摯に自分の仕事と向き合う大臣って、中々いなかったと思う……あくまで主観的な感想だが。



≪そんな拓也のことを尊敬する人間が多い反面、目障りと思う人間も多かった≫



「まぁ、そうなるよな」

「本当、人間ってどうしてこんな愚かなことを思うんだろうね?」

「あれだ。『出る杭は打たれる』ってやつだな」

「目立つことをする奴は許せないってやつだよね?」

「そういうこと」



≪拓也本人が知らず知らずのうちに多くの国民達に好かれてることを気に食わないと思っていたのは、彼に声をかけた国会議員や当時の権力者達……そして、彼の息子である翔太だった≫



「翔太? 国の一端を担っている実の父親のことが、どうして気に食わなかったんだ?」



 大臣として仕事をしている父親のことを、多少なりとも尊敬の念を抱いていてもおかしくないと思うが……



≪翔太は、幼少期の頃から『将来、自分が国を背負う人間になる』ことを夢見ていたんだ。それは、父親の拓也が最先端技術の大臣として真面目に働く姿に、【憧れ】ってものを抱いていたからなんだよ。

 実際、翔太は拓也に連れられて父親が働く職場を何度か訪れたことがあったし、そこで働く職員や官僚とは顔馴染みになる程に仲が良かったんだ≫



「へぇ~、幼い頃から翔太は父親の背中に憧れを抱いていたんだな。そして、拓也が息子に対して親バカだったのか。だとしたら、尚更翔太が拓也のことを気に食わないと思ったか、分からなくなってきたんだが?」

「それはね、翔太が拓也の仕事と真意を知ってしまったからなんだよ」

「仕事と真意?」



≪翔太が【高校生】っていう人間になった頃、彼は自分の父親が本当は一体何の仕事しているのかを知ったんだ。

 それと同時に、父親が大臣になった経緯や大臣になった今でも純粋に最先端技術の発展の為に尽力していること。それ故に、政争には全く関心がなくて政治に対して野心も無ければ有力者とコネを作ることに必要性を感じていないことを理解してしまったんだ≫


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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