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14日目 強欲と対価①

これは、とある男の旅路の記録である。


※≪≫部分は、クロノスの語り部の部分になります。

「うっ、ううん……ん?」



 いつの間にか重たくなった瞼を開けると、そこには幼い頃に家族で地元の科学館に行った時、プラネタリウムで見た満点の星空が視界いっぱいに広がっていた。


 へぇ~、星空って間近で見るとこんなにも綺麗なんだな……ん? 星空?



「ほっ、星空!?」



 慌てて飛び起きて頭上に広がる数多の煌めく星々に言葉を無くしていると、横から呑気な声が聞こえてきた。



「あっ、律。おはよう」



 声の聞こえた方に顔を向けると、起き抜けの俺のことを何の気なしに見ているクロノスがいた。



「おはよう……じゃなくて!」

「あれっ、人間の間では【朝】と呼ばれる時間には【おはよう】って挨拶を……」

「それはもういい!!」



 今はそんな天丼に付き合っている余裕は無いんだよ!



 起きて早々テンションが上がっている俺に、クロノスがクスクスと笑った。



「フフッ、ちょっと【からかい】ってやつをやってみただけだよ。なるほど、人間を【からかう】ってことをしたら、本当にそんな反応をするんだね。うん、理解したよ」

「……悪いが、それはこの状況を説明した後にしてくれないか?」

「うん、分かった」



 どうやら、俺の隣にいる神様は、2週間経っても【空気を読む】ということが理解出来ていないようだ。



「それで、どこなんだ?」



 清々しい笑顔のクロノスを見て大きく溜息をついた俺は、ゆっくりと立ち上がった。


 というか、地面がないのに何不自由なく立ち上がれるなんて、これも神様の加護なのだろうか。



「どこって、人間の言葉で言うなら【宇宙】だよ」

「う、ちゅう?」



 宇宙って、スペースシャトルでしか行けないあの宇宙か?



「そうだよ」



 不思議そうな顔で小首を傾げるクロノス。


 お前、よくその仕草をするな……じゃなくて!



「はーーーーーー!?」





「律、うるさいよ。そんなに大きな声で叫ばなくても聞こえるよ」



 迷惑そうに眉をひそめるクロノスだが、今はそれどころじゃない!!



「俺、今宇宙にいるのか!?」

「だから、さっきからそう言ってるじゃない」



 噓だろ!? 俺、生身で宇宙にいるのか!?



「なぁ、俺は今の状態で大丈夫なのか!?」

「どういうこと?」

「宇宙って、酸素が無いんだろ!? 人間は、酸素が無いと生きていけないんだ! それに、重力の関係で人間の体が潰れてることだってあるらしいんだ!」



 だから、【宇宙服】って呼ばれるやたら分厚い特殊な服があるんだよ!



「そうなんだね。でも、大丈夫だよ」

「何だよ、また『神様の加護があるから大丈夫だよ』とか言うつもりなのか?」

「ほう……律、僕のことが大分分かってきたじゃないか」



 満足げな笑みを浮かべるクロノスに、再び大きく溜息をついた。


 神様の加護、本当にチートすぎる。





「それで、どうして俺を宇宙に連れて来たんだよ」



 この神様が無意味に人ならざる力を発揮するはずがない。



「それはね、これを見て欲しいかったからだよ」



 自信あり気に口角を上げたクロノスが人差し指を真下に向けた。



「ん? 下?……っ!? クロノス、これって!?」

「そうだよ、律だったら分かるよね」



 優しく微笑むクロノスの指した方向……そこには、俺がこの世に生を受けてから、今の今まで暮らしている【日本】があった。



「日本、なのか?」

「そう。律が生きている【日本】って呼ばれる場所だよ。でもね、律。ここは()()()()()()()()()()()()()んだよ」

「どういうことだ?」



 そんなの、この旅行が始まって2日目に教えてくれたじゃないか。



「律、よ~く見てごらん」

「ん?」



 含み笑いのクロノスに言われるがまま目を凝らして見てみると、あることに気づいた。



「ん? 所々(ところどころ)にドームのようなものがあるぞ」



 俺が知っている日本列島には、ドームのようなものがあちこちに点在していた。それも、綺麗な半球状ではなく都道府県の形に添った歪な形をしていた。



「うん、そうだね。その【ドーム】って呼ばれるものは、()()をしているかな?」

「何色って、もちろん……っ!?」



 ドームの色を口に出そうとした途端、クロノスが俺をこの場所に連れて来た意味が分かった。


 なるほど、クロノスは俺にこれを見せたかったんだな。



「ねぇ、律。ドームの色は何色かな?」



 全く、白々しい言い方をするなぁ。

 このショタ神様、実は悪魔の生まれ変わりとかじゃねぇよな。


 大きく深呼吸をすると、ドームの色を口に出した。



「ショッキング、ピンク、だな」

「正解だよ」



 いたずらっ子のような笑みを浮かべるクロノスを軽く睨みつけると、俺の隣にいたクロノスが無重力空間の中を平然とした顔で歩いて、俺の真正面に立った。



「それじゃあ、律。この世界についての話をしよう」

「この世界の、話?」



 そんなの、今までやってきたじゃないか。



「そうだよ。この世界の()()についての話さ」





≪この世界が今の形になる前、この世界は律がいた世界と同じような形を保っていたんだ≫



「まぁ、そうだよな。この世界自体が俺のいた世界が辿る最も近い未来だからな」

「うん、そうだね。でもね……」



≪でも、この世界の現状は、律のいた世界以上に愚かなものだったんだ≫



「俺がいた世界以上に愚かなもの?」



 一体、どういうことなんだ?



「うん。まぁ、聞いててよ」



≪この世界……というより、この時間軸の日本では、律のいた日本と同じように武力を()って争いは無かった。でも、【国民】と呼ばれる人間が日本という【国】に献上するお金は、人間一人が稼ぐお金……【収入】の5割だった≫



「5割!? 収入の半分が税金として納めさせられたのか!?」

「へぇ、【税金】って言うんだね。そう、収入の半分が税金として国に納めてたんだよ」

「そんな無茶苦茶な……」



 俺のいた世界でも、収入の5割が税金とか流石に無かったぞ。それに、その税率だとしたら、残った手取りでまともに生活出来る人間が、国民全体の何割にだったんだ?



「でも、税金ってことは当然のことだが、国民の為に使われてたんだよな? そうじゃないと、下手したら国民の大半が野垂れ死にするかもしれないぞ」

「それなんだけどね……」



≪国民から献上された税金のうち、国民の為に使われてたのは……たったの1割だったのさ≫



「1割!?」



 そんなの、ほぼ使われていないのと同じじゃねぇか!?



「それで、残りの4割はどうなったんだよ?」

「それはね」



≪1割は民が住む土地を治める者達へ、1割は国の維持に使われた。そして、残りの2割……国を思うように動かせる者達や、所謂(いわゆる)【権力者】って呼ばれる人間達の私腹を肥やしていたんだ≫



「はぁ!?!?」



 国民の税金が、ごく一部の権力者に有力者、議員や高級官僚の私腹を肥やしていたのか!?

 この世界の日本、俺がいた世界以上にクズ過ぎる!



「まぁ、律が叫ぶのも分からなくも無いよ。この世界のルールは、僕たち神様から見ても実に悲惨だったさ。本気でこの世界を無くそうか考えたくらいにね」

「出来れば、問答無用で無くして欲しかった」



 こんな世界が、俺のいた世界が辿る最も可能性が高い未来とか、本気で考えたくねぇからよ。



≪権力者達は、自分達に都合の良い【法律】と呼ばれるものを次々と【草案】ってものをさせては、成立させていって私腹を肥やしていった。

 そんな権力者達が身勝手な法律を次々と成立させるお陰で、【国民】と呼ばれる人間の貧富の差は、律のいた世界以上に激しいものになった。それも日に日にね。

 そして、国を動かす者達は国を動かす者達で、やれ派閥争いだの、やれ権力争いだの、自分の立場と財産維持に熱を上げて、国民のことなんかそっちのけで常に足の引っ張り合いをしていた。

 そうして、権力者達や国を動かす者達が自分本位の法律を成立させる一方で、国民の為の法律なんてものは全く作らなくなり、律のいた世界から適用されていた法律すらも形骸化の一途を辿ったんだ≫



「なぁ、クロノス。今からこの世界を滅ぼしてくれないか?」

「それ、時の神様である僕でも出来ないから。独断で滅ぼしたら、他の神様がうるさいしね」

「……すまん、続けてくれ」



≪権力者達や国を動かす者達の暴走に呆れ果てた国民達は、法律が形骸化されたことと【自分達の生活を守る】という大義名分で法律に逆らうようになり、生きるために手段を選ばなくなった国民同士での生殺与奪が起きるようになったんだ≫



「国民同士で、生殺与奪が……」

「そうだよ」

「でも、そんなことをしたら、罪に問われて裁かれるはずだが?」

「残念だけど、権力者達や国を動かす者達が国民同士の生殺与奪を『国民同士の問題』と足蹴にしていたし、彼らにとって都合良い法律が次々と作られると同時に、不都合な法律は片っ端から【廃案】ってものにしていたから……結果的に、罪を犯した者を裁く人間がいなくなってしまったんだ」

「そんな……」

「はっきり言って、僕たち神様が直接手を下さなくても、この国が崩壊するのは時間の問題だったわけ」

「俺としては、こんな日本はさっさと滅んで欲しかったんだが」



 こんな我欲に忠実な日本なんて、(いさぎよ)く崩壊してくれた方がこの世界の為になると思う。



≪そんな時だった、彼が現れたのは≫


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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