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13日目 犯罪と処刑③

これは、とある男の旅路の記録である。

「おい、クロノス。これは一体、どういうことなんだ?」



 警察ドローンと逃走劇を繰り広げている俺に驚いて、そのままクロノスの方を見ると、無表情で必死の形相で走っている俺のことを見ていた。



「ここはね、律が初めてこの世界に来た日の時間軸なんだ」

「っ!?」



 目を丸くして足元をくまなく見てみると、初日に立ち寄った公園や、その公園にいた人間……ではなく、アンドロイドが警察ドローンの過ぎ去った後を見届けている光景が見えた。

 というか……



「同じ人物が同じ時間軸にいたら、タイムパラドックスが起きて、どちらかの人間が存在出来ないじゃないのか!?」



 確か、ファンタジーものでは有名なことだと思うが!?



「タイムパラドックス?……あぁ、あれね。でも確か、今の律が過去の律に会ったら起こることでしょ? 警察ドローンと鬼ごっこしている人間が、上を見上げて空中にいる人間を認識するとは思えないし、万が一に起こったとしても、時の神様である僕がどうにかするしね」

「あっ、あぁ……」



 表情を変えず淡々と説明するショタ神様に、俺は納得するしかなかった。


 さすが時の神様と言うべきか、時を止めるだけじゃなく時を(さかのぼ)ることが出来るとはな。

 でも、そうだとしたら……



「どうして、俺の前にクロノスがいないんだ?」



 そう、俺が初めてこの世界に来た日、警察ドローンに捕まりそうになったところを、クロノスが俺の手首を掴んで一緒に逃げてくれた。

 あの時は、クロノスのことを巻き込みたくないからと、必死にクロノスを俺から離そうと無い知恵絞って画策していたが……今考えると、とんでもなく無謀なことだった。



「そうだね。確かに、警察ドローンと追いかけっこしていた時、律の前には僕がいたね。でもね、この時間軸は……所謂(いわゆる)【IF】と呼ばれる時間軸で、僕と律が仲良く警察ドローンと鬼ごっこをしている時間軸じゃないんだよ」

「っ!?……それは、どういうことなんだ?」



 正直、この後の言葉をクロノスに言わせたくないし、クロノスから聞きたくもない。

 クロノスと今いる時間軸が『俺とクロノスが一緒に仲良く警察ドローンと鬼ごっこをしている時間軸じゃない』と言った時点で、大体の察しがついた。

 でも、聞かないといけない。もしかすると、俺がまたとんちんかんなことを思っているだけなのかもしれない。いや、そうであって欲しい。

 そうでないと、俺はこの世界のことが益々嫌いになっていく。

 そもそも……逃げている俺のことを、クロノスが『犯罪者』と呼んでいた時点で気づくべきだった。



「ここはね、僕が律を救わなかった世界の時間軸なんだよ」



 その瞬間、逃げ惑っていた俺を大勢の警察ドローンが取り押さえている光景が、啞然としている俺の視界に入ってきた。





『放せ、放せよ! 俺は、この世界に来たばかりなんだよ!』



 逃走していた俺を警察ドローンが確保した途端、空中で胡坐をかいていた俺の耳に息を切らせながら警察ドローンに抵抗している俺の声が届いた。



「クロノス、これは一体何だ!? 俺の耳に、警察ドローンに捕まって藻掻き苦しんでいる俺の声が聞こえて来たんだが!?」



 突然のことに目を見張って片耳を抑えると、隣で無表情に観察している神様を睨み付けた。



「あぁ、それね。それは、律が少しでも下の様子が分かるように、僕の力で律の耳にも聞こえるようにしただけだよ」

「しただけって……まぁ、いい。とりあえず、ありがとうな」

「ううん、別に構わないよ」



 神様のありがたい御業(みわざ)にツッこむことを諦めた俺は、視点を無表情の神様から足元で警察ドローンが持って来たであろう銀色の鉄格子に入れられようとしている俺に移すと、ゆっくりと立ち上がった。


 というかお前、どうしてそこまで冷静に、激しく抵抗している俺のことが見れるんだよ。





「律、そろそろ罪を犯した人間が、警察ドローンに連れて行かれるよ」



 抵抗虚しく人間が1人だけ入れる鉄格子に無理矢理入れられた俺に、警察ドローンが鉄格子の上から緑色の大きな布のようなもので覆い隠すと、鉄格子の前を一列に並びに始めた。



「あぁ、そうだな。それで……やっぱり、ついていくのか?」

「もちろん、ついていくに決まっているさ……あっ、動き始めたね。僕たちも行くよ、律」

「あっ、あぁ」



 能面のような顔をしたクロノスが俺の左手を握ると、先導するように宙に浮いたまま警察ドローンの後をついて行き始めた。

 予告なく握られた手に少しだけ目を丸くすると、眼下で警察ドローンに連行中の俺が入っている布を被った鉄格子と、ショタ神様に握られた手を見比べた。


 もしあの時、クロノスが俺の左手首を掴まなかったら……



『おい、出してくれよ! そして、俺の話を聞いてくれよ!』

『何度も言っている! 犯罪者であるお前をこのまま野放しなんて出来るはずがない!』

『はっ、犯罪者!? 俺が一体、何の罪を犯したっていうんだよ!』

『街の治安維持に、多大な損失を与えようととした!』

『はぁ!? 俺はただ、この世界のことについて話を聞いただけであってですね!』



 あぁ、ごめん。

 この世界の時間軸にいる俺よ。

 この世界では【ライフウォッチ】って呼ばれるものを装着しないと、この世界では無法者扱いされるんだよ。

 そんなこの世界の常識でさえも、この世界の時間軸にいる俺は知らないまま、警察ドローンに連行されているんだよな……


 鉄格子の中で無我夢中で叫び続けている俺の声を聞きながら、空中から警察ドローンの後を追っている時の神様に手を引かれていた俺は、自分の無力さに顔を俯かせ、静かに下唇を嚙み締めた。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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