13日目 犯罪と処刑②
これは、とある男の旅路の記録である。
「不快?」
人間が不快に思うことが、この世界では犯罪として扱われるのか?
「うん。そして、その不快という感情を察知したライフウォッチが警察ドローンを呼ぶんだ」
「そうなのか!?」
「そうだよ」
だから、俺がこの世界に来たばかりの頃、どこからともなく警察ドローンが現れたのは、その場にいた人間……ではなく、人型アンドロイドが付けていただろうライフウォッチが察知したんだな。
というか、この世界の犯罪の定義が曖昧すぎて怖いんだが!
「でも、俺がこの世界に来て公園で休憩していた時、恐らく周囲にいたのはアンドロイドだろ? そんなAIに忠実であるお人形さんに『不快』なんていう感情があるのか?」
まぁ、この世界の人型アンドロイドの完成度の高さやホログラムの自然な受け答えを間近で見ている限りでは、人間の感情が理解出来ているとは思うが。
「無いよ。彼らの中にあるのは、疑似的なものだけさ。でも、本物の人間が持つ感情と然程変わらないと思うよ」
「そう、なんだな……」
この世界のアンドロイドが人間に近い感情を持っているということに、この世界の科学技術の末恐ろしさを改めて感じるんだが。
「だから、アンドロイドが『不快』と感じたら、それはつまり本物の人間が『不快』に感じたのと同類だから犯罪者として認識されるんだよ」
「そうなのか?」
「そう、そして、その『不快』という感情を持つアンドロイドが多ければ多いほど、不快にさせた人間の罪が重くなるんだよ」
「…………」
周りを不快にさせただけで犯罪者にされるとは……
「なぁ、クロノス」
「ん? 何かな?」
「二日目でお前が言ってた『治安と外観』の維持の『治安』ってそういうことなのか?」
「そうだよ。外にいるアンドロイドは不快の元になる原因を見つける役割を果たしているんだよ」
外に出れば、アンドロイドが罪を見逃さないように監視している……だから、外出する時は必ずプライベートゾーンを展開しないといけないんだな。
この世界の人間が、外出しない理由が単に人と会いたくないってわけではないんだな。
そうだとしたら、自分達で自分達の首を絞めている気がするし、自分達の首を絞めてまで外観と治安の維持が大事するなんて……この世界の人間が考えていることは、本当に理解出来ない。
「あっ、そうだ。律」
「ん、何だよ?」
冷酷な笑み浮かべながら立ち上がって徐に俺の隣に来たクロノスに対し、本能的に恐怖を感じた俺は少しだけ椅子を後ろに引いた。
コイツ、突然どうしたんだ!? 嫌な予感しかしないんだが!?
「この機会だからさ、僕と一緒に、この世界で罪を犯した人間がどうなるか見に行こうか?」
「はっ!? えっ、ちょっ!」
更に笑みを深めたクロノスが、突如として俺の視界を小さな片手で覆い隠すと、俺の耳元で指を鳴らした。
パチン!
すっかり聞き慣れてしまった指を鳴らす音が耳元で聞こえた瞬間、地に足を付けて椅子に座っている感覚が一気に失われた。
声にも出ない悲鳴を上げると、視界を覆っていた温かい小さな手がゆっくりと外れていった。
「さぁ、律。ゆっくり目を開けてごらん」
「んっ、んんん……うわぁぁ!!」
いつになく優しい声色で俺を諭すクロノスの声に導かれて、手を外す時に閉じられた目をゆっくり開けると……そこには、ショッキングピンクの世界が広がっていた。
「なっ、何だこれ――!?」
突然のことに腰を抜けしまい後ろに尻餅をついていると、横から何でも無さそうな声が聞こえてきた。
「何って、この世界の空だよ」
「そっ、空!?」
「そう、空だよ。律、何を驚いているんだい? 空の中に浮かぶなんて、カーロードで経験済みなんだから、今更そんなに驚かなくても良いでしょ?」
「いやいや、そういう意味じゃなくてだな……」
『カーロードで経験済み』って、それは車内という安全地帯があったからだろうが!
目を開けたら生身で空に浮かんでいるなんて、完全にファンタジーじゃないとありえないぞ!?
というか……
「どうして俺、ごく平然と空中で浮かべているんだ!?」
未だに尻餅付いて腰抜かしているが、重力が働いている世界のなら、唐突に空中に投げ出された人間の末路なんで、地面に真っ逆さまに決まっている。
「それは、僕の加護のお陰だよ。ほら、僕って一応は時の神様だからさ」
「あっ、あぁ」
そう言えば、そうでしたね。神様のやること、本当に理解不能。
「そもそも、どうして俺は、目を開いたら空中にいるんですかねぇ」
神様のやることなすことに対して思考放棄した俺は、その場で胡坐をかくと胡乱な目でこの場所に連れて来た張本人を見た。
「それはもちろん、この世界で罪を犯した人間の末路を見る為だよ」
「あぁ、そう言えばそうでしたね」
【生身で空中に浮かんでいる】という事実に驚きすぎて、頭からすっかり抜け落ちていた。
「ほら、そうこうしているうちに、この世界で罪を犯した人間が現れたよ」
「ん? どこだ?」
「ほら、あそこだよ」
クロノスが指で指した方角に目を凝らすと、そこに見えてきたのは……
「俺?」
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