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12.5日目 情報と隠蔽

これは、とある男と神様の旅行の一幕である。

 それは、ゲームのクリア画面を2人で仲良く観ていた時だった。



「ふぅ、とりあえずクリアっと……おっと、そろそろ晩飯時だな」

「そうみたいだね」



 クロノスがライフウォッチを使ってゲーム画面からテレビ番組画面に切り替えて、そそくさと次のゲームを選んでいるのを横目に、コントローラーを置いて一息つきながら徐にライフウォッチを見ると、晩飯を準備しても良い時間が表示されていた。


 本当に今日は、一日中ゲームをしていたな。まぁ、うちのショタ神様はまだまだゲームしたりないみたいだが。


 珍しくライフウォッチからポップアップを出して、その一つ一つを真剣な表情で見ているクロノスに苦笑いを浮かべながら、目の前から流れてきたニュース番組に目を向けた。


 今日も今日とて、人間様に都合が良いことしか言わないな。真実を伝えるニュース番組がそんなので大丈夫なのかよ、全く……あっ、そう言えば。



「なぁ、クロノス」

「ん、何だい?」

「ゲームを選ぶのを一旦休めてくれないか?」

「どうして?」

「俺に、チャンネルの変え方を教えてくれないか?」

「チャンネル?」

「あぁ、各テレビ局に割り当てられた放送枠みたいなものだ。ほら、今映っているやつだって、この世界のテレビ局が放送している番組だろ? それに俺、よく考えたらこの世界でテレビのチャンネルの変え方を知らないから、せっかくの機会だしこの世界のテレビをよく観ている俺に教えて欲しいなって」

「うん、良いよ。と言っても、テレビ番組を変える方法はライフウォッチに『注文(オーダー)、変えて』って言うだけで変えられるけど……」

「そうか、分かった。やってみる」



 早速、クロノスから教えてもらった方法でテレビのチャンネルを変えると、一瞬でニュース番組から、俺が元の世界でよく観ていたバラエティー番組に切り替わった。


 へぇ~、この世界でもこの番組やってるのか。何だか、この時だけ元の世界に戻った気分だな。


 未来の世界で馴染みのある番組を観れたことに、人知れず胸を躍らせながら観ていると、隣から遠慮がちな声が聞こえて来た。



「ねぇ、律」

「ん、何だ?」



 満面の笑みで隣を見ると、珍しく戸惑ったような顔をしたクロノスがいた。


 ん、どうしたんだ?


 クロノスの珍しい表情に、上がっていた口角を徐々に下げていくと、ショタ神様の小さな口が開いた。



「テレビ局って何?」





「はぁ? テレビ局っていうのは、テレビ番組を放送する会社のことだ。ほら、今映っているだろうが」



 困ったような顔をしながら小首を傾げるクロノスに、呆れながらテレビの方を指差すと、クロノスの可愛らしい眉が寄った。



「律、何を言っているんだい? この世界には【テレビ局】なんてものは、()()()()()よ」

「……はっ?」



 この世界にテレビ局が無い? だとしたら、俺が観ているこれは何だ?


 クロノスとテレビ画面を往復して怪訝な表情を浮かべると、俺の顔をじっと見ていたクロノスが突然、納得の表情を見せた。



「あぁ、律の世界では【テレビ局】ってものが、【番組】ってものを作って【放送】って呼ばれることをしているんだね」

「そうだが」



 そうじゃないと、【テレビ番組】ってものが存在しないだろうが。



「ふ~ん、でもこの世界ではそんなものは()()()()んだよ」

「どうしてだ?」

「だってこれ、使用者が観たいものを見せているにしかすぎないんだからさ」

「はぁ!?」



 ライフウォッチを通して人間が観たいものを見せているだけって……じゃあ、今映っているこれは、俺が観たいと思っていたから映ったってことか!?

だとしたら、俺がテレビを切り替える前に映っていたニュース番組は、ゲーム画面からテレビ番組に切り替えたクロノスが観たかったってことになるのか?



「あぁ。でも、律が切り替える前に映っていたニュース番組は、ちょっと特殊かな」

「特殊?」

「そう。この世界の【テレビ】って呼ばれるものは、ニュース番組以外は使用者の人間を尊重している。でも、ニュース番組に関しては、使用者の意思よりこの世界に住んでいる人間達の意思を尊重しているんだ」

「どうしてだ?」



 どうしてニュース番組だけ、この世界に住んでいる人間達の意思が関わっている?



「それは、観光客にこの世界の真実を知ってしまう可能性が高いからだよ」

「……どういうことだ?」

「人間達の間では、ニュース番組って『人間界の間で起きたことや、人間達が知りたい真実を伝える番組』って認識なんでしょ?」

「まぁ、そうだな」



 真実を伝えるニュース番組に『忖度ってものが働いていない』とは言い切れないがな。



「だから、万が一にも観光客が『注文(オーダー)、ニュース』ってライフウォッチに言って、この世界の真実が観光客に知られないよう、この世界の真実を知って欲しくないこの世界の住人達は、ニュース番組だけは自分達に都合の良い内容しか見せないようにしたんだよ」

「……つまり、この世界で流れているニュース番組は、この世界に住んでいる人間達のエゴが働いているってことなのか?」

「まぁ、そういうことだね」



 ここでも、この世界に住んでいる人間達の我儘が働いたか。まぁ、『欲望に忠実なくせに異常な程に保身的で、そのくせ観光客には良いように思われたい』という矛盾を孕みまくった思想を持った人間達で形成されてる世界なのだから、そんな歪んだ世界の真実なんて出すわけにはいかないよな。

 『いっそのこと、出してしまった方がこの世界の為にもなるんじゃねぇか?』と思ってしまうが。



「でも、そこまでしてこの世界のことを知りたいなんて思う観光客がいるのか?」

「まぁ、人間は欲が深いからね。一定数いるんじゃないのかな」

「確かに、そうかもしれないな」



 俺の場合、クロノスから強制的に連れられてこの世界に来たが、もしも、俺がこの世界に観光目的で来たとしたら……うん、少しだけ知りたい気がする。



「まぁ、でもそんなことをこの世界が()()()()()()()んだけどね」

「クロノス、どういうことだ?」

「フフッ。それは、明日にでも分かるんじゃないのかな」

「何だ、明日の行き先を決めたのか?」

「まぁ、そうだね」



 明日は、クロノスの行きたい場所に行くのか。30日間の旅行もそろそろ中盤に差し掛かろうとしているからな。クロノスの含みのある言い方に、多少なりとも不安はあるが楽しみだ。



「律、ごめんだけど今日の夕飯はここに出して貰っても良い? 早くゲームをしたくて」

「あぁ、良いぞ」



 再びポップアップに目を向けて真剣にゲーム選びをするクロノスに小さく笑みを零しながら、俺はローテーブルに手を翳した。




 この時の俺は、クロノスの含みのある言い方の意図を深く考えもしなかった……まさか、あんなものを見ることになるとは。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

今日から、GWですね!w


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