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12日目 表現と規制(後編)

これは、とある男の旅路の記録である。

「それで、どうして僕がその【年齢制限】ってものがされているゲームをしていることが、そんなに不思議なんだい?」



 罠にモンスターが引っ掛かるのを遠くから息をひそめて待っていると、クロノスがローテーブルの上にある棒ステックのお菓子を一口(かじ)って聞いてきた。



「あぁ、そうだったな。まぁ、つまりは俺のいた世界でもそういう規制があったのに、この世界ではクロノスのような見た目をした人間でも、ゾンビゲーとかモンスターを狩るゲームとかが平気で出来るんだなと思ったからだよ」



 余所者に厳しいこの世界なら、きっと年齢制限の規制とかも俺のいた世界以上に厳しいと思っていたんだが……思いの外、こういうものに関しては(おお)らかだったんだな。



「ふ~ん、そういうことね」



 手に持っていた棒ステックのお菓子を食べ終えたクロノスが、片手で持っていたコントローラーを両手に持ち直した。



「まぁ、それは規制よりも僕の望みを叶えることを優先したからだよ」

「……えっ?」



 驚いて横を見た瞬間、テレビの画面から仕掛けた罠が発動した音が聞こえた。





「ほら、律。僕のこと見てないでモンスターのこと見てよ。モンスターがこっちに気づいたみたいだよ」

「あっ、あぁ。そうだな」



 気を持ち直してコントローラーを握り締めると、全速力で迫ってくるモンスターに立ち回れるように武器を構えた。



「なぁ、それってつまり、お前の希望を優先する為に規制を取っ払ったってことか?」

「そういうことだよ。律、モンスターが来たよ」

「あぁ、そうだな!」



 モンスターが俺たちに突撃を仕掛けたタイミングで、俺とクロノスのアバターが左右に分かれると、挟み撃ちをするようにモンスターに向かって攻撃を仕掛けた。



「だとしたら、この世界の規制や情操教育は、俺のいた世界よりかなり緩いってことなのか?」

「まぁ、見方によってはそういう解釈も出来るね。でもね、この世界の規制とか情操教育って、律のいた世界以上に厳しい方なんだよ」

「えっ、嘘だろ!?」



 子どもに平気でゾンビゲーをプレイさせる世界の情操教育や規制が、俺のいた世界以上に厳しいとか有り得ないだろうが!



「本当だよ。何せ、余所者には厳しい世界だからね。そんな世界の規制が緩いわけが無いじゃないないか」

「だとしたら、どうしてお前は、そうやって平然とゲームが出来てるんだよ!? それに、ゲームだけじゃない。学校に体験入学した日なんか、朝からさも当たり前かのように18禁のアニメを観てたじゃねぇか!? あれだって本当は、お前のような見た目の人間は見ちゃダメだったんだぞ!」

「へぇ~、そうだったんだ~」

「『そうだったんだ~』って……まさかお前、神様の力を使って年齢を偽ったのか!?」



 それなら、人知を超えたことをいとも簡単出来るコイツなら容易(たやす)いことだろうし納得も出来る。



「僕がそんな面倒なことをするわけないでしょ。さっきも言ったけど、この世界の規制は、律のいた世界以上に厳しい。けどね、この世界では規制以上に遵守しないといけないものがあるんだよ」

「規制以上に遵守しないといけないもの?」



 人間同士が定めた規制以上に遵守しないといけないものって何だ?



「うん、それはね……人間の欲望さ」





「人間の欲望? どうしてそんなものが規制以上に遵守されるんだよ?」



 むしろ、人間の欲望をある程度制限する為、規制やルールなんてものが存在しているはずだ。

 そして人間は、その規制の中で『我慢』というものを覚えて、そこから人間社会に順応出来るように色々なものを学んで身に付けていくもんじゃないのか。



「それが、この世界にとっては絶対的なものであり、何よりも(とうと)ぶべきものだからだよ」

「そうなのか? それで、犯罪とかに走ったらどうするんだよ?」



 極端な話なのかもしれないが、実際にそういうものに刺激を受けて法を犯してしまうことは、残念ながら少なからずある。



「大丈夫だよ。()()()そんなことは起こらないから」

「絶対に?」

「うん、絶対にだよ」



 妙に自信ありげなショタ神様に、一瞬だけ背筋が凍った。


 時の神様であるコイツの話だから、この世界の真実だとは思うが……表現規制に何かとうるさい世界で育った俺からすれば、この世界の規制は緩いと感じて仕方ない。



「むしろ、【犯罪】って呼ばれるものに走る方が難しいんじゃないのかな」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん、何でも。それに、律のいた世界でも年齢制限がかかりそうなアニメを放送してたでしょ? 部下から聞いた話だけど」

「まぁ、確かに血しぶきとかお茶の間が凍り付きそうなシーンを地上波で放送して、放送後に多数の抗議の声が殺到して、それがニュースにはなったことは幾度(いくど)とはあるが……それでも、大半は地上波と配信で分けて放送して、それなりに規制遵守な方法は取っていたぞ」



 少なくとも、このショタ神様に人間のくんずほぐれつを観せたこの世界の規制よりは遥かにマシだと思いたい。

 でも、そうだとしたら……



「この世界の規制って、もしかして規制自体が形骸化しているのか?」

「まぁ、そういうことだね」



 なるほど、だからクロノスのような子どもでもゾンビゲーや18禁アニメを観ることが出来たんだな。



「それよりも律、もうすぐでモンスターが倒れそうだよ」

「あぁ、そうだな。後はこの罠が発動すれば、俺とクロノスの最後の一撃で倒せるはずだ」



 そう言った瞬間、モンスターに仕掛けた罠が見事に()まり、俺とクロノスはモンスターに向かって各々の大技を食らわせた。




 旅行12日目

 今日は、クロノスとこの世界の色々なゲームを一日かけてプレイした。

 普段は、俺を色々なところに連れて行ってくれる時の神様からの予想外の提案に、最初はとても驚いたが、昨日は職業体験とはいえ久しぶりにサラリーマンに戻った俺にとっては、仕事の次の日の休暇のようなものが欲しかったので、実はとてもありがたかった。

 これも、クロノスの気遣いなのだろうか。まぁ、真意は本人に聞いてみないと分からないけどな。

 しかし、クロノスのような見た目の人間でも、年齢制限がかかりそうなゲームがプレイ出来ることに驚いた。

 よく考えたら、朝から18禁のアニメを観ていたから今更なのかもしれないが、それでも俺のいた世界以上に規制が厳しいらしいこの世界の規制の緩さには驚かされた。

 でもまぁ、人間の欲望を遵守する世界にとって、規制なんてものはあってないものだと分かった時は、何となく腑に落ちた。

 この世界らしい、実に矛盾した法則だ。

 でも、どうしてこの世界は、人間が作った規制を形骸化させてまで人間の欲望を絶対視するのだろうか?

 そろそろ、分かってきても良いのかもしれない。

 とりあえず、一日中家で誰かとゲームをプレイするなんて、学生時代以来だったから、あの頃に戻ったみたいでとても楽しかった。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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