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4日目 乗物と観光⑤

これは、とある男の旅路の記録である。

「祀られている神様が、いない……だと?」



 顔を(しか)めながら問い(ただ)すと、時の神様の笑みが薄気味悪くなった。



「そう、ここには社を構えてる神様なんていないんだよ」

「だとしたら、この場所は一体何だと言うんだ!」



 ここに神様なんていないんだとしたら、ここは一体どこなんだ!?


 怒りを滲ませる俺に、クロノスは笑みを崩さないままこの場所の正体を打ち明けた。



「簡単だよ。ここは、【神社】という名の観光客の為の()()()さ」

「!?」



 言葉を無くした。


 神様と縁も所縁も無さそうな場所を【神社】という名の観光地に仕立て上げたということか?

 そんなの……



「そんなの詐欺じゃないか!! しかも、神様を祀る為に建てたんじゃなくて観光地として建てたなんて……それこそ、神様に対しての冒涜なんじゃないのか!?」



 昨日のように、観光客の為にアンドロイド達を街に歩かせたり、ポップアップの中身をわざわざコンビニの商品として陳列していたりしていたのとは訳が違う!

 それに、神聖な場所を観光地として作り上げるなんて……



 怒りを露わにした俺にクロノスは苦々しく笑った。



「そうなんだけどさぁ~。それを願ったのは……君たち人間なんだよ」

「おっ、俺たち?」



 俺たち人間が、尊ぶべき神様に対して冒涜を働いたというのか?



「神社って、観光客がよく来る場所みたいだからさ、観光地にするにはうってつけなんでしょ。それに、この世界に住んでいる人間達が『この際、観光客の為に神社を建てるなら、あちこち行かずに済むように、一ヶ所にまとめて参拝出来るようにして欲しい』って」

「はぁ!?」



 そんな身勝手な理由で!?


 神社という聖域を観光地程度にしか思っていないこの世界の住人達に絶句した。



「ここにした理由も『自然豊かだし静かだから、ここを神社にして良いんじゃない』ってことだったらしいよ」

「ふざけんな!!」



 カッと頭に血が上り、片足を上げて地面を思い切り踏みつけた。


 正月の初詣か願掛け程度に参拝しない俺でも、そんな軽い理由で社を構えるのは、神様に対して失礼極まりないのは分かる。

 この世界の住人達は『この世界は自分達を中心に動いている』なんて愚かなことを本気で思っているのか!?


 込み上げてた怒りを散布させようと目を閉じて大きく息を吐くと、ゆっくりと目の前にいる神様と目を合わせた。



「大体、神社っていうのは、伝説や功績のある人や霊などを神様として崇め奉る為に建てられてた社だ。そして、人間達はその神様の力に少しでもあやかろうと、神様を祀っている神社に参拝する場所でもある」



 そうだ。俺のいた世界では1年の無病息災を願って正月は神社に初詣に行く習慣があったし、受験など自分にとって一番大事な時の頼みの綱として神社で願掛けすることだってあった。

 つまり、人々にとって神社というものは、遥か昔から由緒正しき神聖な場所であり、不安定な世の中で心の拠り所として誰もが縋りたくなる場所なのだ。

 だから、そんな場所を踏みにじるような行いは、神様への冒涜しか捉えられない。



「へぇ~、そんな理由で【神社】ってあるんだね。だとしたら、ここには神様がいるのかもしれないね」

「えっ、いるのか?」



 さっき、自分で『ここには、神様は祀られていない』って言ってたじゃないか。



「うん、いるよ……ここにね」



 そう言ってトントンと指で軽く叩いたのは……ライフウォッチだった。





「ライフ、ウォッチ? でも、この神社に来る時にホログラムが『ライフウォッチは使えない』って言ってたじゃないか」

「うん、確かにここでは使えないよ。だって……この神社全体が、ライフウォッチによって造られた()()()()()なんだから」

「!?」



 一瞬、意識が遥か遠くに飛びそうになった。


 この神社全体が、ライフウォッチによって作られたホログラムだと!?


 信じがたい事実に動揺を抑えきれないまま境内を見回すと、目に見える色彩が白黒以外、最新技術で作られたとは思えない、厳かで歴史を感じる建造物や自然が映った。



「これ全てがホログラム、だと?」

「そうだよ」

「っ!?……噓だ!!」



 激情に任せてクロノスの言葉を全力で否定する。



「どうして?」

「だって、俺はさっき、社務所で普通におみくじを引いてたんだぞ! ここが本当に全てホログラムで出来たとしていたら、なんで俺は当たり前のようにおみくじが引けたんだ!?」



 ここにある全てがホログラムだとしたら、社務所にあったおみくじが引けるはずがない。

 ホログラムは物体を投影しているだけで、人の手に触れることが出来ないのだから。


 取り乱しながら言葉を紡ぐと、クロノスの表情が苦笑いから呆れ顔に変わった。



「律、僕の話聞いてた?」

「えっ、実はここにあるもの全てがホログラムだと……」

「そう言ったけど、このホログラムは何で出来てるって言った?」

「えっと、確かライフウォッチで……って、まさか!」

「そう。昨日、コンビニとスーパーに行ってて良かったね。律」



 再び満足げな笑みを浮かべるクロノスに、力が抜けた俺はその場にへたりこんだ。


 ライフウォッチは、持ち主の要望を具現化する優れ物。

 そして、それはライフウォッチが関与している場所であればどこでも通用する。

 それは、昨日のコンビニとスーパーで分かった。

 そして、ここはライフウォッチにホログラムで造られた神社。

 だとしたら……



「この神社は、ライフウォッチの装着者が行きたいと思っている神社なのか?」

「正解」



 耳を疑いたくなる事実に、俺は酷く項垂(うなだ)れるしか出来なかった。


 そうか。だから神社(ここ)()()()なのか。

 この世界の住人達が、観光客に良く思われたいが為に、この場所を観光客にウケが良い観光地として定番の神社を建てたのか。



「本当、ふざけてるな」

「フフッ、そうだね。さらに言うと、持ち主が行きたいと思ってる神社に合わせて、境内の外観も持ち主の理想に相応しい神社の境内に()()()ようになってるから、ここに参拝している人間達が認識している神社は、人間ごとに()()()みたいだよ」



 えっ、そんなことが出来るのか!? ライフウォッチの装着者である俺が『学問の神様が祀ってある神社に行きたい』と思えば、それに相応しい神社がホログラムで現れるってことなのか!?


 更なる衝撃の事実に、全身から血の気が引くのを感じた。



「だとしたら、俺が見えている神社は俺が行きたい神社ということなのか?」

「そういうことだね」

「ちなみに、クロノスはここがどういう風に見えてるんだ?」

「多分、律と同じような神社がみえているよ」



 一応、神様であるクロノスにも境内は見えているらしい。



「だとしたら、ここにいる人間は全員アンドロイドなのか?」

「違うよ。ここにいるのは、正真正銘の生身の人間さ」

「えっ!?」



 ここに来ている人が全員、生身の人間なのか!

 ようやく、この世界の人間に出会えた!



「と言っても、この場にいる人間は全員観光客だから、この世界のことを聞いても知らないから意味ないよ」

「そうなのか?」

「そうだよ。()()()()()()()んだから」





「さて、この世界の神社について分かったところで、そろそろ時を進めるよ」

「あっ、あぁ」



 忘れていたわけじゃないが、今俺の目に映ってる光景って、クロノスが時を止めたものなんだよな。


 改めてクロノスが持つ時の神様としての圧倒的な力を実感させられた。




 パチン!




 再び指を鳴らすと、モノクロの光景に色が戻り、止まっていたものが再び動き出した。



「~おります! ……って、渡邊様!  座り込んで、どうされたのですか?」



 力無く座っている俺を見たホログラムが、血相をかいて駆け寄ってきた。


 そう言えば、時が止まる前はホログラムから同じ説明を受けていたところだったな。



「あぁ、律なら境内を散策し過ぎて少し疲れたみたいだよ。僕も色々見て回ったら、お腹が空いてきたよ」

「そうだったんですね! でしたら、そろそろお昼にされますか?」

「そうだね。律もそれでいいかな?」

「あっ、あぁ……いいぞ」

「かしこまりました~! でしたら早速、お車が止まってるところまで戻りましょう!」

「そうだね。ここは()()()()()だからライフウォッチは使えないだったね」



 『神聖な場所』か……この場所の真実を聞いた後だと皮肉にしか聞こえないな。



「どうしたの、律? まだ見てないところがあった? それとも、撮り損ねたところがあった?」

「いや、見たい場所は見れたし、撮りたい写真は撮れてるから大丈夫だ。それより、俺も歩き疲れて腹が減ったから早く行こう」



 ゆっくりと立ち上がった俺は、仲良くお喋りしながら歩くクロノスとホログラムをぼんやりと視界に入れながら、時の止まった空間で知り得たこの世界の神社の真実ついて脳内整理することにした。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 徹底してますね、この世界は。設定がとても面白いです。そして、クロノスの意味深な発言の数々も良い味を出していて素晴らしいです。観光客、というのがどんな存在なのか、とても気になります。 [一言…
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