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29日目 決別と偏見⑦

これは、とある男の旅路の記録である。

「でも、この世界はあの世界に対してかなり敏感になっている。だったら、そんな大それたことは出来ないはずだ」



 ショッキングピンクのドームから堂々と来てみろ。もれなく公開私刑行きだぞ!?


 思い出しただけでも背筋が凍る光景を思い浮かべながら言うと、クロノスがほんの少しだけ歪な笑みを浮かべた。



「そうかもしれないね。でもさ……」



 悪魔のような笑みを浮かべたクロノスが、俺から離していた顔を再び近づけた。



「この世界の状況をあの世界のAIが、既に把握していたとしたら?」

「っ!?」



 目を見開く俺に満足げな顔をしたクロノスは、顔を離しながら語り始めた。



≪AIは、この世界のことを知ろうとお得意のヒューマノイドをこの世界で用意した【セーフハウス】って呼ばれる場所に転送しているんだ。そして、転送したヒューマノイドをこの世界の住人として溶け込ませ、AIはそのヒューマノイドを通してこの世界を観察したり干渉したりしているのさ≫



「AIがヒューマノイドにやっていることって、まるで今の僕たちみたいだね」

「そう、だな」



 まぁ、俺たちの場合はこの世界に関して干渉なんてしていないけどな。

 それに、この世界に来る手筈は目の前にいる時の神様が部下の皆様と一緒に整えてくれたが……まさか、あの世界のAIもこの世界に住居を構えていたなんて。


 AIの力が入った観察に啞然としていると、不意にこの世界の住人達の反応が気になった。



「だが、そんなことをすればこの世界に住民達に怪しまれているんじゃねぇのか?」



 何せ、この世界の住人達は同調圧力で繋がっているし、プライベートなんてあって無いようなものだから、突如現れたヒューマノイドのことを怪しまないはずがない。



「そうだね。実際、この世界に住んでいる人間達から怪しまれているみたいだしね」

「えっ!?」



 それはもう本末転倒なのでは!? というか、住人達の観察力がチート級なんだが!?


 この世界の住人達の観察能力の高さに舌を巻いていると、ショタ神様が小さく溜息をついた。



「でもね、それはAIだって分かっていることなんだよ」

「分かっているのか!?」



 AIも把握済みなのかよ! だとしたら、どうして……



「だとしたら、どうしてこの世界の住人達は、AIの使いであるヒューマノイドを捕まえないんだ?」



 別の時間軸にいた俺みたいに即刻逮捕されてもおかしくないはずだ。


 険しい顔をする俺に、クロノスはそっと肩を竦めた。



「それは、ヒューマノイドがあの世界のものである決定的な証拠がないからさ。あの世界に敏感な彼らでも、決定的なものが無ければ警察に通報出来ないからね」

「へぇ~、あの世界の人間に対して見境ないと思ったが、そういう良識は持っていたんだな……って、どうして俺は捕まったんだよ!?」



 あの時は、俺があの世界の人間である証拠も無かったはずだが!?


 不当逮捕された事実に怒りを滲ませる俺に対し、クロノスは心底呆れたような顔をしながら小さく溜息をついた。



「それは、この世界にはあの世界の人間だと一発で分かるような無数の罠の一つに引っかかったからだよ。まぁ、あの世界だと区別出来る言葉もあるみたいだけど」

「そうだったな。それにしても、あの世界のだと分かる区別用語って【裏切者】みたいなものか?」

「どうやら違うみたい。たくさんありすぎて神様の僕でも把握出来ていないんだけど」

「そう、か……」



 言われてみれば、俺がいたあの場所が悪魔をおびき寄せる罠だってあの時にクロノスが言っていたな。

 それに、あれ以外にもあの世界の為の罠があったり、クロノスが把握出来ていない区別用語があったりするなんて……



「ちなみに、その罠や言葉を言ってしまったら?」

「即刻通報だね」



 だとしたら、俺はこの世界に来てから何度その地雷原に突っ込んだんだろうか。


 この世界に来てからとった己の行動を省みて、そっと溜息を吐いた。





「まぁ、【でっち上げ】と呼ばれる方法で捕まえることも出来るみたいだけど、それをするには、AIに派遣されたヒューマノイドはあまりにもこの世界に溶け込みすぎて、この世界に住んでいる人間達から見れば、あまりにも清廉潔白みたいなんだよね」

「そうなんだな」



 それくらい、あの世界のヒューマノイドはこの世界の人間に対して上手く立ち回っているってことか。それもそれですごいが。


 生身の人間相手に器用に振る舞っているヒューマノイドに舌を巻いていると、クロノスが小さく溜息をついた。



「あの世界のAIがヒューマノイドにそういう風に振舞うように指示しているし、決定的な証拠になるような場所や言動を全て把握しているからね」

「つまり、別の時間軸の俺みたいにヘマはしないってことか?」

「そういうこと」





 満足げな笑みを浮かべるクロノスに大きく息を吐くと、徐に両手を後ろについて頭上に瞬く満天の星空を見上げた。



「星、綺麗だな」

「そうなんだね。僕には分からないけど」



 俺の隣に座ったクロノスが俺と同じ体勢で瞬く星々を見上げていた。


 こんな光景、実際に宇宙に行くかプラネタリウムに行くか見れない光景だよな。

 あっ、そう言えば……



「そう言えばクロノス、今日で旅行何日目……」



 あれっ、急に眠気が……


 逆らえない睡眠欲にまたしても抗えなかった俺は、自分の体が静かに落ちていく感覚を薄れゆく意識の中でおぼろげに感じた。





「おっと……フフッ、何だかこれにも慣れちゃったな」



 静かに寝息を立てる律をそっと横たえるとそっと片手で上げた。



「律、今日は旅行29日目だよ。そして……明日で()()3()0()()()さ」




 パチン!



最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


次回、最終章突入です!


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