ダリアの憂鬱・4
貴族という存在を一区切りにしてアランもそうだろうと勝手に位置付けていたが間違いかもしれない。
そう思った思ったセレスティはアランとの時間をもっと取ってみたいと思った。キアラに言われた助言というのもあるが、夫婦になるのは変わらないのだ。出会いは最悪であったが、何故か嫌悪感はない。もっと怒っても良いはずなのに不思議と許せている自分がいてセレスティは淑女としてどうなのかと恥ずかしく思った。
そんな折、公爵家で支援している施設の視察がしたいとアランから連絡が入った。自分が婿養子となればそれらの施設の援助もしていかなければいけないので今の内から視ておきたい、ということらしい。セレスティは了承の旨を伝えた。
***
身分の関係無い騎士学校。公爵家で支援している施設の一つである。
広い土地に作られ寄宿舎付き。月謝は低めに設定されていて奨学金制度も設けている為、平民出身の子ども達も多い。元々はある程度の寄付という形で支援していたのだが、セレスティはキアラ達と触れ合う中で支援はそれだけではいけないのではないかという思いを持った。
その思いを父に伝え自分の事業として見ていきたいとお願いをして、卒業後、見込みのある生徒は公爵家の後ろ盾をつけるようにセレスティが働きかけたのだ。何年か経ち彼女の願い通り施設は発展していっていて良い生徒を輩出すると騎士団からの評判も高まってきている。
「先輩!?うわー、久し振りですね!!横の女性は…ってセレスティ様!?し、失礼しました」
「元気そうで何より。早とちり気味なのは相変わらずみたいだな」
「少しは後輩を誉めて下さいよー」
そう言うと軽く少年の肩を叩く。そんなアランの砕けた調子にセレスティは違う一面を見た気がした。アランがここに通っていたとは知らなかった。大体、ここに通う生徒は貴族の子息は少ないのだ。平民の子どもか若しくは下級貴族の子どもが大半である。伯爵家の彼が何故…と考えたがアランは伯爵家の養子であったと思い出す。
「姫、失礼。私の母校なので…ついね。紳士としてあるまじき姿を見せてしまいましたね」
「姫ではないわ」
バツが悪そうにアランは苦笑した。どちらかというと強面で落ち着いた男性なのに悪戯っ子のような所があるのだなとセレスティは可愛らしく思った。
「まぁ…よろしくてよ。それにしても…貴方ここの出身でしたのね?」
「えぇ。ご存知だと思いますが私は元々男爵家の生まれなのです。ここの学校で公爵家に後押しして頂いたお陰で伯爵家に拾って貰えましてね。感謝しているんですよ。いつかお礼をと思っていました…伯爵家に入っている手前、結婚という形でしか助けられず心苦しいのですが…」
「…それなら…何故わたく…」
「アラン先輩!!何してるんですかっ!!教官が待ってますよー!!」
「あー、騒がしいなぁ、お前はっ!!」
そのまま後輩である少年にアランは連れていかれてしまった。
(それなら…どうして…私に構うのよ)
聞けなかった言葉はセレスティの心の中に飲み込まれた。それはどこかドロリとした感情を伴い、吐き出したいような熱さを感じた。
***
「視察の必要は無かったのではなくて?よくご存知なのでしょう、この場所」
ある程度挨拶を終え、敷地内の客間に案内され一息ついた所でセレスティはアランに問い掛けた。
「知ってはいますよ。けれど通うのと支援していく立場は違うでしょう?」
「まぁ…そうですわね」
「…この国では生まれで総てが決まってしまう。才能はそれぞれなのに。私にはその理不尽さが幼い頃から許せなかったんです。不貞腐れて…育ててくれている姉にも酷い言葉を投げました。そんな時…ここを姉が薦めてくれてね。平民とほぼ変わらない私でも教育を受けられた。ここまで来れたのは姉と…貴女のお陰です。ありがとうございます」
「そ、そんな…」
穏やかな微笑みを浮かべるアランは整った顔立ちが強調され、視線を合わせているセレスティはどこか居心地が悪く感じ目線を反らしてしまった。
「最初、離れたいと言われ逆上してしまったのは謝ります……けれど…どうか一緒の未来を全否定しないで欲しいんです。私と一緒の未来も…ほんの少しでも良いから考えてみて欲しい…」
アランと一緒の未来。
彼に対する気持ちを整理が出来ないまま曖昧な返事を返すのみでその場を曖昧に終わらせてしまった。




