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ステ振り!  作者: キミマロ
第三章 天上天下世界一武道会
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第五十八話 二人目と鬼無流

 受付を終えて控室に入ると、そこにはすでに出場選手たちが多数集っていた。十五メートル四方はあろうかという広々とした部屋に、ざっと見ただけでも五十名近くの人間が居る。武道大会なだけあって、筋骨隆々とした屈強な男が多い。部屋に入っただけで、押し返されるような威圧感を覚えるほどだ。ただ、中には老人や女性の姿もある。国籍も人種もバラバラ、実に多種多様な顔ぶれだ。


「こりゃ、みんな強そうだなぁ……」

「なーに、大したことないだろ。あたしが居れば一発さ」

「そうでもなさそうです。ほら、あれ……」


 そう言って小夜が指差したのは、一人の老人であった。背は低く、身体も枯れ枝のように細くて骨ばっている。皺に埋もれた丸い顔は穏やかで、まったく殺気がない。影も薄く、小夜に指摘されなければ存在に気付かなかったほどだ。


「誰なんだ? そんなに強そうには見えないけど」

「気付かんのか? あの老人の周囲だけ、気配が穏やか過ぎる。あれは明らかに達人だ」

「あの人、テレビで見た事ありますよ。確か、ラーチュンとかいう中国拳法の達人だとか」


 眉をしかめつつ、やや抑えた口調で言う竹田さん。そう言えば、そんな名前を前に聞いたような覚えがある。どれ、確かめて見るか。俺はおもむろに、ステータスを開いてみた。


・名前:コン・ラーチュン

・年齢:66

・種族:人間

・職業:武道家

・HP:130

・MP:0

・腕力:90

・体力:85

・知能:60

・器用:90

・速度:75

・容姿:45

・残りポイント:70


・スキル:老山流虎牙拳


 これはまた……。小夜よりは一回り低いぐらいだが、年を考えると驚異的だ。老人とはとても思えん。それにスキルの「老山流虎牙拳」というのがいかにも強そうだ。中国拳法の奥義か何かだろうか。俺は内心で舌を巻くと、うへえっと眉をしかめる。


「すっげーステータスだ……。さすがに小夜よりは低いけどさ」

「へえ、そいつはなかなかだな」


 ぺろり、と舌なめずりをする白泉先輩。小夜もまた、気合を入れるかのように拳を握りしめる。ラーチュンを一瞥する二人の姿は、実に楽しげだ。ほんと、小夜と先輩ってバトルジャンキーだよな。戦闘民族の出身だろうか。俺と竹田さんは互いに顔を寄せると、興奮した様子の二人にやれやれとため息をつく。そうしていると、部屋の前方の扉が開き、スーツ姿の男が中へと入ってきた。彼は壇の上に立つと、マイクを手に声を張り上げる。


「皆さま、大変長らくお待たせいたしました! 私、今大会の司会進行役を務めさせていただきますミスタ・サブローでございます! ただいまより予定の説明をさせていただきますので、皆様お集まりください!!」


 やっとか、という声が周囲から聞こえた。選手たちはトレーニングをやめ、男の周りにわらわらと集合する。俺たちはその人混みの最後尾に陣取った。ここでさらにごほんっと、咳払いが響く。


「まず、当大会には本選と予選がございます。予選は今日、本選は明日です。これから皆様には、特設ステージにて予選を行っていただきます。今回の参加者はなんと過去最多の五十三名! ただし、本選に出場できるのはたったの六名です。予選はA~Fのグループに分かれて行いますので、まずは係員の指示に従って籤を引いてください」


 六名? 俺たちはサブローの言葉を聞くと、すぐに顔を見合わせた。大会の要綱には、本選は八人でのトーナメント形式とあったのである。招待選手のラルネが特別枠だとしても、合わせて七名。一名足りない計算だ。その事を疑問に思ったのか、一人の男が乱暴に前へと進み出てくる。


「おい、本選に出場する選手は八人じゃねーのか? 何で六名なんだよ」

「ああ、そのことですか。今回の大会には予選を免除されている招待選手が二人おりましてね。その方たちを含めて八人なのです」

「招待選手……ねえ。一体どれほどのものなんだか。俺たちの方がよっぽどふさわしいだろうに」


 男はやれやれと両手を挙げると、ぶつぶつと文句を言いながら元の場所へと戻って行った。他にも、男と同じデザインの道着を着た何名かの選手が、不満げな顔でサブローを睨む。見たところ、同じ一派の選手だろうか。いずれも態度が大きく、他の選手たちを押しのけるかのように広いスペースを占拠している。


「なんだ、あれ」

「さあ、たぶんどっかの道場か何かだろう。よく居るんだよ、名前は有名だけど実力のない奴らとか」


 うんざりしたような口調でつぶやく小夜。それに応じて、白泉先輩と竹田さんがうんうんと頷く。


「ああいうのって、不良にも居るぜ。デカイグループに所属してるからって、自分まで強くなったような奴とかさ。けどああいう奴ほどビビりで、殴り合いにもならないうちに逃げ出しちまうっての」

「いますいます、そういう人。カッコ悪いですよね」


 話に花を咲かせ、あははと笑い合う二人。するとその声が届いてしまったのか、前方にならんでいる男たちの方がブルリと震えた。連中は揃ってこちらを振り向くと、肩を怒らせながら歩み寄ってくる。その額には皺が寄っていて、殺気立っていた。


「おい、さっきから聞いてれば好きかって言ってくれてんじゃねーか。何だよ、女のくせしてよ」

「んだとてめえ! やるかァ!?」

「おう! その綺麗な顔、今ここでぼこぼこにしてやらァ!!」


 互いに腕まくりをし、拳を振り上げる白泉先輩と男。まさに一触即発。殴り合いが始まる寸前だ。ここで殴り合いをされると、最悪出場停止になるぞ――! すぐさまそのことに思い当った俺と小夜は、大慌てで二人の間に割って入ろうとした。するとその時、俺たちに代わって二人の人間が止めに入る。一人は竹田さん。そしてもう一人は、見知らぬ男だ。誰だろう。そう思った俺が疑問を口にしようとすると、男の方から話し始める。


「すみません、うちの者がご迷惑をおかけしたようで」

「……あなたは?」

「これは手厳しい。綺麗なお嬢さんにそんなキツイ目で言われると、おじさん萎えてしまうなぁ」


 竹田さんの質問にひょうひょうとした様子で答えると、男はポリポリと頭を掻いた。おじさんと自称しているが、年のころは三十前半ぐらいだろうか。背は高いが線が細く、ひょろひょろとした頼りない印象だ。顔も険がなく、細い眼は柔和に見える。思いっきり殴れば、一発で倒れてしまいそうな弱弱しい感じだ。


「先生! その女を黙らせて下さい!」

「そうですよ先生!」


 先生、先生と声を挙げる男たち。そう言われてみれば、先生と呼ばれている男も彼らと揃いの道着らしきものを着ている。この雰囲気からすると、彼はどうやら男たちの師匠か何かのようだ。ひょっとして、このなりで強いのか……? 俺はすぐさま目に力を込めると、ステータスを確認しようとする。だがここで、スッと竹田さんが手を出してきた。そして、駄目駄目と行った様子で顔を横に振る。


「あなたたちは何者なんです?」

「おっと、名乗るのが遅れましたね。私たちは鬼無流柔拳術の者です。私は代表の村里、どうぞお見知りおきを」

「鬼無……?」


 村里の言葉に、小夜が眉をしかめた。聞き覚えがあるようだ。しかし、竹田さんは相変わらず強気な態度で里村に言う。


「女だからって、あまり私たちを馬鹿にしない方が良いですよ。ぶっとばされたくなければ」

「肝に銘じておきましょう。こちらの者たちにも言い聞かせておきます。ではまた、後ほど」

「そういうすかした態度、嫌いです!」


 ふんっと目を逸らす竹田さん。村里は軽く会釈をすると、門下生を引き連れて立ち去って行った。やれやれ、とんだ目にあったな。俺はすぐさま二人に駆け寄る。


「何か、変な男だったな」

「ええ、そうですね。でも、あんなの気にしなくていいですよ」

「そうだぜ。あんなひょろい奴、あたしなら一撃だ」

「そりゃ、先輩なら……。それより、竹田さんが止めたからステータスは見なかったけど……良かったのか?」


 俺がそう尋ねると、竹田さんは自信ありげに頷いた。彼女はグッと親指を突き上げると、軽くウインクをする。


「大丈夫です! ほら、勝負が最初からわかっちゃったらつまらないじゃないですか」

「だと、いいんだがな……。鬼無流、どこかで聞いた覚えがある」

「塾頭まで! 平気ですよ、今までの私とは違うんです! 今までの私とは! 冒頭でやられて退場したりはしません!」


 何故だかわからないが、妙に必死な態度で訴える竹田さん。そんなに言うなら、まあ大丈夫か。小夜はどこか引っかかる顔をしていたが、俺はひとまずそのことは棚に上げることにした。他にもまだ、ラルネのこととか気になるしな。そうしていると、部屋の奥に居る係員から声が掛かる。


「そこのみなさん、残っているのはあなた方だけですよ。はやく籤を引きにきてください!」

「あ、すみません! 今行きます!」


 係員へと駆け寄ると、手にしている箱に次々と手を突っ込む。箱の中には四つ折りにされた紙が入っていて、俺たちはそれを一枚ずつ手にした。逡巡。メンバーが同じブロックに重ならない事を祈りつつ、ゆっくりと紙を開き始める。


「どこだった?」

「私はAだな」


 先陣を切ったのは、小夜だった。その言葉にほっとしたように、竹田さんと先輩が続く。


「私はCですね」

「あたしは……お、Eか」


 よし、あとは俺さえ被らなければ大丈夫だな。四つ折りにされた紙を、俺は手早く開いた。するとそこにあったのは、Fの文字。誰とも被っていない、完全にセーフだ。気が抜けてしまって、思わず紙を取り落としそうになる。


「Fだ。誰も被ってないな」

「みんな完全にバラバラですね」

「じゃあ一度、気合でも入れるか!」


 そう言うと、小夜は強引に俺と肩を組んだ。それに先輩たちも乗り、たちまち円陣の体勢が出来上がる。


「よし、えいえいおー!!」

「おー!!」


 こうして、俺たちは波乱の予選へと望むのであった――。


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