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ステ振り!  作者: キミマロ
第二章 テストの神様
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第三十六話 占いと三人乗り

「こりゃ……」


 動揺した様子で、スマホの画面を何度も確認する白泉先輩。そうしている間にも、揺れている画面には次々と訳の分からない書き込みが増えていく。これは……俺の顔に、のほほーんと幸せそうな顔をした竹田さんの姿が思い浮かんだ。もしかして、あんな感じにボケてしまった人が急増しているのか……!? 俺たちはとっさに顔を見合わせる。


「先輩、これって……」

「間違いないわ、塔堂が魂力の回収を始めたみたい」

「クソ、さっさと発見して止めないとマズイことになる!」


 小夜はそう言って拳を握りしめると、白銀さんの方を見た。小夜の背後から漂う、只ならぬオーラ。ギラリと輝く猛禽の如き眼差し。こいつ、容姿を戻したい一心で相当に焦っているな。俺は小夜の額に浮かぶ汗を見て思った。けれどまだ出会ったばかりの白銀さんは、小夜の内心など到底察することができず、そのただならぬ威圧感を真に受けてブルっと肩を震わせる。


「な、なんでしょう?」

「塔堂の行き先について、何か心当たりはないか?」

「いえ、私にもさっぱり。そう遠くへは行っていないと思いますが」

「うむ…………困ったな」


 小夜は腕組みをすると、顔を下に向けて大きなため息をついた。彼女はその内心のいら立ちを現すかのように、タンタンタンと足でリズムを取る。眉間に深い皺が刻まれ、元々鋭い印象を与える顔がより尖ったように見えた。するとそんな彼女に、千歳先輩がゆっくりと声をかける。


「そういうことなら、美代さんに占ってもらえばいいんじゃないの? 彼女の占いならすぐに見つけ出せると思うわ」

「それだ! 連絡取れますか?」

「もうやろうとしてるわ」


 先輩は懐から携帯を取り出した。さっき言っていたように、相当に古いタイプの物だ。ガラケーどころか、非折り畳み式でアンテナのついて居るタイプの携帯である。彼女はそのアンテナを五十センチほどにまで伸ばすと、電波を求めてダウジングよろしく携帯を振り回す。時代遅れどころか、逆に一周遅れて時代の最先端を走っているかのようだ。


「よし、バリ3だわ」

「超久しぶりに聞きましたね、そのワード……」

「二十世紀だ……先輩、そろそろ買い換えては?」

「駄目よ。携帯がまだバカ高かった時期に買ったせいで、ローンがまだ残ってる」

「何年ローンだそりゃ」

「十年ローン、ボーナス払いあり」


 住宅ローンかよ! 俺は思わず額に手を当て、天を仰いだ。一体いくらで買ったんだ、というかボーナス払いって先輩はどこからボーナスを貰うんだ。いや、それより十年前だと携帯を買った時、先輩はまだ小学校低学年だったんじゃ……。俺の頭の中で次々と湧きおこる疑問が激しく渦を巻いた。けれどそうしているうちにも、先輩は電話番号を打ち終えて携帯を耳に押し当てる。


「もしもし……。ああ、はい。わかったわ、今から行く」

「どうでした?」

「時間を空けるから、すぐ来てくれって」

「よし!」


 小夜はそう言って部屋を飛び出すと、すぐに荷物を持って戻ってきた。彼女は「早く早く!」とばかりに部屋の戸を半開きにして足踏みをする。巨体をノシノシと揺らすその様子は、今にも走り出そうとしているかのようだ。俺たちは「はいはい」と返事をすると、彼女に続いて部屋を出た。俺たちは廊下を速足で歩くと、素早く階段を下りてそのまま学校を後にする。


「おッ……?」


 学校脇の道を歩いていると、車道のド真ん中を歩いている少年の姿が目に飛び込んできた。私立学校のものらしきブレザーを着た彼は、どこで拾ってきたのか、不良が持つような鉄パイプを杖代わりにしながらよたよたとした動きで歩いている。見たところ、近所の中学生だろうか。その様子は明らかに挙動不審で、しかもずいぶんと鼻息が荒かった。ゆっくりと歩いているにもかかわらず、かなり疲労しているようである。


 白泉先輩は少年の様子に訝しげな表情をすると、彼の肩に手を掛けた。そして彼の足を止めると、前に回り込んでズイっと顔を覗き込む。


「おい、どうしたよ?」

「わしの家……どこじゃったかのう? わすれてしもうた」

「……駄目だこりゃ」


 お手上げとばかりに手を上げる先輩。すぐさま魔法の心得がある千歳先輩と白銀さんが駆け寄ったが、彼女たちもまたすぐにため息をついた。この場では、手の施しようがないようだ。自体は俺の予想以上に広がっているな。そう思って周囲を見渡すと、アスファルトの彼方にまたも徘徊老人のような行動をしている少女の姿が見える。ヤバすぎるだろ、これ。このままじゃ町中がボケ学生であふれるぞ……! 事の大きさに、俺はすぐさま頭を抱えたくなった。そんな俺を、小夜が不安げな表情で見つめてくる。……一瞬、背筋がぞわっとした。


「大丈夫か?」

「いや……こりゃいよいよヤバいなと思って」

「ああ、そうだな。とりあえずこの子を何とかしないと」


 そう言うと、小夜は少年の身体を抱えて道路の端へと移動させた。そして彼女は彼を強引に座らせると、絶対動かないようにと強く言い聞かせる。それに引き続き、カバンの中をあれやこれや漁ると、派手な色彩をした長いリボンのような物を取り出す。これはもしかして……ラッピングテープだろうか。小夜は少年の身体を近くにあった電信柱の方へと寄せると、テープでがんじがらめにしていった。そして最後に蝶々結びをして、パンっと手を叩く。


「これで安全だな! 跳ねられる心配もない!」

「いや、怪し過ぎるだろ!?」


 華やかな赤いラッピングテープでぐるぐる巻きにされ、さらに胸元には綺麗な蝶々結びがされた少年。どうみても「あたしをプレゼント!」とかそんな雰囲気にしか見えない。女の子ならまだしも、男の子でこれはないだろう。しかも中性的な顔立ちで身体も線が細いため、怪しさが爆発している。何と言うか……腐った人たちが喜びそうだ。顔に似合わず、一体どういうセンスをしているのか。俺は思わず小夜の方をじーっと睨みつける。すると千歳先輩が、まあまあとばかりに俺と小夜の間に割って入ってきた。


「くだらない事をやっている場合じゃないわ。急ぎましょう!」

「はいッ!」


 喧嘩している場合でもないので、先輩の指示に素直に従い、満福寺の方へと急ぐ俺たち。やがてその境内へと入ると、石段の上に立つ美代さんの姿が見えた。その顔つきは険しく、手には例の孫の手が握られている。どうやら、彼女も何かしらの異変を察しているらしい。


「美代さん!」

「おう、やっと来たか! ……むむッ!?」


 俺たちの姿を見てにこやかに笑った美代さんだったが、その顔がにわかに曇った。彼女は孫の手を構えると、大声で叫ぶ。


「止まるのじゃ! 何故鬼がおる!?」

「その、私は鬼じゃなくて、小夜です……」

「そんなわけないじゃろう。成敗してくれるわ!」

「ちょ、ちょっと……人の話を聞けー!!」


 小夜の呼びかけを無視して、石段を蹴り、ズンっと勢いよく飛び出す美代さん。一閃。孫の手が楕円の軌道を描き、風を斬る。小夜は足を半歩引くと、それを紙一重のところでかわした。続けて繰り出される切り上げ動作も、身体を半回転させて回避する。突然始まった二人の戦いに、俺たちは目を剥いた。だがそのレベルの高さにすぐに割って入ることもできない。そうして、やり合うこと数十秒。それまで果敢に攻め続けていた美代さんがいきなり動きを止める。


「なるほど、こりゃ神凪の爺さんと同じ動きじゃ。そなたが小夜というのは間違いないようじゃの」

「だから、何度も言っているだろう!」

「ははは、すまんのう! して、そなたたちは何を占って欲しくて此処へ来たんじゃ。一人、知らぬ顔がおるが……電話で聞いただけでは分からん、もう少し詳しい事情を聞かせてはくれぬかの」

「了解、私が説明するわ」


 例のスケッチブックを取り出す、ああだこうだと説明を始める千歳先輩。そして五分もすると、「そうかそうか」と事情を理解したように美代さんが頷いた。俺にはさっぱりわからないが、あの説明って実はすごく分かりやすいのか……? 何となく自分の感性に不安を持った俺が周囲を見渡すと、小夜と白銀さんもまた微妙な顔をしている。とりあえず、おかしいと思っているのは俺だけではなかったようだ。これでひと安心だな。


「うむ、事情はわかったぞよ。では早速占ってやろう」


 そう言うと、美代さんは俺たちを連れて本堂の中へと入った。そして奥から、この間用いたのと同じような鏡を持ちだしてくる。俺たちは一列になって正座をすると、彼女の占いの様子を固唾を呑んで見守った。夕刻になり、薄暗い本堂の中を静寂が満たす。


「起きろ、神理の鏡! 汝が写すは世界、汝が覗くは心! 流れゆく森羅万象、繰り返される輪廻。その身に絡みし因果の糸を、今こそ我はこの手に掴まん!」


 気迫と共に、美代さんは鏡の中へと手を差し入れた。沈黙。美代さんは瞳を堅く閉じると、凍りついたように動きを止める。刹那、生ぬるい風が本堂を吹き抜けた。その直後、美代さんはカッと目を見開くと腹の底から響くような声で告げる。


「二か所じゃ! その塔堂とか申すオカマは二か所におるぞ!」

「どういうこと!?」

「うむ、どうやら魔法を用いて分身でも作ったようじゃの。ほら、千歳も造っておったじゃろう」

「厄介なことになったわね……」


 浮かしていた腰を戻すと、うーんと唸り始める千歳先輩。二か所か……。一か所ずつ回っていては、その間にもっと遠くへ逃げられてしまう恐れがある。かといって、二手に分かれるのも危ない。今敵が居る場所は間違いなくアジト、ひょっとしたら何か強力な侵入者対策が施されているかもしれない。


「どうします?」

「私は、二手に分かれた方が良いと思います」


 先ほどからずっと控えめで言葉をあまり口にしなかった白銀さんが、珍しく強い口調で意思を表明した。その様子に、すぐさま白泉先輩が理由を尋ねる。


「どうした、何かやけに反応がはええな」

「いえ、こういうのはやはり早く処理しないと。敵は一人ですし、実力も私とほぼ互角ぐらい。人数が居れば余裕ですよ。なのでここは二手に分かれた方が良いかなと」

「それもそうか」


 白銀さんの言っていることは筋が通っていたので、特に反対意見も無かった俺たちは一も二もなく賛成した。そしてじゃんけんをして決めた結果、俺・白銀さん・白泉先輩のグループと小夜・千歳先輩のグループとに分かれる。美代さんは塔堂の居場所へ向かうグループには入らず、万が一に備えていつでも占いが出来る此処で待機となった。


「さあ、行くぞ!」

「はいッ!」


 先輩の号令に力強くうなずく俺と白銀さん。先輩は本堂を出ると、すぐさま周囲を見渡した。そして本堂の脇に止められている銀色のママチャリを発見すると、すぐさまそのそばへと駆け寄る。どうやら鍵はかかっていなかったらしく、あっさりとサドルが上がり自転車は動き始めた。


「ラッキー、鍵掛かってねーぞ。これに乗って行こうぜ!」

「待ってください。一台しかないじゃないですか!」


 俺たちは三人。それに対して自転車は一台。二人乗りをするにしても、誰か一人が走らなければならない計算だ。普通に一人一台だとすれば、二人は走ることになる。まさか先輩、自分ひとりだけ自転車に乗って俺たち二人を走らせるつもりなんじゃないだろうな……。俺と白銀さんは、とっさに顔を見合わせた。するとそんな俺たちに、先輩は何か小さな物を投げてよこした。プラスチックで出来たそれは……何とおしゃぶりである。高校生の俺と中学生の白銀さんに、おしゃぶり。ど、どうするんだこれ!? あまりに予想外すぎるアイテムに、俺の頭の中は白に染まる。


「先輩、あのこれは……」

「知ってるか。六歳未満のガキと十六歳以上の大人なら、三人乗りもオッケーなんだぜ」

「そんなバカな!」


 俺と白銀さんは、二人揃って仲良く絶叫したのだった――。

良い子は三人乗りをしてはいけません!

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