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7-6:荒野を進んで

 見渡す限りの寂しい荒野。整備された道すらないのだから、相変わらず不便な国である。もっとも、今の俺にはあまり関係のない話である。何せライムに運んで貰えば良いのだから、地形なんてガン無視である。移動速度を重視した場合、間違いなく最適解なのだが乗り心地……もとい、運ばれ心地が今ひとつであることに加え、見た目の悪さが足を引っ張りこればかりに頼る気になれない。

 そこで一度泣く泣く変換した「ヒドゥンカー」をもう一度、と「交換」を試みるも予算オーバー。やはり最高レアリティは高い。そんな訳で今日もライムに運ばれているのだが、ふとこの運ばれ心地の改善の為に「空からじっくり地上を眺めながら進みたい」と言ったところ、これが功を奏した。

「ほー、悪くない眺めだ。風も心地よい」

 普通に魔力を使って空を飛べるライムに後ろから抱きしめられる形で上空100mくらいをフヨフヨと浮きながら進む。速度や高度は自由に変えられるのでこれが中々快適なのだ。常時ライムの豊かな胸が背中に押し付けられているのも良い。

 さて、観光気分で上空からまったりと進めば予定通りには移動できず、何もない荒野で本日は野宿となる。まあ、シレンディに入って一日目はこうなると思っていたので特に問題はない。吹き荒ぶ風も、このテントの前では無力であり、野生動物やらはライムの魔力で一匹たりとも近づかない。というより全力で逃げ出した後である。

 そして本日の遅めの夕食はこちら。オムライスにビーフシチューをかけたものに、チキンと温玉のサラダにコンソメスープ。そこに霜降り肉のステーキも追加。飲み物が水であるのが少々残念ではあるが、本日は目出度い日でもある。ライムの分も用意してポイントを使ってでも豪勢に行く。

 テーブルなども用意すれば少々狭く感じてしまうが、今日という日は祝わずにはいられない。間違いなく、俺にとっては第一歩となる日である。その日の締めの食事なのだから、ポイントだって使用する。

(いや、ほんと酒を用意していなかったのだが悔やまれる。こんなことなら城で貰ってくれば良かった)

 ビールや安っぽいワインくらいなら出せないこともないのだが、例えガチャ産とは言えこのラインナップでそれはない。ちょっと良い感じの赤ワインくらいが欲しいところである。贅沢はいずれ存分にするとして、今は目の前の夕食を楽しもう。

 ライムの方も「魔王」となって体を固定してからというもの、味覚を獲得しており様々な物を食べ比べて楽しんでいる様子が見られるようになった。ただその姿でこれまでのように生で生物をむしゃむしゃするのは止めるべきか悩んでいる。

「お父様。こちらが気に入りました」

 そう言ってフォークを刺したステーキを片手にもぐもぐしているライム。テーブルマナーも何もあったものではない。一枚のステーキを切らずにフォークで刺して齧り付いている。ワイルドではあるが、その姿でやって欲しくない食べ方である。

「取り敢えず、服を汚さないように食べる食べ方を学ぼうか?」

 俺はライムに隣に来るように言うと、手取り足取り教えていく。チラチラ見える胸の先端に気を取られながらも完食し、終わった後は布団を取り出し食後のまったりタイム。厄災となったことで体力に余裕ができたことは大変有り難い。その気になれば体力、精力ともに無尽蔵であることから、理性との戦いになったことは言うまでもない。

 ちなみに肉体の改造が割と簡単にできるので、病気とは無縁の体を手に入れており、食事や健康に気を使う必要は実は全く無い。ただ食うものがパターン化し始めているため、ガチャから出る食品のレパートリーを今後も更新していく予定ではある。日本人故に食にこだわってしまうのは仕方がない。

 というわけで腰の痛みなど気にする必要もないからと随分長く楽しんだその翌日。体調も体力も万全である実に清々しい朝である。砂嵐で視界が悪いことを除けば実に良い朝だった。そうぼやいたところ、起き上がってきた裸のライムが腕を一振り――爆発音とともに地形が変わった。違う、そうじゃない。

 ともあれ、吹き飛んだ土や石がこちらに流れてくる前にさっさと退散することにする。裸のライムに抱きしめられドヒュンと空へと舞い上がる。速度が有りすぎるとタマヒュン案件なのだが、ちょっと癖になりそうな気持ち良さもあるのが恐ろしい。

 十分な距離を取ったところで華麗に着地。身嗜みを整えライムには昨日と同じ服を着せたところで名案が浮かんだ。

(そうだ、ここでもライムの衣装集めもしよう!)

 思えば踊り子衣装などはあって然るべきである。何故ならば、踊り子であるパナサの腰使いをマスターしたライムならば、あの衣装を着てアレやコレやと楽しめるに違いない。他にも神官服など候補もあるし、この国の上流階級が着るような服にも興味はある。そう考えればこの「シレンディ行き」の一手が神がかった采配のように思えてきた。

「これは流れが来ているな」と顎に手を当てニヒルに笑う。他人からはどのように見えているかは気にしない。ガチャを回し終えて結果は昨日と同じで白すらなかった。流れとは一体何だったのだろうか?

「取り敢えず、何処かの町に入って情報収集をしよう。確か、以前ここから去った時には内乱状態だったはずだ。どのように変化があるのかちょっと興味がある」

 そう言うとライムは頷き、背後に回ると脇の下に手を通して俺を優しく抱きしめる。ふわりと体浮き上がり、地面から足が離れるとそのまま空へと登っていく。町の名前など最早覚えていないが、おおよその位置は覚えている。

(彼女に出会ってしまったら、俺はどういう反応をするんだろうなぁ……)

 パナサだけではない――あの時、このどうしようもない世界で見つけたほんの少しの暖かな想いを、今の俺は一体どのように処理するのだろうか?

「放っておく」という選択肢もあった。だが、これは人間を辞めたが故に、人間であろうとする――自らを人と思っている人形を見て、自分がどう思うかを知りたいのだ。ただの有象無象ではその役割は果たせまい。俺にとって心に残るモノ達でなければ意味がない。そう思ってのことだったのだが――

「何だこりゃ?」

 俺がそう呟くのも無理はない。記憶を頼りに進んだところ、遠目に見えるのは荒れ果てた町――だった場所。空中から見ているが故に、その荒廃っぷりがよく見える。無事な建物とそうでないものの割合が少々おかしなことになっている。

「んー、8割くらいは壊れているか?」

 俺の呟きに「約75%の建造物が破壊されております」とライムが補足。大体あってるのでセーフ。

(そう言えばスラ……なんだっけ? スラダン? まあ、名前はいいや。何かそんな感じの名前の賊が大暴れしていたんだったな。それに襲撃されたか?)

 聖都が内乱状態で軍を派遣することができず飲み込まれたと言ったところだろうか?

 もっとも、そうでなくてもこうなっていた可能性は高い。なにせ、この国の上層部は私腹を肥やすことに余念がない。金のかかる軍の派遣などやりたい者はいなかっただろう。そもそもそれが原因で賊を蔓延らせることになっていたのだから、この結末は遅かれ早かれ起こっていたことだろう。

「アテが外れたな。次行くか」

 仮にあの廃墟に生き残りがいたとして、それが彼女である可能性は限りなく低い。パナサは反政府組織やこの国で生きる者達にとって重要な存在だ。賊に襲われたくらいで殺されるようなことにはならないだろう。というわけで次の町を目指す。

「どっちだったかな」と方角を思い出そうとするが、しばらく唸っていると意識が全部背中にあたるおっぱいに持っていかれていた。俺はギブアップ宣言をして「千里眼」のカードを使用。ライムに高度を取って貰っても良かったのだが、汎用カードに分類されるカードの整理も兼ねている。飛ばした視点をあっちこっちへ移動させ、ようやく見つけた町も廃墟となっていた。

(これは思った以上に荒らされてるな)

 元々世紀末な王国だったように思えるが、それが更に悪化しているようだ。これはいっそのこと真っ直ぐ聖都に向かって用事を済ませてから状況次第で捜索、とする方が良いかもしれない。国土全域が世紀末なら彼女の生存はあまり期待できない。

「ライム、予定変更。聖都に向かうからあっちに向かって飛んでくれ。一応気になるものはないか見ながら進むから、速度はこのままで」

 ひたすら不毛な大地が続く中、砂埃が見えたので「遠見」を使用して見てみたが、賊が馬に乗って移動しているだけでその周囲には何もない。結局イベントは何も起きず、気になるものは賊を一度見かけただけという残念な結果となって昼食の時間が来る。地面に降りて背を伸ばし、本日出てきたサンドイッチをライムと分けつつお湯を沸かす。

 なんだかんだでそれなりに数があるインスタントラーメンにお湯を注ぎ、それも分けてライムと食べる。麺類の食べ方は大分様になってきたのだが、それはそれで複雑な気分である。

(うん。もうちょっと良いものを食べるように心がけよう)

 このペースで進めば明日の間に聖都には辿り着くと思うが、進路上の近くに町があるなら寄っておきたい。食べ終わって片付けを済ませ、再びライムに持ち上げられて空を飛ぶ。移動手段ももう幾つか欲しいところである。そんなことを考えながら移動をしていたのだが、見つかったのは廃墟となった村が2つ――どちらも焼かれていたので、賊による襲撃と思われる。

 そして今日という日が終わる。ちなみに夕食は箸の使い方の練習を兼ねて、親子丼と豚汁という組み合わせになった。何故このチョイスなのかというと、中身がわからない旧ガチャ産の食料の処理をしていたからだ。なお、夜の衣装はメイドで楽しんだ。ちゃんと「ご主人様」呼びはしてくれるのだが、しばらくすると「お父様」に戻る。これさえなければ夜通し続けることができると思うのだが、今はこれが良いブレーキになっていると思うことにしよう。

 そんな訳で翌朝。代わり映えしない荒野を見るやテントに戻って100連ガチャ。ここならばガチャ玉は何処にも行かない。全裸で俺に背後から抱きつくライムの相手をしながら結果を確認。すると有りました。黒く輝く玉が2つ――思わず二度見した。

「うおぅ……出る時は出るもんだな」

 平静を装い裏返った声で呟くと早速中身を確認の前に、ライムの様子を見る。特に変化はなく、いつも通りに上機嫌で俺の背中に胸を押し付けている。なので危険はないと早速一つ目を開封――結果はカード。

「ふは、まさか一発目で出るとはなぁ」

 俺はニマニマと笑いながら己の幸運に感謝する。俺が手にしたカード――それは「神器作成」のカードという。これは俺が厄災となってスキルを編集した際にガチャに入れた対イデア用の特攻カードである。その効果は読んで字の如く「神器を作成する」ものである。そして神器とは「イデアの領域を用いて作成された」強力なマジックアイテムと言えばわかりやすい。このカードが「対イデア特攻カード」たる所以はここにある。

 この「神器作成」は「イデアの領域」を使用して作成される。つまり「俺の領域」にはノータッチ。イデアの「領域」を好きに弄ってゲットできる悪魔のようなカードである。当然二回目は使えない可能性が高いし、何か仕掛けられることも考えれば二度目はない。だが、一回はノーリスクで「領域」を獲得できる。しかも「神器」なので好きな時に変換可能。

「さあ、どういった神器を作りましょうかぁねぇ~」

 俺は手を揉み少年時代を思い出すかのように「ぼくのかんがえたさいきょうのじんぎ」を妄想する。ちなみにこのカードで使える「領域」は通常の神器と同じく僅かなものなので、俺が夢想するようなチート級のものは作れない。それでも、やっぱり自由にカスタムできるというのが、俺の中の男の子をくすぐるのだ。カードに夢中になる俺にライムが拗ねてしまったことを除けば、今日という日は最高の始まりと言えるだろう。


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