7-16:再会
帝都が見える丘から翌朝を迎え、何も起こらなかったことに肩を落とす。つまりディバルは迎撃ではなく籠城を選んだ、ということだ。一番厄介な選択をしてくれたのだから気落ちもする。流石にサフィヨスが殺されたことをまだ知らない、ということはないだろうし、ただただ「面倒なことになった」と溜息を吐く。
だがそれも今日のガチャ次第。早速「幸運」を使用して日課の作業を開始する。今日ばかりは「100回以上回しても良くないか?」という気持ちはあるが、本日の成果を見ればそれは不要であると言わざるを得ない。
「いやー、流石幸運先生。やってくれたわ」
満足そうに笑みを浮かべる俺の前には黒い玉が三つ。そう、最高レアを三つも引いた。恐らく10連ガチャでSSRを二枚同時引きとかそんなレベルの奇跡である。そして幸運の効果発動中であるため、当然中身も期待して良い。ということで早速一つ目を開封。
出てきたのは一本の剣。「武器はいらんなぁ」と思いつつも「鑑定」を実行。その内容が中々に強烈だった。
崩壊の呼び水
使用することで指定座標を崩壊させる。指定された空間は隔離され、内部は捩じ切られて後に元に戻る。生命体の全排除を以て効果を終了とする。使用回数は一度きり。
まさかの使い捨て座標指定型空間破壊アイテム。残念なことに対象が「生命体」となっており厄災であるディバルにはどの程度効果があるかは不明。ある意味でピンポイントではあるのだが、ちょっとばかりずれている。また「元に戻る」とあるが、どの程度戻るかでも使い勝手が変わってくるので、現状他になければ使う程度の代物だ。
「悪くはないんだが」と呟きながら首を傾げる。最善か効果なしの二択という極端な結果になりそうなアイテムだが、問題は後者の確率がずっと高いこと。しかしまだ後二つ残っている。
汎用カード
黒の汎用カードは初めてだ。何に使えるのかと調べてみたところ、以下の8種類であることが判明。
「フルヒール」「コンテニュー」「引換」「ICBM」「崩壊」「メテオストライク」「復活」「地震」
結論から言うとどれも使えない。回復系統は最早ゴミと言って良く、攻撃系はどれも今現在求めているものではない。「引換」が白以下のユニークでも使えるので、真っ先に候補に挙がったが、それ以外となると残念ながら使うことはないだろう。ちなみに「崩壊」は先に出た「崩壊の呼び水」の規模縮小版のような効果となっている。カードよりもアイテムの方が効果が強力なのは希少性故だろうか?
あと「メテオストライク」は使ってみたいカードではあるが、それをするくらいならライムに任せた方がぶっちゃけ経済的である。「地震」に至っては論外。震度6相当らしいが、俺の目的とは思い切り噛み合ってない。
(というか黒は汎用カードの種類が少ないな。拡張も視野に入れるべきか?)
そんなことを考えながら最後の一つに手を伸ばす。これがダメなら最悪消耗戦である。一縷の希望を託し、取り出した中身は――またしてもカード。
「強奪」のカード
対象のスキルを奪う。成功率は対象との距離に依存。接触ならば99%。1m離れるごとに1%ずつ成功率が低下する。
最後に特大のハズレが出てきた。間違いなくこの手の能力は厄災には通じない。そして今更他人のスキルなど欲しいとも思わない。必要ならば作ればいいだけである。何が悲しくてイデアのマーカーがもれなくついてくるスキルなど奪わなくてはならないのか。たとえ便利でもウイルスつきの製品などお断りである。
俺は大きな溜息を吐いて、101回目のガチャを検討し始めるが、思えば残りをまだ開けていない。
銅×45
銀×38
金×11
白×3
黒×3
一応本日の成果はこのようになっており、本日は白も三つ出ている。なのでこれらを開封してからでも遅くはない。追いガチャに良い思い出がない身としては、できるならば避けたいのだ。そんな訳で残りを開けていく。結果は以下の通り。
銅×45 汎用カードとパンツと食料品に雑貨。
銀×38 汎用カードと消耗品に手袋
金×11 汎用カードと消耗品
白×3 ユニークカード×2 盾
黒×3 上記の通り
まずはこちらのカード「オーバード」。使用の際に宣言を必要とする一風変わったカードであるが、その効果はなんと「効果時間中カード使用のクールタイムの削除」と強力な補助カードである。ちなみに現在俺はカードの使用と「効果再現」により限定的ではあるものの二種同時使用が可能である。しかし、このカードを使用すれば何種類でも可能となるので使い方次第では「レアリティ詐欺」レベルの強力なカードとなる。
お次が「消去」とこれまた強力なカード。ぶっちゃけ数あるカードの中でもこいつだけは使われたくない、と言うのが俺の評価である。このカード、その特性上厄災にも通用する。とは言っても、消去できるわけではなく「ダメージを与えることができる」という程度のものだが、それでも厄災にも通用するスキル効果なのだから破格という外ない。
そして最後の盾なのだが――
アンチマジックシールド
魔法に対して非常に強力な抵抗を備えた盾。
今更何処でこれを使えというのか?
というかライムに対して一定の効果がある防具なので、何かしらの理由で敵となる相手の手に渡る可能性を考慮すれば廃棄処分しておいた方が良いかもしれない。
「はー……追いガチャか、それとも最悪消耗戦か……」
しかし追いガチャをしたとしても打開できるものが出るとは限らない。「幸運」の効果発動中でもこれなのだ。やはり今ある手札でどうこうするのが現実的。つまりは予定通りの行動である。しかし「一回だけなら」と101回目に突入。結果は銅――胡麻ドレッシング。
「あー、割と好きな部類に入るんだがなー」
銅で出てきたものと考えればアタリではある。未所持の調味料等は歓迎すべき結果だ。そう思って終わろうとしたところ、気づけば4回目の追いガチャをやっていた。流石にこれ以上は値上がりが厳しいので自制ができたが、その成果は銀が三つと微妙というしかなかった。
「やはり追いガチャはダメだな」と朝食の用意を始める。今日はハードな一日となる。朝から豪勢に行くくらいは許されるだろう。
そんな訳で朝から高級志向の冷凍スープや肉を取り出し、いつもより高価なパンに挟んだりしながら贅沢な朝食を作成。折角なのでサラダも用意して先ほど出た胡麻ドレッシングも活用。「そうそう、こういう味だった」と味見をして頷きつつ完成。スープをカップに入れるなど小さな拘りと薄切り牛肉を使ったサンドにサラダ。誰がどう見ても悪くない見た目である。お代わりも自由にできるよう量も十分に用意したので朝からガッツリ食べることだってできる。
これにはライムもご満悦。まだまだ食感重視の傾向にあるが、肉に関しては味にも関心があるらしく、安物の肉には首を傾げることがあり、こうして高い肉を出すとしっかりと食べる。食事を終えた俺は片づけをライムに任せ、分身体の作成を始める。
(見た目はコピペで良いとして……必要最低限の機能は確保。移動はどうするか……)
取り合えず「見る聞く話す」はできなければ話にならない。次に移動手段が必要だ。こちらはカードを使うことで解決を図る。城の中にさえ入ってしまえばあとはもうどうとでもなる。多少の試行錯誤の末、出来上がった我が分身。最後に遠隔操作のためにあれこれと弄り回して完成である。
「大変良い出来栄えです」
片付けの終わったライムが笑顔で感想を口にするが、俺のやることなら大体何でも肯定するので、褒められてもあまりアテにはならない。とは言え、致命的な問題があれば口を挟んでくれるので、この分身体には欠陥と言えるものはないようだ。
「んでは、早速動かしてみようかね」
実際に動かしてみたところ、概ね俺の思い描いた通りの機能が備わっており、問題なく動作することが確認できた。これなら計画通りにことを運ぶことができるだろう。
「よし、それじゃこいつを動かすことに集中するから、こっちは任せたぞ」
俺の言葉にライムは頷く。感覚を共有させて本格的に集中し、汎用カードから「転移」を使用。持ってきたカードは金銀合わせて全部で5枚。残り4枚で帝都へと到着する。すぐさま次の転移の準備をし、城へ向かって飛ぶ。着地に合わせて「透明化」を使用。これで残り2枚。
(えっと、確かこっちだったな)
見覚えのある場所を探し、少し騒がしくなった城内を早歩きで進む。当然というべきか、何者かが侵入したことはバレている。魔法で周囲の探知を行ったようだが、魔力のない俺は引っかからない。熱探知とかならバレると思うのだが、生憎と相手が姿を消していることがわかっていないため、すぐにその選択を取るようなことはないだろう。
さて、城内で兵士の皆様方が駆け足で音を立てている状況で問題が発生。場所がわからん。迷子というほどでもないが、見覚えのある場所が見つからない。こういう時はカードを使用。「検索」で皇帝を探し、まずはそちらに会いに行く。
ここの皇帝はディバルの存在を知っており、俺が異世界人であることも知っている。故に、俺と出会えばディバルの下へと案内してくれるだろう。仮に敵対的な行動を取るようなら、それはディバルの意思であることは間違いなく、第一案は失敗と判明するだけである。
ということで皇帝のいる場所へと向かう。しばらく進んだところでようやく見覚えのある場所を発見。俺が付けた爪痕の補修跡が見て取れるので間違いない。そのまま先に進もうとしたところで待ったがかかる。
「そこで止まれ。姿を隠しても俺を誤魔化すことはできんぞ」
そう言って姿を現したのは――思い出せない誰か。ここで出会うということはロイヤルガードの誰かであるのは間違いない。なので俺は「透明化」を解除して姿を現す。
「貴様は!」
「ちょっとばかし、皇帝に用があって来た。その先にいるのはわかっているから通してくれ。何、害するようなことは何もしない」
流石に「道を聞きたいから通して」とは言えない。
「ふざけたことを……」
そう言って剣を構えるイケメンを見て思い出した。
「あ、やっぱりいいわ」
確かこんな状態で皇帝が出てきて、その後を付いて行ったのだった。おかげで道順をほぼ思い出すことができた。目的地は玉座の間である。ならばそちらに向かえば良い。扉を開けるためにはカードを使う必要があるので、最後の一枚をここで使う訳にはいかない。
「貴様、何処に行く!?」
無視して歩き出した俺に声を上げるが、イケメンはその場から動かない。守るべき対象が奥にいるのでそこから動くに動けないのだろう。「もう少しカードを持ってくるべきだったな」と思いながら歩き続け、無事目的地へと到着。扉の前に兵士がいたが、そちらの方は本体からの遠距離攻撃で排除。やはりカードをケチるべきではなかった。
というわけで無事ゴールに到着。隠し扉の前まで来ると、最後のカードで「開錠」を使用。ここに来るときにはあれこれ必要だと言われたが、カードでも開けることができることはわかっている。この世界の仕組みをある程度理解していればこの程度のことは造作もない。
蛍光灯のスイッチを入れ、エレベーターへと歩を進める。懐かしいボタンを押し、籠が来るのをしばし待つ。その間に本体の方でも位置情報を確認。エレベーターに乗り込み、地下へと移動する。魔力がゼロの空間が近づくにつれ、本体が見ている情報画面にノイズが混じり始める。
これは予想していたことなので、すぐに調整を行いノイズを排除。地下に到着と同時に画面がクリアとなり、俺が操作する分身が地下を進む。
「よく、私の前に姿を見せることができたな?」
「いやいや、むしろ当然のことだろ?」
部屋に入ると同時に親の仇でも見るかのような形相で声をかけられたが、俺はそれを笑いながら軽く返した。しかしこんな悠長に声をかけてくるとは思わなかった。まさかとは思うが、俺が何をしに来たか想像できていないわけはあるまいな?




