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神羅装甲 影継  作者: 桑名 啓之
雌雄決戦
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彼の者、修羅と成りて守護を為す 参

 服装に関して補足させてもらうと、外国との交流(特に大英帝国)があるために洋服もかなり普及しています。出来ればこの辺は筆者の能力不足と割り切った上で大目に見てもらえると助かります。

「まさか俺たちより速く着いているとはな……待たせたか?」

「十五分程度だな。まぁ、相手がいたから暇になることは無かったから安心していい」

「ただ、要はこっちではなくて本当に良かったな。確実に体調を崩していただろうからな」

「やっぱり南は暑いね……アンジェちゃんも日射病には気を付けてね?」

「お気遣いありがとうございます! ですがこう見えてもアンジェは逞しい子なのでご安心を!」

 駅に到着して姿を現したのは、龍一を先頭に遥、椛、アンジェに千尋だった。それぞれ私服に身を包み(アンジェは例のごとくメイド服)、感想を口々にしていた。

 それぞれ動きやすさを第一に考えられた服装であり、持っている荷物も必要最低限だった。

《……さすがに薩摩は暑いのう》

《致し方ないだろう。しかし木々が多いため日影も多い。出来るだけ陽に当たらぬよう注意しておかなければならないな》

《装甲したら武人を蒸し殺した、じゃあ末代までの恥だからな》

 そして、それに付き従う釼甲が三領。

 正宗、蜥蜴丸が先行していた影継と釼甲ならではの会話を繰り広げていた。

「……何故、蜥蜴丸まで付いてきたのだろうか?」

《む? それは学園にめぼしい武人が居なかったからじゃ。もしかすれば契約していない武人はこちらの方がいるかもしれないと思ってな》

「……まぁ、いざという時の救護役も務めてくれれば、ついでに探してみよう」

《相も変わらず済まないのう……っと、誰か来たようなので失礼するぞ》

 蜥蜴丸は礼を言ったあと、人の気配を察して木々の間に隠れていった。

「五十嵐中尉、獅童少尉……そして、今回協力していただける皆さん。長旅お疲れ様でした」

 そこへ、一人の少女が歩み寄った。

 私服を身に纏ったソフィーだった。

 金髪の目立つ黒の服。下は動きやすさを重視したためなのか、スカートではなく少し余裕をもたせたボトムスだった。

 その隣には丙竜の自律形態である鉄の犬が携わっていた。

「お、久しぶりだな、リヤ。元気そうだな」

「獅童少尉も相変わらずのようで。それと中尉の『護衛任務』、お疲れさまでした」

 さすがにこの場では呼び方に気遣っているのか、『マスター』ではなく『中尉』という階級で呼んでいた。

「おう。ただそっちも、ここまで絞り込むのも大変だっただろ?」

「それほどでもありません。絞り込みの決め手となったのは神之木中将が偶然構成員から聞き出した情報でしたので……」

 ソフィーは大した感情の変化を見せることなく返答した。

 というのも、ソフィーは合流してからずっと龍一を恨みがましい目で見ており、褒められても不機嫌な様子は一切崩さなかった。

「……? 獅童、護衛任務とは一体?」

 いきなり出た事実に椛は二人に問い掛けた。

「ん? あぁ、それは要に適合する釼甲が見つかるまで、俺が護衛するっていう話だ。原因が完全に不明だったから時間がかかるものだと予想されて、長期的に接触できるよう先に学園に入学していたんだが……」

「中尉が編入してから一ヶ月程度で影継が装甲できるようになったと報告されてすぐに任務が終了した、ということです……が少尉、やはり学年一位を取ってしまうのはやりすぎではないかと」

「仕方ねぇだろ。わざと間違えると『何故間違えたか』まで分析して頭が痛いんだよ……一度この苦痛を味わってみろ、正しい答えしか出しかないぞ?」

 おどけながら龍一はソフィーへと答えた。

 その打ち解けた会話の様子を見て、遥が僅かに頬を膨らませていたが、丁度背後にいたため龍一はそれに気付くことが出来なかった。

 それを何となく察したのか、一人が咳払いをして会話を遮った。

「……任務については理解出来たが……精神関与系の神技で装甲出来なかった原因を調べることはできなかったのだろうか?」

 椛の言う精神関与とは名前の通りの神技であり、記憶を逆行して原因を探るという療法も確立されつつあり、外的要因が見つからない場合に行われるものである。

 しかし……

「それなんだが……要にはどうしてもその系統が通用しないみたいで。試しに『精神操作』も……それも軍内部でも相当な実力のある二佐級に頼んだんだが、全く効果がなかったんだ。幻影すら効かなかったからな」

「……そんなことがありえるの?」

 御影もそれは気になったようで会話に参加してきた。

「私も色々な神樂を見てきたけど、精神関与系で通じない相手がいるなんて見たことがないわよ?」

《なまじ『超常現象型』よりも厄介で、物によっては戦場全員に施し、攪乱かくらんした武将も居た程だが……》

「そうは言っても、実際に要には通用しなかったんだ。試しに俺にも施して貰ったけど、普通に通用したからな……それが一年半も原因が判明しなかった理由だ……途中何度も除名について議論されたこともあったな」

「神之木中将の妥協案……つまり天領学園で三年の間で適合する釼甲を見つけ出す、という案が通らなければ実現されるところでしたからね。あの方には多分感謝してもしきれません」

「……そんなことがあったのか……って、神之木中将が?」

「あぁ、椛は知らなかったか。神之木中将は俺の兄弟子に当たる人で、少しばかり付き合いがある」

「……色々と問い詰めたい事はあるが、そこで影継と契約して除名は免れた、ということか?」

「そういうことだ。それでは、雑談もこれまでにして……ソフィー三尉、任務内容を」

「諒解しました」

 要に話を促されると、彼女は全員の視線が集まるのを確認してから口を開いた。

「まず、私たち三人に与えられた任務は、第一に救世主本拠地の捜索です。現地住民から話を聞き、情報を集めて更なる絞込みを行い、攻撃を滞りなく進められるように準備するようにと言われています。時間が限られているので……出来れば二手に別れたいと私は考えています」

「それだと多分要君と獅童君に別れてって感じかな?」

「えぇ。武人を一人ずつ、それに数名神樂が付き添うというべきかと」

《……全員散り散りというのはさすがに危険だから、だろうか?》

「はい。影継さんの方法が最も情報を集められるかもしれませんが、ここは非常に敵地が近いので、いつどこで襲われるかもしれない場所で一人は危険過ぎます。ですが全員集まって行動では効率が悪すぎるので……」

「……多分それが最善だろうな。というわけだ。何か疑問があれば今のうちに言ってくれ」

 要が周りを見ながら尋ねると、遥が手を挙げた。

「あの……どういう風に……分けるの?」

「まず中尉と少尉が分かれるのは先程話した通りで……少尉と通信出来る私が中尉の班へ。それと少尉の相方である首藤さんはそちらへ付いてもらえますか?」

「……分かった」

 龍一と同じだという事を聞いて少し安心したのか、遥の表情は少しだけ柔らかくなった。

「そして……一般人であるアンジェさんは、中尉の班へお願いできますか?」

「は、はい。ですが、アンジェでは足でまといになるのでは……」

「いえ、初めて会ったときに確信しましたが、アンジェさんは相手の警戒心を解くという点で、このような情報収集では非常に助けになります。ですので言葉を変えます……お力を貸してはいただけないでしょうか?」

 そう言うとソフィーは躊躇うことなくアンジェに頭を下げた。

「! お、お止めくださいソフィーさん!」

「いえ、アンジェさんが協力していただけるまでは絶対に上げません」

 その言葉には確固たる意思が宿っており、アンジェが助けを求めて要を見たが、彼の反応は首を横に振るというものだった。それを見てしばらくの間アンジェは考え込んだ。

「……かしこまりました。アンジェリーク・真白・スプリングスノー、微力ではありますが喜んでお手伝いさせていただきます」

 そして決心がついたのか、アンジェは静かに礼を返した。

「……ありがとうございます」

 その返事を聞いてようやくソフィーは顔を上げて微笑み返した。

「……それで、残りは私と椛と千尋……ね。一体どういうふうに分けられるのかしら?」

「一応神技の相性も考えたのですが……お義姉……千尋さん、お願いできますか?」

「うん? 良いけど……出来れば納得の行く説明をお願いできるかな?」

「はい。私の神技は『鉱物操作』で……そうですね、砂・土・石・岩・金属の形状を変化させ、操作することが出来ます」

《……それって相当凄い神技じゃないか?》

「そうでもありません。これにはかなりの数の制限があるので……具体的に言えば一度に扱えるものは一種類のみ……例えばそこの駅で言えば、コンクリートの形状を変化させて操作させることは可能ですが、中にある鉄筋はこの条件によって扱えず、熱量を無駄にしてしまいます。逆もまた同様です」

「……少しややこしいわね」

「否定しません。そして、資料で綾里さんと二ノ宮さんの神技を確認しましたが、どちらかが一緒だと扱いが非常に難しくなる、ということが、私が千尋さんを選んだ理由になります」

「……どういうことだろうか?」

 ソフィーの含みのある言葉に椛が尋ねた。

「綾里さんの神技は磁気操作……つまり、私の操作する物体に『磁性を帯びるもの』が混じっていれば充分に効果を発揮できない可能性があります。そして二ノ宮さんの神技は辰気操作……互いに影響を大きく受けやすいので、いざ敵に遭遇した場合どちらか一人が戦えないということになりかねないのです」

「……互いに神技の威力を殺しかねないってこと?」

「はい。実際にやってみれば良いのですが、この周辺では被害が出る可能性もあり、試すことができるような場所も少ないので……」

「まぁ、それは仕方ないわよ。時間も限られているし、その組み合わせで行きましょう。みんなも異議は無いわよね?」

御影の問い掛けに全員が頷いた。

「けど、情報収集だけで構わないのだろうか? 実際にあるかどうかも確認しなければ……」

「それについてはご安心を。明後日までに候補を見つければ佐々木少佐と一尉が確認を行っていただけるようです」

「……成程、適任だな」

 佐々木鏡花の神技『認識阻害』は潜入捜査には最適であり、さらに傭兵の実力ならば多少の交戦があっても切り抜けられることは間違いない。そしてそれなら『危険性を察知した上での行動』になるため上層部も文句をはさむことは出来なくなる。

「……第二の任務は特定が終わってから話させていただきます。では、少尉は一時間ごとに定期連絡を。活動は……夕方以降はさすがに危険なので、六時には事前に伝えておいた宿に集まってください」

 再び全員が頷くと、直ぐに二手に別れて行動を開始した。


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