第四の敵
――数日後、俺はレオン王子に呼ばれて王城を訪れた。
「東側に存在する敵について、討伐するべく準備を済ませた。二日後に出発する」
俺に告げたレオン王子は、難しい顔で説明を施す――ちなみに、部屋の中にいるのは俺とレオン王子。そして王子の隣にシャル王女。
「現在のところ、目立った動きはない……のだが、何やら魔法による実験をしているのか、時折大量の魔力が拡散している。加えて、魔物についても数を増やしている」
「拠点を防衛するために、魔物を作成している?」
「ああ、その可能性が高い……放置すれば魔物の対処だけでも苦労することになるだろう」
その言葉に俺は首肯する――本命は強大な魔法である以上、魔物との戦いに苦労していては対処は難しい。
今回の敵は魔物が強力であるため、こちらとしては相手が魔物の数をこれ以上増やす前に対処をした方がいい。
「山奥で何をしているのかは不明だが、魔物まで作っているのだから、ロクでもないことであるのは間違いないな」
「作戦とかは……?」
「敵が拠点としているのはおそらく山中にある別荘だ。今は断絶してしまった貴族の家系が建設した物。敵の位置を大雑把につかんだ際に、該当する地点周辺に魔力を観測した。よって、逃がさないよう人を動員して囲い込む」
「その中で問題は魔物になる」
レオン王子に続き、シャル王女が語り出す。
「魔物の能力などについては不明な点も多いので、別荘を取り囲むにしても魔物との交戦によっては厳しい状況に晒されます」
「可能であれば事前に調べたいところだが、魔物は山奥から出てこないため調査も難しい。遠方からできるだけ観測し、交戦の際は最大限の注意を払う……くらいしか、現状ではやることがない」
「……竜と交戦した際、その配下の魔力が捕捉しづらかったはずですが、今回も似たようなものですか?」
「ああ、そう思ってもらって構わない」
うーん、作戦としては今まで以上に大規模な戦い……いくら俺が強大な力を持っていても、一人では限界もある。可能な限り犠牲を出さないよう動き続ける……俺にできることはそのくらいか。
そして、古の邪竜における配下のように、力量を捉えにくい……ゲームではわからなかったけど、何かしら敵達には共通点があるのか? それとも、他に何か理由があって――
そこまで考えた時、我に返る。まずは王子の話を聞こう。
「……別荘を取り囲みつつ、魔法によって動きを止める。首謀者の力量もわからないが、魔法……特にシャルが持つ武具によって強化された魔法であるなら、勝算はあると考える」
今回の切り札はシャル王女の武器か……敵の正体が不明である以上、取れる作戦としては最善なのだろう。
正直、ゲームとは状況が違いすぎるため、相手が何をしてくるのかわからないこともあるし、リスクが高いのは事実だが……俺はシャル王女を見る。彼女は見返し、微笑んだ。
「君の動き方についてだが」
そしてレオン王子は俺へ語る。
「シャルと一緒に行動してもらいたい。作戦の要がシャルである以上、その護衛という意味合いもある」
「わかりました……あの、城内に存在していた怪しい気配はどうなりましたか?」
ここで俺は尋ねる。第五の敵……そこについても今一度確認しておく。
「ああ、そこについては調査中だが、この城に何か取り巻くものがあるのは事実だ。陛下の体調不良も、無関係とは言いがたい」
「では……」
「早急に対処はする。現在は王城内の存在する魔法の研究室で調査を進めている。魔力そのものについてはある程度分析できたらしいから、そう遠くない内に対策の魔法は編み出せるだろう」
「それは良かったです」
俺はそう応じつつ、レオン王子へ提言する。
「城内で異変が起きた場合に備え、何かしら策を講じた方がいいように思いますが」
「その点については別で動いている。立て続けに国を脅かす脅威が出現しているのだから」
俺は頷き、会話が終わる。そこで話し合いは終了し、レオン王子は部屋から出た。
よって、俺とシャル王女だけが残される。
こちらも二日後まで宿で待機していよう……そんな風に思い立ち去ろうとした時、
「あの、ラグナさん」
「……はい」
「何かありましたか?」
問い掛けに俺は沈黙する。
「何か、とは?」
「話し合いの中で、特段感情を見せてはいませんでしたが……なんというか、私達が調査や準備を進めている間に新たな敵が出現したのを観測したとか、不安を抱いているように見受けられたので」
――鋭い。とはいっても、第六の敵が現れたというわけではない。
俺が懸念したのは別のこと……ただし詳細を語るのは今ではないと内心で断じる。
「……確たる根拠というわけではなく、あくまで自分の気になっていること、程度です。気にしないでください」
「そうですか……何かあれば相談に乗りますから」
とことん優しいな……そんな風に思いつつ、俺は部屋の外へ出ることにしたのだった。




