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7.露見

「お前ら、こんなところで何してるんだ」


 角ごとに先を見て、人影があればこれを避けて進んでいたヨアンら七人であったが、やはりすべてを避けていくことはできなかった。

 暗い石造りの廊下に、常ならば頼りなげに見える蝋燭の灯りが目を刺すように眩しく映った。

 傭兵らはどうしたものかと目配せを交わす。まっさきに行動したのはバーナードだ。


「いやぁ、ごくろうさん。道に迷っちまってさぁ」

「道に迷うって言っても、その人数でか?」


 獣脂蝋燭の灯りに照らされた兵の顔は訝し気だ。

 他に誰かいないかと窺うが、どうやら一人しかいない様子。

 やるか、と気づかれないようにヨアンは腰の剣に手を当てた。


「そうそう。いや、ちょっと酒を入れすぎて頭を冷やすついでに見回りしてこいって」

「そうなのか? ちょっと確認してくるが、お前らどこの隊の者なんだ」

「俺らはほら、傭兵の」

「傭兵の?」


 そうして話しながら、バーナードはその兵に近づいていた。

 困ったような顔をしながら、話すため、といった体で自然に歩み寄っている。


「エセルフリーダ様の隊だよ」

「何!?」


 一瞬だった。後ろから見ていると、突然バーナードが飛び上がったように思えたが、その後にはどさり、と重い物が倒れるのと金属の燭台が転がる音が響いた。


「危ねぇなぁ。ほら、早くこいつを脇に寄せるの手伝ってくれ」


 馬乗りになってとどめの一撃をくれてやってから、バーナードはヨアンらの方に振り向いた。

 倒れた兵の首元からは血が零れ、夜闇の中に黒く床を濡らしている。

 その重い体を目に映りにくいように廊下の端に引きずり、置いた。

 意志を失い、中空を見る瞳がふと蝋燭の灯りに照らされて煌めくのを見て、ヨアンはぞっと背筋を寒気が走るのを感じる。


「見つかる前にさっさと行かなきゃな」


 バーナードがそう言い終わるか終わらないかの内に、鐘を鳴らす音が城中に響いた。

 傭兵らは、はっ、と息を呑む。


「何だ、外で何かやってんのか」

「いや、夜は大人しくしてるって話だったが」


 ばたばた、と複数の忙しない足音が遠く響いた。


「話している暇じゃねえな、さっさといくぞ!」


 どこから感づかれたものか、と考える暇もあれば、七人は駆けだしていた。


「あの野郎、裏切ったか!?」


 走りつつも、傭兵の中からはそんな声が漏れる。

 大砲の轟音は城の中からでも聞こえるはずで、どうやら外は予定通り攻撃を控えているようである。

 外に原因がないとすれば、ヨアンらの動向を知っているのは厨房に居た者達だろう。


「いたぞ! こっちだ!」


 どうやら敵に捕捉されたようだ。後方からそんな声が聞こえた。


「畜生、予定通りにやらせてはくれねぇか」


 悔やんでも致し方ない。こうなった以上は、何とかこの場を切り抜ける方策を考えるしかなかった。


「どうする!?」

「どうするったって、ここまで来たら後ろには戻れねぇ!」


 肩越しに後ろをみやれば、いくつかの灯火が見える。

 よしんば隠し通路の場所まで辿り着いたとしても、あの狭い道を戻るのは自殺行為に思えた。


「とにかく城門を開くぞ!」

「それしかねぇか!」


 後ろが駄目なら、あとは前に抜けるしかない。

 敵がこちらの狙いに気づいていないことを願いつつ、速やかに行動するしかない。


「道は!?」

「このまま、まっすぐだ!」


 城の中に詰めていた者らが、先ほどの警鐘で目を覚まして集まってくる。

 後方の気配はどんどん数を増しているようだ。


「そこをどけ!」


 扉から顔を出した、使用人風の男を押しのける。どうやらそこは使用人の控室だったようだ。

 唖然とした表情の人々を尻目に、避ける間も惜しい、と椅子を蹴倒し、机を乗り越え、七人は走る。

 ヨアンも含め、息が上がってきて辛いものがあったが、そんなことに頓着している暇はない。

 刻一刻と迫る足音に、恐怖の気持ちで後頭部が冷たくなるようだ。


「よし、ここを抜ければあとは中庭を横切って……」


 廊下を走り切って、階段を駆け上がると、鉄の箍がはめられた重厚な扉の前に出た。


「中庭!? 敵さんがうようよいるんじゃねぇか」

「仕方ねぇだろ!」


 本来なら城の中を抜けて、目に留まらぬように動くつもりだったが、事ここに至っては、いかに早く目的を達成するかが焦点となる。

 バーナードは扉の取っ手にかかったが、どうにもこれが上手く開かない。


「何だってこんなところに鍵をかけてやがるんだ!」


 そう悪態をついている間にも、気配はどうやら近づいてきている。


「ちと離れろ!」


 そう言いおいて、バーナードは手斧を扉に叩きつけた。

 二度三度と鈍い音が響く。随分と頑丈に作られているらしく、扉は中々、壊れない。


「急げ! もう近くまで来てるみたいだぜ!」

「わーってる! 急かすな!」


 狙いを扉の鍵から蝶番に変えて、十度も叩いただろうか。やがて金属音とともにようやくそれがはじけ飛んだ。


「行くぞ! せーの!」


 それでも壁にはまったままの扉に、数人がかりで肩からぶつかる。


「痛っつぅ……」


 思わずそんな言葉が漏れる。肩当てを通してさえ、その硬さは響いた。


「もういっちょ!」


 弱音を吐いている場合ではない。もう一度体当たりを食らわせれば、先ほどの抵抗が何だったのか、と言いたくなるほどあっさりと扉は弾け飛んだ。

 共に扉にかかっていた傭兵らと団子になって中庭に転がり出る。手に手に武器を持っているものだから、危険なことではあった。

 そうして倒れている間も惜しく、無理やりに立ち上がると、七人は尻に火のついたような勢いで走り始めた。

 天幕や馬、武具の並ぶ中庭を城門に向かってひた走る。攻撃を受ける部分だけあって、兵が少ないのが救いだろうか。

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