11.軍議
「これだけの数で城を落とせるのか?」
「春まで待てば、援軍も来よう。我々だけであの堅城を落とせるとは」
青空軍議、とでも言えばいいだろうか。村で家を借りれば、と思ったが、十数人が一同に会するのは、この村で最も大きい村長の家でも無理があった。
風で飛ばされそうになった図面を石で固定しつつ、指揮官の数人は春まで待つべきだと主張する。
「いや、数がそろったところで、この山道では投入できる戦力は限られる」
エセルフリーダは冷静な態度を保ったまま、その言葉に反証した。
「ふむ。それも道理であるな。一戦交えるほどであれば数は問題になるまい」
一戦交える程度には、というのは、通常ならば兵を小出しにするにしても波状的、何度も攻撃を行うということだ。
一般に、攻撃する側は防衛する側の三倍程度の兵力が必要になると言うが、この山城では、それ以上に攻撃側の被害は嵩むだろう。
「兵糧攻めという手はないか」
ヨアンもこれには頷いた。いかに城とはいえ、いや、城だからこそ、周囲を固められれば補給は望めない。
であれば、直接手を出すこともなく、包囲を続けていれば自ずから崩壊するのではないか。
「いや、先ほどの春を待つという案にも言えることだが、私は時間的猶予が少ないものと考える」
ふむ、とノルン卿は考えるように息を漏らした。
指揮官らは続けてくれ、と言わんばかりにエセルフリーダを見る。
「確かに、我が軍も春となれば援けを寄越そう。しかし、それは敵にも言えることではないか」
そうなれば、城攻めどころではなくなる。
「山で会戦、という訳にはいくまい。そして、リュング城がある以上、戦場は獅子王国側となるだろう」
竪琴王国側で会戦、となれば、後背に敵を残すことになるのだから、これは当然のことと言えた。
そもそも、現在居るのも敵領地内であり、敵援軍は正面どころか後背からも現れる可能性があるのだ。
先頃の会戦に参加していた諸侯は、おおよそがリュング一帯の者らであり、本領は山の麓に広がる平原だ。
「ならばせめて工兵を招いて攻城用に櫓や投石機を」
「この山道で、か?」
そう指摘された傭兵隊長はぐぅの音もでない。という様子で口を噤んだ。
攻城兵器はその場で作るものだが、傾斜していない地面など、城の前庭程度しかない。
攻城櫓はその大きさから持ち込むのは不可能に近く、また、投石器では効果的な打撃を与えられるまで近づけば敵からの攻撃を受けることが予想された。
難攻不落。リュング城に相応しい言葉だろう。実際、記録に残っている上では、正攻法で攻略された事はないとも言う。
「それほど大きな城という訳でもないのだがな」
「実際、それほどの脅威ではないはずなのだ」
エセルフリーダが言うには、ただ単に、落としにくいというだけで、落とせないという訳ではない。
大領にある強固な城と比べれば、規模においては劣っている。つまり、収容できる兵力も多くない。
ただただ、攻め難い、という一点がリュング城を守っている。その地理的条件、獅子王国と竪琴王国の国境だということも関わっているだろう。
城砦と地形によって、出血と、時間的浪費を重ねさせる。その間に援軍が到着するという寸法だ。
「だからこそ、落とそうという者がいなかった訳だな」
わざわざ攻め難いこの城を攻略する必要はない。山脈を迂回するなり、数が揃っているなら無視して通り過ぎても良い。
だからこそ、今まで落とされたことがないのだという。
「そもそも、落とせない城なぞ存在しえないものだ」
というのが、エセルフリーダの弁である。
千丈の堤も蟻の一穴から崩壊するというのなら、人の出入りがある城は簡単に崩れ去るだろう。
どれほど頑丈に作ろうとも、中に人間が居る以上はいつかは崩れる。もしも崩れない城があるとすれば、それは城としての用を為さない。
城とは守るためのものであると同時に、住居であり、政の場であり、そして象徴なのだ。
「しかし、そうなると今の戦力でも厳しいのではないか」
獅子王国側の軍勢はノルン卿ともう一人の伯爵、それに男爵が一人と準男爵や騎士が数名。そして傭兵団で総勢二百名といったところだ。
対する竪琴王国、リュング城伯側の数は不明だが、百は下らないだろう。それは、この城を守るには十分な数に思えた。
片眉を上げて、困惑したように言う男爵の言葉も全くその通りだ。
「何か策がある。ということか?」
それまで、難しい話には付いていけない。とばかりにあらぬ方向を見ていたギブソンが、エセルフリーダに向き直って尋ねた。
皆がエセルフリーダの方に視線を向ける。策があるならば、それに縋りたいという所だった。
「うむ。城門を開けて、そこから攻略するだけだがな」
彼女の言葉に、首を傾げる者もいれば、ぽかんと口を開ける者も居た。
確かに、城門を開けられれば、小規模な城砦であるリュング城は容易く攻略もできよう。
城を攻略するにあたっては、地面を掘って横孔を作り城壁を崩すだとか、そのような奇策があるものかと思っていたものだが、かくも単純な策が出るとは思いもしなかったものである。
聞けば、大陸の方には火薬を用いてこれを吹き飛ばすというような話もあるようだが、それはともかく。
「しかし、どうやって」
破城槌でも用意するのか。いやしかし、城門というのは開閉する必要のあるものだから当然、城における弱点として、対抗策は練られているはずだ。
リュング城は正面に鉄の大門と、跳ね上げ式の橋を備えた作りになっている。深く掘られた壕があり、橋を下ろさねば門にはたどり着けない作りだ。
「そこは、私に任せてほしい」
指揮官らは悩み込むように鼻から息を吐いた。
策は直前まで隠し通さなければならない。という事だろう。
「しかし、何の説明もなしにあたら危険に身を晒すのは難しいのだが」
当然である。いちかばちかの賭けに、自らの命を晒すにしても、せめて何が行われるかだけは知りたいものだ。
「いや、失敗したときには、貴殿らは撤退してもらって構わない」
その言葉を聞いて、諸侯らは深く頷いた。数秒ほど、何かを考えていたようだった。
「貴卿がそこまで言うのなら、乗らない手はないな」
初めに口を開いたのはノルン卿だった。他の諸侯や傭兵達もそれに賛同する。
この城を落とせれば、当然、功績大として名声を得られるだろう。
それも、策が失敗したところで痛手がないなら、加勢を断る理由もない。
「では、進軍の予定について詰めようか」
軍議は未だ続く。リュング城を落とす、という点については全員の了解を得られたようだ。




