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4.不変

 一歩引いて戦闘を見ていれば、その推移も捉えやすい。

 エセルフリーダを先頭に敵に突っ込んだ隊は、容易くその陣を食い破っていた。

 というのも、突撃を受ける前に敵は浮足立ち、既に崩れかけていたのである。

 後退しようにも前方は別の隊に抑えられており、背中を見せることはできない。

 既に見慣れてきたものではあるが、絵に書いたような戦闘で、部隊規模の反包囲だった。

 衝突していた隊は、敵味方双方ともエセルフリーダ隊に倍する以上の人数があったようだが、今やその数も意味を為していない。


「こんな所か。次へ行くぞ」

「一緒に前進はしないのですか?」


 襲撃で折れた槍に代って、新しい槍をエセルフリーダに手渡す。

 槍持ちとはそういう役割だ。もちろん、主の馬や鎧の世話もするのが普通ではあるが、それらは自身が騎士となったときに役立つ。見習い、手習いという訳である。

 エセルフリーダに関しては、馬の世話も鎧の手入れもニナとナナの双子がするものだが。

 ヨアン自身、既に鎧や槍を持たされているために、実践で慣れれば良い、という所だろう。

 この、鎧の手入れというのもなかなかに厄介なもので、鉄や鋼でできたそれは、放っておけばすぐに錆びてしまう。


「追撃は友軍に任せよう。別の場所を支えなければ」

「了解しました」


 礼を告げて敵の背を追いかける味方の隊と別れて、次の場所を目指す。

 そうして戦場を転々として、勝てると見れる場所へと助力をしていく。

 戦線は徐々に押し上げられているようだが、やはり、一部では押し返されている部分が存在した。

 勝ち目がないと見ればエセルフリーダは関与することもなく、そのお陰で、と言うべきか、隊の損耗は少ない。


「長弓兵」

「あいさ。野郎ども、行くぞ」


 嫌がらせのように放たれた矢に、慌てて盾を構える敵だったが、その隙間から射抜かれて次々と倒れていく。

 そこを逃さず友軍が雪崩れ込んで、また一つの隊が崩れた。

 この調子でいけば、すぐに全体的な優勢を得られるのではないか。

 そう思うものだが、如何せん、戦場は広い。そして、時間は短いのだ。


「今日はここまで、だな」


 バーナードが一言呟く。空は朱に染まり始めている。

 目の前では両軍が未だ一進一退の戦闘を続けており、戦線は動いて見えなかった。

 あちこちを転戦し続けていた傭兵らは、荒い息を吐いている。一日中こき使われ続けていたのだから当然だ。

 疲労はそのまま被害につながり、死人こそでなくとも、負傷者が出る頃合いである。

 部隊規模の勝利では、戦場全体にはそれほど寄与できていないように思える。


「ま、出来ることをするだけさ」


 バーナードらはその点、割り切っているように思える。

 結局、一人一人の戦功で戦局が傾く訳はなく、それぞれが自身の事を為した結果の積み重ねが勝敗となるわけだ。

 指揮を執る元帥は確かにいるのだが、戦端が開いてしまえばそれはほとんど戦闘の結果を如何とする者ではない。

 指示は伝わる頃に既に遅きに失していたり、あるいは実行が不可能な事も少なくない。

 前進の号令一つにとっても、この辺りだろう、という見当をつけて前に出る訳で、これが山岳地帯などであればどうなっていたか解ったものではない。

 平原だから見渡せているだけで、だからこそ、会戦の場所には平原が選ばれる訳である。

 つまり、双方にとって都合がいいのだから、示し合わせよう。ということだ。

 これをただのお約束だ、と言うものは、自身の首を絞めることになる。


「しかし、これでは戦功の立てようもないな」


 思わず、口から零れたのはそんな言葉だ。

 苦境を望んでいる訳でもないのだが、如何せん、戦闘に加わるような口実すら見当たらない。

 そもそも騎士への推薦を受けられるような戦功、とはどういうものを差すのだろうか。


「そいつぁ、まぁ、印象に残るような働きだろうなぁ」


 例えば、敵の軍旗を奪い取るとか、一番槍を務めるとか。

 手に持っていた矛を下ろして、帰る準備をしながら雑談をする。

 戦功を立てるというのはもちろん、いずれにしても武勇を示すものであるがゆえに、危険なのは確かだ。

 ある程度は運も必要になってくるだろう。


「焦んなよ、兄ちゃん」

「ええ。気を付けます」


 とにかく、こうして後ろに下がって槍持ちをしているだけではどうしようもないのは確かだ。

 早いこと怪我を直して、前線に復帰せねば。そう焦っても仕様がないだろう。


「そういうこっちゃねぇんだがな」


 バーナードは苦笑して装具を担ぎなおした。


「若いなぁ」

「はい?」

「いや、何でもねぇよ」


 夕焼けに横から照らされた戦場では双方の軍は互いに睨み合いながら後退を始める。

 どうやら、慣れてきた戦場はまだしばらく変わりはしないようだ。

 削りあいを続けていれば、何れかは根負けして後退することになるだろう。

 互いに決め手を欠いた状況で、戦力的にも大差ない今、これを打開するのは困難だ。

 下手な一手を打とうものなら、そこから戦線が綻びかねない以上、消極的になるのも致し方ない。


「ま、冬が開けるのが先か、戦争が終わるのが先か、ってところだな」


 寒さを思い出したように、夜気に震えながらバーナードが言う。

 その実、この寒さにやられた者も少なくはないのだ。

 思えば、バーナードも若くはない。まだまだ丈夫そうに見えるが、多少は不安にも思うものだ。

 それを言えば、おそらく年寄り扱いするな、と拗ねられるから言わないけれど。

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