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話が長いよー?

「うるううううううせええええいいいいい!」


 日本語訳しますと、うるさい、でございます。

 普段はやる気を失ったように振る舞う道具屋さんの一言コメントでございました。


「てめえ、どうしてトートに触れやがった! 起動しちまっただろうが!」

「どうしてー? どうしてトートに触っちゃダメなのー? ねえねえ。ねえねえ」

「うるさいんだよ! てめえの内臓魔力が切れるまでの一年、こっちがどれだけ苦労したと思ってんだよ」


 喋るスコップトートさんに対して、道具屋さんはあまり良い印象を抱いていないようでございますね。

 まあ、理由は薄々と察せますね。


「苦労したのー? どうして、どうして苦労したの?」

「てめえが客に喋りかけまくって、色々商売の邪魔したからだろうが! どうせ喋るんなら、そっちの抱き枕にしとけよ」


 何だよ、喋るスコップって。と、道具屋さんは力の限り絶叫しました。

 余程、商売の邪魔だったのでしょうね。


 それでもトートさんを捨てなかったのは、道具屋さんの優しさでしょうかね。この店は品揃えが素晴らしいだけではありません。


 きちんと全てが手入れされており、また並べられ方もお客様のことを第一に考えたものとなっております。

 道具屋愛に溢れているのでございましょう。


「ねえねえ、何で叫ぶのー? カロリーの無駄だよー? どうして人間は意味もなく己の寿命を削るのだろうか」


 トートさんが急激に悟ったようなことを仰いましたが、それ以上に聴き逃せない言葉がありましたね。


 そう、人間。

 この世界では、あまり使われないお言葉でございます。

 メルセルカか魔界族の方がメジャーですからね。


「トートさん、質問よろしいでしょうか?」

「いいよー。お話しよー」

「私は青方君次。しがないマグナト店員でございます」

「トートだよぉー。しがない武器ー」

「突然で申し訳ありませんが、人間という言葉はどちらでお知りに?」


 んー、とトートさんは悩むようなお声を上げました。暫く待っていますと、


「前の前の前のご主人様が言ってたー」

「なるほど。そうでしたか」

「うんー。人間とは何と愚かで欺瞞に満ちた生命なのだろうか。故に愛おしい。そして、愛おしいが故に、滅ぼそう。って、言ってたー」


 物騒なお方でございますね。

 まあ、その方の武器が喋るスコップと考えますと、少々和みますけれどもね。


「おい、竜殺し! そのトート持っていけ!」

「よろしいので?」

「てめえが起こしたんだから、責任取れよ」

「そうですか。では、ありがたく」


 トートさんを持って店を出ようとしましたら、道具屋さんにガシリと肩を掴まれました。


 振り返ると、そこには怒ったような雰囲気で形だけの笑顔を浮かべている道具屋さんの顔。


 完璧な営業スマイルでございますね。


「有金は全て置いていけ」



 ぼったくり道具屋さんを飛び出して、我々はションボリと道を歩いておりました。

 いえ、武器としては優秀だとナルさんが断言してくださいましたので救いはあります。


スキル持ちであり、尚且つ私が比較的使い慣れている形ということも高ポイントだそうです。


 とはいえ、そのスキルが問題ですね。正直に申し上げますと、かなりうるさいです。


「ねえねえ。どうして今トートを持ってるの? 何で何で?」

「私が貴女様を買ったからでございますよ」

「買ったの? 買ったの? 女を金で買ったのー?」

「ま、まあ、確かに貴女様は女性でございましたね。買う、という表現は適切ではなかったかもしれません。謝罪をーー」

「話が長いよー?」


 ねえねえねえねえねえねえねえねえねえ。

 私、気はあまり長い方ではございません。トートさんが女性でなければ、バーガー腹殴りをする所でございましたよ。


 お祖母様の御言葉により、私は女性を大切にしたいので手は出せませんね。後、トートさんにはお腹がございませんしね。


「まあ、いい。予定は狂ったが、想像以上に良い武器が手に入った」

「出費。すごいけど」

「そうだが見ろ、マグよ。あの君次を」

「かっこいい」

「だろう!」


 あまり、彼女たちの美的センスはよろしくないようですね。

 今の私はスコップを持ったマグナト店員。

 おみせかえるうううう。


 私としたことが、少しだけホームシックになってしまいましたね。これはいけません。

 マグさんにもナルさんにも失礼ですからね。


「これから特訓、でございますか?」

「そうしたいが。金が欲しいな」


 有金全て。

 というのは、流石にジョークと言いますか、本当はそうしたいでしょうけれども許されました。

 ですから、一日分の宿泊費くらいはあります。


 というよりも、道具屋さんの方から武器を勧めてくださったのに、触っただけで文句を言われるのは少々喜ばしくありませんね。

 まあ、良いですけれども。


 お金は必要になるでしょう。


「それでは軽く依頼をこなしましょうか」


 特訓に入る前に、実戦の使用感を確かめるのも悪くはありませんからね。

 そのような、軽い気分でギルドに入りますと、冒険者の方々がギョロリと我々を睨んできました。


 怖いです。


「竜殺しだ」

「素手で竜を殺したんだってよ」

「まじかよ」


 などと、囁き声が耳に入ってきます。

 また、マグさんもナルさんも美人ですから、そのなんと言いますかいやらしい視線に晒されていますね。


 気まずい思いをしながら、ギルドのお仕事を探しておりますと、見覚えのある顔が現れました。


「何だ、君たちかい? まだそんな男と一緒にいるのかい?」


 そう、勇者様でございました。

 彼女は取り巻きを連れて、ギルドのお仕事を探していたようでございます。


「どうせ、その男は何もしてないんだろう? レディーたちが頑張ったんだね。どうだい? やはり俺と来ないかい?」

「やだ」


 即答でございました。


「何だい、俺の実力を怪しんでいるのかい? 少なくとも、そこの男よりは強いよ? それにレディーたちが討伐しなかったら、あのドラゴンを狩っていたのは俺だ」


 無駄に自信満々な方でございますね。後、不必要な程に、私に対抗意識を燃やしております。


「という訳で。そこの男。俺とレディーたちを賭けて、決闘して貰おうか」

「彼女たちは賭け事の景品ではーー」


 直後、ギルド全体が歓声に包まれました。勇者様はこれを狙っていたのでしょうか。


 冒険者さんたちは興奮を隠すことなく、我々の決闘を決定事項のように囃し立ててきます。


「さあ、存分にし合おうか」

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