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動けるのは弱虫だけだぜ

「まあ、座りなよぉ」


 と、ギルド受付員様は仰いました。

 場所はギルド内。


 受付員様と仰るくらいですから、受付でお話されるのかと思えば、通されたのは応接室でございました。


 ふかふかのソファに腰掛けて、ギルド受付員様は名乗られました。


「おいらの名前はクオッタル。よろしくなぁー」

「私は青方君次でございます」


 再度名乗ります。私に続くように、マグさんとナルさんも挨拶を返しました。礼節はマグナト店員の第一歩。お二方共、成長なされましたね。


 もうマグナト店員として、教えることはございません。後、百くらいしか教えられることはございませんね。


 そのような立派な彼女たちの名乗りを聴き、クオッタルさんは微笑を浮かべた気配を放ちました。

 顔は依然、ローブに隠れて見ることができません。彼は気配だけで、微笑をこちらに伝えてきたのでございます。


 何というプロ。

 私も負けずに微笑み爽やかタイプのスマイルを浮かべます。


 弓なりに開いた瞳とローブから薄っすらと覗く瞳が交差して、軽い火花を散らします。どうやら、互角。いえ、私が僅かに勝利している程度でございましょうか。


 まさか、異世界にここまでのお方がいらっしゃいますとは。異世界、怖いですね。


 私は戦慄と歓喜でブルブルと震えました。そのような私の表情を見て、隣にちょこんと腰掛けるマグさんも猫耳を忙しなく震えさせております。


「青方。凄い顔」

「ふふ、あまり褒めないでください。褒めたところで、バーガーしかでませんよ?」

「グーがいい」


 贅沢なお方でございますね。まあ、美味しいのは認めますし、異論はまったく挟めませんけれどもね。


「で、ラヴラヴしてるとこ悪りぃけどよぉ。ギルドは会員登録してねぇと使えねぇぜ?」

「会員登録、でございますか? ……非常にはしたない質問で恐縮してしまいますけれども、その料金は発生するのでございましょうか?」

「別に、しねぇけど?」


 それは好都合でございますね。


「後、経歴も不問だぁ。いや、本当は駄目だが、おいらの一存でそうしてやるよぉ」


 クオッタルさんは軽い調子で、けれども物凄いことを仰いました。


「私たちが怪しいとは思わないのですか?」

「逆だよ。怪しいからこそ、経歴を不問にしてやってんのさぁ」

「ああ、なるほど」

「おいらとしては、質の良い冒険者が来てくれた方が嬉しい。ボーナス出るしなぁ」


 クオッタルさんはマグさんを見やりながら、


「他の二人はともかく、魔界族の子はヤヴァイねぇ。おいら、断言するよ。この子は将来、良い冒険者になるねぇ」


 彼は断言致しました。


「おい、待てよ。妾を忘れてないか、受付員」


 そこに待ったをかけたのは、ナルさんでございました。彼女はバンと机に両の掌を叩きつけ、反論を開始しました。


「妾も強い。現時点で言えば、マグよりも強い」


 それは確かでございました。

 雰囲気で理解できます。私やマグさんよりも、ナルさんの纏うオーラは上でございます。

 強者が放つ雰囲気を彼女は確かにお持ちなのでございます。


「そこだよ」

「何だよ」

「冒険者には、弱い心が大切なのさぁ。いざという時、動けるのは弱虫だけだぜ」

「弱虫だけ? 舐めてるのか?」


 ナルさんは中々辛辣でございますね。おこですか?

 と、不安に思い顔色をこっそりと観察致します。


 彼女は少々焦っている、ように見えますね。


「ナルさん、どうかしたのですか?」

「君次! 妾は強いぞ。ただ不運なだけではない」


 今更何を仰っているのでしょうか。それくらいは百も承知でございます。


「それの妾は役に立つ魔法をかなり覚えてるぞ。……不運だけど」

「ナルさん? もしかすると、貴女様は不安なのですか?」

「何が!?」

「マグさんに実力で負けそうで」


 ナルさんが目を開きました。驚愕に染まっております。


「舐めるな。まおーー」

「ナル。うるさい」


 危うく、クオッタルさんの目の前で魔王宣言をなされそうになったナルさんのいけないお口を、マグさんが手で塞ぎました。


「ナル。安心して。青方はそんなに酷い奴じゃない」

「わ、わかっている。だが、不安になるだろうが!」

「うん。マグも不安だけど、青方だから信じれる」

「そなたの言う通りだな。すまなかった」

「良い」


 女子の会話は苦手ですね。主題がわからないことがよくあります。

 仲良しは最高ですね。


「で、何のお話でしたっけ?」

「冒険者登録してやるって話さぁ」

「あ、そうでしたね。では、お願いします」

「このカードに血液を」


 それっぽい行動ですけれども、血が必要なのですか。嫌ですね。

 血を出すための針もありますけれど、怖いです。指を刺すなんて、恐ろしいにも程がありますよ。


 けれども、マグさんは普通に牙で指から血液を出し、ナルさんもあっさりと噛んで血液を流しました。


 野生的でございますね。


「針は使わないので?」

「誰が使ったかわからない。消毒しているのかもわからないからな」


 それはそうですよね。けれども、私は針を使います。何かあっても、バーガーで助かりますしね。


「えい」


 指から血が滴り落ちました。いたいです。

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