あの子は奴隷なの?
私の力をお見せすると言いましても、することは至極単純でございますよ。
養殖の難しさというのは、やはり生命を維持することが難しいという点でございましょう。
けれども、その一点さえクリアしてしまえば、主さんも魔界族さんも安定してお魚さんを食せます。
ちなみに、私は養殖や家畜に対して、可哀想だとは思いません。
そもそもマグナト商品からして肉を使っているのですからね。
家畜という文字は確かに好みではございませんけれども。
この感覚は説明し難いですね。私を冷酷野郎と罵って下さって結構でございます。
強いて説明しようとするのならば、私たち日本人が犬を喰らわず、けれども鯨は喰らうのと同じ感覚でしょうか。
家畜というのは、まあこれはあくまで私的かつ傲慢な考えなのですが、種の生存と繁栄を約束して貰う代わりに、命を代償にしている、という考えを持っております。
私はマグナト店員として全てを救うと申し上げておりながら、こうして妥協しております。
これは……どうなのでしょうかね。私は悪なのでしょうか。
「で、メルセルカ。それでこちらにメリットがあるのか?」
「どうでしょうかね。余程の速度で食べない限り、そうそう魚はいなくならないとは思いますが」
魔物さんとはつまり、外来種なのでございます。ただ一匹現れるだけで、そこの生態系は狂います。
魔界族さんが食糧難に陥ったように。
「貴方様はおそらく、私の予想だともう時期殺されてしまいます。魔界族さんが大挙するでしょう」
「……」
主さんが思い出しているのは、マグさんの圧倒的な膂力でございましょうね。
一人となら勝てても、数によっては敗北は必至でしょう。
「魔界族さんたちと共生するつもりはございませんか?」
「娘の為だ。良いだろう」
「良かったです。貴方様は魚を管理してくださいませ。魔界族さんには秘策を授けてきます」
私はマグさん、ナルさんを連れて魔界族の住居に舞い戻ってきました。久し振りの娑婆だぜ、という気分ですね。
主さんは常に私の命を狙っていらっしゃったので、少々疲れましたね。
「主は捕まえられなかったようだな。よくもまあノコノコと帰ってこれたものだ」
「あ、その件なんですけれどもね。主さんとお話しして、仲良くしようということになりました」
「何!?」
元リーダーさんは絶句して固まってしまいました。ですから、彼の隣にいる御老人にお話し致します。
「養殖に失敗しますと、お魚さんは弱ってしまいます。ですが、私の『創造せよ、至高の晩餐』を使えば死ぬことはありません」
その上、効果で身体能力が上昇しますので、良いことばかりです。
「とはいえ、すぐに食べられるわけではございません。他に策を考えねばいけませんね」
「青方」
「おや、マグさん。どうかなさいましたか?」
「服。くれる約束」
忘れていましたね。何てことは申しません。私は敢えて避けていたのです。
何故ならば、私、服を買おうにもお金を持っていないのです。
「……服」
「では、魔界族さんたちに訊いて回りましょうか。服はありますか、と」
「うん」
マグさんを連れて、魔界族さんたちの住居を散策致します。みなさん、私がメルセルカだからと怯えたり敵意をぶつけたりしてきます。
皆様、誤解なさっておりますね。私はメルセルカである前に、一マグナト店員さんなのでございます。
人々に幸せを届ける素敵なお仕事なのですよ。失礼しちゃいますね。
私がぷんぷんしておりますと、マグさんが立ち止まりました。マグさんの視線の先には、一人の魔界族くんがいらっしゃいました。
小さな体で、大きな樽をフラつきながら支えておりました。井戸から水を汲んできたのでしょうね。
このような世界ですから、飲み水にも困るのでしょう。グーを差し上げたいのですが、いつまでもあげる訳にはいきません。
私もいつかは死にますからね。ずっと私がバーガーやグーを出し続けることは不可能なのでございます。
少年はトコトコと少しずつ歩んでいました。
「これは何をやってる?」
「水を運んでいらっしゃるのでしょう」
「重そう」
魔界族の少年はそれでも樽を話そうとはなさいません。重さに顔を真っ赤にしつつも、前に進むのです。
「青方。あの子は奴隷なの?」
「いいえ。あの子は家族やお友達の為に、ああやって頑張っているのですよ」
「へえ」
頑張る子を見て、見捨てるマグさんではないです。彼女は少年の分の樽を奪い取り、歩き始めました。
良い子ですね。
あ、補足説明ではございますが、ナルさんは身体を洗う為にお風呂に入っております。主さんの胃液でベトベトしていましたからね。綺麗になると良いのですけれど。




