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ラノベ作家になったドイツ美少女の初恋は俺らしい。  作者: 藤白ぺるか


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第3話 ジニアな私と最愛の彼

「お゛〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」


 プロレスラーの雄叫びのような野太い声で私は叫んでいた。

 思わずにやけてしまう。口元がゆるみっぱなしで、もう戻らない。


 入学式の夜、私は自室のベッドの上で、可愛い芋虫の抱き枕をぎゅっと抱きしめながら、今日一日を思い返していた。幸せすぎて、何度も頭の中で巻き戻して再生してしまう。


 お風呂に入って、ヘアオイルやボディクリームを塗り、顔パックなどで肌のケアを済ませたあと。すべてを終えてからの余韻タイムだ。


「かっこ、よかったな……あんな風に成長してたんだ」


 奇跡的に同じクラスになれた彼。

 神様が私たちを引き合わせるように今一度運命を動かしてくれたのではないかというくらいの奇跡。


 黒髪のミディアムヘアに私よりも十センチくらいは背が高くて、少し鋭い目つき。

 生え変わったはずなのに、あの特徴的な八重歯はそのままで――。


「はあ……なんで私、あんな態度とっちゃったんだろ……」


 本当は、顔を突き合わせてもっともっと喋りたかった。

 なのに、できたことと言えば、隣の席に座ってチラチラと視線を送ることくらい。


 昔だったら、彼とだけはたくさん話せたはずなのに。

 でも、いざ目の前にすると、何を話せばいいのかわからなくて。結果、冷たい態度を取ってしまった。


「それに、あの子は誰なのよぉっ!」


 校舎に入る前に見かけた明るくて可愛い胸の大きなカチューシャの子。

 私とは多分真逆のタイプで、なぜか彼との距離が近かった。しかも、彼も楽しそうに話していた。

 

 …………やっぱり胸が大きい人の方が良いの!?


 自分の胸を見下ろしてみる。

 多分、私はそれほど小さくはない。でも、爆乳ではない。

 ムムムムっ……もっと大きくなぁれ。大きくなぁれ。自分の胸をマッサージしながら、あの爆乳娘よりも大きくなるように願った。


「それに、香澄さん、かあ……」


 彼に呼ばれた名前は「香澄さん」。

 本当は呼んでほしい名前が別にあった。だから私は少しショックを受けた。


 昔、あれだけ話して、色んなことを約束したはずなのに――


「なんで私のこと、覚えてないのよ〜〜〜っ!!」


 天井に向かって、溜まりに溜まった想いを一気にぶつける。


 ひとしきり叫んだあとは、机に向かい、パソコンを開いた。

 これが、寝る前の私の日課だ。


 画面に表示されているのは『ジニアな私と最愛の彼』という小説のタイトル。

 投稿者名は『ジニア』。そう、私のペンネームだ。


 ある小説投稿サイトに連載している、私の創作――いや、ほとんど日記のようなもの。

 書きはじめてからもう何年も経っていて、話数はすでに千話を超えている。


 ずっと想い続けている彼のことを、どこかに吐き出したくて。

 だから、誰にも言えない気持ちをこうして物語にして綴ってきたのだ。



『好き、好き、好き好き好き好き。だいしゅきぃぃぃぃぃ…………。


 想い続けていた彼への気持ちは再会しても変わっていなかったらしい。


 ――もう、何年ぶりだろう。

 ずっとずっと、待ち焦がれていた彼との再会。


 成長して大人になっていた彼はかっこよすぎて、もうたまらなかった。

 久しぶりに声を交わした時、あまりにも恥ずかしくて私はそっぽを向いてしまった。

 ドクンドクンと心臓の鼓動が早くなり、たくさん話そうと思ったのに結局何もできなかった。


 もっと昔みたいに、ガンガン私に喋りかけてきてもいいんだよ?

 うるさいくらいに話しかけてきたじゃない。


 彼は私の変な空気を察してか、最初に一度話しかけてからは静かになってしまった。これが、大人になった……ということだろうか。 


 でも、私はベストポジションを確保した。

 いつでも話せる、彼の隣だ。


 そんな嬉しい再会も束の間。


 ――彼は私のことを全く覚えていなかった。


 なんで名前を呼んでくれないの?

 忘れられない夏のあの日、毎日毎日名前を呼んでくれたよね?


 ううん。そんなことを言っても、もう何年も前のこと。

 私のことなんて忘れていてもおかしくない。


 でも私は、「約束した夢を叶えたよ」――そう声を大きくして伝えたかった。

 なのに、彼は私のことを全く覚えていなくて……。


 それに、彼のそばには私じゃない別の可愛い女の子がいた。

 誰? 爆乳のあの子は誰なの?

 もしかして、あの子と付き合っているんじゃ……。


 全然わからない。

 怖くて聞くことすらできない。

 

 ――いや、違う。

 全ては私が臆病なだけ。

 昔から変わらない、この弱い性格がいけないんだ。


 こんな私じゃなければ、もっと自然に、可愛く喋れたかもしれないのに。

 もっと彼と言葉を交わして、聞きたいことも聞けたかもしれないのに。


 でも――再会はできた。今はそれだけでいい。

 だから明日からは、ほんの少しでも仲良くなれるように――自分なりに頑張ろうと思う』



「ふう……」


 文章をしたため、投稿ボタンをクリック。

 そして、再びベッドにダイブ。


「……って、早っ。もうコメントついてる」


 私の書く日記は、なぜか人気がある。

 千話以上、ずっと彼への想いを綴ってきたからかもしれない。


 内容的には、個人ブログでやれという声があってもおかしくないけれど……。

 一部の読者はこれを恋愛小説として読んでくれていて、そこから少しずつファンが増えていった。


『うおおおお! ついに会えた!!』

『ジニアのデレきたあああーーー!』

『感動の再会(T_T)』

『愛が溢れてる笑』

『でも彼さん覚えてなかったの!?』

『ジニア応援してる! ガンガンいけ!』

『俺だったら絶対覚えてるのに』

『男なんて女の武器を使えばチョロいよ』

『ジニアは純粋なんだから、そんなこと言っちゃだめだよ』


 コメント欄には女性が多いけど、一部には男性も混じっているみたい。

 最近ではそんな読者の言葉に私もたくさん励まされている。


 だから、こうして投稿した後はスマホでコメントをチェックするのが、すっかり習慣になった。


「私が純粋か……」


 ぽつりとつぶやく。

 正直、私はかなり早い段階で純粋なんてものは捨てていたと思う。


 だって、私は超がつくほどのオタクだ。

 しかも、どちらかというと女性向け作品よりも、男性向け作品の方が好きだ。

 BL作品も読まないこともないけれど……。


 好きな作品はフィギュアやタペストリー、特典SSまで購入するし、サイン会にも行ったことがある。

 漫画も好きだけど、活字だけで読めるラノベの方が私には合っていた。それもお父さんの仕事が関係していて、だから自分でも小説を書きはじめたわけだけど……。


 男性向け作品は、えっちなシーンも多くて、最初はかなりびっくりした。

 でも、読み始めると不思議と慣れてきて、それなりに知識も身についた。


 もちろん、それを彼に実践するなんて絶対無理。

 恥ずかしすぎて頭がおかしくなっちゃう。


「こっちもチェックするかー」


 私は、別の小説投稿サイトを開き、『ジニア』ではないペンネームのアカウントを開いた。

 こっちで運用しているのは本物。本気で取り組んでいるアカウントだ。


 私の夢が詰まった作品がいくつか投稿されていて、ある作品の最新話のコメント欄を開き、日記同様にチェックをはじめていった。


 ◇ ◇ ◇


「――お、今日も『ジニア』更新されてる」


 俺が寝る前、日課のように読んでいるのが、この『ジニアな私と最愛の彼』というネット小説。


 気付いた頃には読んでいて、いつの間にか俺の日課にもなっていた。

 なぜ読みはじめたかは思い出せないが、日課なので夜寝る前にはこうしてスマホでチェックしているのだ。


「ついに会えたのかー。すごいなぁ。一人の人をこんなにも想い続けられるって、どれだけ……」


 このジニアという女性が何歳なのか、どこに住んでいるのか、わからない。

 でもここまで読んできてわかるのは、純粋な想いからくるものということだ。


 小説投稿サイトなので、フィクションとして読んでいる人もいるようだけど、俺はなんとなくこの話はノンフィクションだと思っている。


 ある時、ジニアの意味を調べてみた。


 ジニアは百日草とも呼ばれる夏に強い花らしい。その花言葉には『遠く離れた友を思う』『変わらない愛』『絆』などなど、こういった意味があるそうだ。


 それを考えると、ジニアがずっとその彼を想い続けてきた理由にも繋がる。

 

 ジニアはずっとずっと前から彼に会いたかったのだ。

 でも、今日の更新を見る限り、複雑な心境だ。


 彼に会えたは良いけど、その彼はジニアのことを覚えていなかったらしい。

 嬉しい反面、それは辛いことでもあっただろう。


 二人が会っていたのはどれだけ前のことなのかはわからない。

 でも、これだけジニアは想っていたのだ。それなら彼だって覚えていてもいいはず。


 だから俺はその彼のことが少し許せなくて、コメント欄にこう書き残した。



『――俺だったら絶対覚えてるのに』







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