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ラノベ作家になったドイツ美少女の初恋は俺らしい。  作者: 藤白ぺるか


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第29話 友達×ライバル

 クラウの入院期間は約三週間だった。

 迫る中間テストはギリギリ受けられる状況らしく、ただ、学校へ登校をはじめるのは、自宅療養を約一ヶ月ほどしてからになるとのことだった。


 つまり、クラウは六月下旬までは病院と自宅で過ごすこととなった。


 俺は約束――いや、彼女から課された罰の通り、毎日のように病院へ通い、彼女へ勉強を教えた。

 ただ、俺は頭が良い方ではなく、うまく授業の説明ができなかった故に協力してもらったのは、委員長の庵野小依。


 庵野さんがはじめお見舞いに来た時は、「びええええん! グラウディアぢゃあん!!」と大泣きしていた。

 確かに仲は良かったけど、それでもまだ出会ってから一ヶ月ちょっと。それなのにこれだけ友達のために泣いてくれる庵野さんのことは凄いと思った。

 彼女は頭が良いらしく、俺がうまく説明できない部分をうまく補足してくれた。


 庵野さんと一緒にお見舞いに来てくれたのは神宮利樹だ。

 二人が幼馴染と知ってからは、少し変わった目線で見てしまってはいたが、二人は喧嘩しながらも仲は良かった。


 二人はバスケ部とサッカー部なので、毎日のようには通えない。

 なので、勉強でわからないところは、部活がない日にまとめて教える、という形になった。


 もちろん文芸部の皆もお見舞いに来てくれた。

 椎木先輩、ちまり、るいるい。涙と流すとかはなかったけど、大量の果物を持ってきたりしていた。病人はそんな食べれないだろと思ったので、俺もいただくことになった。


 そして、その中で、俺にとっては驚きの人物がやってきた。

 俺だけは毎日のように病人に通っていたので、会う機会があったというものだ。


「先生……もう驚いちゃいましたよ。とりあえず次の巻の刊行は遅らせたので、安心してくださいね」

「じゃーん! 元気になりますようにって絵描いてきましたよ!」


 クラウのハイルヴィヒとしての担当編集だという網走乃々子さんとイラストレーターのおにのぼう先生だ。

 二人はサイン会で見たことがあったので、俺も覚えていたが、少し前の出来事だったため、二人も俺のことを覚えていたらしい。


 入院中の間、俺は様々な人と会うことができた。

 それはもちろん、クラウの父親と妹とも――


「君が越智くんか。私はこの子の父親をしている香澄・ノルベルト・フリッツだ。この度は娘を助けてくれて本当にありがとう。深く感謝する」


 流暢な日本語を喋るドイツ人だった。聞けば日本での生活は長いらしく、ドイツに日本の漫画やラノベを普及するための仕事をしているそうだった。

 クラウが言っていた小説を書くきっかけが父親という意味がよく理解できた。


 ただ、フリッツさんは感謝を告げたあと、複雑そうな顔を俺に向けていた。

 その理由はよくわからなかったけど、母親の橙子さんが気にしないでと言ってくれたので、俺は気にしないことにした。


「あなたが、お姉ちゃんの……えっと……私は妹の香澄・パトリツィア・ノーラです。お姉ちゃんを助けてくれて、本当にありがとうございます」


 クラウの妹であるノーラちゃんは学校帰りに一人で病室にお見舞いに来た時、俺は彼女と初対面を果たした。

 まだ中学一年生だという彼女は、クラウと同じ金髪をサイドテールにしている可愛い女の子だ。

 正直、俺が見ても相当に可愛いと思った子だ。学校でもかなりモテていると想像できた。


 そんなノーラちゃんとの一幕。

 病室から出て、休憩室で俺は二人で話すことになった。


「お姉ちゃん、素直さんのこととなると、家では凄いんですよ。私に泣きついてどうしようどうしようって……デートの時の服とかも一緒に考えましたし」

「そ、そうだったんだ……クラウって、家ではそんなに俺のことを……」

「はい。お姉ちゃんは外ではコミュ力皆無ですけど、家ではうるさいくらいに喋ります。内弁慶ってやつです」


 互いに過去を話したクラウ。

 そのせいか、今では二人きりの時は普通に話せるようになっていた。

 家にいる時とはまた違うだろうけど、それはとても穏やかな時間だ。


「一つだけ素直さんに聞きたいことがありまして」

「どうぞ」

「――お姉ちゃんのことは、好きですか?」


 礼儀正しく話し方も丁寧なノーラちゃんが、まさかそんなことを聞いてくるとは思わなかった俺は、どう答えれば良いかとても悩んだ。

 でも、彼女がクラウのことが大好きだという感情がとても、伝わってきたので、俺は正直な気持ちを話した。


「正直なところ、わからない、が正解だと思う。今、俺は半分以上は罪悪感がありながらもこうして毎日病室に通ってる。クラウはとても美少女で可愛いし、ただ、それだけで好きかどうかと言われると、わからないんだ……」

「そうですか……でも、お姉ちゃんは素直さんのこと、大好きですよ」


 ノーラちゃんは、真剣にそう言った。


「うん……それは十分に伝わってきた。うん……」


 ノーラちゃんにも言えない、クラウとのキスのこと。

 キスをして以降、俺たちはそのことについては一度も触れていない。

 ただクラウが手を握ってほしい、というお願いをした時は、俺は何も言わずに握ってあげて……ただ、それだけ。


 でも、クラウの気持ちと表情が、さすがの俺でも手に取るようにわかった。

 俺のことが好きなんだって。


「今のお姉ちゃんには――いえ、お姉ちゃんには素直さんしかいないんです。お姉ちゃんの世界の男の子は素直さんだけなんです。だから、どうかお姉ちゃんをお願いします」

「あっ、ええと……ノーラちゃん……頭まで下げなくても……」

「ふふ。すみません。やりすぎました。でも、お姉ちゃんが高校に入ってから元気になったのは、素直さんのお陰です。なので、あの日記だって――いえ、失礼しました」


 日記? なんのことだろうか。

 ノーラちゃんは言葉を濁したが、結局俺にはわからないことだらけだった。


「お姉ちゃんが退院したら、お家に来て勉強を教えるんですよね? その時はまたお願いします。お父さんがうるさいと思いますけど、気にしないでいいですから」

「そんなことはできないよ。俺は男だし、お父さんだって、色々と気にすると思うから」


 フリッツさんの家庭内での立場がわかるようなノーラちゃんの話だった。

 そうして、約三週間。病院に通う日々が過ぎて、ついにクラウは退院。自宅療養の期間がはじまった。


 ◇ ◇ ◇


「――そっか。良かった。全部、聞いたんだね。クラウディアちゃんのお話」


 クラウディアちゃんが倒れ、素直が救ったと聞いた時、私は深い安堵感に包まれた。

 純粋な気持ちだ。嘘偽りのない、純粋な。


 素直と話しをして聞いた、クラウディアちゃんの過去のお話。

 素直はついに聞いてしまったのだ。私が隠してきた、昔に出会っていた二人のお話を。


 でも、それを聞いても、私は素直に隠していたことを離さなかった。

 いや、言い出せなかったの方が正しい。


 私が最初にクラウディアちゃんのお見舞いに行った時のことだ。

 突然私と二人きりになりたいと話した。

 すると素直は病院から出ていき、私とクラウディアちゃんの二人きりになった。


 なんとなく、これから話すことがわかっていた。


「――私、素直のことが好き。あなたは?」


 いきなりそう言われ、さすがの私も戸惑った。

 彼女はもう気持ちを隠さないらしい。多分、私がいない間にもこの病室という空間で、クラウディアちゃんと素直は、今まで以上に仲を深めたのだと気づいた。


 彼女が"素直"だなんて、下の名前で呼んでいたこと。

 素直が"クラウ"と昔、私に話していた時に呼んでいた名前を口にしていたことで、すぐにわかったから。


「私には、そんな資格がない……から。クラウディアちゃん、変わったね」

「はじめてあなたを見た時から、素直のことが好きなんだなって、思ってた。そんなふうに見えてた。でも、素直は鈍感だから、そんなことには気づいてなかったみたいだけど」

「すごいね。本当によくわかってる。過ごした時間は、私の方が圧倒的に多いのに」


 彼女のお見舞いに来たのに、なぜかここでは火花が散っていた。


「私、素直のことが好き。大好き。ずっと前から好き。もう、隠さない」

「そう……そうれで良いと思う」

「あなたは――いや、真幌。真幌はそれでいいの?」


 突然呼び出した私の名前。

 色々と吹っ切れたのだろう。


 だから私は、彼女だけに話すことにした。

 誰にも話していない、あの日のことを。


「クラウディアちゃん。驚かないで聞いてね。多分その様子だと、素直からは全部は聞いていないと思うから」

「え……なんのこと?」


 やっぱり聞いていない。

 素直が、なぜ交通事故に遭ってしまったのか。そしてなぜ、あなたのことを忘れてしまったのか。


「素直の交通事故……あれは、私が車に轢かれそうになった時、それを助けようとして代わりに大怪我をしたの」

「えっ……え…………」


 クラウディアちゃんは大きく目を見開き、驚いた様子を見せた。

 夢にも思わなかっただろう。


「私は素直の幼馴染。小さい頃から、あなたのことを知ってた。素直から何度も聞かされていたから」

「…………」

「あの事故の日以降、素直はぱったりとあなたのことを話さなくなった。一部記憶がなくなってしまったとわかって、私はわざと言わなかったの。だって、そうすれば、素直はもっと私のことを見てくれると思ったから」

「なら、なんで……」


 そう。なんで、もっと積極的になろうとしないのか。

 彼女がいないのなら、私はもっと素直に近づいて、意識させることだってできたはず。なのに、そうはしない。


「わかるでしょう。私は素直の記憶とサッカー。どちらも奪ってしまったから。だから、私にはそんな資格あるわけがない。素直を好きになる資格なんて、あるわけがないんだよ」


 クラウディアちゃんだからこそ話せることを、私は話した。

 でも、私が思うより、クラウディアちゃんは強かったらしい。


「でも、ならなんで、素直はそのことを私に話さなかったの? 事故で誰かを助けたから、怪我をしたってこと、私には言わなかったんだよ? ねえ、それって、真幌のこと、どこかで気にしていたからじゃない? 幼馴染だからってこともあるかもしれない。でも、素直は見えないところでもあなたに暗い気持ちになってほしくなくて、私には言わなかったんじゃないかな?」


 クラウディアちゃんの言葉は止まらない。

 でも、何を言われたって、私は――


「私は素直のことが大好き。でも、だからといって、その近くにいる人のことを、ないがしろになんてできない。幼馴染って、そう簡単に割り切れることじゃないと思う。もし、私が素直に近づくことで、あなたが素直から離れたら……それこそ素直は悲しむと思う」

「でもねクラウディアちゃん。恋愛ってそういうものでしょ? 全員の気持ちを受け止めることなんて、できないんだよ。私に辛い思いをさせたいの?」

「うん。させたい。だってあなたは、私がいない間、ずっと素直と一緒にいた人だもん。私の知らない素直のこと、たくさん知っている人だもん」


 そう。だから私は、色々な面でクラウディアちゃんに勝っている。

 でも、彼女のことを忘れてしまった素直の隙間に入り込むような酷いことは、したくなかった。

 やったのは、あくまで友達作りが不得意な素直の傍に居続けることだけ。でも、それももう今は必要なくて――


「――――真幌、あなたは素直の大事な人。これからの人生も変わらない、大事な人だよ。だから私は、あなたと友達になって…………それで、戦いたい」

「意味がわからないよ……そんなことをして、なんになるの?」

「私は頭が悪いから……でも……一人の人をずっと長い間想い続けてきた人の気持ちだけはわかる……私と真幌は、多分似てる……性格は正反対だけど、似てるって、思うから――」

「ぇ…………」


 クラウディアちゃんの瞳から一雫の涙がこぼれた。

 なぜ……今……。


「お願い。素直を諦めないで。私もたくさんアプローチする。だから、真幌も……隠していた気持ち……ちゃんと出さないと、絶対に後悔する……勇気を出すことって大変……でも、伝えないよりは、伝えたほうが、絶対に良いって……命が消えかけた、私だから、わかる……から……」


 たった一週間で、こんなにも人が変わるのかと、この時そう思った。

 倒れて入院して、素直に過去を打ち明けて。

 性格が変わったようにスラスラと私と会話できて。


 ………………本当に、ムカつく。


「いいの? 私、本気を出したら、クラウディアちゃんに勝っちゃうよ。ほら、私って胸も大きいし、素直のこと、たくさん知ってるし。家も近いから、いつでも会いに行ける」

「うん。いいよ。私だって、体が悪いことを理由に素直をここに通わせているから、似たようなものだよ」


 この子は、本当に……。

 だからだろうか。今まで気を遣っていたことが、馬鹿らしく思えてきた。


「クラウディアちゃん、手、伸ばせる?」

「うん」

「じゃあ――」


 弱い力で伸ばしてきた細い手。

 私はそれを握った。


「これからは、ライバルってことでいい?」

「違う」

「え?」

「ライバルでもあって……友達、だよ。私、友達がクラスの委員長しかいないから……だから、真幌も友達に…………なって……」


 いや、なんでそこだけ恥ずかしがるの。

 さっきまで自信満々に話してたじゃない。


「はぁ……ほんと……その綺麗な顔、ぐちゃぐちゃにしてやりたいくらい」

「ふふ。言ったね真幌。私だって、最初にあなたを見た時、その爆乳を叩き潰してやりたいって思ったよ。今までに何度素直の腕をそこに挟んだのかって」

「さあ、数え切れないくらいかな? でも、素直は全然こっちを向いてくれなかったけど」

「………………」


 握手をしたまま、私は口角を上げた。

 すると、


「ふふふっ」

「ふふふっ」


 二人一緒に不敵な笑みを浮かべ、静かに笑った。


 そのあとのことだ。

 素直を病室に戻し、その日の勉強がはじまった。


 私は、バイトがあったので、すぐに帰る予定だった。

 でも、帰り際――


「――素直。私ね、ずっと昔から、あなたのこと好きだった」

「…………なんて!?」

「い、今っ!?」


 素直とクラウディアちゃんが同時に驚いた。

 クラウディアちゃんも目の前に人がいるところで言うとは思わなかっただろう。

 でも、私を焚き付けたのはあなたなんだよ?


「素直。答えは今必要ない。これからたくさんアプローチするから、覚悟しておいてね。だから――――ちゅっ」

「はぁぁぁぁぁ!?」

「なななっ!? なぁっ!?」


 私は素直の頬にキスをした。

 振り返り、クラウディアちゃんが驚いている顔に向けて、ふっと笑った。


「じゃあね。私バイトだから帰るね」

「いやっ、おまっ……ええ!?」

「クラウディアちゃんも、またね…………友達として、ね」

「んぎぃぃぃぃっ!!」


 なんとも言えない表情をしていた二人を置いて、私はさっさと病室を出た。

 その廊下を歩く途中、私は壁に寄りかかって、しゃがみ込んだ。


「………………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 私は、なんで、あんなこと……! 恥ずかしい、恥ずかしいよぉ……!?」


 ドヤ顔を見せて病室を出たは良いが、次からどう素直と会えば良いのだろう。

 いや、ここで引いたら負けだ。素直は内気だから、どんどん前に出ないとクラウディアちゃんに負けてしまう。


 先手を打って、クラウディアちゃんのことなんて忘れてしまうくらいに、アプローチをしなければ。


 この気持ちは、永遠に心の内にしまっておく予定だった。

 なのに、クラウディアちゃんに焚き付けられた結果、言うつもりのないことを言ってしまった。


「はあ……言ってしまったものはしょうがない。よし! 明日から頑張ろう! 私は明るくてこそ私なんだからっ!!」


 ぎゅっと拳を握り、赤面し熱くなった顔をパンパンと両手ではたいて自分を元気づける。

 

「――クラウディアちゃん、ありがとう」


 絶対に伝えるつもりのなかった気持ちを伝えられたという爽快感。

 これは、クラウディアちゃんのお陰だ。


 だから、友達として、ライバルとして。

 これからよろしくね。


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