表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラノベ作家になったドイツ美少女の初恋は俺らしい。  作者: 藤白ぺるか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/32

第19話 はじめてのデート①

「ノーラ! ノーラ! 私、大丈夫!? 可愛い!?」

「お姉ちゃん、大丈夫ですよ。すっごく可愛くて、すっごくお洒落です。これで可愛いって思わない相手がいたら、むしろ信じられません」

「そ、そう……? ノーラが言うなら大丈夫よね! うん!」


 午後からはじまる映画に備えて、私は朝から準備に没頭していた。

 最後の最後まで服装が決まらず、ギリギリになってようやく選んだコーディネート。


 それにしても、緊張しすぎて今にも倒れそう。

 だって、あの素直と、デートなんて……!


 私のことは忘れているはずなのに、こんな風に誘ってくるなんて――もしかしたら、どこかで少しでも覚えてくれてるのかな、なんて。

 少しくらいは意識してくれてるのかな。私は、ずっと意識しているから。


「じゃ、ノーラ。言ってくりゅっ!!」

「い、行ってらっしゃい、お姉ちゃん……!」


 最後に噛んでしまったけれど、初めてのデート。

 頑張るぞーっ、オーッ!


 一人、心の中で天高く拳を突き上げた。


 ◇ ◇ ◇


 午後一時すぎ。

 繁華街の駅前で、俺は香澄さんを待っていた。


 天気は快晴。暖かすぎず、寒すぎず。

 絶好のデート日和――なのに、俺は不安でいっぱいだった。


 香澄さんをうまくエスコートできるだろうか。

 ただ映画を観るだけ。シンプルな内容。

 ……それでも、失敗しないか心配になる。


「ん……なんだ?」


 改札の方が、少し騒がしい。

 気になって視線を向けると――


「か、香澄さん!?」


 まるでラブコメのテンプレのような光景。

 若い男二人が、香澄さんらしき女性に言い寄っていた。

 つまり、ナンパされていたのだ。


「――――っ!」


 香澄さんはきっと俺と同じく、人付き合いが得意ではない。

 初対面の他人に言い寄られて困っているのは、明らかだった。


 俺は迷わず走り出した。


「――香澄さんっ!!」

「お、越智くんっ!?」


 二人の間に割って入り、香澄さんの手をつかんだ。


「なんだお前?」

「俺のツレです! 今から予定あるんで――香澄さん、行くよ!」

「きゃっ」


 ナンパ男たちに有無を言わせず、俺は香澄さんの手を引いて走り出す。


「なんだよ……まあ、あんな美人が一人でいるわけねーか」


 背後からナンパ男の声が聞こえるが、追ってくる気配はなかった。


「――か、香澄さん、大丈夫!?」

「お、越智くん……じぬっ……死ぬぅっ……」

「あ……ごめん。走りすぎた……」


 サッカー部ばりの猛ダッシュが裏目に出た。

 香澄さんはヒールの靴で、明らかに走りづらかったのだ。


「大丈夫……助けてくれて、ありがとう」

「うん……どういたしまして」


 ようやく落ち着いた香澄さんが顔を上げる。

 その姿を見た瞬間、俺の口から思わず声が漏れた。


「お……おっふ……」


 登山の時とはまったく違う雰囲気。

 白のシースルーブラウスに、ハイウエストの紺色スカート。

 手には光沢のある赤いバッグ。胸元にはネックレス、耳元には大ぶりのピアス――学校では見られない装いだった。


 大人びた雰囲気に、高校生とは思えない。

 というか、可愛すぎるだろ……。


「ど、どう……かな?」

「え、ええと……なんて言えばいいか……」


 まさか感想を求められるとは思わず、頭がフリーズする。

 可愛いって言えばいいんだろうけど……めちゃくちゃ、恥ずかしい……!


「とっても……かわいい、デス……」

「っ!? あ、ありが、とう…………」


 カタコト気味になってしまったが、なんとか言えた。

 一方の香澄さんは、顔を真っ赤にして動揺していた。


「そ、それと……これ……いつまで……っ」

「あ、うわあああ!? ごめんっ!」

「あ……」


 香澄さんの手を、ずっと握っていた。

 気づいて手を離すと、どこか名残惜しそうな表情を浮かべた。


「じゃ、じゃあ行こうか」

「うん……今日はよろしく、お願いします」

「こちらこそ……」


 商業施設の上階にある映画館に到着すると、俺たちは受付でチケットを引き換えた後、売店でポップコーンとドリンクを買うことにした。

 俺は迷わずコーラを選び、香澄さんはメロンソーダを頼んだ。

 ドリンクホルダーを挟んで、ふたつ並んだ席に腰を下ろすと、上映が開始されるまで少し時間ができた。


 ◇ ◇ ◇


 ――可愛いって言われた! 可愛いって言われた! 可愛いって言われたぁ!!


 ナンパから助けてくれた素直。

 驚くほど力強く手を引かれて、息が切れるほど走った。

 でも、その手は最後まで私の手を放さなかった。

 それが、なんだか嬉しくて……。


 そして、その後に言ってくれた「可愛い」――。

 恥ずかしすぎて、頭の中がそれだけでいっぱいになってしまった。


 大丈夫かな、私。顔、変じゃない?

 変なニヤニヤしてない?

 お願い、ちゃんとしなきゃ……!


「香澄さんは、『メリポタ』見たことあるんだよね?」

「…………」


 ボーッとしていた頭が、突然声に引き戻された。


「香澄さん?」

「ひゃいっ!?」


 変な返事をしてしまった。

 素直が、ちょっと驚いたような顔でこちらを見ている。


「『メリポタ』。見たことあるんだよね?」

「ぜ、全部見た……小説も……」


 ようやく意味を理解して、慌てて答える。

 さっきのことで思考が停止していた。


 『メリポタ』こと『メリーポッター』。

 魔法使いの女の子が主人公の学園ファンタジー。

 世界中で大ヒットした人気シリーズで、原作も映画もすべて完結済み。

 現在はそのスピンオフが劇場で公開されている。


 昔、素直ともこのシリーズについてよく話した。

 でも彼はその記憶を、もう持っていない。


「メッセージで言ってたもんね。俺も全部見てたからさ……香澄さんがちゃんと知ってて良かったよ」

「私も、ちょうど見たかったから……」


 隣に、素直がいる。

 近くにいる。

 でも、さっきの出来事が頭にこびりついていて、うまく話が頭に入ってこない。


 体が熱い。

 心臓がうるさい。

 ――もう一度、手をつなぎたい。


「もうすぐはじまるよ」

「う、うん……」


 きっと今日は映画に集中できそうにない。


 ◇ ◇ ◇


 約二時間にわたる映画は、無事に上映終了した。


 正直、内容の半分くらいしか覚えていない。

 というか、上映中に何度も隣を見てしまった。

 香澄さんの横顔が、スクリーンの明かりに照らされて、すごく綺麗で……。


「面白かったね」

「う、うん……っ」


 感想を口にしてみたけれど、香澄さんはどこか上の空のようだった。

 俺も集中しきれてなかったので、それ以上映画については何も聞かなかった。


「こ、こういうことって、よくするの……?」

「えっ? 映画のこと?」

「ちがっ……女の子と遊びに行ったり……」


 どこか探るような言い方。

 香澄さんは、視線を合わせようとせず、少し照れた様子で尋ねてきた。


「んー……真幌とはよく遊ぶけど、あいつは幼馴染で……どっちかというと男友達みたいなもんだからな。カウントに入るかって言われたら、微妙かも」

「そ、そうなんだ……じゃあ、私は……」

「恥ずかしいこと聞くなあ……真幌以外では、はじめてだよ」


 映画館の出口に向かって歩きながら、俺は照れくさそうに答えた。


「そっか……私も……はじめて、だから……」

「じゃあ、お互い……はじめてのデートって……こと、だね」

「デ、デート……っ」

「あ、ごめん……! デートというか、映画観ただけだし……」

「デートでいいっ!」


 即答だった。

 しかも、少し声が大きかった。


「そ、そっか……はははは……」


 こっちの方が照れる。

 本当にデートだったんだって、ようやく実感が湧いてきた。


 そんなやりとりをしていると、映画館のロビーに出たところで、思わぬ人物と遭遇することになる。


「うお、越智じゃねーか! ……って、しかもクラウディアちゃんまで!?」


 目の前に立っていたのは、サッカー部の神宮利樹。

 そして、その横から手を振ってきたのは――


「わあー! 香澄さんと越智くんだー!」


 委員長の、庵野小依だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ