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ラノベ作家になったドイツ美少女の初恋は俺らしい。  作者: 藤白ぺるか


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第15話 温泉回

「つ゛がーれ゛ーだ〜〜〜〜〜〜っ」


 やっと麓まで到着。

 辿り着いた瞬間にるいるいが地面にダイブするように果て、青空に意識を飛ばした。


「うう……天国が見える……」


 同時にちまりも地面にダウンして動かなくなった。


「よお〜、皆おつかれ〜」


 すると既に俺たちを待っていた存在がいた。

 京本先生だ。


 駐車場に停めた車から降りてぷかぷかタバコを吹かしていた。

 だらっとした彼女の雰囲気によく似合っている。


「ん、なんだ。香澄、お前怪我したのか?」

「ええと……はい」

「そうか。見せてみろ」


 すると京本先生は香澄さんの足を確認してから車に戻り、救急箱を持ってきた。

 中からテーピングを取り出し、手慣れた動きで香澄さんを手当てした。


「どうだ、ちょっと歩いて見ろ」

「…………あ、かなり楽です。固定されたからか、痛みがほとんどないです」

「はは、良かったな」


 テーピングをした香澄さんが試しに歩いてみると、怪我をした当初とは全く違い、かなりスムーズに歩けていた。


「先生、すごいですね」

「だろ〜? ま、これでも先生ってことだ。子供に勉強を教える以外にも習得してるもんがあるのよ」

「見直しました」


 そういえばちまりと一緒に暮らしていると言う話だった。

 親っぽい一面も持ち合わせているのかもしれない。


「って、越智。お前なー、私をなんだと思ってるんだ」

「初日から置き勉を勧めたゆるい先生」

「あれは勧めたんじゃなくて、なくしても責任はとれないって話だってーの」


 でも、先生としてはやっぱり尊敬できるかと言われれば微妙だ。

 そこは置き勉はするなとピシャっと言うのが普通の先生だから。


「準備できたら出発するからなー」

「皆、言い忘れてたけど、これから温泉行きまーす。あと夕食はまよせんの焼き肉奢りだから楽しみにしててねー!」


 運転席に乗り込む京本先生。

 するとそのタイミングで椎木先輩が頑張った俺たちへのご褒美のような言葉を言い放った。


「お、温泉!? 焼き肉!? 行こう! すぐに行こうっ!」

「るいるいちゃん、まだまだ動けるじゃーん」


 一番に反応したのは、今の今まで地面に倒れていたるいるいだった。

 すぐに起き上がり、車に乗り込んだ。


「温泉……」

「香澄さん、温泉好きなの?」

「あ……うん。しばらく行ってなかったし……嫌いではない、かな」

「俺も温泉好きだなー、って言ってもよく行ってたのは町の銭湯だから全然違うけどね」


 中学の頃は部活のあと、皆で銭湯によく行っていた。

 俺はあの中ではそれほどうまくコミュニケーションをとれてはいなかったが、流れで参加していた。


 温泉に焼き肉。俺も楽しみだ。


 ◇ ◇ ◇


 車に乗って約四十分。

 山から街に降りて少し移動すると、目的の温泉にやってきた。


「実はまよせんの出身が山梨でさー、色々と融通が利くんだよねー」

「え、そうだったんですか」

「友達やら親戚やらがなーやってるところが多くて、そういうことになってる」


 さすがは地元。といってもそれだけサービスを受けさせてくれるとは、こう見えて結構人に愛されているのだろうか。

 今の段階だとそこまでの人には見えないけど、一応は山梨まで連れてきてくれているし――。


「うーし、ここだ。私はさっき入ってきたから車で寝てる。適当に行ってこい」

「じゃあ皆行くぞー!」



 そうして椎木先輩の先導で俺たちは温泉へと足を踏み入れた。


「先生のご厚意で貸切風呂になってるから、ゆっくりしていってくれー」


 なにそれ、すごすぎない?

 地元の繋がりってバカにできないな。


 俺は男子の方の貸切風呂に一人で入ると、そこはとても綺麗な場所になっていた。

 広さがそこまであるわけではないが、数人は一緒に入れる広さになっていた。


 しかし、そこでとんでもないことが起きた。

 いや、忘れていたと言ってもいいことだった。


「やほろーん! わー! すごーい!」

「はっ!? るいるい!? なんでここに!?」


 彼女(彼)の存在を完全に忘れていた。見た目がどう見ても女子なので、女子の方の風呂に入ったのだとばかり思っていたが、なぜか男子の方の風呂に入ってきたのだ。


 ただ、タオルは胸まで巻いていて、女子のような出で立ちでやってきた。


「あっれ〜。素直っちって、まだボクのこと、女の子だと思ってたの〜? ぷぷぷ」

「いや……うそ……本当にお前、男だったのか……?」

「困ってる困ってる〜。ほらほら、早く体洗わないとー!」


 俺は咄嗟に下半身にタオルを巻いて、見えないようにした。


 それから鏡の前に隣同士に座り、髪や体を洗うのだが、るいるいはタオルを巻いたままだった。


 わからねえ……今でもこいつが女なのか男なのか……。

 気になって仕方ない。



「ふう〜〜〜、きんもちーっ!」

「ああ、気持ちいいな」


 タオルを巻いたままのるいるいと一緒に浴槽に入ると、山梨の温泉が体に染み渡った。

 するとるいるいの方から話しはじめた。


「ねえ、まーだ疑ってるの〜?」

「いや……どう見ても女だし……タオルだって隠してるし……」

「ボクって可愛いからさっ、男子にも簡単に見せるのはよくないと思ってるわけ! 見たいならお金とるからねー」

「べ、別に男子のなんて見たくもねえよっ」


 ちょっとした強がりだった。

 正直、るいるいくらい可愛いと男子でもアリなのではないかと思ってしまう。


 だからだろうか。俺は少し仕掛けてみることにした。


「でもさ、男子ってことは、男子がしているようなこともできるってことだよな?」

「なんのことさ」

「ほら、乳首当てゲームとか」

「素直っちいきなり何言い出すの!?」


 俺には一歳年上の姉がいる――いや、姉と母の影響とでも言った方が良いだろうか。

 彼女らの影響で、いらん知識がついたと言っても良いだろう。

 だから、俺だってやる時はやるのだ。


「ほら、男子ならできるだろ? あ、もしかして女だからできないかー」

「は、はー!? 言ったな!? ボク男だし〜、男じゃないとこっちのお風呂入らないしー!」

「じゃあ決まりだな。俺もタオルで上隠すからさ、当たったらちゃんと言うんだぞ」

「わ、わかってるって!」


 タオルは分厚くて乳首が透けるようになっていなかった。

 俺はそれをるいるい同様に体に巻き、浴槽の中で向き合った。


 先行はるいるいだった。


「どーこーかーな〜〜」


 やると決まってからは結構ノリノリだった。

 この性格だ、楽しいことが好きらしい。


「ここっ!」


 二本の人差し指が俺の胸に伸びる。

 しかし、そこは乳首ではなかった。


「ざんねーん」

「ええー! もっと上だったかなぁー?」

「内緒。次は俺だよ」


 俺は二本の人差し指を立てる。

 それをるいるいの胸と向けた。


 俺から煽って提案したものの、今ここにきてかなりドキドキする。

 というか、なんで俺はこんなことしてるんだろう。

 るいるいの性別はどちらだって良いだろうに。


「ほ、ほら……やらないの?」


 るいるいの顔がどこか引き攣っている。

 それを見た瞬間、俺は正気に戻った。


「ふう。やっぱりやめよう。ごめんな」

「えっ、ええ!?」


 俺がやめるというとるいるいは長い青髪を揺らして驚いた。


「のぼせるからちょっと上がって休むよ」

「えっ、ちょ……っ!」

「なぁっ!? バカ……っ!?」


 浴槽から上がろうとした時、るいるいが俺に手を伸ばした結果、タオルに指がひっかかり、俺の隠していたものが露出してしまったのだ。


「な、な……なななな……っ」


 みるみるうちに顔が赤くなるるいるい。

 その反応は、どう見ても男子とは思えない反応で――


「うわーん! 素直っちのバカぁ〜〜〜っ! ビッグマグナムデスサイズ〜〜〜!!」

「な、なんだよそれぇっ!!」


 るいるいはそう言い残すと、風呂場から出ていった。


 ◇ ◇ ◇


「ふう………気持ちいいねえ」

「はい。とっても……足の痛みも和らぐ感じです」


 私は椎木先輩とちまりちゃんと一緒にお風呂に入っていた。

 温泉ともあって、とても気持ちの良い湯だ。


 るいるいはお腹が痛いから後で入ると言っていた。

 でも、ちょっと来るのが遅いかも。


 すぐ横を見ると、水面にぷかぷかとちまりちゃんが自身の大きな胸と一緒に浮かんでいる。

 相当疲れたらしい。できるだけ体を動かさないようにしているとか。


 そんな時、隣の椎木先輩が私にとんでもないことを聞いてきた。


「ねえ、ずっと気になってたんだけどさ」

「はい……なんですか?」


 椎木先輩が私の耳元に近寄り、ちまりちゃんには聞こえないような声で言った。


「クラウディアちゃんって、あの『限界領域の魔法銃使い』の作者、ハイルヴィヒだよね?」


 瞬間、私は何を言われたのかわからず、硬直した。

 そうして、ゆっくりと椎木先輩の目を見た。


 眼鏡を外している先輩の目はとっても綺麗で、でも今この時だけは、私のことを見抜いているような目をしていた。


「ななっ、なんでそれを!?」

「あはは〜、やっぱりか〜カマかけてみたけど、まさか本当だったなんて」

「え、え…………カマ〜〜〜〜〜!?」


 私は椎木先輩にカマをかけられ、吐いてしまったらしい。


「いやいや、でも確信まではいかないものの、結構自信は会ったよ? だってさ、クラウディアちゃん、入部届出す時に『香澄・ハイルヴィヒ・クラウディア』って書いてたからさ」

「ぁ…………」


 私は頭を抱えた。

 ハイルヴィヒの名前を知られたくなくて、できるだけミドルネームは出さないようにしていたのに、なんであの時は書いてしまったの!?

 自分でも気づいていなかった……てか、あの入部届、素直も見たよね!?

 いや……でも、あれから何も言ってこなかったらし、ちゃんと見ていなかった……?


「せ、先輩……素直には……素直だけには言わないでください……っ」

「素直?」

「あ、いえ……越智くんには……」

「へえ、やっぱり二人には何かあるんだ……」


 余計なことまで口走ってしまった……何をしてるの私ぃ……。


「あー、大丈夫大丈夫。言わないでおくから。まあ、作家のほとんどが顔出ししていないからね。そんな大事な正体を簡単に言えるわけないよ」

「そ、それなら良かったですけど……」

「でも〜、越智くんとのことは、少し聞きたいかな〜」

「う……」


 交換条件ということかもしれない。

 私は軽く息を吐いてから、素直には絶対に言わないという条件で、簡単に小さい頃に出会っていた話をした。


「な、なにそれ……! ロマンチックすぎない!? もうそれを小説にしなよ!」

「でも、あっちは私を覚えてないので……」

「うーん。それだよねぇ。何か聞いてないの?」

「交通事故に遭ったことがあるとは聞いたんですけど、まさかそれだけで記憶がどうなるとも思えないですし……」

「確かにねえ〜、でも…………情報が少ないね。ま、私の方も越智くんと話した時に何か聞いてみるよ」

「ありがとうございます……」


 素直が私を忘れている理由。

 ただ単にずっと昔のことだから忘れているということもあり得る。

 でも、私にはどうしてもそうは思えなかった。


 と、そんな時だった。


「うわーん! でっかいのが出たよぉ〜〜〜〜!!」


 るいるいが風呂場に泣きながら突入してきた。

 なんだろう、ゴキブリでも出たのだろうか。

 




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