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ラノベ作家になったドイツ美少女の初恋は俺らしい。  作者: 藤白ぺるか


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第12話 彼女の顔、彼の顔

「お、お……越智くん……これ」

「……おう、ありがとう香澄さん」


 顔を背けたまま洗濯したらしいジャージを手渡してくれたのは香澄さんだ。


 昨日の俺の変態行動があってからというもの、やはり距離を感じる。

 あんなところを見てしまえば、嫌われてもしょうがないけど……。


 しかし、物理的に距離が近づく機会がやってくるのだった。


 それは三時間目の数学の授業だった。


「…………越智くん」

「……俺?」

「越智くんはあなたしかいないじゃない……」

「そうだよな」


 なかなか香澄さんから話しかけられないので、俺は少し驚いて返事をした。

 すると彼女はもじもじした様子でなにか言いたげだった。


「きょ、教科書忘れたの! 見せて……くれない?」

「そ、そうか! それは仕方ないな! …………机、くっつける?」

「う、うん……っ」


 香澄さんが数学の教科書を忘れた。

 彼女の席は窓際。つまり教科書を見るには俺に頼るしかなかったわけだ。


 俺と香澄さんは、互いの机を移動させてくっつけた。

 周囲からの視線が少し気になったが、これはしょうがないことだ。うん、俺は悪くない。


 そうして授業がはじまると、机の間に教科書を置き、先生が進める通りにページをめくっていった。


 ち、近い……。

 部室で一緒にいる時とはまた違った感覚だ。


 それに、近いからか、香澄さんの良い匂いがふわりと香る。

 昨日のジャージに付着したシトラスのような香りと一緒だ……。


 それに……まつ毛なっっが。鼻筋きれ〜〜〜。これが世界一のドイツの科学りょ――いや、血統?

 横目で見る香澄さんの顔が近くて、その圧倒的美貌に俺は緊張してしまう。


「くん……越智くん、次のページみたいよ? ……もう、私がめくるわ――あっ」

「あ……ごめん……」


 考え事をしていたせいか、香澄さんの声が耳に入らなかった。

 気付いた瞬間、咄嗟にページをめくろうとしたのだが、そのタイミングで香澄さんの手と触れてしまったのだ。


「べ、別にいいわ……このくらいでいちいち怒りはしないから……っ」


 そう言う香澄さんは顔が赤かった。

 いや、俺だって多分赤い。


 はあ、授業中なのに俺は何をしてるんだ……。


 ――ん、なんだ?


 すると、香澄さんがノートの切れ端と思われる紙が目の前に置いた。

 内容を見るとそこには『どんな小説書いてるか教えて?』と書かれていた。


 ま、まさかの筆談!?

 香澄さんの顔を見ると、窓の方を向いていた。


 昨日は色々あったけど、同じ部活だし、彼女なりに仲良くしようとしてくれているのだろうか。

 俺はその紙にシャーペンで追記した。


 ◇ ◇ ◇


 教科書を忘れてしまった。

 昨日家で確認したはずなのに……私も置き勉しようかな。先生は良いって言ってたし。


 このままでは授業が受けられない。

 考えられる行動は一つだった。隣の素直に見せてもらうことだ。


 勇気を振り絞って話すと、机をくっつけて教科書を見せてもらうことになった。


 ――きんちょうするううううううううう!!


 素直が近い、素直が近い、素直が近い……。


 昨日嗅いだ素直の匂いが思い出しちゃうほど近い。

 でも、彼は基本的には無臭なのか、隣に近づいてもあまり匂いがしない。

 シャツにでも鼻をくっつけたら、彼の匂いがするのだろうか……。


 いや、だめだめ。そんなことできるわけがない。


「――あっ」


 ページをめくろうとしたら彼の手と触れ合ってしまった。

 今まで顔ばかり見ていたけど、彼の手はゴツゴツしていて大きかった。

 あんなに小さかったのに、もうこんなに大きいんだ……。


 今日は手、洗えないな……。


 でも、せっかくこうして素直と近づけた。

 どうにか仲良くなれないだろうか。


 私は考えた。私と彼の共通点は小説……なら――

 ノートを一枚破り、そこに文字を書いた。


『どんな小説書いてるか教えて?』


 金髪碧眼のヒロインを書いてるという、その小説の内容が知りたかった。

 紙を渡すのは恥ずかしかったけれど、彼は返事をくれた。


『難病持ちの少女を小さい頃に助けた少年の話。事故の影響とかで二人は離れちゃうけど、将来再会する』


 え……それって……私と素直の関係に似てない?

 小さい頃に出会ってるし、一度は離れたけどこうして再会している……。

 素直は無意識でこの話を思いついたのかな。


『そのあとは?』

『主人公は勉強も運動も頑張る。ヒロインも奇跡的に難病が治って歌をはじめて才能開花する』


 へえ……病気が治って歌を……。

 私の場合は小説だけど……やっぱりどこか似ている気がする。


『このお話はどうやって思いついたの?』


 だから少しだけ突っ込んだことを聞いてみた。

 彼の返事は――なかなか返ってこなかった。


 横をちらりと見ると、返事に悩んでいる様子だった。


『ごめん。はっきりとはわからない。でも一つだけ言えるのは、俺も事故に遭ったことがあるってこと』


 ――え?


 なに、それ……全然知らないよ。

 素直が事故? え、え……大丈夫なの? ……あ、だからあれだけ頑張ってたサッカーをやめちゃったの?


 返事を書こうとした。

 でもその前に素直はもう一度紙を手に取り、一言加えた。


『今はとっても元気だよ。お陰様で創作の役に立った』


 私はすぐに紙を奪った。


『どこ痛くしたの?』

『足と頭』


 っ…………それ、大怪我じゃないの?

 素直が辛い時、私が傍にいてあげたかったな……。

 好きなサッカーをやれなくて、絶対辛かったはずなのに。


 どんな事故なのかはわからない。でも、もし大きな怪我だったとしたら、また痛くなる可能性だってあるはず。


『痛かったらちゃんと言うんだよ』


 今の私の、精一杯の心配だった。


 ◇ ◇ ◇


 んんんんんんんんんんん!?


 それ、どういうこと!?

 心配して、そう言ってくれたってこと?


 俺は香澄さんを勘違いしていたのかもしれない。

 口数はそれほど多くないし、嫌われてもしょうがないことだってした。


 でも、本当の香澄さんは優しくて素直に内面を表現できていないだけ?

 俺はこの日、彼女の違った一面を見ることができたのかもしれない。


 だから、最後にこう返事を書いた。


『ありがとう。香澄さんも何か悩んだりしたら言ってね』


 その返事を読んだ香澄さんの表情は、これまで見た中で一番穏やかだった気がした。


 





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