93話 紛糾
――さて、どうするか……。
3種族軍が侵攻しようとする原因や、それの対策について議論が飛び交う中、舞夜は思案する。
どうやら、事の原因の一端は自分にある様だ。
とんでもないことに巻き込んでくれたものだと、ジャックたちを問い詰めたいところではあるが、それは後。そもそも、ジュリウス皇子と大臣の話を聞く限り、不死者の王を名乗り出ることによって起きる、“世界の声”というシステムは、この世界において常識のようだ。
であれば、舞夜が異界出身だと知らなかった彼らからすれば、それは、かわいそうというものである。
「魔族だけならばなんとかなりますが、エルフの精鋭部隊、おまけに不死者の王の軍勢まで……殿下の率いる帝国勇者団や、騎士団が優秀とはいえ勝利は難しいかと……」
「悔しいが事実だ。恐らく後方には、魔王や不死者の王が控えているはずだからな……」
大臣の意見に、ジュリウス皇子が苦い顔で頷く。
敵の数は帝国側を上回っている。
例え、それらを蹴散らすことが出来ても、魔王の一角とそれに値する強者である、不死者の王・ユリスがいては、いくらジュリウス皇子とはいえ、敗北の可能性は高い。
ゆえに、会議は帝都の放棄を視野に入れ、紛糾しているのだ。
「あの、意見があるのですが……」
思案を終えた舞夜が挙手する。
それと同時、その場に集った者たちの視線が一気に集まり、今まで経験したことのないほどの緊張感が舞夜を襲う。
「言ってみろ、舞夜」
ジュリウス皇子が先を促す。
彼が舞夜に向かって声をかけるのは、ずいぶんと久しぶりだ。
最近、ヒルダ皇妃とセシリア皇女の件のせいか、ジュリウス皇子に舞夜は距離を置かれてしまっている。
舞夜自身に悪意はないのはもちろんだが、自分の母親と妹を誘惑されたとあっては、ジュリウス皇子の対応も分からなくはない。
この世界に来て、初めて出来た友の声が、少々冷たいことに心を痛めつつ、舞夜は口を開く。
「敵への対応ですが……ぼくひとりに、まかせてもらえませんか?」
「「「……は?」」」
舞夜の言葉に、ジュリウス皇子を始め、大臣や凛、そこにいた誰もが、そんな間抜けな声を漏らす。
この少年はいったい何を言っているのだろうか?
馬鹿なの? 死ぬの?
これもまた誰もが、そんな思考に支配される。
「どういうことだ、舞夜? いくら、お前の“魔導士”の力が強力とはいえ、相手はとんでもない数の軍勢……自殺行為だぞ」
「えっと……実は、こういった場合にピッタリな切り札があるんです。ただそれを使うには、近くに味方がいると邪魔になってしまって……」
そう説明する舞夜。
しかし、その途中でそれを遮る者たちが……
「ダメですわ、ワタクシの可愛い舞夜ちゃんに、そんな危険なマネさせられませんわ!」
「そうだぞ、舞夜領爵! 例え貴殿が、魔導士に目覚めた強者であろうとも危険すぎる!」
会議室の中央……皇帝の隣に腰掛けたヒルダ皇妃と、さらにその隣のセシリア皇女だ。
セシリア皇女はともかく、どう聞いてもアウトなヒルダ皇妃の発言に会議の場が一気に凍りつく。
「ふむ……では、こういう作戦ではどうだ?」
そんな中、唯一なんともない様子で語り出す人物がひとり。
会議室の最中央に腰掛けた、皇帝だ。
相変わらず妻が何をしようが興味がないらしい。
そして、以下の様な内容を語り出す。
まずは、魔導士である舞夜の力を信じ、切り札とやらを使ってもらう。
だが、失敗した時の為にジュリウス皇子や帝国勇者団、騎士団を含めた後発大隊を編成。
時間をおいてから出撃させ、保険とする。
その間に、帝都の住民たちを3種族軍が侵攻して来るのとは反対側から退避させる……。
そして、舞夜にこうも言う。
「異界から来た、貴殿を頼りきった不甲斐ない作戦ではあるが、今は時間がない上に、他に最善の案もない。どうかよろしく頼む」
と――
どう考えても自分に侵攻の原因があるのを隠している舞夜は、皇帝にここまで言わせてしまったことに、引き攣った笑みを浮かべつつも、もちろんそれを快諾。
「では、さっそく出撃します」
そう言うと、ひとり会議室を後にし、城の中を駆けていく。
無論、心配をかけさせない為に、アリーシャたちに言うつもりはない。
ちなみに、それでも反対の意見を口にするヒルダ皇妃とセシリア皇女に皇帝が……「男が人々の為に正義を貫こうとしておるのだ! 愛しているのであれば、それを信じて待っているのが女の勤めであろう!!」と、言っていることはカッコいいのだが、決して浮気しようとしている妻に向かって言うべきではないセリフで怒鳴りつけ、一蹴した。
「大臣……至急、兵を集めてくれ」
「かしこまりました。心中お察ししますぞ殿下……」
そんな中、ここしばらく色情して言動がおかしくなってしまっている母親や妹。
それに、放任主義の父親の対応を見て、疲れきった表情を浮かべながらジュリウス皇子が指示を飛ばす。
大臣は心底、哀れんだ表情でそれに応えるのだった。




