38話 紅き瞳の胎動
翌日——
「くくくっ……。昨日は不覚をとったが、次はそうはいかんからな?」
「ひぅっ!?」
舞夜は起き抜けに、そんなセリフを言われながら、サクラに尻を揉まれた。
酔ってないのにこれである。
早いところクエストを達成しないと、襲われるのも時間の問題だ。
だが、それ以外は順調だ。
攻略の速度も、予定していた行程よりも格段に早い。
それに加え、舞夜は夜中のうちに魔力付与や融合魔法の練習を行い、新たな技術の会得に成功した。
その名も“チャージ”。
魔法を発動可能な一歩手前の状態まで構築し、杖に留めておくという技術だ。
これにより、少しの魔法構築を施すことで《黒滅閃》の発動が可能となった。
そのうえ、杖の力を借りず、自身の制御のみで他の魔法の同時発動もできるようになった。
「見てくださいっ」
「……まるでトロールが」
「ゴミのようですの!」
アリーシャ、リリア、そしてシエラのエルフ娘3人組が沸き立つ。
舞夜が《黒滅閃》の連続発動で、ばったばったとトロールや他の魔物をなぎ倒していくからだ。
もはや、上級の魔物であろうと数体程度であれば、舞夜の敵ではなくなっていた。
そして、今回の攻略範囲の最終地点、15層目に舞夜たちは足を踏み込んだ。
が、しかし……。
「なに? よし……攻略はここまでとする。引き返すぞ」
敵の索敵に出ていたダニーとハワードの報告を受け、幼児性愛者の顔から騎士隊長の顔にもどったサクラが告げる。
「どうしてですか? せっかくここまできたのに……」
「この先にトロールが100体以上いるんだよ。あれじゃあ、あんちゃんの《黒滅閃》でも対応しきれねぇ。それに、見たこともない個体も確認できた。おそらくトロールの変異種だろうな」
「うむ。だがこれではっきりした。トロールの変異種の誕生、それに伴うトロールの異常発生。これが今回の迷宮の異常事態の原因であろう」
現場を見てきたダニーとハワードが答える。
トロールは変異種誕生の際に、一斉繁殖をする特性を持つ。
そして、トロールの成長は早い。
育ったトロールが他の魔物の住処を奪い、低層へと追いやった。
これが今回の異常事態の原因だと踏んだのだ。
それにしても、トロールが100体——その馬鹿げた状況に、舞夜も撤退を支持しようとする。
が、それと同時に、ハワードの口から気になる言葉が。
「数も厄介だが、場所もよくない。あれほど広大な空間では、瞬く間に囲まれてしまうだろう」
——広大な空間……。
「ハワードさん、広さはどれくらいですか?」
「舞夜殿、そうであるな……ギルドの敷地と比較すれば、10……いや、12倍くらいであろうか。高さも暗がりで天井が見えないくらいに高い」
「なるほど、それなら充分です。サクラさん、ちょっと行ってきます」
「おい、舞夜ちゃん何を!?」
舞夜には考えがある。
そしてそれがうまくいけば……。
そう判断し、トロールたちのいる場所に歩を進める。
「ふふっ、何をされるつもりですか、ご主人様?」
「……アリーシャねえさま、抜け駆けダメ」
「シエラも一緒でないとイヤですの!」
そう言って、アリーシャたちもついて来てしまう。
万一を考え、舞夜は残っていろと諭すのだが、どうにも言うことを聞かず、そのまま一緒に行くことに。
「ああっ、私も行くぞ! 舞夜ちゃんのピ——は、私が守る!」
とんでもない言葉を口走りながら、サクラも。
それにつられ、結局、皆まとめてついて来てしまうのだった。
◆
『ゲバッ』 『ゲバァ……』 『ゲババッ!』
——グロい……。
少し進んだ先。
トロールの群れがいるという場所を、岩陰から除けば、そこはさながら地獄絵図。
土色の醜い巨体がひしめきあっている。
そして情報どおり、群れの真ん中には見たこともない……鎧を着込んだトロールもいる。
「これは、吐き気が……」
「……グロ注意」
「びっくりして、ちょっと漏らしましたの」
あまりの光景にアリーシャたち、エルフ娘達もげんなりしている。
普通の子どもが見たらトラウマになりかねない光景だ。
だが、条件はいい。
広さ、高さともに、舞夜がこれからしようとしていることの、条件範囲を満たしている。
「よし、はじめます」
そう言って舞夜は魔力を高める。
発動範囲の指定——
座標固定——
魔力の圧縮率——
解放タイミング——
発動に必要な情報をミスリル合金の杖に流し込んでいく。
そして、その途中でポーションを煽る。
魔力の補給をしたのだ。
それほどまでの魔力を必要とする魔法。
それは、地球では魔力の保有量や、構築技術のキャパオーバーなど、様々な理由で失われたものとして伝わり、発動方法のみが書物に記される代物だ。
だが、ポーションによる魔力の補給、魔制具である杖の補助。
そして、魔力付与や融合魔法の鍛錬をすることによって、向上した自身の魔法構築技術。
これらを合わせれば——
「発動——! 《終光ノ災厄》……!!」
舞夜が、完成した魔法の名を叫ぶ。
広大な空間を黒い魔力の風が包み込む。
何体かのトロールが異常に気付いた様だが、もう遅い。
風は災厄の名の通り、命を奪い尽くす黒い嵐へと姿を変え、敵を死へと誘う檻と化す。
破滅の轟風の中、生命力を奪われたトロール達が次々と外へと吐き出され死体の山を築いていく。
やがて地面が死体で埋め尽くされると、風は静かに止んだ——。
「ご主人様、ここまで……っ!」
「……神話の光景」
「完全に漏らしましたの……」
アリーシャ達3人が各々前の目で起こった出来事の感想と、下半身事情を舞夜に報告してくる。
騎士団の面々も乾いた笑いを漏らすだけだ。
『グヴァ……ヨクモ同胞ヲ——ッ!!』
そんな中、死体の山から立ち上がる者が一体……鎧のトロールだ。
「まずいマイヤ殿ッ、そいつは——」
「アーシャッ!!」
「ご主人様ッ——!?」
サクラが何かを伝えようとするが、それよりも舞夜は早く動いていた。
アリーシャを抱きかかえ、その場を飛び退く。
次の瞬間……
轟————ッ!!!!
高密度の魔力熱線が、2人のいた場所を焼き払った。
「《黒ノ魔槍》! 《七星ノ闇魔剣》! 《黒滅閃》——ッ!!」
残った魔力を全て消費し、熱線を放った鎧のトロールを滅多撃ちにする。
『グヴァァァァァ!? オノレェェェェ——!!!!』
《終光の災厄》によるダメージもあり、鎧のトロールも、とうとう生命力が尽き地面へと崩れ落ちた。
「ご主人……様? 瞳の色が紅く……」
舞夜の腕の中、アリーシャが呟く。
「え? 目が紅い? アリーシャ何を……」
「あ、あれ、見間違い? でも確かに……」
戸惑いの表情を浮かべるアリーシャ。
舞夜の瞳を見れば、いつも通り黒色だ。
しかし、彼女は確かに見ていた。
鎧のトロールの攻撃を回避する際、舞夜の瞳が紅く輝いていたのを——。
「……ご主人様、あの攻撃をどうやって?」
「そうですの! シエラは、あの熱線が通り過ぎたあとに、攻撃だったと気づきましたの!」
とててて、と駆け寄ってきた、リリアとシエラが舞夜に尋ねる。
「そういえば……アーシャを守るのに必死だった、から?」
「や、やんっ……!ご主人様たら、そんな事……嬉しすぎて、わたし壊れちゃいますっ」
腕の中で頬を紅潮させ、ふとももをスリスリとこすり合せるアリーシャ。
どうやら、舞夜の言葉に、ジュンっときてしまったらしい。
「……む。アリーシャねえさまだけ、抱っこずるい」
「あ、あ、シエラも……!」
嫉妬で自分も抱っこしてほしいと懇願する、リリアとシエラ。
舞夜は仕方なくそれに応じるのだった。
そして抱っこしてから思い出す。
シエラがお漏らししていたことに……。
それはさておき。
舞夜は不思議に思う。
どうして自分は、あの超高速の熱線攻撃を回避することができたのか、と。
——いや、あれは回避というより、攻撃が来るのが分かっていたと言った方が……。
その考えが本当なら、舞夜は攻撃を予知したことになる。
だが、そんなことはありえない。
そう自分に言い聞かせるのだった。
「おーい、隊長! この先に魔物はいないみたいだぞ!」
「ですぅ! あれで全部だったのですぅ!」
群れを掃討したあと、先行探索に出たケニーとマリエッタが、結果報告しながら戻ってくる。
この後の16層目は事前に説明があったとおり、海底領域だ。
つまり——
「よし、これにて任務を終了とする。帰還だ!」
サクラが高らかに宣言する。
迷宮の大規模攻略はこれにて終結した。
「ふう、やったぞ……!」
「ふふっ、お疲れ様でした。ご主人様。……今夜はたくさん、エッ◯しましょうね?」
「……む。私も交◯する。姉妹丼で召し上がれ」
——こいつら……。
せっかくの達成感も、アリーシャとリリアの欲望の前に崩れさるのだった。
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