37話 女騎士隊長の本領
「あぁっキツイ! いったい、この迷宮に何が起こってるってんだい!」
「ですぅ……」
10層目安全地帯——
疲労で声を荒げるケニー。
声を出す元気すらなさそうなマリエッタ。
ビキニアーマー2人組が手と脚を広げ、仰向けに寝転んでいる。
ただでさえこぼれ落ちそうな胸は、荒くなった息づかいで大きく上下し、手足を広げているせいで、食い込みや脇など全開で男性陣の目を奪う。
それはさておき。
ケニーが言うのも無理はない。
平常期の迷宮であれば、例え中層以降でも、スキル持ちのトロールが現れることはない。
誰もが疲労困憊。
今日の攻略はここまでとなり、今夜はここで休むこととなった。
——さて、夜ご飯の準備をするか。
「舞夜殿、私にも手伝わせてくれ」
夕飯を作ろうと、《黒次元ノ黒匣》で取り出した食材をアリーシャたちとともに並べていると、サクラが声をかける。
さすが、騎士隊長と言うべきか、周りと比べ疲労の色は薄い。
「そうですか? では、ここにある食材を適当に串に通してもらえますか?」
「ほう、ということはバーベキューか。まかせてくれ」
一口大に切られた肉や野菜。
その他の食材をみて、サクラは献立のひとつに気づく。
「なら、火も必要だ。この薪を使えばいいだよね?」
そう言って、セドリックも魔力を使い、火の準備を始める。
「うほっ、うまそうだな!」
「げひゃっ! それがし、楽しみである」
その姿を爛々とした目で見つめる、ダニーとハワード。
上官が働いてるのにそれでいいのだろうか。
「ご主人様の好きな、お魚の料理も用意しましょうね~」
アリーシャが魚をさばいていく。
切り方や盛り付け、それに小麦粉を用意しているのを見るに、刺身や天ぷらをつくるつもりのようだ。
「……ご主人様はお魚が好き、覚えておく」
「シエラもですの!」
アリーシャの言葉を聞きながら、リリアとシエラの2人は、ひき肉やパン粉、たまごなどを入れた、大きめのボウルを一生懸命にこねている。
舞夜が料理名を教えても、キョトンとした顔をしていたので、自分たちが何を作っているのかは理解していないらしい。
「……ちなみに、ご主人様はこねくりまわすのも得意」
「ふぁあっ!? ど、どんなですの!?」
「やめなさい」
リリアが別の意味での、こねくりまわすという言葉を口にし、シエラは興味津々。
舞夜が、あわてて止めに入る。
「あぁ……いい匂いだねぇ」
「ですぅ!」
特製のソースに潜らせた串焼きが、炙られて放つ香ばしい香りに、ケニーとマリエッタの2人も復活したようだ。
酒もエールにウィスキー、果実酒。
そして、行商人から仕入れたレアもの、米酒までよりどりみどり。
準備は整った。
夕飯……宴の始まりだ。
◆
「げひゃひゃひゃひゃッ!! それがしが倒したトロールである!」
「おいおい、飲みすぎんなよハワード?」
尻尾で酒樽を持ち上げながら、片手でまるごと焼いたトロールの脚肉を口に運び、バカ笑いするハワード。
その姿を見て、注意しながらも自分も顔を真っ赤にし、串焼きを頬張るダニー。
実に幸せそうな表情だ。
「……はんばーぐ、肉汁があふれて止まらない……!」
「初めての食感ですの! 普通のお肉より、何倍もおいしいですの!」
リリアとシエラは自分たちの作っていた、ハンバーグに大盛り上がり。
食べながらも、次の分を網の上に移している。
よっぽど気に入ったようだ。
「串焼きやハンバーグもいいけど、この……テンプラ? サクサクした食感も楽しいし、魚や海老の身がふっくらしていて、おいしいよ! 甘いテンツユもマッチして最高だ!」
「セドリック様、よかったらこれを……」
「舞夜くん、それは塩かい? なるほど、確かにおいしそうだ。やってみるよ!」
セドリックは天ぷらに夢中。
天ぷらで大喜びする貴族というのも、なかなかにシュールだ。
「アリーシャ、これはなんだい?」
「不思議な味でクセになるのですぅ!」
「ケニーさん、マリエッタさん、それはアジのなめろうです。ご主人さま特製の、味噌という調味料と、ニンニクや生姜等を加えてなめしたものす。よかったら生卵も混ぜてみてください」
「ふむ、まさか生魚がこんなに美味いとはな。それに、この米酒との組み合わせ……」
ケニーにマリエッタ、そしてサクラが米酒とともに、刺身やなめろうに舌鼓をうっている。
「シメに、余ったお刺身や薬味をごはんに乗せて、魚でとったお出汁をかける、ダシ茶漬けという料理も用意出来ます。美味しいですよ?」
「「「ごくりっ」」」
アリーシャの提案に、喉を鳴らす女騎士3人。
お茶漬けは決定した様だ。
◆
「は〜い、ご主人様。あ~ん……」
少し経ったころ。
調理の手を休めたアリーシャが、優しい声で舞夜の口に料理を運ぶ。
その手には海老の串焼き。
ガーリックソースやバジルが振りかけてある。
愛する舞夜のために、わざわざ用意していたようだ。
「あ、アリーシャ。まさかとは思うが、毎日そんなことをしているのではないだろうな?」
舞夜とアリーシャのいちゃいちゃお食事タイムが始まろうとした矢先。
心配そうな声で、サクラが疑問を投げかける。
「もちろん毎日やってます。わたしの生きがいですからっ」
それに対し、アリーシャは元気いっぱいに答える。
いかに舞夜を甘やかすのが好きなのかがうかがえる。
「それは、いかんだろう! こんな幼いうちから甘やかし過ぎてはダメになるぞ! それに酒まで飲ませてるではないか……!」
サクラの声に怒気が混ざる。
だが、彼女はひとつ勘違いをしている。
「サクラさん、ぼくはもう成人してますよ?」
「「「えっ?」」」
「え!?」
舞夜の言葉に、サクラ、アリーシャ、それにリリアが驚いた様子で反応。
だがそれは舞夜も同じだ。
「ま、舞夜殿、その見た目で……?」
「……ご主人様、成人してた?」
「びっくりです……。わたしはてっきり、まだ9歳か10歳くらいかと……」
舞夜の見た目は普通より幼い。
そのうえ、少女のような顔と肌をしているせいで、彼女たちは彼の年齢を見誤っていたのだ。
だが、これに舞夜は恐るべき事実に気づく。
「ちょっと待ってくれ。アーシャ、リリア。ぼくをそんな年齢だと認識して、襲ったのか!?」
だとすれば、彼女たちは犯罪と自覚しながら、それを実行したことになる。
「その……罪悪感はあったのですよ? でも、幼くて愛らしい、ご主人様にイケナイコトをしてると思うと……」
「……むしろ興奮した」
犯罪だとわかっていながら、幼い少年を犯す。
そんな事実も彼女たちにとっては、背徳感というスパイスにしかならなかったようだ。
本当にエロフである。
と、ここでサクラが……
「分かるぞ! アリーシャ、リリア! 可愛い男の娘は正義! 法律がなんだぁぁぁぁあッ!!」
「お前がなんだ! というか何言ってんの!?」
目の前に犯罪者予備軍がいるというのに、それを処罰すべき立場の騎士。
それも隊長ともあろうものが、擁護に走ったのだ。
思わず、舞夜が叫ぶのも無理はない。
「ふあぁ……シエラにはレベルが高過ぎますのぉ」
そんな中、さすがに3人の変態度が高過ぎたせいで、シエラは顔を真っ赤にし、あわあわしている。
それを見て、少し安心する舞夜だったが、さらなる追撃が彼を襲う。
「でも、待って下さい。成人したご主人様と幼児プレイ……」
「……背徳の極み」
「“合法ショタ”……なんという甘美な響きだ。よかった……犯罪に手を染める前にマイヤ殿に出会えて……っ!」
——く、狂ってやがる……! ってあれ? 今のサクラさんの言葉……このままじゃぼく……。
「頼む! アリーシャ、リリア! ちょっとだけ……ちょっとだけでいいのだ。舞夜ちゃんを抱っこさせてくれないか!? この通りだ!」
ロクでもないことのために、土下座を決め込む女騎士隊長。
おまけに舞夜の呼び方まで変わってしまっている。
「もう、仕方ないですね~」
「……ん。ちょっとだけ」
「お前ら奴隷だよね!? ぼくの従者なんだよね!?」
これでは、ただ、ご主人様と呼んでいるだけである。
「諦めるんだね、舞夜。うちの隊長は重症なんだ。しかも今は酔っている」
「ですぅ。酒場で酔っ払うと、小間使いの幼い男の子に襲いかかるのですぅ。止めるために今まで何人もの犠牲者が出たのですぅ」
「けど舞夜、お前が犠牲になれば……な?」
その様子を見て、ケニーとマリエッタが言ってくる
つまり生贄になれということだ。
「はぁっはぁっ……! 近くで見ると、さらに可愛いぞ、舞夜ちゃん……っ」
「ひっ!?」
気づけば、サクラの顔は舞夜の目の前に。
息づかいが荒ければ、瞳孔も開いている。
そうとう興奮しているようだ。
「あ、あの、サクラさん、落ち着いて……」
「む、そうだな。私とした事が、少々酔い過ぎたようだ……」
急に大人しくなるサクラ。
はて、酔いがさめるのが早い体質だったのだろうか。
「このままでは、舞夜ちゃんの感触を味わえん。んしょっ……!」
舞夜が、安心した次の瞬間。
サクラはそう言うと、すぽーん! と鎧を脱ぎ捨ててしまった。
酔いがさめ、モラルを思い出したわけではない。
自分の欲望を満たすため、ベストな状態を作り出したのだ。
——ああ、まずい……!
舞夜の体が強張る。
鎧を外すと、当たり前だが、その下は鎧下だ。
だが、その形状がまずいのだ。
サクラの鎧下は、黒の全身タイツの様なピチッとした素材で、彼女の自慢の腹筋はもちろん。今まで鎧で隠れていた大きな胸や、むっちりとした臀部、太もものラインまでまる見えだ。
「ナイスです。サクラさん! ご主人様は匂いフェチな上に、ニーソやストッキングが大好きな、生地フェチでもあります!」
「……ん、その格好は最適」
「何言っちゃってんの、お前ら!?」
勝手に舞夜の性癖をばらす、アリーシャとリリア。
さらに言えば、舞夜は自分のフェチズムを2人に話した覚えはない。
教えてもない好みを、ピンポイントで当ててくる奴隷2人に、恐怖するのだった。
「ふはははは! 舞夜ちゃんは将来有望だな!」
それに大喜びする、この女隊長もかなりキマってしまっている。
◆
「ところで、もしかしてだが、舞夜ゃんはもともと貴族の出身なのか?」
舞夜を膝の上に乗せたサクラが問いかける。
流石に、公然の場で襲われる様な事は無かった。
だが、後ろから手を回され、ぎゅっとされる。
柔らかい感触が押し当てられ、さらに鎧下から放たれるサクラの汗とフェロモンの香りが合わさり、下半身によろしくない。
離れて欲しいのに、離れる為に立ち上がったら大惨事だ。
なんというジレンマ。
それはさておき。
「違いますよ、どうしてですか?」
「そうなのか? 話をしていると言葉使いは丁寧だし、文字も書けるようだ。食器の使い方も正しい上に、身だしなみにも気を使っている。そう思ったのだが……」
この世界において、教育は庶民にまで行き届いていない。
ゆえに、識字率やマナーに関する知識や意識も低い。
日本で生活していれば、普通に身につく習慣も高く評価されるのだ。
「それよりも、みなさんは何をきっかけに騎士になったのですか?」
この部隊は平民上がりの者たちばかりだ。
それで舞夜は、理由が気になったのだ。
「んなら、隊長からだろう?」
「む、私か? そうだな——」
ダニーの言葉に、今までデレデレしていたサクラが、少し真面目な雰囲気になり話し始める。
「私には、年の離れた妹がいてな、故郷で一緒に暮らしていたのだが、5年前に大病を患ってしまったのだ。だが、その病気を治せる薬が白金貨十枚もして、とても手が出せるものでは無かった。だがある日……」
サクラの持つスキル《鉄壁》の噂を聞きつけた騎士団が、彼女の前に現れ、妹の薬代を貸す条件として、騎士団に入るようにと、交換条件を出してきた。
当然、サクラはそれに応じ、騎士団入り……それが彼女が騎士になった理由だ。
さらに舞夜は、サクラの日本人に似た容姿も気になり、聞いてみる。
すると、彼女の祖先が大昔にこの世界に召喚された、日本人勇者だということがわかった。
サクラの持つスキル《鉄壁》は、その勇者の力の一部だったのだ。
騎士団に目をつけられるのも納得というもの。
他の者たちにも、サクラほどではないが、似たような理由があった。
つまり、セドリックを除いた、この隊の者たちは皆がワケあり。
それゆえ、騎士団の中では肩身が狭く、危険な任務ばかり押しつけられても、文句は言えない。
おまけに給料も低い。
なんとも不敏な立場なのだ
「なぁ、舞夜ちゃん……?」
話が終わると、舞夜の後ろから耳もとに口を寄せ、サクラが囁くように、話しかけてくる。
「どうしました、サクラさん?」
「下の方……随分ツラそうだ。私に処理させてくれないか?」
——うわぁぁぁぁぁ!? バレてた!!
サクラが本気で襲いかかろうとしてくるので、舞夜は彼女に闇魔力を放出。
気絶するまで味わってもらうのだった。
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