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野郎達の英雄譚  作者: 銀玉鈴音
第六章 混沌の大地
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第九話 暴露と擬態(5)



 生きていると言う状態をどう定義づけするかによるが、ごく一般的な生物学的観点からならば、センファイという女神は、死んでいると定義づけられる。

 息をする事も無い。汗をかくことも無い。食事を取る事も無い。糞をする事も無い。つまり、代謝を行わない存在は、一般的な生命では無い。

 しかし、別の観点から考えると、生きているとも考えられる。

 "祈り"というエネルギーを受け取り、摂取した"祈り"を身体の構成に利用出来るように捻じ曲げ、組み合わせ、解釈する。超自然的な精神生命体と位置づけた場合は、生きていると定義づけても良いのかもしれない。

 果たして、生きているのか死んでいるのか、あやふやな境界の中で、センファイ――もう一人の藤田八重は、虚空をさまよっていた。


 今までに何が起きたのか、何が起こっているのか。正確な事を思い出す事はたった、一ヶ月と半分ほどの間の話であるのだが、非常に困難であった。

 バカみたいな量の情報に押し流されて、上書きされた記憶の中から、八重が八重であった欠片を集めて――偶然にも出会えた、もう一人の八重――ヒゲダルマに渡して、ようやく一息つけるようになって、八重は積極的に太陽が昇るのを数えるのをやめた。ただ、「何回日が上った?」と誰かに問われれば「多分合計五十回かその位じゃないッスかね」と答える程度はする。とはいえ、今の八重に問いかける者など、誰もいないのだが。


 世界はぼろぼろだ。

 そんな世界の上辺をどうにかこうにか取り繕って、早――何年だ?


 かって愛した、今も愛してるこの世界は、神の視点で見ると破綻寸前である。あちこちつぎはぎスパゲティコード、使えば使うほどゴミが溜まるメモリリークな処理の山。特に十字周りのバギー・プログラムは流しっぱなしにして置けば、そのうち勝手に止まるほど。

 八木は気がついていないみたいであったけれども、結構こう、色々八重が手を加えた箇所も多い。それでもおっつかなかったのは、色々と苦くて甘い思い出だ。

「彼らは、無茶ばっかりするッスね……」

 エムオーのチートは、十字を使って、間接的に神の力を暴走させたものだ。これで、世界そのものが一時的に不安定な状態に陥ってしまっていた。幸い、十字が耐え切れなくなって止まったが、非常に危険な状態であった。

 余分な負荷を掛けすぎると、世界が止まる事に繋がる。だから八重は、神々は止めに入ったのだ。確かこれは、太陽が一回りするのを、三十回ほど数えた時の話。


 心がぼろぼろだ。


 この世界に堕ちてから、まだ二ヶ月とたっていないはずだが、永遠に近い時間を体感しているようだ――もし、"十字"を全部破壊して、無事あちら側に戻れると言うなら。恥も外聞も無く八重は"神の力"をガリガリっと大盤振る舞いして、全部根っこから破壊して回る。

 恐らくそれ自体は、不可能では無い。

 何故なら八重は神である。センファイである。大体此の世の理ならなんとでも弄れる。他の六柱の神々の尻をしばき上げて、因果を捩れば此の世(・・・)で不可能は無い。

 ただ、神の力と言うものは、ゴムのように世界を捻って、此の世の因果をげる力である。捩った分だけ、余分な負荷が掛かる。


 だから神《GM》は、大抵何でも出来るけれども、大抵何も出来ない。

 ただでさえ多重によれた世界なのだ。この上余計な負荷など掛ける訳にも行かない。

 大体、神の視点で見ると、そういう事だ。


 そう。結局の所、そういう事なのだ。

 ヤ・ヴィが他六柱の神々から疎まれたのも、力が強すぎた為だ。この世界、この宇宙に多大な負荷を掛ける為だ。それを止めるために、神自身が出張っては本末転倒である。

 だから、世界を大きく捻って捩るヤ・ヴィを止める為に、神々は少々因果を少々捩った。

 此の世とは無関係な、平行宇宙の自分達と相似した魂に働きかけ、彼の世に、此の世に良く似た世界を作らせる。


 つまり、此の世は先にあった。

 ゲームは、その後だ。

 鶏が先で、卵が後という道理である。


 それを、捩った。卵が先で、鶏が後の世界へと変えた。


 だから、創めにゲームがあった事になった。

 此の世は、ゲームを模したものとなった。


 そうして十字は打ち込まれ、彼の世の彼らの人生も多少ねじくれさせる事で、"英雄"と化した。本来なら――そう、本来ならば、だ。そんな些細な歪みだけで済むはずであったのだ。彼らの、廃人達の人生を、ほんのちょっと狂わせる程度の、奇跡。

 彼らにとっては、私たちにとっては、全て電子のデーターで、痛みも、苦しみも、悲しみも、憎しみも全て画面の向こう側で。モニターの中にある人も、建物も、動物も、植物も、全ては仮初の産物。

 そんな愉快な相似世界でヤ・ヴィは順当に"英雄"に追い詰められ、順当に封印され、また暫くの平穏が訪れるはずであった。

 しかし、ヤ・ヴィは末期に彼の世に干渉し、捩れた因果を更に捻じ曲げ、此の世と彼の世を捻じ曲げた。だから八重達も引きずり込まれ、こんな世界の管理者たる役割を背負わされている。

 それでは、十字を破壊すれば戻れると言うのは間違っていたのか?

 いや、戻れる可能性が無い訳ではない。

 その手法もけして、大筋では間違っている訳では無い。

 "十字"は神がよじった世界に打ち込まれた杭で、宇宙が転覆しない為の錨の役目を果たしている。"十字"を取り除けば、その部分のねじれは恐らく解消されるだろう。


 とはいえ、何の為に錨は下ろされ、もやい綱は杭に結ばれる?

 船が流れない為に錨は下ろされ、もやいは結ばれ、港に繋がれる訳で、何の準備もなしに錨を上げて、もやい綱を解かれたら、船はどこかに流れていってしまう。

 大体、ねじれたものが戻る時に起こる衝撃に、そもそも船は耐えられるか?

 そう考えると、あまりにも無謀で、あまりにも危険。

 仮に耐えられたとしても、果たしてどこに流れていくのか、八重には予想がつかなかった。

 そして、仮に全部上手く行ったとしても、救われるのは、彼らだけでは無いか。この世界の住人達は、誰も救われないでは無いか。


 だから、八重――センファイが思いつく、もう一つの帰還の手段は、邪神殺し。

 世界を捻じ曲げたもう一つの原因である、邪神をどうにか滅ぼせば――歪みは解消される。此の世に関わりのない、彼の世の魂の力を使う"英雄"ならば、それは不可能ではない。

 ただそれも、センファイの好いたヤ・ヴィの消失を意味する事も、また事実。


 故、沈黙する。

 八重の意思に逆らい、センファイは沈黙する。大体、彼らに伝える手段もなく。

 此の世は、なるようにしかならないのだ――





 ――そして最後の"十字"に、ゼロの双牙がつき立てられた。


 音を置き去りにするような速度で振るわれる二つの牙が、みるみるうちに十字の表面を剥ぎとり、削られた部分に更に刃はねじ込まれる。"十字"は鎖鋸(チェインソー)を当てられた大木の様に、木屑か金属屑か判らない材質不明の細かい屑を撒き散らしながら削られ伐られてゆく。程なくして支えを失って、ぐらり、ぐらりと揺れる。


「一丁、上がりってな」

 ゼロが最後にけたぐり一つ入れると、蹴った方向に"十字"はゆらゆら揺れて、どうんと倒れる。何本も伐採して手馴れてくると、やはり経験の分だけ、手早く伐ることが出来るようになる。これもまた成長の一つか。

 倒れた後に、決まっておこる衝撃に備え、ゼロは心を落ち着かせる。地震のようで地震でない、形を持たない魂を揺らす振動が、何度も駆け抜ける感覚を間近で味わってきたのだ。毎度お馴染み、ぐるりと世界がひっくり返り、魂が揺さぶられるような数瞬の空白。

 圧搾された空間の歪みを、ゼロは視認した。莫大なエネルギーが衝撃となって世界を走りぬける寸前。

 スローモーションのようにゆっくりと流れるゼロの視界には、こちらを見つけて、メイスを振り上げて走りよってくる、豪華絢爛のきんきらきんに輝く"修道士"と、もう一人の裏切り者が写った。

 嘲弄してやろうとゼロは、唇を動かして、


「遅かったな、ベルウッド。今度は俺の………………」

 空気を振るわせたのは、そこまでである。

 計算の上での"大穴"の敗北ではある。だが、ゼロに気持ちの良い敗北などない。負けて喜ぶ趣味は無い。

 煽られたら煽り返せ、負けたら倍返しでやり返せ。ゼロはそう教えられて育った。その通りに、ゼロはやり返し、煽り返し、負けたままでは終わらなかった。

 だが。

 負けた相手を見間違えた時に、どういう顔をすれば良いかは判らない。執念深いが故に、そんな経験は無い。

 誰が見てもひどく間の抜けた顔で、ゼロの口だけが動いた。


 お前は、誰だ?





 言葉が漏れ出でる前に、衝撃が世界を走りぬけた。





「それじゃ、出発準備出来たから、プラン再確認の後、いこかー」

「おう。それじゃあ近場の街で、"十字"が折れてなけりゃ、飛んで……そうじゃないなら徒歩。サイハテまで、急ぎで二十日前後、攻略に四日かけて……と考えると、ギリギリだな。これ以上無駄に時間は使えない」

「そっスね。急ぎの旅ッス」

 水を飲まなきゃ三日でくたばるとはいえ、当然個人差も存在する。そして――チャカ達は、それなりに健常な肉体を持つ成人なのだ。多少の猶予は残されている、はずだ。

「ほ、本当にオマエらも行くのか?」

「――何言ってるのさ、今更」

「オ、オマエらは、他、他のアテを当った方がええんじゃね?」

 このアテが外れたら……という事を考える時。震える声をチャカは隠す事は出来ない。

 世の中、理不尽な事であふれてる。

「それこそ、何言ってるのさ。他にアテがあるなら、もうとっくに当ってるよ」

 当然、この程度の――一回しか挑戦できない事なんて、山ほどある。

「それにさ」

 けれども、チャカ達全員で決めた事だ。

「ナイトウが居るなら、何とかなるでしょ」

 大体、何だかんだで。このメンバーなら、何とかなる気がするのだ。チャカは、そんな予感がする。

「信頼してるよ、相方」


「へ?」

 ちょっくら英雄になってくる、とぼんくらな事を言ったぼんくらは、ぼんくららしい声を上げた。

 結局、邪神を倒すという目標を掲げることは、"絶望の迷宮"の再攻略も含んでいる訳で。踏破するだけでも数日掛かる迷宮を、いかに抜けるかという議題の元、数日掛けての計画と作戦立案を立て、必要なものを用立てて、"英雄"を手放したくないトワ姫らの承諾(なんだかんだで良くして貰ったのだ、義理は果たさないと道理が通らない)を得て、ようやく出発するという状況でナイトウが上げた声は、あまりにボンクラであった。

 いや、間の抜けた声を上げても仕方がないだろう。


 どさり、と馬の背に跨った小さな人影が、地面に転げ落ちた。

 大柄な男も、苦笑を浮かべた顔で硬直し、筋肉達磨もまた、無言でどさっと地面に突っ伏した。

 ようやく、崩れた市門を抜けて、さぁ行くぞと言う状況で、どさりどさりと馬から落ちた他三名の姿を見たら、誰だって間の抜けた顔で、間の抜けた声を上げるだろう。

 

「ちょ、え? おま、あ、あれ?」

 ワンテンポ遅れて、ナイトウにも激震。ぶるぶると震える手を、ぶれる視界で捉えながら――視界は暗転。





 南方都市国家連合ティカンの首都、"ネクロマンサーズ"のねぐらと化しているキンリーでは、中々戻ってこないギルドマスター、ネクロンの帰りを待つ馬鹿たちと、一部の野良の面子が、祝杯を上げていた。


 気がついたら"十字"が倒れていた。そこから訳の判らない馬鹿でかいNM(ネームド・モンスター)が沸いてきた。だから、何となく全員で協力して倒した。自分の愛着のある溜まり場を、顔見知りの面子で連携して、酷く苦戦はして、時間は掛かったものの――まぁ、なんとか。市街は壊れて、えらい(・・・)事になっていたが、何とかなったのだ。

 "英雄"十数人で、街の防衛隊と協力して挑んだ結果である。


 彼らの被害は少なくはなかったし、大概酷い目にはあったものの、最終的にキンリー名物のコロッセオに追い込み、戦士たちが前衛を張り、修道者たちがフォローに周り、暗殺者は的確に弱体化を突っ込み、魔法使いは火の玉や氷の嵐を吹き荒れさせ、死霊使い達は、<骨>を使って街の人々の誘導と、護衛に。各人の活躍の結果――街は守られた。

 名の通った"英雄(プレイヤー)"こそ少ないものの、地味ながらも各人の出来ることを的確にこなした彼らは、唐突に襲い掛かってきた厄災に、地味に対処できたのである。


「おっけーおっけー。ギルマス居ないけど、やれるもんだ」

「ハハ、いや、いい加減ネクの奴が戻ってこないなら、俺やるぞ?」

「ばっか、お前じゃカリスマが足りねーよ。カリスマが」

「違いないね、お前じゃムリムリ。どこの無名さん? ってツッコミ絶対入るって」


 都市国家連合、ティカンに所属するプレイヤーは、基本的に無名である。そして、代表になるような大ギルド、"ネクロマンサーズ"には名前の通ったプレイヤーは少ない。

 だが、無名であるからといって、集団に埋没するからといって、けして実力が無い訳では無い。


 名前が通る――一人、大活躍をする事になる羽目に陥るのは、何だかんだでどこかかしかの穴が必要である。常人だけでは不可能な、例えば、二人でしなければいけない仕事を、一人でこなさなければならない状況に陥ったり。逆転できない箇所で、逆転する事が必要になったり。詰んでいる状況で、詰みを回避したりと。


 それをこなせる、"英雄(ヒーロー)"になれるだけの実力がある事は、けして悪い事では無いが、"英雄"を必要とする状況に陥るというのは、とても不幸な事である。


 そういう意味では、彼らは非常に地味だ。物凄い武勇伝があるわけでもない。物凄い大活躍をした事がある訳では無い。極めて一般的な"プレイヤー"達が、達成できる事を真面目にやったに過ぎない。実につまらない作業の繰り返しの結果が彼らである。


「おい、そういや"十字"折った奴らはどうなった?」

「中々見つからないけど、街の人達にも話通してるしさ。そう長い事かからんしょ」

 けれども、それは。別に悪い事でもなんでもなく。

 恥じることではなく、むしろ誇る事であり。


「ネクの奴、これ見たら絶対に悔しがるぜ、何で俺も混ぜなかった! ってさ」

「最近いいところ全然無かったからな」

 ただ、平凡な集団であるが故、特異な事象に、新奇な事件に対処するのが遅れただけと言う話で。

「あ……どうしたんだ?」

 

 衝撃が、魂をひっくり返すような波が、平等に彼らを襲った。





「……一体全体、どうなっているんだろうね。まったく」

 灼熱の太陽が大地を焼き、焼かれた砂を嵐が運び、熱い砂塵が目に入る。ショートカットのつもりで進んだが、まともに進むのに苦労する、とんだ回り道。帝国領土にあまねく広がる大砂海。エムオーは未だそこに居た。

 本来ならば、とっとと身内と合流しなければならないのであるが、何故足止めを食らっているかと言うならば、理由はただ一つ。

「そんな事より、ご飯が食べたいの」

「いや、勝手に食べれば良いじゃんさ、ホント」

「私の分、もうないの。おごってよー」

「しらんがな……」

 エムオーにしつこく纏わり付いてくる、"じゃんぬ†だるく"の姫マスターは、噂どおりの駄目人間であった、という事だ。


 文字通り灰燼と化した帝国首都、フェレトで呆然と立ちすくむ彼女を見つけたのは、エムオーにとって、不幸であった事に間違いは無い。


「いやー、エムオー君は優しいなぁー」

 油断している所を、背後からの不意打ちで殺害、その後復活させて、言いくるめて、懐柔して、どんどんと協力者を増やしていく――と言う、一連のマニュアル化された行動パターンで彼女にかかわりを持ったのは、エムオーの間違いであった。


 殺した責任を取れだのなんだのと、煩く関わってくる。もう一度ぶち殺そうにも、真正面からやりあうのは、"盾"相手には不毛。大量に増やした職限定消耗品(リミテッド・アイテム)を使って強引に突破するのも、勿体無さ過ぎる相手である。

 結局、今は付きまとうに任せてある。隙あらば撒いてやろうとしたものの、砂海ショートカットにまで付いてくる上、こうして時折くだらないことをいい始める。

 実害は――相当うっとおしいだけである。エムオーはそう思い込んで、色々と我慢する。


「でも、世界転覆とか、よくないじゃん? そこまでして戻りたいの?」

 呆れたエムオーが恵んだ、固焼きパンに水の糧食を、不味そうに食いながらジャンヌは言う。エムオーも、そんな事を言われても、困る。

「つーか、僕らがやる事に口出しするな。それこそ、やりたいことをやりたいようにやる、それが僕らのポリシーだからね」

 エムオーも、真正面から、此の世と彼の世、どちらを選ぶか、と問われて。


「そりゃ、この世界も大分、面倒くさいよね。ご飯も不味いわ、お風呂も無いわ。でも、私、あっちにもそんなに未練がないのよね。戻っても大していい人生が待ってる訳じゃないし。それでも戻りたいの……?」

 ジャンヌはがじり、と石の様な固焼きパンを食いちぎった後、口内に混じった砂をぺっぺと吐き出す。


『君も、廃人でしょう?』

 生ぬるくなった水で問いかけを、ジャンヌは胃に流し込んだ。

 廃人に向かって、廃人と言う言葉は禁句だ。別段、本当に人生が終わっている訳でも、人を止めているわけでもなんでもない相手に向けていう言葉では無い、とジャンヌは己を嗜めた。


 ゲームをしている最中は敬称で、リアルを見つめたら罵倒。自称したら自嘲の中に誇りが混じり、他称されたら罵倒の中に羨望が混じる。

 そんな、微妙なニュアンスを持つ、不思議な俗語(スラング)だとジャンヌは思う。


「僕が戻らなきゃいけない理由は――廃人だからこそ、かな」


 吹き荒れる砂嵐に混じって、異種の波動が駆け抜けた。

 二人の意識は、そこで途切れる。





 サイハテから、徐々に序々に勢力圏を広める。蜘蛛によるネットワークの形成と、なぜか既に大半が逃げ出している人間達の住処を改めて占領しなおし、居住に適した空間と改変して行く。徐々に広がる、真の邪神領と言うべき領土。

 邪神と、邪神に付き従う魔人と、魔物達は、正にこの世の楽土を味わうが如くであった。

 さしたる困難も無く、労無くして広がる居住地に、蜘蛛達は、六本腕は、歓喜した。

 ぎらぎらとてりつける太陽も、神の力で常に雲に隠され、宵闇の如くに調整される。


 そんな彼らにも、平等に衝撃は襲い掛かった。


 硬直し動かなくなった、彼らの神と、魔人達を遠巻きに、魔物達もどうして良いか判らず、混乱を起こすのであった。

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