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砂漠の星 郵便飛行機乗り  作者: 降瀬さとる
第2章 動く人達編
50/136

邂逅 1

「さぁ、ここです」

と僕が案内された場所。それは屋上だった。白い石が敷き詰められているので、日光の照り返しが肌に痛い。でも、空気は室内よりも爽やかな気がする。


暗い場所から、いきなり明るい屋上に出たので目が眩んだが、次第に慣れてくると真ん中に一台の大きな車が止まっているのが見えた。


なんでこんな所に車が? と思ったが、よく見るとそれは車ではなかった。


確かにボディは車のようだが、ボディ下に車輪はついていないし、何よりもボディ上に特徴的な、大きいプロペラが2枚付いている。


プロペラ?


「これは……飛行機、なのか……?」


僕が上の空で口にすると、ショットはふふっと笑い


「ええ。そうですよ。飛行機の一種でヘリコプターと言います」

と言った。それを聞き、僕は

「ヘリ、コプター?どういう意味なんだ?」

と素朴な疑問を口にする。しかし、

「さぁ、そこまではわかりませんね。サマルくんなら或いは……」

と答えはなかった。


サマル。


僕は、また見たことも聞いたこともない物体を前にしてサマルの名を聞いたな、と思う。


「サマル…?これもサマルが作ったというのか?」


僕が聞くと、ショットは不敵な笑みを浮かべ

「いいえ、作ったのは我々です。サマルくんは設計図と基礎理論を作ったんですよ」

と答えた。


「……これも古代文明と何か関係があるのか?」


「ふふっ、やはり知っていましたか。ラシェットさん。さすがですねぇ、まぁ、おそらくそうでしょう。ですが、やはり僕は詳しくは知らないのですよ」


ショットはヘリコプターに向かいながら話す。僕はその後に渋々従った。

「ふーん、知らないことだらけだな。そんな知らないものを、簡単に作れるものなのか?」

「ははは、簡単ではありませんでしたよ。予算もかなり持っていかれました」


僕達はヘリコプターの前まで来た。ボディの側面にドアが付いていて、ショットはそこに手をかけながら言う。そして、僕の後ろについていた部下の一人がボディの裏側に消えていった。たぶん、そちらにコックピットがあるのだろう。パイロットは中にいるみたいだ。


「でも、作った甲斐はありましたよ。ラシェットさん、あなたはこれを見てこの機体の利点が何かわかりますか?」


僕が大きなプロペラを見上げているとショットが聞いてきた。だから僕は考えて答える。

「わからないな。でも、見たところこれは巨大な竹とんぼのようなものだろう?」

「竹とんぼ?それは何です?」

「ん?ああ、そうか。僕の故郷のおもちゃさ。えっと…まぁ、いい。とにかく、これは滑走路が無くても垂直に離着陸できるようだな。だからこんな狭い屋上にこれはあるんだ」

僕答えると、ショットはニコッと笑って頷き、

「正解だ!いやぁ、炯眼ですね。やはり、あなたは話相手として最高だ……」


と、ショットがなにやら興奮しているとブロッォォンッ! とヘリコプターのエンジンがかかった。

すると、2枚のプロペラがゆっくりと回り始め、そしてだんだんと速く、煩くなっていく。

なるほど、こういうことかと僕は思った。


やっぱり、ただの巨大な竹とんぼじゃないか。


「ショット様っ!」

僕がそう思っていると、屋上の入り口から一人の兵士が走って来た。

「おや、何ですか?」

ショットがドアを開けようとしていた手を離すと、兵士は素早く側までやって来てショットになにやら耳打ちする。


「ん?」


僕がその様子を見ていると、ショットと目が合った。その顔にはまた不吉な笑顔が浮かんでいる。


「ええ、そうですか。ふふっ、そうですねぇ、たぶん、そうでしょう……」

兵士からの報告が終わると、ショットはいかにも楽しそうに思案し、

「これは実に好都合。探す手間が省けました」

と言った。そして続けて


「せっかくです。直接、ご挨拶に伺いましょうか」


と愉快げに宣言した。



ーーその頃、門前。


「おいおい、お嬢ちゃん!どこ行くんだよっ」


建物を特定するなり、いきなり突入しようとしたキミの背中にカジは慌てて声をかける。

ミニスも同じく前に立ち塞がり、キミを止めた。それを不服そうに見るキミ。


「ちょっと、どいてよ。この中にラシェットがいるかもしれないんだから!」

キミが言うと、ミニスは呆れ顔で

「しっ、声が大きいわよっ。もう少し静かにしなさい」

と門前の兵の様子を気にしながら言い、続けて

「こんな人数で、しかも何の策もなしに正面突破なんて無茶だわ。むざむざ捕まりに行くようなものよ。そんなこともわからない、あなたじゃないでしょ?」

とキミを諭した。

その言葉を聞いたキミは、苦虫を噛み潰したような顔をしたが、


「そ、そんなことわかってるわよ。でも……」


と、どうにか自分を抑えることができた様子だった。

それにカジとミニスはほっとする。


「まぁ、気持ちはわかるがよ、お嬢ちゃん。こいつばかりは、いくらお嬢ちゃんの力を持ってしても突破は無理ってもんだぜ。あと中に何人いると思ってる?きっと、今妙な行動を起こしたら、それこそ蜂の巣を突いたみたいになっちまうだろうぜ?」

カジもキミを気遣いながら諭した。するとキミはやはり渋々ながら頷く。

「ええ。そうね」

「だろ?だから、今は焦っちゃダメだ。今トチったら取り返しがつかないことになる。まずはこの基地の様子を探るんだ。なぁに、どうせあのヘリコプターとかいうやつで移動する気なんだ。ということは、あれが飛び立つまでは大丈夫ってことだ。きっとまだ時間はある……と思う」

カジが語尾を濁らせて言うとミニスはため息をつき

「何よ、その言い方は。それじゃあフォローになってないでしょ」

と手で目を覆った。でもキミは


「いえ、その通りよ」


と気を取り直したように顔を上げ、


「いつまであるかはわからないけど、確かにまだ時間はあるわ。……ありがとう。お陰で、ちょっと落ち着いた」


と言った。それを聞いてカジとミニスはニコッと顔を見合わる。

「おう。ま、いいってことよ」

「ふーっ、そうね。まずはちょっと落ち着きましょ」


4人は基地とヘリのある建物が見渡せるくらい離れた民家の塀の影に隠れ、作戦を考えることにした。


ヒゲは塀から少しだけ顔を覗かせ、基地を見張る。その後ろでヒソヒソと座りながら話すサングラス三人組。やはり十分に怪しい姿だが、さすがのミニスも、今はそんなことに構っている余裕はなかった。


「で、これからどうする?何か作戦でもあるわけ?」

と、早速ミニスが切り出すとカジが

「いや、作戦はねんだけどよ」

と答えたから、ミニスはやっぱりと思い、言葉にもならず、うなだれた。

だから代わりに

「作戦はないのね?」

キミが聞き直す。

「ああ。残念だがな。そもそもあの規模の基地にこの人数、この装備、しかもこんな明るいうちから侵入しようなんざ、無理があるってもんだ」

「……ふーん」

「こらこら、ちょっと、カジ。そんな身も蓋もないこと言ったって、ただキミさんをがっかりさせるだけでしょうが。あんたがここは一旦引こうって言ったんだから、もっと何か考えなさいよね」

ミニスがそう言うと、カジは

「お前だって、ここは引こうって言ってたじゃねぇか」

と小声で文句を言いつつも、

「まぁ、作戦てほどでもねぇが、一応考えはある」

と自分の考えを話し出した。


「考えって?」

「ん?ああ。でも、考えとは言っても、侵入するためのじゃないんだ。あのヘリコプターを追いかけようってことさ。お嬢ちゃん」

「追いかける?」

ミニスが聞くとカジはああ、と頷き


「俺の単車を今から取りに行ってよ。それであいつが飛び立ったらすかさず追いかけるのよ。まぁ、もし本当にあのヘリコプターってやつに、ニコさんの言った通り、ショットの野郎が乗ってたとしたら、きっとあれはアストリアの城に戻るんだろう? 先回りして待ち伏せるのも手だと思うけどよ、万が一違う方向へ行っちまうって場合もある。だから、ひとまずここに単車を持ってきて様子を見る」

と言った。


それを聞きながらミニスは顎に手を当て考える。

「なるほどね。それで基地から離れたところを狙うのね?確かにその方が基地に侵入するよりも、圧倒的に敵の数が減るわね」

「だろ?まぁ、車で護衛を連れていく可能性もあるけどな」

それを聞くとキミが

「いえ、それはないと思うわ」

と口を開き

「ショットはあの自分の科学技術に相当の自信を持っていそうだもの。だから、わざわざあんな目立つものに乗ってきたのよ。それにさっきも護衛はいなかったわ。ここよりももっと、たくさん兵士のいる城からやって来たんでしょ?護衛をつける気なら、とっくにつけていると思うの」

と意見を言った。

すると、キミの考えを聞いた二人は同意したように頷き、

「へっ、そりゃそうだな」

「それもそうね」

と言った。


「よし。じゃあ、ちょっくら取ってくるぜ。皆はここで待ってな」

そう言うとカジはすぐに立ち上がり、伸びをする。

「ええ。頼むわ。でも気をつけて。向こうがもうこちらに気づいている可能性だってあるんだから」

「了解。大丈夫さ。なんとかなるだろ……」

とカジがミニスの注意を聞いていた、その時。


ブロォォンッ!


と、遠くの方からエンジン音が聞こえてきた。


その音に三人が素早く振り向くと、やはりヒゲもこちらを振り返り

「どうやら、もう動き出したようだぞ」

と言った。


その声に三人も道に飛び出し、屋上の機体を確認する。すると、確かにヘリコプターのプロペラが勢いよく回り始めているのが見えた。


「ちっ、もうご出発かよっ!早すぎるぜっ」

カジがこぼすと、ミニスはカジを見て

「カジッ!あんたは早く単車を取りに行って!間に合わなくなるわ」

と命令する。それを聞いてカジは了解っ! と言い、走り出そうとした。しかし


「ちょっと、待って!」


と叫んだ、キミのその言葉にその足は止まった。

「おいっ、お嬢ちゃん。どうしたんだよ」

「そうよ、早くしないと……」


「こっちに来るわ……」


戸惑う二人を尻目にキミはヘリコプターを凝視しながら言った。


「は?」

その言葉に益々戸惑う二人。しかし、キミはそんな二人をキッと睨みつけて


「ミニスさんの言ってた通りよ!気づかれてたっ!ここにいることがバレてるのっ!早くっ!なるべく、バラバラに逃げるのよっ!」

と大声で言った。


ほんの一瞬の間。


しかし、この声を合図に4人は三方向へ、風のように散った。

その反応はさすがだった。

そこには多少の迷いはあったが、カジとミニスはキミの「来る」という勘を信じたのだ。


そうやって、キミとヒゲ、カジ、ミニスのそれぞれは狭い路地の中へと走って消えていった。


そして、そのおよそ二分後、キミの言った通りヘリは街に向けて飛び立ったのだった。



ーー「ええ。そうですか。ふふっ、はいはい。どうも、ありがとう」


ヘリコプターの前方の席で、ショットはなにやら無線で連絡を取り合っている。おそらく、先ほど命令を出していた地上部隊との連絡だろう。僕はそれを嫌な予感を感じながら見ていた。


きっと、キミが来たに違いないと。


しかし、先ほどから注意深く聞いていると、どうやらキミだけでなく他にも何人か仲間がいるようだった。

「仲間?そんな人…いたか?」

僕は少なくとも昨日まではいなかった、その謎の人物達のことを疑問に思いつつも、決してそのことを顔には出さないようにしていた。そうすれば、少しくらいは時間が稼げるだろうと思ったからだ。まぁ、でもそんなことは気休めにもならず、結局は時間を稼いでくれるかどうかはキミとその仲間達の手腕にかかっているわけだが……


僕はそんなことを考えながら、この機体の内部の様子を観察していた。


席は4つだ。操縦席と助手席、そして僕のいる後部座席が2席。助手席にはショットが乗っていて、僕の隣には奴の部下が一人(狭くて、僕が乗るともう一人の部下は乗れなくなってしまった)乗っている。背の高くほっそりとした、肌の白い男だ。とても兵士には見えなかったが、おそらく兵士には違いあるまい。少なくとも、僕に向けられている銃、その構え方はなかなかマシな部類だった。これではそう簡単には銃を奪えそうにない。ましてやこの狭い機内だ。手錠もしていることもあり、自由が利かない。強行策は無謀に思えた。


だから僕はよく観察をする。幸いなことにここからなら、操縦席の様子が詳しく見えた。レッドベルよりもかなり複雑なスイッチ、計器類の数で、種類もよくわからないほど多い。操縦レバーやフットペダルなどの仕組みも思いのほか単純そうではなかった。なかなか熟練した技術が必要そうだ。


「ふーん、ちょっとコツさえ掴めれば操縦できそうかなと思ったんだけどなぁ……これは見た目よりも高度な機械だ。はぁ、ただの竹とんぼじゃないってわけか」


僕はそう思い、考え込んだ。

でも、ただの竹とんぼじゃないとしても、僕だってなんとかしないと……このままではキミ達が危ない。


「……乗っている印象では、要はメインローターとテイルローターのバランスが難しいんだな?時々、ふらふら揺れるもんなぁ……手前にあるのがサイクリックで左に付いているのがコレクティブか?で、足元のフットペダルが2つ。あれはテイルローター用か?なるほど。全てをうまく噛み合わせないと、すぐに墜落ってわけだな……やっぱりあのパイロットはかなりの訓練を積んできているはずだ…あとはジャイロの最適値を把握して、風向きにさえ気をつければ…なんとかなるか?……って、んん!?」


僕はそこまで考えて我に帰った。


そして、またもや頭を抱えたくなる事態に目を白黒させたが、それをなんとか俯いて必死に誤魔化す。


僕は本当に自分にうんざりしそうだった。


まただ、なんなんだ!? この知識は……


体中からぶわっと汗が吹き出る。ものすごく、嫌なべたべたする感触。でも頭は、混乱しているのにも関わらず、まるで霧が晴れたみたいにヘリコプターに関する知識がはっきりと認識できるようになっていた。


「本当に昨日から、何がどうなっているんだ?なんで僕の中にこいつに関する知識が?だって、僕はついさっき、こいつを初めて見たときには何も知識を持っていなかったじゃないか……それが、少し時間が経ったら、しっかりと僕の中に現れている……そう、まるでこれを見たことによって、失くしていた記憶が蘇ったかのように……」


「そうだ」

僕は前方を見ながら小さな声で呟いた。

「やっぱり僕は知っていたんだ。でも、なぜ? 昨日だっていくら考えてもわからなかった……僕はいったいどこでこの記憶を手に入れたのか? まさか……サマル、君はこのことを知っていて……」

幸い、激しいローター音でかき消されていたであろう、僕の呟きに重なるようにショットが


「いましたっ!」


と叫んだので、僕は考えるのを止め、慌てて地上を覗き込んだ。


するとそこには、街中に張り巡らされた狭い路地が見え、その間を二人の人物が走っているのが見えた。

「ちっ」

僕は嫌な予感が的中したことに舌打ちをする。かなり小さいが、そこを走っているのが誰か、ひと目見ただけでわかった。


「キミ……やぱっり来ちゃったか……」


それはキミだった。それとその隣にもう一人、初老の男性が走っている。その初老の男性が誰なのか、僕には見当もつかなかったが、一緒に逃げているということは少なくとも敵ではないのだろう。それについては深く考えないことにした。


僕が心配そうに見下ろしていると、それを横目でちらっと確認したショットがパイロットに

「まずはあの二人にご挨拶しましょう。構いません、もっと寄せてください。多少、威嚇射撃をしてもいいですよ」

と言った。

僕はその言葉を聞き、体が熱くなるのを感じた。

しかし、そこをグッと堪え、膝の上でギュッと拳を握る。


「このままじゃまずい……早く、早く何か打開策を考えなければ……」



ーー「はぁ、はぁ、まったく。なんで私が最初なのよっ!」

悪態をつきながらもキミはなるべく狭い路地を選び、全力で走っていた。その隣をやはり苦しそうにヒゲも走っている。ヒゲはキミよりもずっと背が高いのに、走るのがずいぶん遅いように思われた。


「ねぇ、ちょっとヒゲさん。大丈夫なの?私の力じゃ、あなたの体力まではカバーしきれないのよ?ちゃんと普段から運動してたの?」

キミが路地裏に置いてある、スチール製のゴミバケツを避けながら言うと、ヒゲはいかにも苦しげな顔で

「もう年だからな。ここのところはあまり……それに最近は、酒もタバコもよく嗜んでいたので」

と答えた。

「もう、よくそんなことでプロとしてやっていけたわね」

「殺しに体力は関係ありませんよ。必要なのはセンスです」


二人は右に曲がった。そして次の路地を左。

特にどこを目指しているわけでもなかったが、なんとなくどんどん郊外の方へ向かっていた。

そのため、道幅も徐々に広くなっていき、路地の数も減ってきている。これはまずい兆候だった。


「あーもう、しつこいわねっ」

もうそろそろ限界に近づいているのにヘリはずっと、キミ達の後方をピタリと追っている。

「キ、キミさん。すいません私もそろそろ走れません……」

「走れなくても走るのよ!で、ないと皆捕まっちゃう……」

と、キミがヒゲの現状報告を聞いていると、いつの間にかキミ達は路地を抜け、非常に広い、開けた場所に出ていた。

そこは東部広場という街中の広場で、360度石造りの建物に囲まれた、サウストリア市民の憩いの場所だった。左には大きな教会、右や前方にはパラソルを広げた席がいくつもあり、多くのカフェやレストランが並んでいる。どこの店も朝から繁盛しているようだった。


「しまった……」

その様子を見て、まずいと思ったキミが慌てて引き返そうとすると、上空から地面に叩きつけるような突風が吹いた。

「きゃっ」

「むむっ」

キミとヒゲは思わず地面に座り込む。そうせざるを得ない、激しい風、そして爆音だった。


バタバタバタバタバタバタバタバタバタ……


とヘリコプターが高度をだんだん下げてくる。すると、広場はもう、憩いの場などではなくなり、市民は我先にと、皆逃げ惑った。レストランやカフェのパラソルや椅子もどんどん飛ばされていく。

それでもヘリコプターはお構いなしに降下してきた。


それをサングラス越しに睨みつけるキミ。


ヘリコプターはある一定の高さまで来ると降下を止め、ホバリング飛行に移行する。


すると、ドアが開き、中から一人の男が顔を見せた。次に男は拡声器を使い


「こんにちは。はじめまして。私のことはもう知っていますかね?あなたはラシェットさんのお友達の方ですか?」


と言った。

それを聞いて、キミはすくっと立ち上がり


「ええ。そうよ」


と叫ぶ。


「あなたはジース・ショットね?」

「ふふっ、ええ、そうですよ。あなたは?」

「あんたに教える名前なんてないわ」


キミがきっぱり言うと、ショットは

「おやおや、僕はちゃんと教えたのに。なんで嫌われちゃったんでしょうかねぇ」

と困った顔をした。


「なんで、嫌われたかですって?そんなの決まってるじゃないの!さっさとラシェットを返しなさいよっ!」

惚けるショットの態度に腹が立ち、キミが指を差しながらそう叫ぶと、ショットはニヤッと笑い


「おっと、それはできませんね。僕はラシェットさんのことが大変気に入りました。だから、連れて帰ります。どうしてもと言うのであれば、あなたも我々と一緒に来てください。それなら僕が許可しますよ?」


「はぁ!?なんでラシェットと一緒にいるのに、あんたなんかの許可が必要なのよ!ふざけないでっ!」


キミは怒りのあまりサングラスを外した。そして、ショットを強い力で睨みつける。


「ほほう」

それを真正面から見据えるショット。


「やはり、そうでしたか……ふふふふ。いやぁ、天然物を見るのは何百年ぶりか。久しぶりにいい狩りが出来そうだ…」


そう心の中で呟いたショットは、キミの力を迎え撃つように上からキミを見下ろす。


その瞬間、二人の間に決して常人には見えない力の渦が巻き起こった。

それは見える人が見たならば、とても綺麗な光で、オーロラのような輝きをしている。


「うっ、やっぱり……まさかとは思ったけど、あの目は……ああ、もう!初めて会う守人が、こんなやつだなんてねっ」


ショットと睨み合いながら、キミは苦しそうに愚痴を漏らした。

しかし、そんな悪態をつくキミだったが、キミにはショットと少し睨みあっただけで自分とショットの力の差がわかっていた。


まだ幼く、経験の浅い自分とショットとでは力の質が全く違うということに。


もともと、守人同士で戦い合うなんて、想定していなかったのであろう。遺跡から得た知識だけでは、到底ショットには敵いそうもないのだ。そして、そのことは同時に、キミにある一つの疑念を抱かせた。それは……


「こいつはいったい、どこでこんな力の種類を手に入れたの?まるで、守人同士の戦いに慣れているみたい……」


キミがそう思っていたとき、ショットが急に力を抜いた。そして、ため息をつくと、拡声器で


「なるほど。確かにいい力は持っていますが、恐れるほどではありませんね。久しぶりでワクワクしたのに少々がっかりです」

と言った。


「な、なによっ!文句があるならそんな所にいないで、降りてきて直接言いなさいよっ!」

キミが精一杯強がって言うと、ショットは笑って


「ははは、いやぁ、元気だけはいいお嬢さんだ。では、そんなあなたに免じて、ここはひとつレクチャーしてあげましょうかね」

と言った。


「レクチャー?」

「ええ。私も楽しみをすぐに消すのは、勿体ないと思い直したんですよ。ではでは、まずは初歩的な力の行使からです」


そう言うとショットはちらっとキミを見た。


すると、その瞬間、キミの込めていた力がフッと抜けるような感覚がした。


「え?」


キミが何が起きたのかと思っていると、ヘリコプターの方からラシェットの声が聞こえた。


「危ないっ!キミッ!後ろだっ!」


と。


「あっ!」


その声にキミは振り返る。するとそこには鋭い目つきを光らせ、ナイフを振り上げているヒゲがいた。

その一閃を紙一重でキミは避ける。

そして、何をされたかをやっと理解し、コントロールを取り戻そうとしたが、それはできそうになかった。より強力な戒めでヒゲは縛られているようなのだ。


「くっ、ヒ、ヒゲさん……」


「ふふっ、守人同士の戦いとは、こういうものですよ」


キミはじりじりと後ろに下がった。


しかし、ヒゲ、いや手練の殺し屋シュナウザーに戻った男は楽しそうにそれを追い詰めにかかる……


そんな様子を

「さぁ、どうしますかね、お嬢さん?」

と、ショットはいつになく真剣な目つきで見下ろしていた。


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