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砂漠の星 郵便飛行機乗り  作者: 降瀬さとる
第2章 動く人達編
37/136

第二の男 4

「ちっ、しつこい連中だな」


カジは屋根の上を走りながら呟く。


ここらの郊外は街自体が古い分、屋根の高低差があまりなく、しかも家同士がくっついていたり、少ししか離れていなかったりするので、思いの外走りやすい。でも、それがかえって仇になり、どうやら敵も追いかけやすくなっているようだった。


「さっさと諦めなっ」

とカジは走りながら振り向き様に、銃を撃つ。が、それは先ほどからちっとも敵に当たっていなかった。

彼の相棒であるミニスの、あの正確無比なマシンガンさばきに比べれば、彼の銃の腕前はまるでノーコンと言ってよかった。だいたい、あんな大型で、しかも反動の大きいオートマチックを片手に一丁ずつ持っているのが、そもそもおかしい。

ナーウッドは隣を走りながらずっと、そう思っていた。だから堪り兼ねて

「ちょっと貸してみな」

と言ってカジから強引に片方を奪ってしまった。


「あっ、おいっ、ちょっとそれは俺の大事な……」

とカジは抗議しようとしたが、それよりも速くナーウッドは走りながら振り向き


バスンッ!バスンッ!バスンッ!


と発砲。

それらは全て、敵の脚を見事に撃ち抜いた。


「ヒュー」

カジは口笛を鳴らす。

「やるねぇ、あんた」

「別に……」

ナーウッドは銃をカジに返しながら

「このくらい練習すれば誰だってできるようになる。ただし、ちゃんと両手でホールドすればな」

と言った。それを聞いてカジは笑い

「へへっ、そういうことなら、そいつはあんたに貸しておくぜ。俺もさ、なんか撃ちにくいなーと思ってたんだ」

と言い、銃を受け取らなかった。

「なんだ、そりゃ……」

ナーウッドは呆れて言う。調子がいいと言うか、なんというか。そう思いつつも、ナーウッドはひとまず銃はこのまま借りておくことにした。


「ところで、お二人さんは何者なんだ?さっき、諜報部がどうとか言ってたけど」

走りながらナーウッドは二人に尋ねた。

それを聞くとミニスは露骨に嫌な顔をし、

「ほら、ご覧なさい。あんたが大声で余計なことをベラベラと喋るからよ。きっと連中に私らの素性が割れるのも時間の問題ね」

とカジに向かって言った。しかし、カジは

「いいじゃないの。ああでもしないと、この旦那も俺達のことを、すぐには信用してくれなかっただろうぜ」

と言い、まるで反省などしてない様子だ。

別に、今も半分くらいしか信用してないんだけどなぁと、ナーウッドは思う。

「じゃあ、あんたらは本当に諜報部の人間なのか?」

ナーウッドはまた聞く。するとミニスが肩を落としつつも答えた。

「はぁ。仕方ないわね。まぁ、あなたに隠しておく理由もないし。そうよ、私達は帝国陸軍諜報部に所属している兵士で、私はミニス・マーガレット。で、こいつが……」

「カジ・ムラサメだ。改めて、よろしく」

「帝国陸軍?」

ナーウッドは言った。

「なんで帝国陸軍が、こんな場所に?それになんで、俺の名前を知っている?俺は帝国からは指名手配を受けていないぞ」


「大丈夫よ、心配しないで。私らは別に、あなたを追っかけて来たわけじゃないんだから。私らが追いかけて来たのは別の人間」

ミニスは屋根から屋根へと跳びながら言う。


「別の人間?」

「ええ。もっとも、その男はこの場には現れなかったけどね」

そう聞いてナーウッドはやっとピンときた。

「あんたらは、ラシェット・クロードを追いかけてきたのか!」

「へへっ、そういうこと」

カジは鼻をこすりながら言った。

「俺達の直属の上司がラシェットさんの友人でね。だから、頼まれてここにラシェットさんの援護に来たってわさ」

「それだけじゃないでしょ?むしろ、私らの主要任務は手紙の受け渡しを阻止することだったんだから」

二人は言う。


援護。手紙の受け渡し。それを聞いてナーウッドはますます合点がいった。なるほど、この二人はある程度、事情を知った上でここに来ているのだなと。そして、その事情を知る過程でサマルと自分との繋がりも知ったに違いない。だから名前と顔を知っていたのだろう。

しかし、まぁ、よくこの短期間でな……どうやら、帝国にもなかなかのキレ者がいるらしいとナーウッドは思った。


「その手紙の受け渡しってリッツの手紙のことだな?」

ナーウッドは尋ねた。するとミニスが

「そうよ。ラシェットさんがKという男に接触し、渡す予定だった手紙。ところで、さっきあなたと大声で話していた、あのショットとかいう男。あいつがKなわけ?」

と尋ね返してきた。だから

「ああ。コードネームなんてわからねぇが、たぶんな。あいつはジース・ショットっていう名で、アストリア軍の幹部の男だ」

とナーウッドは情報交換に応じる。

「ジース・ショット?聞いたこともないな」

そうカジは言う。それに答え、ナーウッドは

「それはそうさ。奴は滅多に人前には出てこないし、現れるなりいきなり軍の幹部に登用されたのも、ほんの一年前のことなんだからな」

と言った。

「へー。詳しいのね」

そうミニスは言う。それに対しナーウッドは

「まぁな……」

とだけ答える。

ミニスはナーウッドの顔を見た。

ミニスは先ほどのナーウッドとショットの会話から、両者の間に只ならぬ事情があることは察していたが、それでも敢えて


「ねぇ、あなたとショットの間に一体何があったわけ?仲間がどうとか言ってたけど」


とデリカシーもなしに聞いた。

すると、しばしの沈黙の後、ナーウッドは


「いや、すまねぇが、これは俺がケリをつけるべき問題なんだ。だから……」


と苦しそうに言った。

それを聞いてミニスは、やっぱりねと思いつつも

「ふーん、ま、事情があるのはわかったけどさ。でも、さっきの様子じゃ、とても仲間を助けるどころじゃなさそうだったわよ?」

と食い下がる。が、それを聞いたカジが

「まぁまぁ、いいじゃねぇかよ。ミニス。ナーウッドさんが、そう言ってるんだからさ。きっと、止むに止まれぬ事情があるのよ。男にはよくあることさ。そっとしておいてやれ」

と言うので、納得はできなかったが、仕方なくそれ以上は聞かないことにした。

そんな二人の様子を見て、ナーウッドは

「すまないな……」

とだけ、小声で呟いた。


「で、そのリッツの手紙だが、内容はわかっているのか?」

ナーウッドは聞いた。

「いいや、内容はわかっていない。でも、おそらく軍事関連のことだろうとは予想してる。まぁ、これはうちの上司の予想だけどな」

カジが答える。


軍事関連? とナーウッドは思う。

それと同時に、そういえば、ショットのやつ、実験場がどうのとか言っていたなとも思い出していた。

しかし、その軍とか実験場とかいう言葉と、彼の知るリッツが、どうしてもうまく繋がらなかった。


「あのリッツが、軍事関連ねぇ……」


ナーウッドは言った。それを聞いてミニスは

「疑問なの?そういえば、あなたリッツ王子とも仲が良かったわね?」

と言う。

思わずナーウッドは苦笑いをした。

「もう仲が良いとは言えないけどな。だから、今のリッツが何を考えてるのかまではわからないが……」

ナーウッドはそこで一度言葉を切り、

「でも、俺の知る限りのリッツなら、そんな軍事関連の謀なんて、まるで興味はないはすだ」

と言った。

「確かにな。俺もそんなイメージだ。リッツ王子は、ナイーブなお坊ちゃんというか、兄のダウェン王子とは正反対で、軍にも世継ぎにも興味はないんだろうなって」

そうカジは言った。それを受けてナーウッドも頷き

「そのイメージで大体合ってる。あいつは、そういったことにとんと興味がない。と言うより、帝国自体に嫌悪感すら抱いていたんだ。なんで自分は王族なんかに生まれたんだと、いつも文句を言ってた。贅沢な悩みだと、よく皆でからかったもんさ」

と懐かしそうに語った。

「へぇ、そうなの」

ミニスは興味ありげに言った。

「ああ」

ナーウッドは走りながら相槌を打つ。


そして考えていた。

そういえばリッツ、お前のことを王族とか関係なしに、一番最初に仲良くしてくれたのがサマルだったなと。初めこそ不審がっていたけど、サマルのあの気さくさ、飾り気のなさに、お前もだんだんと心を開いていった。

それからのお前はまるで、氷河が溶けていくかのように、日増しに活き活きとしていって、持ち前の育ちの良さと優しさも手伝い、多くの仲間ができたっけ。俺もそんな一人だった。


……だから、お前の気持ちもわかるよ。リッツ。

俺もサマルに拾われたくちだ。


でもな、これはサマルの望んでいることなんだ。だから、俺はやるぜ。

たとえお前と決定的に破綻しても……


「リッツが、何か帝国のこととか、世界のこととかを考えて、そんな行動を起こしたり、手紙を送ったりとか、そんなことはしないと思うぜ。賭けてもいい。あんたらの上司には悪いがな、俺はそう思う」


そうナーウッドは突然きっぱりと言った。


それを聞いてミニスとカジは顔を見合わせる。

「ん?じゃあ一体、何が狙いだって言うんだ?」

カジが聞く。しかし、ナーウッドは首を横に振り

「さぁな。それはわからねぇ。でも、あいつにとって大事なのはサマルのことだけだ。きっとそっちに関連したことだろう」

と具体的な推測はないようだった。

「わかった。一応参考にして、上司にも報告しておくわ。もちろん、軍事関連の線も消せないけどね」

ミニスは言う。

「ああ。好きにしてくれ。とにかく、助けてもらったんだ。お二人さんは他に俺に聞いておきたいことはないのか?」

ナーウッドは聞く。しかし、二人は首を捻るばかりで

「いや、私らもまだ情報の整理がついてないんだ。本当ならラシェットさんと合流し、色々と擦り合わせる予定だったんだけど……」

と要領を得ない。

「あてが外れたよなー。まぁ、おかげでナーウッドさんを助けられたんだが。やっぱり、もう一つの方だったかなぁ」

カジがそう漏らすと、ミニスはキッとカジを睨みつけ

「だから私は言ったでしょ!ラシェットさんが現れるとしたら、手紙に書いた通り、ニコ・エリオットの所だって!それを、あんたが俺の勘は当たるからって言って……」

と怒鳴り散らし始めた。

「わ、悪かったって。そりゃ俺のウルトラ鋭い勘もたまには外れることだって……」

とカジが言いかけると、ナーウッドが


「なっ、ラシェット・クロードはニコの所に行きやがったのか!」


と横やりを入れてきた。ミニスとカジは、その剣幕にびっくりし、思わず戸惑う。

「え、ええ。まぁ、推測だけど、だぶん」

「ちっ、早まったことをしてくれたぜ」

ナーウッドはそう吐き捨てると、続けて


「ニコが泳がされるのは、あのショットの奇妙な術にかからないってこともあるんだが、なによりも俺への餌。俺を捕まえるための罠なんだ」


と苦々しげに言った。

それを聞いてカジが

「えっ、じゃあそんな所にラシェットさんがのこのこ行ったら……」

と言うと、ナーウッドは

「すぐに捕まっちまうだろうな」

と、呆れ顔で応えた。


「まったく、ここに来なかったことには感心したが、それじゃあまるで意味がねぇじゃねぇか」

ナーウッドは頭を掻く。

「やっぱり当てにはならねぇな。とは言っても、今あいつに捕まってもらっちゃ困るし……」


「そう言うことなら、任せてくれ」


ナーウッドが走りながら思案していると、カジが言った。


「今から向かって間に合うかはわからないが、俺の単車なら明日の昼までにはサウストリアに着く。なぁに、なんとかラシェットさんと合流してみせらぁ」

「ええ。それしかなさそうね。それに、今夜この場にKがいたってことは、敵も後手に回っているはずよ。もしかしたら、まだ間に合うかもしれないわ」

ミニスも強気な様子でそう言う。


「ああ……そうかもな」

ナーウッドはその二人の前向きさに驚いたが、考えには賛同した。


しかし、その一方で自分はどうするべきかは決めかねていた。自分も一緒にラシェットの加勢に行った方がいいのかと。


するとミニスが


「だから、あなたはあなたのすべきことをしていいわよ」


と、ナーウッドを見ながら言った。


「え?」


ナーウッドは自分の心の迷いを見透かしたようなミニスの言葉に戸惑った。さらに

「なに、あの会話を聞いてたらな。旦那にも色々とやらなきゃならないことがあるってくらい、わかっちまうさ。心配は無用だぜ。俺達でラシェットさんの方はなんとかするからよ」

とカジまで言うからナーウッドは益々戸惑ってしまった。


「お前たち……」


ナーウッドがなんとかそう言うと、二人は親指を立てた。

ナーウッドはその心遣いに深く感謝した。そして、なによりも二人の言葉を嬉しく思った。


「死ぬんじゃないぞ」

「当たり前じゃない。私は少尉を振り向かせるまでは死なないわ」

「俺もだ。一度くらい少尉に褒められてから死にたいからな」


「へっ、なんだそりゃ」

ナーウッドは呆れたように言う。

三人は走りながら笑い合った。


ナーウッドは後ろ振り向く。後ろには、だいぶ引き離したが、まだ追っ手の姿があった。

「さ、そろそろ仕上げにかかるかな」

そう言うとナーウッドは上着のポケットに手を入れ

「俺はこの先の西の倉庫で相棒と待ち合わせてるんだが、お二人さんは?」

と聞いた。

「俺達はここから南だ。そこに単車がある」

「じゃあ、ここでお別れだな」

そういうとナーウッドはニッと笑った。初めて見る明るい表情だった。

そして、ポケットから閃光弾を取り出すと

「お二人さんが、イカすサングラスを掛けてくれてて助かったぜ。今からこれを使う。その隙に完全に巻いてくれ」

と言った。それをきいて二人は頷く。


「じゃあな。うまくやれよ。その上司さんにもよろしくな。いずれまた、今回の礼はする」

「そんなのいらないわよ。あんたこそ、しっかりやりなさい」

「へっ、そういうことだ。あと、俺の銃は無期限で貸しておくぜ。派手に使ってやってくれ」


「よしっ、いくぞっ!」

そう言うとナーウッドは走りながら閃光弾を炸裂させた。


ピカーッと、一瞬にして夜の街を昼間のような明かりが包み込む。


その数秒の間にそれぞれ、西と南に影が散る。


その光が収まっても、敵の目はなかなか闇に慣れることはなかった。



ナーウッドは後ろを確認する。

そこには、もう追っ手の姿も、カジとミニスの姿もなかった。

「どうやら、お二人さんもうまく巻いたらしいな」

と思いナーウッドはほっとした。すると、手に持った銃が自然と目に入った。

「面白い奴らだったな……」

そう思った。

初めて彼らを見た時には、全然頼もしい奴らだとは思わなかったけれど、色々と話をし、行動を共にしてみると、なぜか心強く感じた。たった数十分の付き合いだったのに。


それはここ一年ほど、あまり感じてこなかった感情だった。


仲間か……

ナーウッドは思った。

もしかしたら、俺にはもっと多くの仲間が必要なのかもしれないと。今回だって、不本意ながらラシェットの仲間に助けられたのだから。そうだ、だからいずれは、ラシェットとも合流すべきなのかもしれない。サマルからはラシェットとの接触は極力避けるように言われたが、もうそんなことを気にしている場合ではない。早くしないと、ヤン達が……それにサマルも……


そのためには、まずは自分のやるべきことを終わらせなければ。そうでなけりゃ、ラシェットに合わせる顔がない。


でも、遺跡はお手の物だが、どうやって、


どうやって「守人」を探し出せばいいんだ……


ナーウッドは屋根から屋根へ力強く踏み切り、ジャンプした。

黄金の月が彼のシルエットを浮かび上がらせる。


彼は考えていた。しかし、いい考えは降りてきそうにない。


だから、彼は相棒の待つ倉庫めがけて、ただ全力で走って行った。



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