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砂漠の星 郵便飛行機乗り  作者: 降瀬さとる
第1章 ラシェット・クロード 旅立ち編
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ゲリラ 2

空は青く晴れ、真っ白な雲があちこちに浮かんでいる。

太陽はさんさんと輝き、風も穏やかな、この僕好みの上空が一瞬のうちに戦いの場となってしまったのだから、僕はやりきれなかった。


敵は一機を撃墜され、慌てて態勢を立て直したようだ。

フォーメーションを2機ずつに分かれさせ、互いをフォローできるように整えたのだ。


これは、空中戦においては基本的な戦術だ。

このようにすれば、容易には敵に後ろを取られなくなる。もし一機が後ろを取られたとしても、すかさずそのまた後ろをもう一機の味方が取れば良いという発想だ。

これをされると飛行機戦の場合、2対1ではとても勝つのは難しくなる。


僕は上空の雲に隠れながら旋回し、チャンスをうかがっていた。

残弾はまだまだある。幸い、バンは強化装甲を装備してはいなかったので、レッドベルの小口径の機関銃でも撃墜できた。

でも、問題はここからだ。

僕は考えていた。


どうやら、敵はこちらの出方を見ているようだった。


それも当然か、と僕は思う。

まだ、あちらの方が圧倒的に有利なのだ。

上空から奇襲をかけ、一機を撃墜したまでは上出来と言ってもいいが、状況がそれほど変わったわけではない。


もし、戦うとしたら何かしらの方法で、もう一度敵機の連携を断ち切り、フォーメーションをバラバラにしなければ。

その方法は何通りかある。しかし、そううまくいくものか…


逃げるのも一つの手だとは思う。

もし、奴らが西側のゲリラなら、このまま東に向かえばいずれ東側の軍隊の空域に入るのだから、必ずそこで振り切れるはずだ。

4機相手に厳しいかもしれないが、レッドベルの馬力とスピードなら可能性はある。

しかし、それを警戒してか、敵機は常に東側への逃げ道を塞ぐ形で旋回している。


どちらにしろ、突破する際の戦闘は避けられそうにはなかった。


だとしたら、やはり多少無理をしてでも、あと2機ほど落とし、敵の戦意を挫いてやる。


僕は覚悟を決めると、機体を急降下させ、敵のいる方角とは逆の西に猛スピードで向かわせた。


敵機は虚をつかれたらしく慌てて追いかけてきた。うまく誘いには乗ってくれたようだ。やはり素人には変わりないらしい。

僕は機体を海上すれすれまで降下させ、超低空飛行で西へ向かわせる。敵機はそのすこし後方の上空から追尾してきた。

敵機は時々、機関銃を闇雲にこちらへ向かってばら撒いてきたが、このスピードではそんなものはそうそう当たるものではない。


ここからが勝負だ。もっと追って来い…

僕は操縦桿を握りながら、タイミングを計っていた。

わざとほんの少しずつスピードを下げる。

じわじわと敵機との距離が縮まる。

もう少し…もう少し後ろか…

射程距離に入りそうになる手前をキープすること、2、3分。ついに敵機のうちの一機が痺れを切らしてフォーメーションを崩し、距離を詰めてきた。

僕はそれを待っていた。


「かかった!」


そう、叫ぶと僕は操縦桿を一気に引くと同時にスロットルを押し込んだ。

機体は派手に水飛沫をあげ、宙返りの態勢に入る。あまり大廻りになってはダメだ。コンパクトに。それを意識しながら操縦桿とフットバーを操る。機体の天地が逆転した当たりで今度はフットバーの操作で捻りを入れる。すると機体は見事に敵部隊の一番後ろを取ることができた。

これは空中戦での基本的なターンの一つだ。しかし、これだけ急激にコンパクトにこなすには、かなりの訓練が必要だった。軍を辞めても体に染み付いているこの技術のありがたみを改めて感じ、僕は初めて当時の鬼軍曹に感謝した。


ダダダダダダダダッ!


逃げ惑う敵機に容赦なく、後方から弾丸を叩き込んだ。敵機は左主翼と胴体部分に被弾し、墜落、海に叩きつけられた。あれではパイロットは助かるかどうか。でも、仕方がない。このチャンスで一気に押し切ると僕は決めていた。


すぐに態勢を立て直せないでいる3機のうち、一番近い距離にいる敵機に目をつけた。

僕が追尾すると他の2機がターンをし、レッドベルの後ろを取ろうとする。


「そう来ると思った」


僕はそう心の中でつぶやくと機体をまた宙返りさせ、今度はその2機の後ろを取った。

僕が追尾していた1機は反応が遅れて、フォローが間に合っていない。

「2機が同じ動きでフォローするところが素人だな」

と心の中で敵にアドバイスを送りながら、右の敵機に機関銃を撃った。

弾丸は敵機尾翼を引き裂き、それによりバランスを失った敵機はふらふらと海の上へと墜落して行った。


さて、これで残るは2機。

僕は少し余裕が出てきたのか、それとも久しぶりの実戦で気分が高揚してしまっているのか、とても好戦的になっていた。


しかし、残る2機は3機目の墜落を目の当たりにすると、スピードを上げ南に旋回し、内陸の方へと逃げて行ってしまった。


「あれっ?」

僕はそれを見送りながら、ちょっと拍子抜けしてしまった。

意外にもあっさりと決着がついてしまったようだ。


まぁ、とにかく当初の予定通りに敵の戦意を挫くことができたのだから、良しとするかと僕は思い直し、操縦桿を握る手の力を緩めた。


「ふーっ」

安心感からか、どっと疲れが出てきた。

でも、まだ本当の安心はできない。もしかしたら、奴らが援軍を連れてくるかもしれないのだ。早く東側の空域まで逃れなければ。

僕はそう考えると今度は一転して、逃げるように東に旋回し、フルスロットルでレッドベルを飛ばした。


高度を上げ雲の中を行く。少しでも目立たないようにするためだ。しかし、レッドベルのこの色ではかえって目立ってしまうのだが、仕方ない。僕はいつもセオリーというものを大切にする。


15分程飛んでも追っ手は現れなかった。

左側の海からも、右側の砂漠にも機影はない。


たかが郵便飛行機だと、諦めてくれたかな?

僕がそう思っていた時だった。


微かに前方の景色に違和感を感じた。


なんだ?何かここにあるべきでないものが目に映っている。


そういう感じはするのに、それが何かわかるまでに数秒かかってしまった。


それは雲に落ちる影だった。それはレッドベルの影のすぐ横に小さくあったが、だんだんだんだん大きくなっていっていた。


僕は上空を見上げた。


そこには太陽を背に急降下してくる一機の飛行機があった。


「なっ!」


僕は機体を急旋回させた。

すると、さっきまで僕がいた位置に弾丸が雨の様に降り注ぎ、雲がバラバラに霧散した。かなり大きな口径の機関銃だった。


僕は機体を急降下させ、雲の下に隠れた。

しかし、新たに現れた敵機はもの凄い機動力で、こちらを追尾し雲の中から姿を見せた。


その姿を見て僕は

「な、バカな!なんでこんな所に!」

と思わず声を漏らした。


そして、自分の目を疑った。


そこに現れた敵機は全体を真っ黒にカラーリングされた、


帝国製次世代戦闘機gh-601《ゼウスト》だったのだ。


なんで、ゼウストがこんな所に!

僕は全力で雲の中へ逃げた。


敵機のゼウストはその後を滑らかな旋回で、ぴったりと追ってきている。


僕は逃げながらも必死に頭を回転させ、考えていた。


ゼウストは帝国の最新機で、正確に言えばまだ試作機だ。だから、帝国飛行師団の中でも第1空団にしか配備されていない特別な機体なのだ。

とてもじゃないが、ゲリラが持てるような代物ではない。


それでは、この機体は第1空団のものなのか?

だとしたら、なぜこんな空域に帝国空団の機体が?この辺りは内戦状態とはいえ、まだ連邦国の防衛空域内のはずだ。そんな所に帝国の戦闘機を飛ばすなど、新たな国際問題の火種になりかねない。


それに…僕はあんなカラーリングのゼウストを見たことがなかった。


全体を真っ黒に塗るなんて、団長や副団長の趣味ではない。


そういえば。


先ほどのバン5機も、アルバで襲撃してきた兵士のアーミースーツも、あの高射砲トラックもみんな真っ黒にカラーリングされていた……


まさか、先ほどのバンも帝国の息のかかった手の者だったのか?しかし、あの戦い方は軍隊経験者のそれとは明らかに違っていた。間違いなくゲリラのパイロットだと思う。

ということは、帝国と西側のゲリラとの間には、やはり何かしらの繋がりがあるとでも言うのか?


バカな。


そんな話は聞いたこともない。

それに、そんなことをして今さら何のメリットがあるというのだ。また、昔のような植民地政策を再開したいとでも言うのか?

そんなことを始めたら、世界中の国を敵に回すのは火を見るよりも明らかだ。

いくら現国王でも、そこまでの愚策は行わないと信じたい。それとも…バレずに、秘密裏に事が運べるとでも思っているのか。


わからない。

考えれば考えるほど、わからないことだらけだし、何の確証もなかった。


でも…おそらく、今、高い確率で確かなのは、先ほどのバン5機も、アルバで襲撃してきた連中も、そしてこのゼウストも、同じ帝国内部の人間の命令で動いているに違いないということだ。

そして、その命令とはおそらく、僕の手紙の郵便の阻止だということ。きっと生死は問わぬとも言われているだろう。


あと、もう一つわかったのは、このゼウストの動きから見て、この機体のパイロットはゲリラなどではなく正規の第1空団のパイロットであろうということだ。


僕は先ほどから全力で逃げ回りながら、ゼウストの動きを観察していた。その動きには、帝国飛行師団の訓練を受けた者の操縦の癖が、確かにいくつか散見されたのだ。

しかし、僕が記憶している、いかなる団員のものとも違っていた。

クラウスでも、エリサでも、ダントンでも、もちろん団長や副団長の動きでもなかった。

ということは、僕が抜けた後に入ってきた新入りか?


しかし、観察はできたが、反撃はおろか振り切ることすらできそうになかった。

いくらレッドベルのエンジンの馬力やスピードがあるからといっても、ゼウストの方が上だった。旋回時だって、空気抵抗の少ないゼウストの機体は滑るように旋回できるため、ほとんどスピードが落ちない。

おまけに積んでいる武器は左右翼部に大口径の機関銃が2つずつ計4つと、ボディの真下にロケットランチャーが2発装備されているのだ。そうやすやすと仕掛けることもできない。


僕は機体を急上昇させ、また急降下させた。

機体の性能が違うのなら、パイロットの方を消耗させようと僕は思っていた。すぐには疲れないだろうが、こうしていれば、きっといつか動いてくるはずだ。

そして、その時のために僕は逃げ回りながら相手の動きを分析していた。右と左、どちらの旋回の方が得意か、またどの程度減速をさせ旋回するのか。いくつターンのパターンを持っているのか、得意なターンと、いざという時に選択するターンはどれなのか。射撃の腕は良いのか。動き出しの癖はあるのか。こちらの動きをどの程度先読みできるのか。僕は様々なことを見て記憶していく。


もうかれこれ10分は逃げ回っている。

しかし、だんだん僕の方が焦ってきた。もしかしたらまだ援軍がいるかもしれないと思ったからだ。ゼウストはきっと帝国領内から直接飛んできたのではないだろう。だとしたら近くの海上に母艦がいるはずだ。もし、そこからもう一機ゼウストが来たら…


結局先に仕掛けたのは僕だった。

スピードでは勝負できない。それはかつてゼウストに乗っていた僕にはわかりきっていた。


だから、あえて!


僕は機体を急減速させ、真下の雲の中でターンを試みた。

これでどれくらい反応して、ついてくるか。

下向きに宙返りし、再び雲の上に出てくると敵機の姿は見えなかった。

チャンスか?

僕は機体を左に旋回させる。なるべく大きくだ。雲の下から出てくるだろう敵機の視界から、一瞬でも長く消えるためだ。

しかし、ゼウストは思ったよりも早く、雲の下から姿を現し、こちらの位置に気づいた。

でも、真後ろをずっととられていた状態から、正面で向き合う状態にまでは持ってこられた。


間髪入れず、僕は機体を垂直飛行させながら、敵機に向かって突っ込ませる。


敵機の機関銃は4つだ。射程距離に入ったら横に逸らして、側面を狙う!


敵が撃ってきた。

僕はそれを機体を横滑りさせて避ける。

ギリギリだ。機体のすれすれを弾丸がピュンピュンと音を立てて通り過ぎていく。

敵機も姿勢を変え、避けようとするがほんの少し発見が遅れた分、こちらの方が早かった。

すれ違い様に側面に向かい機関銃を叩き込む。


ダダダダダダダダダダッ!


僕は必死にトリガーを引いた。

半分くらいは命中したか?

よく見えなかったが、手応えはあった。


敵機からすぐに距離を取り、様子をみる。

しかし、敵機は何事もなかったかのようにターンし、こちらに向かってきた。


「くそっ。そうかとは思ったが…嫌な展開だな」

僕はひとりつぶやいた。


たぶん、強化装甲だ。あれだけ撃ち込んでもビクともしていないとなれば、それしか考えられない。

レッドベルの小口径の機関銃では、このゼウストは落とせないのだ。


どうしようかと考えている暇もなかった。

今度は敵が仕掛けてきた。

僕が距離を開け、旋回しているコースを先読みして、牽制のロケットランチャーを撃ってきたのだ。

僕は避けるために減速を余儀なくされ、そこを一気に詰められた。

スピード勝負に来たのだ。

敵の機関銃が唸る。

「ちっ」

僕は急降下をしたが、間に合わなかった。

敵の放った弾丸の幾つかが、レッドベルの尾翼を撃ち抜いた。


ぐらっと機体のバランスが崩れる。

僕はそれをなんとか立て直す。

大丈夫、まだどうにか飛べそうだ。しかし、今までのような自由な飛行はできないだろう。


これまでか……

一瞬そう思った。しかし、


「いや、まだだ」

と僕は思い直した。

僕はまだこんなところで死ぬ訳にはいかないのだ。

僕はまだ何も知ることができていないし、何も成し遂げられていないじゃないか。


僕は前方を睨みつけ、頭をフル回転させた。


意を決して僕は、機体を再び厚い雲の下に隠すと、スピードを調整した。

敵は次でトドメを刺しにくるはずだ。

こちらに有効な武器がないとも思っている。

たぶん、これがラストチャンスだが、まだチャンスは残っている。


僕は今までに記憶した敵機のスピードと動きから、雲の下へ出てくる地点を予測した。そして、スピードを合わせ、その真下へ移動した。


これで敵が後ろに出てきたら万事休す。


前に出てきても、攻撃は効かない。


さぁ、来い。


僕がじっと待った数秒後。


敵はまんまとレッドベルの真上に現れた。

その瞬間。


「もらった!」


ズダァン!!


と、僕は構えていた対装甲ショットガンを真上に向けてぶっ放した。ものすごい反動が腕と肩を襲う。


放たれた散弾は、乾いた音を立て敵機の右主翼に無数の風穴をあけた。


「よしっ」

僕は小さくガッツポーズをした。


敵機はバランスを完全に失い、こちらに向かって落ちてくる。

僕はそれを必死に避けた。


しかし、敵機はその落ち際にしぶとく機関銃をばら撒いてきたのだ。


「なにっ」

流石にそれまでは避けきれなかった。

レッドベルも左主翼の中央を撃ち抜かれ、バランスを失い、落下を始めてしまった。


敵機の行方を見ている余裕すら僕にはなかった。今やほとんどコントロールを失ったレッドベルを墜落しないように操るので精一杯だった。


雲を抜けると眼下は一面の砂漠だった。


僕は海岸沿いを東進していたはずだったのに、海は遥か遠くだった。戦闘をしながらいつの間にか、こんなにも内陸に来てしまっていたらしい。

僕はコンパスを見た。機体は南東方向に向かいながら落下している。

まぁ、いいだろう。西に行くよりはマシだ。できれば東側のテリトリーまで行ってから不時着したいが、そこまで保ってくれるか。


機体の落下スピードをフットバーと操縦桿を使い抑える。もっと、もっと東だ。今、ゲリラを使って援軍を送り込まれたらまずいんだ。そう願いながら、僕はレッドベルを操る。


しかし、それもそろそろ限界だった。僕はちょっと先に見える大きめの砂丘に目をつけた。

あそこに不時着しよう。

ラウル爺さんから、砂漠への不時着は、砂が硬くしまっている砂丘にするのが良いと聞いていたからだ。

レバーを引き、脚と車輪を出した。

これ以上の減速は無理だ。このまま降りるしかない。僕は衝撃に備えた。


そして。


ズササササァァァァーー


と、僕とレッドベルはなす術もなく、砂漠のど真ん中へと不時着したのだった。



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