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砂漠の星 郵便飛行機乗り  作者: 降瀬さとる
第4章 動く世界・三人の友情編
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再会 2

やって来るのは災いか幸いか。


どちらにしろその運命を知らず、知っていたとしても、ただ受け入れるしかない格納庫の扉は、今は災いに備え、固く閉ざされている。


キミは背に脱出ポッドが動き出した気配を感じながら、じっとその扉を見つめる。


おそらく先にその扉を潜り抜けてくるのは「災い」の方だろうと予期しながらも。


「お願い……ノノさん、イズミさん。今戻って来ちゃダメよ……」


キミは此の期に及んでまだ他人の心配をする。

しかし、それは決して余裕があるからではなく、むしろ余計な憂いを少しでも取り除きたいからだった。


手のひらがじんわりと汗を掻き始める。

と、その時。


頑丈な格納庫の扉の真ん中が突然ボコっと盛り上がった。


そして、間髪入れずにもう一撃。


それで呆気なく扉の真ん中に大きな風穴が開いてしまった。


その穴からまず見えたのは手だ。

だが、それはもはや見た目からして人間のものではなかった。

皮膚のフェイクは焼け落ち、銀色の装甲と細かな繊維を束ねて作られている動力系がむき出しになっている。そんな手の役割をする部位。


それがぐっと穴の縁を掴むと、続いて足が。そして、やがて体全体が姿を現わす。


服はもうボロ切れのようになっていた。

右腕は根本から失くなっている。

服の隙間からはやはり、むき出しの装甲がちらちらと見えた。


だが……顔だけはそのままだった。


おそらく、顔は反射的に守っていたのだろう。

どういう仕組みかはわからないが、顔にはただひとつだけ、どうしても機械では補えない機関が備え付けられていたからだ。


即ち、守人の緋色の目だ。


その目がキミを捉えた。


ギョロッと見開き、爛々と怪しく輝く緋色。

ショットはキミのことを「見ぃつけた」とでも思ったのだろうか、口元を薄気味悪く歪ませた。


「ふふっ……ふふふふふ」


口から辛うじで笑い声だとわかる音が漏れ出した。


あまりの不気味さにキミは、思わず後退りしそうになった。

けど、キミは恐れずに思い切って、もう一歩前に出る。


そして、腰に手を当てその場にすくっと仁王立ちした。


「……ねぇ。私、今すごく怒ってるの。あなた、それがわかっててここに来たわけ?」


キミは言った。


が、それを聞いてか聞かずか、ショットは遠慮なく格納庫の中へと入ってくる。

ショットの肩がぷるぷると小刻みに揺れていた。込み上げてくる笑いを堪えているのか、それとも何かの不具合か。

とにかく、キミの質問への返事はなかった。


「まぁ、いいわ。どっちにしてもあなたは今日ここで終わるのよ。その引導を私が渡すのも悪くないわ」


「……引導ですか。ふふふ……確かにそれも悪くないですねぇ」


キミの言葉にやっとショットは応じた。

やはり、その声はもはや人間のものとして受け入れ難いが、思考回路はまだギリギリのところでまともなラインを保っているらしかった。


「ふーん。随分と素直ね。どういう心境の変化? それとも、皆からボロボロにされてようやく自分の間違いに気がついたの?」


「ふふふっ、いいえ。これはずっと昔からですよ。僕はいつ引導を渡されても構わない、そう思いながら今までズルズルと生きながらえてきましたから。それに……僕は僕のやっていることの間違いも、よーく知っているつもりです」


ショットは自分の残された左手を見ながら、そう言う。けど、キミは釈然としなかった。


「あっそう。なら。なぜまだ間違いを重ねるの? そうまでして、あなたは何がしたいの?」


「……何がしたいのか……そうですねぇ、まぁ、言うなれば、僕にも引導を渡してやりたい奴がいるんですよ」


ショットはじりっと一歩前に出る。

でも、それ以上は進む様子はなかった。


ショットはその緋色の瞳に少しの悲しみの色を見せながらキミと目を合わせる。いつもならそれだけで互いの心の中が痛いくらいわかるのに、守人同士ではうまくいかないのが、悲しみをより一層深くした。


「引導を渡したい奴がいる……復讐ってこと?」


「復讐。ふふっ、それは否定できませんね。しかし、それだけではありません。もしかしたら事は僕の復讐だけでは留まらないかもしれませんよ……はははは」


「お願い、変な声で笑わないで。私、怒ってるって言ったでしょ?」


キミはぴしゃりと言う。

それでショットは高笑いを止めた。キミは話を続ける。


「つまり、あなたは自分の復讐を、この世界のためとかなんとかいう大義で誤魔化して、今までやってきたってことじゃない。バカみたい。それ自体、間違っているわ」


「ええ。だから、そう言われても仕方ありませんと言っています。僕はスクラップにされてもいい」


「じゃあ、望み通りにしてあげる」


「ふふっ、威勢のいい……ただ、今はその時ではありません。僕はまだ何も成し遂げていないんですからねぇ。せっかくここまで来たのに、もう後戻りはできないのですよ。今日はそのためにここに来ましたし、そのために無益な戦いも起こしました。全ては、あなたを殺すためです」


「そんなの知らないっ。私だって、黙って殺されるなんてごめんだわ。あなたの苦労も目的も気持ちも何も知らないし、きっと聞いても到底納得なんて無理だろうけど……だから、せめて私は今ここであなたを止めるつもりよ!」


互いに一歩前に踏み出す。

それだけで急に距離が縮まった気がした。


「…僕の苦労も目的も気持ちも、分かち合える者なんて、もう誰もいませんよ。皆、死んでしまいました。強いて言うならば守人であるあなたなら或いは、語り合えるかもしれませんが……まぁ、あなたは僕のことが心底嫌いのようですし。それに、あなたはもうすぐ僕に殺されるのですからね。語るだけ無駄というものです」


「お生憎様。たとえ、どんな話を聞かされたとしても、やっぱり私はあなたのような人の理解者になんてなれないと思う」


キミはきっぱりと言った。

「それに、あなたに殺されるのも絶対に嫌」とも。


「……ふぅ。所詮、僕とあなたとでは水と油でしたか。守人としての価値観が違い過ぎます。もはや、この世界に生かしておく意味もないと悟りました。ラシェットくんの価値とその使い方すら、あなたは一生知り得ないでしよう……」


ショットは左腕を引き、腰を落とし、構えた。


「……来る?」


それに対して、キミも手を腰から離し、身構える。

ぎこちなさは度重なる経験から消えていたが、なんの心得もない無邪気な構えなのは変わらなかった。


ショットは薄目でキミを睨む。

キミも負けじと睨み返した。


気の強い小娘だ、とショットは思った。

今しがた相手をしてきた兵士達ですら、怯えの様子を見せていたのに、それをこちらに感じさせないで済んでいる。


やはり……時代は変わりましたね。

この不利な状況にも関わらず、運命に身を委ねようなどという気は、毛頭ないみたいです。

無知だが、まるでこの世界のことを信じているかのようです。


思えば誰一人、簡単に諦める者もいませんでした。

あのカジという男も、ミニスという女も。

皆、自分を、自分の仲間を最期まで信じていました。

時代が平和になったからでしょうかね……。


「でも……だからと言って僕が自分の「運命」を諦める理由にはなりませんがね」


二人はまだ睨み合う。

が、やがてキミがふっと視線を外し、少しだけ驚いたように目を丸くした瞬間があった。


その隙を見て、ショットは飛び出した。


狙うはキミの頭。

そこを左手の衝撃波で吹き飛ばそうとショットは地面を駆ける。


「僕は諦めるわけにはいきません! せめて……この体の朽ちるまではっ!!」


左腕を伸ばすとキミの頭はもうすぐそこにあった。


「さようならです……マグノアリアの同胞よ……」


ショットはそう思う。

が、目の前にいるキミの顔はなぜか、優しく微笑んでいた。


と。


突然、耳をつんざくような金属音と共に、ショットの眼前に火花が飛び散った。


ショットは初め、何事が起きたのか全く理解できなかった。

が、ふと見ると今まさにキミの頭に届かんとしていた己の左手が、腕の根本から斬られ空中に舞っているのが視界の端に映っていた。


「……! バカなっ……!」


ショットは横に振り向く。


それで全てを一瞬の内に理解した。


そこにはいたのだ。

自分が追い求めて止まぬ存在。


その男が、昔懐かしい〈光剣〉という武器を携え、膝元ほどの低い姿勢で、瞳を静かに燃やして、今まさに疾走していた。


「……ふふっ、ラシェットさん……」


「……お望み通り、来てやったぞ。ショット」


ラシェット・クロードはそう言った。


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