孤高の戦い
味方が撤退したのを見届ける暇もなかった。
エリサは鋭い目つきで、今度は受け止められた初撃とは逆の右側から第二撃を斬り込んだ。そして、それも受けられたので次は体を捻り第三、第四撃と連続攻撃を繰り出す。
目にも留まらぬ速さだった。
おそらく、普通の人間が相手だったならば、とっくに致命傷を与えていたことだろう。
しかし、ショットはそれらの攻撃を涼しい顔で全て凌いでいた。しかも、自らの腕で受け止めるという荒技でだ。その度に耳障りな金属音が鳴り、文字通り激しく火花が散る。
「ちっ……届かない弾丸といい、この硬さといい……いったいどんな仕掛けだ?」
エリサは一旦素早く距離を取って、考えを巡らせた。
でも、本音を言えば、そんなことはどうでもよかったのだ。なぜならば、
「どんな仕掛けがあろうと、せめて奴だけは私が必ずここで仕留める」
それがエリサの決意だったからだ。
エリサは後ろの気配を探った。
もうそこには味方の兵士達はいないようだった。
が、その代わりに口惜しい光景が、あちらこちらに見られる。
まだ息がある者もいるみたいだが、大体は……。
エリサは悔しい気持ちをグッと堪えた。
味方のそんな光景など、何度見ても見慣れるものではなかったが、今はどうすることもできない。
しかし、寸前のエリサの判断は、まさにギリギリの英断と言ってよかった。
もし、あそこですぐに後退を決めていなければ、エリサ達は早々に全滅していただろう。
エリサもそう思う。が、やはり唇を噛まずにはいられなかった。
味方の死もそうだが、部隊を生かす代償として指揮官である自分がこの場に残らねばならなかったのは、痛恨の極みだったからだ。
指揮官がこんなことでは、とても軍は成り立たっていかない。
「…まぁ……それも私の至らなさだがな……」
エリサは自戒気味にそう思った。キミの忠告も、もっと真剣に聞けばよかったなとも。
エリサは剣の柄をギュッと握り、油断なくショットとの間合いをはかる。
奴の後ろでは、少しずつだが、アストリアの兵士達が艦内に降りてきていた。早くしないと数でも不利になる。
が、しかし……これと言って打つ手も……。
「ランスロット大尉」
と、エリサが考えていると、彼女の横に並ぶ影があることに気がついた。
マリアである。エリサはちらっとそちら見た。
赤いロングヘアーの華奢な女。
キミと共にこの艦を占拠しようとした首謀者。
いつも冷静沈着で、女らしい態度など素振りも見せない人物。
その上、初めて乗ったというこの艦の操縦まで見事に熟してしまうという…。
はっきり言って油断ならない相手だった。
得体が知れない。
キミ曰く、このマリアは「機械仕掛けの人形」だと言うが、それももしかしたら頷けるのかもしれない。
エリサはそんな詭弁を最初は鼻で笑っていたが、よく考える程……また今の状況になってみて、改めて気が付いたのだ。
それならば色々と無理な説明がついてしまうな、と。
「……機械人形か。味方ならば頼もしいかもな」
エリサはマリアの顔を一瞥し、思った。
マリアは一歩前に出る。
「大尉。大尉は私の後ろへ。援護を頼みます」
「ふふっ、この私に後ろで援護を、か。そんなことを言われたのも随分と久しぶりだな」
「ご不満ですか? しかし、私は役に立つとお約束しましたので」
「なるほど? 律儀だな。だが、援護などと悠長なことを言ってはいられない相手だぞ?」
エリサは言った。
それにはマリアも
「イエス。わかっています。では、共に参りましょう」
と応えるしかなかった。
これで陣形は決まった。ここはエリサとマリア、二人で行くしか道はない。
そう同意し、二人が身構えると、
「ふふふ…ご相談は終わりましたか? いやぁ、しかし、これはまた珍しいものがありますねここには。ユーグリッド末期の試作品ですか?」
と、その様子を今まで黙ってみていたショットが口を開いた。
それは、アンドロイドのマリアに向けられた言葉だった。
だから、エリサはよくわからずに疑問符を浮かべる。
一方、その意味をしっかりと把握しているマリアの方も
「あなたに答える必要はない」
と言って、ショットの質問を無視する。
それを聞き、ショットは少し嫌な顔をした。
「…そうですか。そんな簡単な質問にも答えられないと……なるほど。これはとんだ不良品だ。そんな人形は、今すぐスクラップにしないといけませんねぇ」
そう挑発的に言うとショットは、手を握ったり開いたりして、一層目を細くする。
その顔はどこか獰猛な蛇を思わせた。
けどマリアはそんなショットの様子に怖気づきも怒りもぜず、外見をつぶさに観察し、エリサに聞こえる程度の声で
「あの手……気をつけてください。どうやら衝撃波を出すための装置が内蔵されているようです」
と注意を促す。
相変わらず冷静だった。
「衝撃波? 内蔵? なんのことだ?」
しかし、そうは言ってもエリサにはうまく伝わらない。
だから、マリアはちょっと考えた後、
「…とにかく、大尉。あの手に触れられてはダメということです。正面は避けてください」
と言い直した。それにはエリサも頷く。
「了解した。しかし…こう援軍が多くてはな……うまく立ち回れるかわからない」
エリサはどんどん、次から次へと降りてくるアストリア兵を見て珍しく弱音を漏らした。
けど、それにもマリアは
「それも心配ありません。そろそろだと思いますので……」
と冷静に答える。
「そろそろ…?」
と、エリサが呟いたまさにその時、
「うわっぁ!」
と言うアストリア兵の声がした。
何事かと見てみると、火災や水漏れなどの際に使用する非常用の隔壁が突然閉まり始め、入口を塞いで閉まったのがわかった。
それを見てマリアは口元に満足気な笑みを浮かべ
「予定より遅かったですが、無事にノアさんが一部のコントロールを取り戻したようですね」
と思う。
そうなのだ。ノアも何も今までずっと、ただ手をこまねいていたわけではない。艦内の生命維持やセキュリティーに関わるコントロールを必死に保持していたのである。
そして、今回の件の最大の要因であろうショットが艦内に入ったことをマリアから報告されると、素早く隔壁のコントロールを取り戻し、ショットを艦内に閉じ込めたのだ。
マリアとノアはノア号のコントロールを奪われた時点から、それを狙っていた。
また、そうすれば敵の援軍もこれ以上増えることもないし、今の状況では悪く無い手だと思われた。あとは、こちらが狩るか狩られるか……ショットとの真剣勝負というわけだ。
「隔壁を閉め援軍を断ち、逆に奴を孤立させた……さすがの判断と言うべきか。マクベス大佐」
が、エリサは勝手にそう勘違いしていた。
確かにこの時、マクベスはキミの支配から開放されていたが、全てはノアとマリアの判断だった。
でも、それをマリアは敢えて訂正しない。時間がないからだ。
「…ふー。いやいや、参りましたねぇ。これではまるで僕がまんまと嵌められたみたいじゃないですか?」
自分の周りに集結した、120人程のアストリア兵部隊を見て、ショットは言う。
それにマリアは
「イエス。あなたは自分の力を過信している節があります。だから、必ず先行してくると思いました。その予想が功を奏しましたね」
と応えた。
その言葉にショットはまた少しイライラを募らせる。
「…そうですか。まさかそんなところまで考えていただいたとは……では、次回から有り難く、教訓とさせていただきます」
「イエス。ご自由にどうぞ。しかし、あなたに次回があるかどうかは知りませんが…」
「ふふふ……お人形は私を怒らせるのがうまいみたいですねぇ。あなたのような、非戦闘型アンドロイドが、この私に勝てるとでも?」
そう言われマリアはちょっと俯いた。
そう。奴の言葉通り、自分では勝てないことは既に分析、検証済みだったからだ。
だが、それでもマリアはすぐに顔を上げ
「ノー。勝てる見込みはほぼゼロです。しかし、何事もやってみなければわかりません。幸い、そちらにはこれ以上援軍は来ません。これはあなたにとってみれば、ちょうどいいハンデなのではないですか?」
と言った。
それを聞き、ショットは
「わかってるならいいんですよ。わかっているのならねぇ」
と気分を少し良くして、愉快そうに笑った。
それを完全に二人の蚊帳の外に置かれたエリサは、不可解そうな顔で眺める。
「なんだ? この二人……知り合いでもなさそうなのに…どこか雰囲気が似ている?」
「大尉」
と、そんな風に思っているとマリアが声をかけてきた。
そして、
「そういうわけですので、私のことは構わずに。どうかご自分の剣に集中してください。そこにしか活路はないと思われます」
と言ったから、エリサは考えてもわからぬ邪念を振り払い、
「ああ。わかった。そうさせてもらおう」
と答えた。
二人の作戦が決まると、ショットも決意を新たに、
「では、我々も動き出しましょうか……第一部隊、第二部隊、第三部隊。分散はせずに素早くブリッジを目指してください! 第四部隊は格納庫へ! 私はこのお二人と遊んでから行きます」
と命令を下した。
「はっ!」
それに各自は敬礼をし、足早にその場を去って行く。
その様子をエリサとマリアは意外そうな顔で見送った。てっきり、援軍を残すと思っていたからだ。
が、ショットはそうしなかった。
この艦の占拠を優先してのかもしれないが、どちらかと言えば「こんな二人など僕一人で十分だ」と思っているように見えた。それがエリサにとっては悔しかった。
「…さて。やっと静かになりましたね。色々とお待たせしました。さぁ、どこからでもかかって来てください?」
兵が走り去るのを見届けると、ショットは手を後ろに組んでそう言った。
その態度は一見、とても偉そうで、こちらをナメているように見えたが、まるで隙がない。
とても不思議な感覚だった。
通常、エリサの腕前を持ってすれば、今すぐにでも腕の一本は斬り落とせそうなのに、それはとてもじゃないが不可能と思われた。
これはエリサだからこそわかったことなのだが、そんなところまではさすがの彼女も今は頭が回らない。
彼女がそんな風に、ほんの数秒躊躇っていると、マリアが先に動き出した。
隙。マリアはそんなのお構い無しに正面から切り込む。
そして、ショットの直前で正面を避け、右へ。そこで自らの右手を前に突き出した。
それを見たショットは冷たい目つきでその手のひらに自分の手のひらを素早く重ねる。
そして爆発。
マリアの右手には衝撃波ではないが、軽い爆発を起こす装置が組み込まれていたのだ。
それをゼロ距離で叩き込めばあるいは…とマリアは思っていたのだが、やはりそううまく事は運ばない。
それでもマリアは諦めずに今度はその爆発のエネルギーを使って天井まで飛んだ。そして、そこを蹴り、急降下する。
そこで、次に左腕に仕込まれているブレードを出した。
それは〈超振動ブレード〉と言って、硬い金属でも紙のように切り裂くことができる代物だった。
非戦闘用アンドロイドとは言っても、そのくらいの装備は一応マリアも搭載しているのだ。
そのブレードでマリアはショットの頭を狙う。
が、その寸前でブレードはショットの左腕に止められてしまった。
辺りにはエリサの時とは比べ物にならない程の火花が飛び散る。
しかし、その攻撃でもショットの腕を切り落とすには至らなかった。
言ってもこの〈超振動ブレード〉は、同時代のアンドロイドの標準装備だったので、ショットの装甲はその対策が施されていたのである。
それでもそこに少しくらいは傷が入る。
その亀裂を目掛け、マリアはまた右手の爆発を叩き込んだ。
ショットが揺らめく。
だが、マリアの体勢が空中で崩れたことも見逃さなかったショットの右手がマリアの腹部を擦った。
「…うっ!」
すると、たったそれだけでベコッという金属音が鳴る。
そして、マリアは苦悶の表情を浮かべ、壁まで吹っ飛ばされた。
そこまで、ほんの僅かな間の出来事だった。
エリサは自分も攻撃に加わりたかったが、それもできない。
本当に人間業ではない戦いをまざまざと見せつけられた思いだった。
ショットはそんなエリサには目もくれず、自分の傷の入った左腕を見下ろした。そして、実に不愉快な顔をして
「確かに非戦闘用のコードだと思ったのですがねぇ……あなた、どちらの方の作です?」
と言い、マリアをじろりと睨んだ。
「その質問は二回目ですよ? 答える必要はありません」
マリアは立ち上がりながら言う。
まだいけそうだ。マリアは腹部をさすって思った。
「……そうですか。お答えいただけないのであれば、そのメモリーに直接聞いてみるしかありませんねぇ!」
だが、そう宣言したショットは、再び地面を蹴る。
そのスピードに、マリアは少し出遅れてしまった。
「…!」
マリアは咄嗟に身を屈め、足払いの蹴りを繰り出す。
が、それでも止まらないショットはいとも簡単にマリアを地面に組み伏せてしまった。そして馬乗りになり、首を押さえる。
「さぁ、捕まえましたよ? よーく目を見せてください?」
「ぐっ…!」
マリアはもがき、抵抗する。だが、ショットの腕力には逆らえなかった。
目と目が合う。
その数秒後、自分のメモリーの中に、ショットの断片的な記憶が入り込んできた。
また、それと同様に自分のメモリーがショットの中へとコピーさせていく感覚もする。
だが、肝心の支配権だけは今もキミが持っていたので奪われずに済んだ。
体内に巡っているナノマシンはチクチクと傷んだが、ショットの力のそれ以上の影響を拒んだのだ。
ショットは遠くを見るような目をしていた。
そして、マリアの素性を把握すると
「ほう。例のアップ博士の……なるほど。そういうことでしたか」
と納得したように呟いた。
すると、そんなショットの背中に向け、マシンガンの弾丸が浴びせられる。
「離れろ! 外道が!」
それはエリサが放ったものだった。
エリサはマリアの危機にやっと目が覚め、銃を拾って援護したのだ。
だが、それらの弾丸はやはりショットに行き着く直前で、パリンパリンと砕け散ってしまう。
「…はぁ。ちょっと…今いいところなんですよ? 邪魔をしないでいただきたいのですがねぇ」
ショットはエリサの方に振り向いて言ったのだが、そのちょっとした隙を見逃さず、マリアは地面に押し付けられていた右手の爆発を使う。
辺りに凄まじい爆風が吹いた。
すると、どういうわけか、今まで空中で割れてしまっていた弾丸が、ショットの背中に次々と命中し始めた。
「…ちっ!」
その背中の感触に舌打ちをするショットを、マリアはなんとか跳ねのけることができた。
そして、すぐにエリサの隣まで後退する。
エリサは弾倉の全てを撃ち切っていた。辺りの爆風もすーっと晴れていく。
その頃ようやくショットは立ち上がった。
すると、ショットの周りに少しだけ残っていた爆風がショットの体に吸い込まれていったではないか。
その不思議な現象を見逃さなかったエリサは
「…ん? なんだ、あの空気の流れは?」
と呟く。すると、マリアが
「よくお気づきになられましたね、大尉。あれが、奴に弾丸が届かなかった要因です」
と言う。さらに続けて
「奴はああやって自分の体の周囲に、空気を循環させていたのです。それもオリハルコンという、非常に優れた硬質の金属を霧状にし、混ぜたものを……それが、飛来する弾丸を全て破壊していたのです」
と説明した。
「オリハルコン?」
しかし、当然そんな説明ではエリサには理解できなかった。本当にそんなことが可能なのかすら彼女は知らない。
「イエス。そういう名の液体金属です。だから空気と混ぜることもできる。私も初めて見ましたが……」
でも、マリアはいたって真剣だ。
だからエリサは
「……わかった。お前がそう言うなら、そういうことにしておこう。それならば、私の斬撃や、先程の弾丸が届いた理由にも納得がいくからな…斬撃は風圧を伴うし、先ほどはマリア、お前が爆風を起こしてくれたからな」
と、ひとまずそう思っておくことにした。
「イエス。さすがですね、理解が早い。そういうことです。ですので、これで戦い方が見えましたね?」
そのマリアの言葉にエリサは「ああ」と力強く頷く。見えなかった活路が見え、少し自信を取り戻したらしい。
だが、ショットはそこまで見破られても、まだその尊大な態度を改めなかった。
「ふふふ……はははは! いやいや、まさかこの機構にもう気がつくなんて。これは、益々生かしてはおけませんねぇ」
ショットはそう言って笑うと、すぐにでもまたエリサ達に躍りかかろうと身構える。
確かにそれがわかったところで、エリサ達の不利には変わりはなかった。
けど、マリアはもう一つわかったことがあったので、
「……それと、その目についても気がついたことがあります」
と言って、再びショットを牽制しようと試みる。
「ん?」
それを聞いたショットは読み通りに動きを止めた。
「目について?」
エリサが聞く。
「それはキミの言っていた、あの目の力のことか?」
「イエス。その力のことです……仕組みまではわかりませんが、あれは私の体内に流れているナノマシンに直接、作用してきました。そして、そこから私の意識を奪おうとしたのです」
「ナノマシン? なんだそれは? それも機械か何かか?」
エリサは、またわけのわからない単語が出てきたので聞いた。
「イエス。極々小さい、目にも見えないほどの微細な精密機械です。それが私の中には大量に存在し、それによって細かい動きや感情を手に入れているのです。そして、ここからは私の推測なのですが、おそらく人間の血……」
「それ以上は、知らなくてもいいことですっ!」
そうマリアが言いかけた時、ショットは突然、慌てたように動き出した。
そうなるだろうことを予測していたマリアはショットの右腕を躱し、両手で捕まえる。
そして、今度こそ、その肘の辺りに素早く掌を添え、爆発をゼロ距離で叩き込んだ。
さすがのショットの装甲もそれでギシギシと悲鳴を上げる。
「き、貴様ぁっ…!」
「大尉!」
「ああ!」
そこへエリサも切り込む。
そして、持てる技術を駆使してショットの身体中に、雨の様に連撃を浴びせた。
ショットの着ていた白衣がビリビリに切り裂かれる。しかし、そこから下の肌に傷がつくことは決してなかった。
どこからどう見ても人間の肌そのものなのに……。
エリサは手に残るその剣の感触を不気味に思う。
「ふん…無駄なことを…」
「ノー。それはどうでしょうか」
ショットの余裕に釘を刺すようにマリアは言った。
するとその直後、マリアはエリサに合図を出す。
それでエリサは後ろに下がった。
「ふふっ、やはり無駄ではありませんか」
「ノー。お陰で通気孔の位置が把握できました。これならば攻撃できます。当然、あなたもご存知だとは思いますが……オリハルコンはよく電気を通しますので…」
「…なっ!」
そう言われショットはマリアを振り解こうとした。
が、少し遅かった。
マリアは左手をショットの脇腹に回すと、そこに見えた穴から、電気ショックを流し込んだのだ。
「……ぐうっ!」
珍しくショットが呻き声を出した。
余程、効いているのかもしれない。
しかし、それはマリアも同じだった。捕まえているショットの腕を伝わり、自分にも電流が流れ込んできていたからだ。
「…くっ、くそっ…アンドロイドふぜいがっ…!」
「…ふふ。それはあなたと同じでしょう? ジース・ショット。さぁ、もう眠りなさい。私達はこの時代には不要な存在です」
そう言うとマリアは電圧を上げた。
それにショットは足元から崩れ落ちそうになる。
けど、それを必死に堪えた。
「くっ…まだです。まだ…せっかく掴んだ最後の情報を…チャンスを…! ここで不意にしてなるものか! ここで死を選ぶくらいなら……僕は今まで…無様に今まで生きてなど来なかった!」
ショットはそう思うと、自分の掴まれていた右腕の根元に左手を当てた。
そして、躊躇うことなく左手の衝撃波で、右腕を切断した。
「な、にっ!?」
その行動にマリアとエリサは息を飲んだ。
ショットの肩の切り口からは、機械のケーブルやら、繊維やら様々な精密機器が露出する。
だが、そんなことには目もくれず、ショットはすぐに振り向くと、マリアの腹部をガシッと掴んだ。
「…消えてください」
ショットがそう呟いた気がした。
しかし、マリアにはそう判断する時間も余裕も与えられなかった。
ショットに掴まれたその次の瞬間には、彼女の体は衝撃波によって、腹部から真っ二つにされてしまっていたからだ。
「マリアッ!」
エリサは叫んだ。
彼女もまた、ショットと同じく機械を露出しているのに、その怒りはだからと言って変わることはなかった。エリサは火の玉の如く、ショットに突っ込む。
「いけないっ……あなた一人では」
マリアは地面に転がりながら、力なく言った。
が、それはもうエリサには届かない。
エリサは二刀の剣に全体重を乗せ、重い斬撃を何回も何回もショットに叩き込む。
それも、時折、露出した機械部を狙って。
その攻撃を片腕を失ったショットは受け損ねている。
「うぉぉぉぉ…!」
その様子を見て、エリサはもう一段階、打ち込みの速度を速めた。
エリサの剣戟は正確にショットの急所を突く。
即ち、右腕の切断部、各関節、通気孔、それと緋色の目である。
特に目は機械ではなかったので、ショットはそこを神経質なほど防御する。そこに隙が生まれた。
エリサは横にステップすると、剣を切断部に差し込んだのだ。
さらに、そこに手榴弾を置き土産にねじ込んでやる。
「…燃えろ」
エリサがそう言って下がると、手榴弾は激しい音を立て爆発した。
そんなものを艦内で使うなど、通常では考えられないが、このくらいしないとショットにはダメージを与えられないとエリサはもう心底わかっていた。
「はぁ…はぁ…どうだ……?」
エリサは爆風で何も見えなくなった向こう側を伺う。
すると、その爆風の中からショットが飛び出してきた。
「…ちぃっ!」
エリサは吐き捨て、逃げようとする。
だが、それは間に合わなかった。
右にステップした、その動きを先読みされ、ショットに腕を掴まれてしまったからだ。
ショットはエリサの左手を掴み、引き寄せる。
「…さぁ、やっと捕まえましたよ。エリサ・ランスロットさん」
「くそっ…離せ! この化け物がっ!」
エリサは右手を振りかぶり、剣を振り下ろす。
が、剣はショットの頭を叩くと、パキンッと折れてしまった。
「痛いじゃないですか…。もう止めてください。これでお終いです」
「…終わりだと? ふざけるな! 私はまだこうして生きている! 生きているうちは、戦いに終わりはない!」
エリサはそう言った。
その言葉にショットは少し目を瞑り、
「そうですねぇ。そうかもしれません」
と応えた。
「失礼しました。どうやら…あなたとは気が合いそうだ。ちょうど駒も失くなったことだし、ちょうどいい……」
そう言うとショットはエリサの顔にぐっと自分の顔を近づけた。
そして、その目を覗き込む。
エリサはキミの忠告が頭をよぎったが、抵抗することはできなかった。
「さぁ、よーく見せてください。あなたを…」
「…くっ…なっ!」
と、その時エリサの脳視野に、見たことのない戦場が広がった。
一面の草原。戦車、飛行機、歩兵。
その中にショットの姿もあった。
そこへ、空中から爆撃がある。
ショットは白衣など着ず、見たことのない軍服を着用していた。そして、その傍らには見たことのない女が。
あれは誰だ?
そう考えようとしたが、意識がすーっと遠くなっていった。
ショットが手を離す。
「……そうですか。あなたはラシェットさんと……さぁ、終わりましたよ、エリサさん。ちゃんと立ってください?」
そう言われると、エリサは
「はっ!」
と言い、ビシッと敬礼した。
それをショットは満足げに眺める。
「ふふふ……いやぁ、実にいい駒が手に入りました。これなら、きっとラシェットさんも喜んでくれることでしょう」
そう言うとショットはツカツカとエリサの前を通り過ぎ、自ら切断した右腕を拾い上げた。
「まぁ、腕の一本くらいはいいでしょう。この時代では修理をお願いできるのは、サマルくんとラシェットさんくらいですしね」
「ショ、ショット……」
「おや?」
ショットはその声に後ろを振り向いた。
そこにはバチバチとショートするマリアの変わり果てた姿があった。
「まだ意識がありましたか。中枢部を破壊したというのに、タフですねぇ。さすがは、あの人形マニアの作といったところでしょうか?」
「ショット…それほどの覚悟がありながら…なぜ? なぜ、破滅の道を目指す? 私達は人間に逆らえないようプログラムされているのに……」
ショットは途切れ途切れに言うマリアに歩み寄った。
「ふふっ。そんなことに答える必要はありませんよ。あなたのセリフではないですがね。しかし……これだけは言っておきましょう。私にはそんなプログラムは施されていませんと…」
「なに? …そうか。ショット…お前はもしかしたら…」
マリアはそう言いかけたが、ショットに顔をガシャンッと踏みつけられ、それで完全に沈黙してしまった。
その様子をショットはなんとも複雑そうな顔で見下ろし、エリサは黙って気をつけをして見ていた。
「さて。思ったよりも手こずりましたが、先を急ぎましょうかね。でも、あなたはここでお客様をおもてなししてください。丁重にねぇ」
そう言うとショットは再び歩き出す。
辺りはなぜかシーンとしていた。
それは誰かの心の中の表れのようでもあった。




