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砂漠の星 郵便飛行機乗り  作者: 降瀬さとる
第4章 動く世界・三人の友情編
108/136

襲来、黒の機影

「おいおい、どうなってんだ? あんたの知り合いなのか? あの黒い機体は」


ナーウッドも僕の隣に来て、身を乗り出し言った。

どうなっている? …か。そうなのだ。

そこは僕も是非聞きたい。


「なんでゼウストが…? いや、それにいったいどうやって無事にこんな空域まで……まさか。海上で何か動きがあった…?」


僕はそうブツブツと言って考える。が、ちょっと手摺から離れると、


「おっとっと…」

とよろけて、ナーウッドの肩に寄りかかってしまった。

さっきまではまだ何とかなっていたのだが、いよいよ体が言うことを聞いてくれなくなってしまったらしい。頭がぼーっとするし、体はだるく熱い。質の悪い風邪でも引いた時のようだった。


「おっ…!?おいおい、こっちもどうした?」

ナーウッドが僕を支えてくれながら言う。だから僕は正直に

「す、すまない…たぶんあの転移術が原因だ。どうやら使い放題というわけでもないらしい……もう立ってるのも限界だ」

と言った。

それにナーウッドはしかめっ面になりつつも


「はぁ…よくわからないが…まったく。世話の焼ける大将だぜ」


と、肩を貸してくれた。

相変わらず軽々と、といった感じだ。

男の僕がこんなことを思うのも変だが、頼り甲斐のある大きな肩だなと腕を回しながら思った。


「悪いな…こんな大事な時に、この体たらくで…」

「いいさ。それに、俺の頼みを聞いてくれたのはあんただ。言いっこはなしにしようぜ。そんなことより…のんびり話している場合でもなさそうだぜ? あいつ、あのスピードのままここに突っ込んでくる気だ……」


ナーウッドはそう飛行機を再び睨みつけて言った。

見てみると、確かに減速する気配などない。追いかけられているのだから当たり前かもしれないが、しかしあれでどうやって僕達は、あそこに乗り込めと言うのか……。


と、そんな心配をしていたらナーウッドの仲間の機体からキラッキラッと信号らしきものが発せられた。

「ん? なんだ? 暗号か?」

僕は目を凝らす。

いくら紫の色が付いている光だからとはいえ、こんな真っ昼間ではかなり分かり難かったのだ。しかし、僕には見えなくとも、ナーウッドはその意味がしっかりとわかったみたいで、


「よし…」


と言った後、僕をひょいっと抱えてバルコニーの手摺りの上に立ってしまった。


「えっ? ちょ、ちょっと待て……っ!」


僕はそのあまりの行動に、まるで盗賊に助けられたお姫様かのように、ナーウッドの首にしがみつく。


下を見ると、城の庭で大砲を準備している兵士がまるで豆粒のように見えた。前方にはアストリアの古い石造りの町並みが視界いっぱいに広がっている。


僕は思わず冷や汗を掻いた。いくら普段飛行機に乗っていて、高所に慣れていると言っても、この状況は僕の守備範囲外だ。ちょっとバランスを崩せばあの世行きなんて、こんなの正気の沙汰ではない。


しかし、それでもナーウッドは僕の恐怖などお構いなしに


「いいぞ、大将。その調子でしっかりと掴まっててくれ。さすがにあのスピードじゃあ、両手を使わないと無理そうだからな…」


などと言う。

僕はそれを聞き、これからナーウッドが何をやろうとしているのか、その先を考えたくなくなった。


そうこうしているうちにも飛行機は高度を下げつつ、どんどんこちらに近づいて来ている。


ここまで来れば僕にもその機体が、おそらくコスモ製の《セブンス》だと知れた。

ちょっと高級な機種だ。カラーはブラウン。機体はデカイが見た目よりも軽量で、馬力もある。しかし、やはりゼウスト相手では分が悪いようで、元から開いていた差を活かし、射程外に逃れているのがやっとといった感じだった。


「でも、なんでクラウスがあの機体を追っているんだ? 別にこの状況において、ナーウッドさん達はボートバルの敵でもなんでもないだろう?」

「さぁな。あんたにわからないんじゃ、俺にもわから……ん?」


ナーウッドはそこで言葉を止め、また前方を睨んだ。すると、僕もすぐに、そのナーウッドの視線の先の異変に気がついた。


なんとそこには、その件の二機の後ろから飛んでくる、さらに6機の機影があったのである。


「ちっ…しかも、あれは……」

その機影の正体は遠目でもわかった。見慣れているからだ。

ゼウストではないものの、6機とも漆黒にカラーリングされている戦闘機。それらは全て《クラフトⅡ》と呼ばれる、改良型のクラフトで第2空団と第3空団に配備されているものだった。


「くそっ…これで合計7機かよ…こりゃいよいよやばいな…」


ナーウッドは呟く。

その感想にも同感だった。しかし、僕はそれ以上に、

「ここにボートバル飛行師団の機体が7機もいるということは、いよいよ近海まで何かしらの母艦が来ているのではないか?」

と、そちらの方が気になってしまった。


そう考え、僕が思いふと飛空艇を見上げたその時……。


今度は城のすぐ上空を、勇ましいエンジン音を鳴り響かせて、アストリア王国空軍の戦闘機が飛び去って行った。


彼らが空気を切り裂くようなスピードで城を飛び越えて行くと、あとから僕達に物凄い風が叩きつけられる。けど、ナーウッドは素晴らしい筋力とバランス感覚で、細い手摺りの上でも微動だにしなかった。


あの機体も知っている。

アストリア製最新型機OAs-21《ネージュ》。ラースでナジ大佐が乗っていた機体だ。


その少し尖ったフォルムをした、グリーンカラーの最新鋭機が4機。

おそらく近くの基地から緊急発進したのだろう。現れたボートバル軍の迎撃に向うようだ。


それを見送り、ナーウッドは

「へっ。しかも、アストリアとボートバルの挟み撃ちかよ……こりゃ、タミラの野郎に追加金をふっかけられそうだな」

と独り言のように言った。僕はそれを受けて、意味がよくわからないながらも頷く。


「いや、悪いことだけとも限らない。お互いに潰し合ってくれれば、脱出のチャンスも…」

「だな。でも、俺達にとっちゃいいが、お互いに潰し合うってことは…」


「…ああ。もしそんなことになったらもう誰にも止められないかもしれない」


それはどちらにしても最悪のシナリオだった。

僕はここで死ぬことも嫌だし、ヤン達を助けたことがキッカケで祖国が戦争を起こすことも嫌だ。


しかし、奇妙なこともある。

それはアストリアの対応が遅すぎるように感じることだ。


飛空艇についても、戦闘機についても。

いくらなんでも、敵の接近情報くらい、もっと事前に知ることができたはずなのだ。そこが機能していれば、こんなお粗末な緊急発進などするまでもなく、水際で対処できたはずだろうに……


もしや……アストリアの内部でも何かが起きている…?


「…おいっ、何ぼけっとしてるんだ。来るぞ。いいか、ちゃんと掴まっとけよ? 」

ナーウッドがそう言ったから、僕の考え事は一旦仕舞っておくことにした。そして、

「わかった。頼む」

と言い、指示通りにナーウッドの首にギュッと掴まる。とにかく、今はここから無事に出ることを考えなければ。


見ると、ナーウッドの仲間の飛行機はアストリア軍の登場にも構わず、真っ直ぐにこちらを目指していた。

一方でクラウスとその他の機体は、ネージュの方が先だと言わんばかりにフォーメーションを整えに掛かる。まだ数で有利だから、散開して戦うつもりらしい。まぁ、ビビリのクラウスがやりそうなことだ。


でも、あの4機を撃墜したところで、まだまだ援軍は来るだろう。だとしたら、最終的には援軍の見込みのないクラウス達が圧倒的に不利だ。もし、僕がクラウスの立場だったとしたら、あの4機の相手なんかする前に作戦目的の達成を優先させるが…


「ん? 待てよ。でも、あいつらの目的っていったいなんなんだ? 単なる城や街の破壊なわけはないし、国王の確保だろうか?」


僕はまた新たな疑問にぶつかってしまう。でも、僕にはそれ以外に敵の本拠を攻める理由なんて、思い浮かばなかった。

と…今度は、


「おっ…!? おいおい、マジかよ…っ!」

「へっ?」


そうナーウッドが慌てた声を上げた次の瞬時……僕達のすぐ後ろの壁にドッカーンと大きな穴が空いた。

僕はすぐ横をすり抜けていった大砲にびっくりし、下を見る。

どうやら見つかってしまったらしく、眼下では豆粒ほどの兵士達が次の砲撃の用意をしている。ご丁寧なことにちゃんと軌道修正もして。


僕はすがるような思いで助けの飛行機を見やった。もう遠めにエンジン音まで聞こえるところまで来ている。

クラウス達ももう追いかけていない。アストリアの増援もまだ来ない。


もう減速は望めないが、それでも脱出するなら今だ!


「へへっ、一分以上のの遅刻だが、今回はイレギュラーだ。大目に見てやるっ! さぁ、いくぜ!」


そう力強く言うとナーウッドはバルコニーのギリギリ上に飛んでくるであろう飛行機の、そのタイミングを見計い、思いっきり手摺りを蹴った。


「うわっ…」

覚悟は決めたつもりだったが、僕は思わず声を漏らす。


僕とナーウッドの体は一瞬にして、足下に何もない空中に放り出された。


僕は手のひらにベッタリと掻いた汗で滑らないよう、必死にナーウッドの首にしがみつく。


ほんの一秒足らずの事がとても長く感じられた。

飛行機のけたたましいエンジン音すら、全然耳に入ってこない。しかし、ちらっと開けた目から見た飛行機は、確かに物凄いスピードで僕達に当たるか当たらないかの、ギリギリの所を掠めるように飛んできた。


そして、接触。


「んなっ…」

凄まじい遠心力がナーウッドの体を襲ったのが、しがみついている僕にもわかった。


なんと、驚いたことにそれでも彼は飛行機の脚にしっかりと掴まっていたのである。

しかも僕をくっつけたまま。

こんな荒業をあの極限状態でやってのけるとは……僕は改めてこのナーウッドという男の得体のしれない身体能力に度肝を抜かれていた。


けど、彼は平然としていて

「なっ? なかなか良い腕をしているだろう? 俺の相棒は」

と自分のことよりも、相棒のことを自慢している。

だから僕は

「ああ、良い腕だ。参ったよ……」

と、涙目で最大の賛辞を送った。


「そらよっと」


城からの砲撃を逃れるため、上昇に転ずる飛行機の脚をナーウッドはよじ登る。もはや人間業とは思えないが、もう深く考えるのはやめ、とことん甘えさせてもらうことにした。


そうして、僕を背負ったまま後部座席に着くと、さすがの彼も疲れたのか

「ふーっ、やっと一段落だな」

と、ため息をついた。

しかし、そうそう一段落ともいかないようで、気がつけば周りでは、一斉に空中戦が始まっていた。これはもういつ本格的に戦闘に巻き込まれてもおかしくはない状態だ。


ナーウッドは座席に、僕はその後ろに滑りこむ。すると、


「はい。二名様、ご乗車ありがとうござまーす。乗車賃はお一人様7万ペンス。さらに今回は危険地帯オプション3万ペンスも付きまして、お一人様合計10万ペンスでございます。耳を揃えてはらってね? あ、分割でもオーケーよ」


という無線が聞こえてきた。張りのある営業声だ。タミラという名前から女性かもしれないとは思っていたが、まさか本当に女性だったとは。しかも、こんな修羅場をくぐり抜けておいて、第一声が金の話とは、いい根性をしている。

が、ワンフライト10万ペンスとは…いくらなんでもボッタクリにも程があるのではないだろうか? と僕は思った。


「おい、タミラ。冗談はそのくらいにしといて、さっさとここを離れるぞ。俺達にはまだやるべきことがあるんだからな」


僕が呆れているとナーウッドが言った。

なんだ、冗談だったのか。僕はなぜだか安心した。


「はいはい。…ったく。そっちこそ労いや感謝の一言くらいあってもいいと思わない?」

それにタミラはそう応える。だから僕は座席の後ろから

「すいません…気付かずに。本当にありがとうございます。助かりました」

と言った。


「あっ。あなたが三人目のお人好し、ラシェット・クロードさんね。はじめまして〜。私はタミラ・ケー・ルーよ。ま、よろしくね」

「あ、は、はい。こちらこそ、よろしく」


三人目のお人好し?


「あ、そうそう。ナーウッドはああ言ってたけど、あれ冗談じゃないから。ちゃんと料金は払ってね」

「えっ?」


僕はそんなやり取りだけで、彼女がどうしてナーウッドみたいな男の相棒をしていられるのかわかったような気がした。ナーウッドがタフなら、彼女も彼女。相当タフそうだ。


「でもよ、タミラ。ここから無事に生きて帰らないと、金は払ってもらえないぜ? そこんところは抜かりないんだろうな?」

ナーウッドはベルトを付けながら言う。僕は彼から渡されたロープで体を固定しながら話を聞く。


「大丈夫よ。事前に情報屋から空図と、敵に見つからない空路を買っておいたから。あとは、例の潜水艦の位置を割り出せば問題ないわ」

「例の潜水艦の位置?」


僕は固定が終わって聞いた。


「潜水艦って、ノア号のことですか?」

「あ、ノア号って言うの? ま、たぶんそうよ。ボートバル軍が使っているやつのこと。そこにキミさんって女の子と、ナーウッドの命の恩人さんが捕まってるの。って、あ、ラシェットさんは知り合いか」

「え?ああ、そうですが…まさか助けに行くつもりですか?」


僕の問いにはナーウッドが


「そうだ。じゃないと、俺達は遺跡の情報まで辿り着けない。俺達にはキミさんの協力が必要なんだ。サマルとの約束を果たすためにはな…」


と答えた。


「サマルとの約束って…まさか…まだ、あなたはそんなことにこだわって、サマルを殺そうとしているんですか!?」

「そんなことじゃないっ! それがサマルの唯一の望みであり、俺との約束だっ! ヤン達のことは恩に着るが、それだけは絶対に譲れないっ!」


ナーウッドは鋭い目つきでそう言ってきた。

せっかく、少しだけ打ち解けたのかと思っていたのに、これである。でも、僕もそこだけは絶対に譲るつもりはない。サマルの望みだか何だか知らないが、僕はサマルを助けるつもりなのだから。


「はいはいはい、お二人さん。それはきっと、不毛な口論になりそうだから、やるならまた今度にして。それよりも……どうやらもう一人のお人好しの方もやばいみたいよ?」

「は?」

「ん?」


タミラの言葉に僕達は口論を止め、もう一人のお人好し、たぶんリッツのことを言っているのだろうが、その方角を見てみた。

それで、僕達もようやく事態を理解する。


この機体を追っていたはずの黒い機体達が、飛行艇に向かって攻撃を開始していたのである。


「えっ!? な、なんで? あそこにはリッツが乗っているんだぞ!?」


僕とナーウッドは目を丸くした。

よもや、クラウス達の目的が飛空艇およびリッツだったとは、夢にも思わなかったからである。


「あ、けど…たしかノアが言っていたな……ダウェンはドサクサに紛れてリッツを撃つつもりじゃないかって……」


僕はそんなことを思い出す。が、本当に実行に移すとは……ダウェンはいったいに何と戦おうとしているのか…。


「おい……タミラ。反転だ。飛空艇が飛び立つまで援護する」


すると、ナーウッドが無線に向かい静かにそう言った。それに、タミラは

「えーっ!? まじで!? 無理無理。いい? 私はあんた達とは違って、そこまでお人好しじゃないんだけど?」

と言う。

まぁ、そうなのだ。あんな所に単機で突っ込むなど自殺行為に違いない。


しかし、今それをしなければ、あの飛空艇は遅かれ早かれ沈められてしまうだろう。

そうなっては、せっかく皆を助けだした意味がなくなってしまう。僕の頭の中で、リッツやリンダや皆の顔がよぎった。


だから、僕はなんとか説得しようと

「だったら…」

と言いかけたが、先にナーウッドに


「じゃあ、さらに10万追加でどうだ! タミラッ! それならいいだろう?」


と僕が言おうと思っていたことを、そのまんま言われてしまった。

すると、それを聞いたタミラの笑い声が、無線から聞こえてきた。


「ふふっ、その言葉を待ってましたー。いいわよ。特別に貸しにしといたげるっ。いつか、絶対に払ってよね」


と。

それを聞いたナーウッドは

「ああ……悪いな…いつも…」

と言う。初めて聞く、低いトーンの声だった。

「やめてよ、キモい。じゃ、いいわね? 飛ばすわよーっ!」


タミラはそう言うと、飛行機を強引にターンさせた。機体が大きいから大回りになって、余計に遠心力がかかる。けど、僕にはその感覚すらも心地よく思えた。


そうだ。なんだかんだ言って、ナーウッドもタミラも相当なお人好しなのだ。


だからきっと……


本当はナーウッドだってサマルのことを……。


「ナーウッドさん、その10万、僕も半分出しますよ。だから、絶対に助けましょう」

「…ああ、そんなこと。言われるまでもない…!」


ナーウッドは振り向きニヤリと笑って言った。

そんな決意をし、僕達は今にも飛び立とうとしている飛行艇に向かい、突っ込んで行く。


行く手には大きな城と、その回りをブンブンと飛び回り、撃ち合っている黒い機体と4機のネージュ……下からは飛行艇が城から離れた瞬間を狙おうと、砲撃隊が控えているのが見える。

あれではリッツ達は、いい的だ。


「ラシェットさん、あなたの見立てはどう? 元軍人なんでしょ?」

「そうですね…まず、見たところアストリアの機体はまだ飛空艇には手出しできていないみたいです。ですので、まずは黒いクラフトⅡから追っ払いましょう。そうしたら、飛空艇を援護しつつ後退。あとは出たとこ勝負ですね…」

「なんだ、思ったよりも大雑把だな。もっといい考えはないのか?」

「無茶言わないでくれ。こっちは飛行機が一機。それであのデカブツを守らなければならないんだ。それに、僕はあの飛空艇のスペックも装備も知らない。それじゃあ、これ以上の作戦を立てようがない」

「そうね…ま、私はとりあえず、なるべく撃たれないようにするから、攻撃は任せたわよ」

「了解」


そう言われると、ナーウッドはおもむろに座席のしたから大きな革のアタッシュケースを取り出した。

そして、その中からなにやらパーツを取り出し、慣れた手つきで組み立てに掛かる。手元を覗いてみると、スナイパーライフルのようだ。しかも、見るからに大型で、有に彼の背丈ほどの長さがある。あれは普通のライフルではなく、対戦車ライフルではなかろうか?


「ま、まさか……それでここから狙い撃ちするつもりじゃないだろうな?」

「あ? もちろんそうだが?」


僕はそれを聞いて呆れ返った。今までも無茶苦茶だったが、そんな攻撃方法など聞いたことがない。そもそも空中戦というのは弾が当たりにくいのである。昔、まだ砲座を座席に付けて空中戦をしていた時など、いくら弾をばら撒いても、当たらなかったと聞く。それをここからスナイパーライフルで?


まぁ、いい。とにかく人の文句を言える立場ではない。僕も早速準備に取り掛かる。まだまだ、体はふらふらだが、転移術で武装しなければ、僕はただの役立たずになってしまう。


けど、いくら集中してもエネルギーが足りないからなのか知らないが、一向にイメージが続かなかった。

だから、僕は


「ナーウッドさん……こんな時にあれだが、何か食べるものはないですか…?」

と、聞いてみた。

「食べるもの? いや、あまりないが…どういうのがいい?」

「なんでも…あ、でも、なるべくなら甘いものが……」

「甘いもの? うーん…あ、これならあるぞ?」

「え? こ、これは……」


ナーウッドが足元のリュックから取り出したもの……それは氷砂糖だった。

なぜ、そんなものを持っていたのか? わからないが、僕はそれを

「あ、ありがとうございます」

と言って素直に受け取り、缶を開け、一粒摘んでポリポリと食べた。


すごく甘い。まごうことなき砂糖の固まりだ。

よもや、僕がこんな風に砂糖を好んで齧る日が来るとは思わなかったが、不思議と体が欲している気がしたし、実際に疲れが癒されていく感覚がした。


「まったく…これじゃあ、まるでキミじゃないか……」


僕が順調にエネルギー補給を進めていると、


「ほらっ、おいでなすったわね」


とタミラが言った通り、前から一機、急接近してくる機体が見えた。


それはゼウストだった。何故か、彼だけが飛空艇からもネージュからも離れこちらに向かってきたのである。僕達は身構えた。


「おい、あんたの知り合いが来たぜ? 何か恨まれるようなことでもしたのか?」

「していませんよ。それに、僕がここに乗っていることだって、果たして知っているのかどうか…?」


タミラは真正面からぶつかる気はないらしく、少し角度を変える。それにゼウストは付いて来た。僕達が目指すのが飛空艇だと見抜いているから、簡単に後ろが取れると思っている動きだ。


「後ろから確実にっところだな。ナーウッドさんっ」

「ああ、任せな。後ろに付かれた瞬間に撃つ…」


するとその時、機体の無線にゼウストから通信が飛び込んできた。


「聞こえるか? ラシェット。そこにいるんだろう?」


と。それは懐かしい、クラウスの声だった。



ーーその頃、飛行艇内ドック。


そこでは一人の兵士がスクランブルの準備をしていた。


大きな飛空艇の内部には、なんとスクランブル用のカタパルトと、飛行機三台分ほどの格納スペースがあったのである。


「行けそうですか、軍曹?」


そのカタパルトの側で、整備兵が心配そうに言った。

というのも、飛行機に乗り込んだそのパイロットは、たった今作戦を終え、飛空艇に戻ってきたばかりなのである。

しかし、整備兵の心配を余所に、その少年兵はカチカチと各種のスイッチを入れながら


「問題ない。いつでも行けるぞ」


と言う。

だから、もうそれ以上は聞かなかった。その代わりに

「了解です。ご武運を」

と敬礼を送る。

それに少年兵も敬礼で応えた。


「カタパルトッ! 緊急スクランブルだ! ハッチを開けぇー!」


別の兵士が、その整備兵から合図を受け声を上げると、その途端、ドック内が慌ただしくなり、ハッチ開放を告げるサイレンとランプが起動した。

そのけたたましい音と、赤く回る光が、ドックを満たす。


そうしてゆっくりとだが、ハッチが完全に開くと、パイロットは一人決意を新たにし、思い切りスロットルを入れた。


「カシム・アリ軍曹、オーブ、発進するっ!」



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