今のこの時間
人通りも多くない夜道をメグミと2人きり。
鎧塚さんに気を付けるように言われていることもあって、すぐ隣の位置をキープしながら視野を広げる。
「そんなに傍に居たいんですね?」
「ま、まあ、一応彼氏だし、鎧塚さんに守るように言われてるし」
「それはそれは、すこぶる真面目ですね」
「自主的にだけど……」
メグミはあからさまに歩く速度を緩やかにし、はしゃいでいるようにこっちを見た。
そして、なぜか家とは違う方向に歩を進めようとする。
「ちょ、そっちじゃなくない?」
「……食べすぎたので少しカロリーを消費しようかと……言わせないでください」
恥ずかしそうに俯き、僅かにムッとしている表情はやはり可愛い。
「まだ早いし。じゃあ遠回りしていこう」
「はいっ」
お互い手が触れあいそうな微妙な距離間でゆっくりと進んでいく。
コンビニなどには寄らず、互いの顔を盗み見てはいい訳とからかう言葉を発しながらの時間だった。
「今日はありがとう」
「その台詞は私のものだと思います」
「いや、妹とファッションの話とか俺できないからさ」
「優しいお兄ちゃんですね。ちょっと明子ちゃんに嫉妬してしまいそうです」
「なんでだよ!」
「私が女の子ですからね。彼女でもありますし……」
「ひ、卑怯……」
「楽しい」
にこりと微笑む威力と言ったら、この上ない。
「俺は鎧塚さんが世話焼いてくれるのが羨ましいけどな」
「早苗に気があるんですか?」
「い、いや……そうではないけど。ちょ、目が怖い」
「まったく……年上の色香に騙されるとはだらしがないですね」
「いやいや、騙されてないから」
「……話が変わりますけど、翔太君のご両親いつもお忙しいのですか?」
「ああ……共働きで、母親の方がわりと遠くの仕事場だから、朝早いし夜は遅いんだよ。休みは休みで2人で買い物に行ったり、旅行行ったりしてエンジョイしてる。放任主義で助かってる面もあるよ」
「淋しかったですか……その、小さいころ? 私も両親は忙しくて、ちょっとそんな気持ちになったことがあって……」
「どうだったかな……? 多少はそんな気持ちがあったけど、メグミと遊んだりしてたからむしろ小さいころ……楽しかったな」
「卑怯! それ超絶卑怯!」
グーパンチで軽く脇を叩かれる。
「くすぐってえ……だからってわけでもないけどさ、たまにはうちにご飯食べに来てよ。鎧塚さんも誘ってさ。妹もメグミたちなら気を使わないと思うから」
「そ、それ、私が言おうとしたの! 取らないで」
「口調が」
「おほん……翔太君、今のこの時間を大事にしましょうね。なるべく多くの時間を一緒にいたいです」
さりげなく指に手が絡む。
メグミのその表情は、赤みが差していて小さいころとは違ってどこか大人っぽくて、ドキドキがしばらく収まりそうにない。
「ずるいな……そんなこと言われたら、何か俺からも伝えなきゃ的な気になるじゃんか」
「本心ですから。そしてわかってますから、今はもう十分です。手温を感じれば、それだけで十分」
「……そのあれだ、明子とテニスに行くときや買い物行くときは俺も一緒に行くから」
「ありがとうございます」
それは彼女が今日魅せた一番の笑顔だった。
会話が弾み、さらに遠回りしながらメグミとの夜道を楽しんだ。




