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放課後の図書室でお淑やかな彼女の譲れないラブコメ  作者: 九曜
第3章 そんな未来を探す
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第4話

 その後、蓮見先輩のたっての希望で先日と同じ店でソフトクリームを食べ――そこで時刻は午後四時を少し回ったところとなった。


 唐突に蓮見先輩が言い出す。


「悪いんだけど、瀧浪さん、静流のこと頼める? あたし、今から急に帰らなくちゃいけなくなったのよねぇ」

「え?」


 声を上げたのは瀧浪先輩だ。


 僕も驚いた。僕の知らない間におじさんから何か連絡でもあったのだろうか。


「そう? ありがとう。じゃあ、後はよろしく」


 なぜか瀧浪先輩がひと言も返事をしていないにも拘らず勝手に話をまとめ、蓮見先輩は駅のほうへと去っていった。


 そこでようやく気づく。この強引さをどこかで見たことがあると思ったら、瀧浪先輩とデートをしたときだ。あのときの彼女も強引に僕を蓮見先輩に押しつけ、帰っていったのだった。それと同じ手法だ。


 つまり蓮見先輩は、あのときやられたことを、何から何までお返ししたのだ。


「どうする?」


 瀧浪先輩が僕に問う。


「今から追いかけたところで蹴り帰されるのがオチだよ」

「そうね」


 彼女はくすりと笑った。


「じゃあ、短いデートといきましょうか」




 とは言え、すでに夕刻。こんな時間から行けるところ、やれることはかぎられているので、ハーバーランドのモザイク大観覧車に乗ろうということになった。


 三宮・花時計前から地下鉄海岸線でハーバーランドへ。


 そうして辿り着いた大観覧車は、陽も暮れておらず夜景など望むべくもない時間のせいか、さほど待つことなく順番が回ってきた。


 ゴンドラに乗り込み、僕たちは向かい合わせに座る。これから十分ほどの空中散歩だ。高度が上がれば、神戸の街並みが一望できる。山側を見れば六甲山、海側を見れば神戸大橋だ。


「蓮見さん、わたしたちに気を利かせてくれたのかしら?」


 ゴンドラはまだ上りはじめたばかり。そんな外の景色には興味がない様子で、瀧浪先輩は僕のほうを見ながら聞いてくる。そもそも景色なんてどうでもよくて、ゆっくり話ができる場所として観覧車を選んだのかもしれない。


「たぶんね」


 煽って引っ張り出し、最後はふたりきりにする。蓮見先輩の場合、瀧浪先輩が普段から大っぴらにあの手この手で僕の気を引こうとしているのは知っているし、僕が彼女に対して好意を抱いていることも知っている。だから気を利かせたのだ。


「いいところあるわね」


 瀧浪先輩がくすりと笑う。


「ねぇ、この後どうする?」

「どこかでお茶でもして帰る、というのが無難かな」


 常識的な時間に帰ろうと思ったらそれくらいしかできない。


「帰らないって選択肢は?」

「ない」


 僕はきっぱりと言う。


「その選択肢があるとかないとかは別にして、帰ったら蓮見先輩がいるんだぞ。どんな顔して帰ればいいんだよ」


 その前段階として、今日は帰らないと連絡する時点で見上げるほど高いハードルが聳え立っているのである。


 ゴンドラがゆっくりと高度を上げていく。かなり眺めがよくなった。この観覧車には何度か乗ったことがあった。幼いころは母と。中学や高校に上がってからは友達同士で。でも、女の子とふたりっきりで乗るのは初めてだ。しかも、その初めてが学校でも有名な美少女とは、果たしていつの僕なら予想できただろうか。




「ねぇ、わたしって静流の隣にいる?」




 不意に瀧浪泪華が真っ直ぐ僕を見つめ、問う。


「向かいに座ってると思うけど」

「そうじゃなくて」

「……」


 もちろん、わかっている。それはつい先日、笹を見上げなら僕が言ったことだ。


 瀧浪先輩は言葉を変えて改めて聞いたりはしない。ただ僕の答えを待つ。


「……僕はそう思ってる」

「そう。よかった。わたしの『自分』も静流のそばにあるもの」


 瀧浪先輩は嬉しそうに笑みを見せる。


「帰らないはちょっとやりすぎとしても、いつか寄り添ってデートしたり、キスをしたりする未来はあるのかしら?」

「さぁね。どこかにはあるんじゃないか」


 僕が言えるのはそれが精いっぱい。今、それを探している最中なのだから。


 真壁静流は恋愛に向いていない。

 向いていないが、向いてないなら向いてないなりにちゃんと瀧浪先輩の気持ちに応えられるか考えなければ。

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