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第60話 新宗教を設立する

「ああ、カナタ様ぁん! お信仰(したい)しておりますぅ!」


 全身から愛をまき散らしながらカナタにまとわりつくのは、先日助けたマリアンヌだ。


 女神に見捨てられ、石像と融合させられて魂まで解けた彼女はカナタの手によって再誕した。


 その際に何かを悟り、真の信仰に目覚めたのか、マリアンヌは心の底から改心していた。


「なんでもお命じください! カナタ様のためなら、このマリアンヌは何でもいたしますぅ!」


「んー、特に困ってることはないですね」


「そんなぁ……。靴でもお磨きしましょうか。わたくしの舌で」


「遠慮しておきます」


「しゅーん……」


 犬のようにまとわりついてくるマリアンヌだが、モフ度が低いのでカナタの扱いは素っ気ない。


『貴公、変わりすぎだろう』


『誰だ貴様は』


 ドン引きした様子で、ザグギエルとフェンリルはマリアンヌにツッコミを入れる。


 マリアンヌは確かに改心した。


 だが、それと同時に改宗までしてしまったのだ。


「これからは神聖教会はあの糞女神ではなく、カナタ様を崇める宗教へと教えを変えます! カナタ教会の誕生です!」


 よりにもよって神聖教会の総本山が改宗とは。


 問題は山積みだが、これで女神への信仰心は大きく下がり、こちらの世界に干渉もし辛くなるだろう。


「いいえ、駄目です。ノット、カナタ教です」


「どうしてですか!?  どうか迷い子たる我らをお導き下さい! カナタ様こそ真の聖女! 真に我らが信仰すべきお方です!」


「いいえ、違います」


 カナタがピシャリと遮る。


「あなたたちが信仰するべきはわたしではなく……」


「ではなく……?」


「モフモフです」


「モフモフ……?」


「そう、モフモフです」


 キョトンとするマリアンヌに、カナタは自信満々に教えを説いた。


「汝、モフモフを愛せよ。右の頬をモフられたら、左の頬を差し出しなさい。モフが二倍でもっと気持ちいいでしょう」


「???」


 マリアンヌには分からない。価値観があまりに違いすぎて、理解が及ばないのだ。


「私に恩返しをしたいというのであれば、謝礼も崇拝も必要ありません。わたしが求めるものはただひとつ、モフモフだけなのです! さぁ、モフモフを用意しなさい! モフモフならいくらでも受け取りますよ!」


「……な、なるほど!」


 マリアンヌは言葉を理解できなかったが、カナタの真意は理解した。


 考えるな。感じろ。そうカナタは言っているのだ。


「モフモフとはつまり、我らをつなぐ聖句なのですね……!」


 きっとモフモフは大きな括りの言葉なのだ。【小さな幸せ】や【隣人への愛】といった意味があるにちがいない。


 これからは神に祈るのではなく、聖句を唱えて日々を健やかに生きろとおっしゃられているのだ。


「なるほど! 分かりました!」


 ぜんぜん分かっていない。


 何もかも間違っているのだが、マリアンヌは絶望から救ってもらったことでカナタへの信仰が天元突破していた。カナタの言うことは全て正しいのだ。


「モフモフですね! カナタ様!」


「そうです! モフモフです! もしモフモフを見つけたらご一報を!」


「はい、きっと見つけてみせます! 素敵なモフモフを!」


 この日を境に、本当にモフモフ教が生まれてしまうのだが、モフモフの意味を間違って伝えてしまったカナタがその恩恵を受けることはなさそうだった。




  †   †   †




「おお、フェンフェンすごい! 馬車がちゃんと動いてるよ」


『ははは、軽いものです』


 ハーネスを付けたフェンリルが力強い歩みで馬車を引く。


『どうだ、元の体に戻れば馬車を牽けるというのは、嘘ではなかっただろう。貴様には無理な芸当だなっ』


『ふんっ、余とて元の姿に戻れば余裕綽々よ。だが、魔王たる余が馬のように馬車など牽けるか。駄犬にこそ相応しい仕事だ。キリキリ歩くが良い』


『なんだとう!?』


 そう言って、フェンリルの尻尾から分離したのは、白い毛玉のフェンリルだ。


『『誰が駄犬だ! 訂正しろ!』』


 そして毛玉のフェンリルがザグギエルに飛びかかってくる。


『意識を持ったまま分離できるのか!? おかしな体質をしおって……!』


『『訂正しろー! 訂正しろー!』』


『ええい、同時にしゃべるな気色が悪い!』


「す、すごい、これは実質モフが二倍になったのでは!? フェンフェンを抱きしめてフェンフェンを枕にして寝られるのでは!? そしてザッくんはわたしを枕にすれば完璧なのでは!?」


 二匹はいつものようにケンカを始め、カナタは白黒モフサンドを想像し、期待に胸を膨らませた。


 そんな彼らを聖都の大勢の住民たちが見送ってくれる。


「「「モフモフー! モフモフー!」」」


 聖都はカナタの活躍によって大きく変わった。


 神聖教会は信仰を利用して金を稼ぐことをやめ、喜捨の額によって扱いに差を作ることをやめた。


 大聖堂の周りだけを病的に綺麗にした張りぼての神々しさを捨て、余裕の出来た予算で貧しい人々にも医療と食料が配られるようになった。


 そして聖女マリアンヌは自らの罪を告白し、これからはいち修道女として、信仰に生きることを誓った。


 新宗教モフモフ教の信徒として。


「皆さん、カナタ様の旅の無事を祈って、今一度聖句を唱えましょう。モフモフー!」


「「「モフモフー!!」」」


 マリアンヌの先導で、聖都の民たちが祈りを捧げる。


「ふふっ、みんなあんなにモフモフ言ってくれてる。モフモフの素晴らしさが伝わって良かった」


『そうであるな。余も一刻も早くこの体で最強(モフモフ)にならねば』


『我も負けんぞ! 我こそがカナタ様に相応しい最強(モフモフ)になるのだ!』


「きゃーっ! ザッくん、フェンフェン、すてきーっ!!」


 そして、大いなる勘違いを振りまきながら、カナタたちは新たなモフモフを探し求めて旅立つのだった。

 これにて神狼フェンリル編完結にございますー!

 ここまでお付き合い下さり、誠にありがとうございます!


 そして、同時に発表が!

 明日8/7は『聖女さま? いいえ、通りすがりの魔物使いです!2』の発売日となります!


 今回、書き下ろしを頑張りすぎて、三分の一くらいが書き下ろしになっております。


 1巻に続いて、父を亡くして独りで店を切り盛りする鍛冶師リリを襲う特大の不幸を、カナタがモフモフ目当てにチートパワーで解決するお話です。

 悪い奴らをバッタバッタと倒します。そしてモフります。


 めっちゃ面白く仕上がったので、是非お手にとって見て下さい!

 メリッサさんが出世と引き換えに休日を奪われていく姿も楽しめますぞ(暗黒微笑)

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『聖女さま? いいえ、通りすがりの魔物使いです!』が2020年3月10日にKADOKAWAブックスより発売されます!
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コミカライズも3月5日から配信決定!
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― 新着の感想 ―
[気になる点] かたや仮初めのもふもふ、かたやダブルもふもふでは序列で勝負にならないのでは…
[良い点] 主人公が強いので安心してどんどん読める [気になる点] 今後モフモフが弱点になるかも知れない。 [一言] 白竜がアザラシの赤ちゃんみたくなるとか 不死鳥が丸いスズメになるとか ウェンデ…
[良い点] 60/60 ・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、一気に60話まで読んでしまったァァァァァ [気になる点] なんというハートフル。心あたたまるモフモフです。 [一言] ふへへ。満足しちゃい…
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